私が世界を壊す前に

seto

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全てを制圧するのに、時間はかからなかった。
数十といた暴漢は、全てその命を刈り取られ、地面に伏した。フィオニスは無造作にその爪についた血を払うと、おびえて固まるエルフ達へと視線を流した。
『“うん、及第点だね。”』
魔神は満足そうに言う。ここで奪った魂は、そのまま神に回収され、浄化される。次にこの世に出てくる頃には、もう少しマシな世界であることを祈るばかりだ。
「魔神よ。」
フィオニスが言う。
すると魔神は委細承知しているとばかりに答える。
『“あぁ、分かっているとも。
彼らは、そうだね。あの3人がいなければ、放逐しても問題はないと思うよ。”』
そう言って魔神は無邪気な悪意を持ってそう吐き捨てた。
「そうか。ならば―‥」
『“だけど、彼らが金になるのは事実だ。この先も、見つかれば同じことが繰り返されるだろう。”』
続く言葉に、フィオニスは頭を抱えた。
結局は同じことなのだと、あろうことか神自身からお墨付きをいただいてしまった。しかしフィオニスも薄々気が付いてはいた。魔神はそれを肯定したに過ぎない。
「仕方ない。私がその命を使ってやろう。」
「ひ‥っ」
パチンとフィオニスが指をはじくと、3人を残してエルフ達の体がふわりと浮かび上がった。
残された3人は見逃されたのだと勘違いをして、散り散りに駆けだす。その後ろ姿をフィオニスはスッと目尻を眇めて流し見た。
「ジークフリート。」
「御意。」
ジークフリートは氷で鋭い刃を作り出すと、逃げ出した3人へ向かって放った。
氷の刃は正確にそれぞれの体の中心を貫く。残されたエルフ達から悲鳴が上がったが、フィオニスは気にせず城へと帰還した。

城へと連れ帰ったエルフは全部で20数名。その中には小さな赤子も含まれている。
女たちはガタガタと震え、男たちも勇ましくこちらを睨みつけてはいるが、その震えを隠せずにいる。さてどうするか、とフィオニスが思案するようにエルフ達を見下ろしていると、そのうちの一人がフィオニスの前に躍り出た。
「ま、魔王様‥!」
背の高い壮年の男性だ。その顔はエルフ特融の整ったものであったが、その頬は痩せこけている。身に着けた服はボロボロで、むき出しの手足はあちこち傷が出来ている。
「‥っ‥‥っ」
躍り出たものの、恐怖で二の句が継げぬらしい。男は這いつくばったまま、ガタガタと震えている。フィオニスはフッと浅く息を吐きだすと言う。
「なんだ? 言ってみろ。」
その言葉に、びくりと男の肩が震えた。
「も、申し上げます‥っ!その‥っ」
フィオニスは辛抱強く男の言葉を待つ。
「わ、私はどうなっても構いません‥っ。ですがどうかっ! せめて‥っ、せめて子供だけでもお目こぼしをしていただけないでしょうか‥っ!!」
その言葉に、フィオニスは片眉を跳ね上げた。この堕ちた世界で、自分の身と引き換えに他者を救おうとするものがまだいるとは。
フィオニスは思わず上がりそうになる口角を片手で隠して言う。
「どうなっても、構わないと?」
びくりと男の肩が大きく跳ねる。本当は恐ろしくてしょうがないだろう。
フィオニスはすでにエルフの同胞を3人も殺している。その前には数十の暴漢を。その表情一つ変えずに屠っているのだ。恐ろしくないはずがない。
だが男は続ける。
「は、はいっ!! わが身はどうなっても構いません! 煮るなり焼くなり何なりと‥。ですが、子供たちは―‥っ」
「はははははは!!」
『“はははははは!!”』
フィオニスと魔神の高笑いが重なった。
魔神の感情に、フィオニスの体が引きずられたのだろう。これほど嬉しそうにしている魔神は初めてみるな、とフィオニスは思った。
しかし男はフィオニスの逆鱗に触れたのかと、頭を地面に擦り付けて固まってしまう。そんな男の様子を、同胞のエルフ達はハラハラとした面持ちで見守っている。
「悪いが、聞き入れられん。お前たちは私の所有物となったのだから。」
フィオニスがそういうと、エルフ達はそろってその顔に絶望を浮かべた。
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