私が世界を壊す前に

seto

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城に帰ったフィオニスは、フリードリヒをマリアへ預けニコラスとミシェルにそれぞれの都市への派遣を命じた。ジークフリートの所にはニコラスを。ディルムッドの所はミシェルを。めぼしいものは残らず持ち帰るよう、言い含めた。
その他の小さな都市にも、追加で召喚した魔族達をそれぞれ派遣している。これで、備蓄はだいぶ潤うだろう。

また行き場のない者や奴隷、その中でも比較的汚れていない魂を持つものは、保護するよう伝えてある。魔族達は魂を見ることは出来ないが、彼らのそばにはフィオニスが作り出した蝙蝠型の魔物を控えさせている。そうして集めた人々を、再度フィオニスが見極めればいい。

そして現在。
フィオニスはベッドの端に腰掛け、熱く息を吐き出した。身体が熱くてたまらない。
部屋には誰も近づかないよう厳命した。普段と様子の違うフィオニスの様子に、シリウスは心配そうにこちらを見あげていたが、構っている余裕などなかった。何故なら、彼が非常に美味そうに見えてしまったからだ。
「なる、ほど。厄介だな‥。」
この感覚は、馴染みがある。
曰く、ムラムラするという感覚。人間だった頃、何度も感じた事のある感覚だ。いや、現状はもっと酷い。媚薬というものを飲んだら、こうなるのだろうとフィオニスは思った。もちろん前世でも飲んだ事などないのだが。

ズンと下肢が重く、腹の奥がモヤモヤする。鼓動が不規則に跳ね、熱が解放を求めて体内を巡った。魔神が側にいなければ、すぐにでも自らの竿を責め立て、欲望を解放している事だろう。だが、その前にフィオニスは聞かなければならない事があった。
「魔神よ、1つ聞きたい。」
「“何かな?”」
「何故魔王に生殖器があるんだ‥ッ。」
明らかに熱く張り詰めている下肢に、フィオニスは頭を抱えた。

魔王に転生して今まで、フィオニスは性欲というものを感じた事がなかった。そもそも、三大欲求というものを感じにくい身体だったのだ。だがシリウスがいる手前、食事は3食きちんと取るし、夜は自室で眠った。眠くはなかったが、幸いにも横になって目をつぶれば眠ることは可能だった。
腹は減らないが食事を楽しむことはできるし、眠らなくても活動出来るが、眠ったら眠ったで精神的な疲労は回復した。
だが性欲は違う。
そもそもフィオニスは神々の手で完成された存在だ。それゆえ種を残す必要が無い。だから忘れていた。そういうがあると言うことに。
「“あぁ、もちろんあるとも。”」
魔神が言う。
「“確かに君には必要のない物だ。だからと言って、それを削る理由にはならない。”」
「そこは削っておけよ‥」
魔神の言葉に唸るようにフィオニスが言う。しかし魔神は何処吹く風だ。
「“可能性を、我々の判断で摘み取る訳にはいかないのさ。”」
「可能性‥‥?」
フィオニスがそう問うも、魔神はそれ以上教えてはくれなかった。
「“ちなみに、君にあるのだから、当然魔族達にもある。”」
「あるのか‥」
そう言ってフィオニスは深くため息を吐く。
「“君と同様、そういった欲は薄いけどね。”」
それにね、と魔神は続ける。
「“それを使うも使わないも、彼らの判断だ。彼らも『人』だからね。”」
「‥‥あぁ。だから、『可能性』か。」
フィオニスがそう返せば、魔神がフッと笑った気配がした。
「“彼らはあまりにも人に裏切られてきた。何度も踏みにじられてきた。だからもう、愛することを、信じることを諦めてしまっているかもしれない。”」
「‥‥だが、可能性はゼロじゃない。」
「“そういう事さ。”」
そう言って魔神は無邪気に笑った。

魔神が言う、可能性というものはわかった。しかしそれでも、フィオニスは納得が出来ない。
「‥‥‥だが、私には必要なかったのではないか?」
恨めしげにフィオニスが問う。
すると魔神は悪戯っぽい雰囲気を纏ってくるりとフィオニスの周りを一周した。
「“可能性は、平等に与えられるべきだとも。それがたとえ、魔王だとしてもね。”」
「‥‥はぁ。分かったよ。
とりあえず処理するから、出ていってくれ。」
フィオニスは軽く頭を抱えて、魔神へと言う。
「“1人で平気かい?”」
「むしろ1人にしてくれ。」
シッシッと、虫を追い払うようにフィオニスは手をふった。そんなフィオニスの様子に、仕方ないと言う雰囲気を纏って魔神はドアへと飛んでいく。
「“もしあまりにも酷いようなら、勇者を食らうといいよ。”」
「なんだと‥!?」
最後に落とされた爆弾発言に、思わずフィオニスは声を荒らげて立ち上がる。
「“勇者の血肉には魂を浄化する作用があるからね。君も本能的に求めたはずだ。”」
フィオニスは、その言葉に心当たりがあった。再度深くため息を吐いて、ベッドへと身を沈ませる。
「さっき、シリウスやフリードリヒが美味そうに見えたのはそのせいか‥」
厄介な、とフィオニスが落とす。
「“肉を喰らわなくても、血や汗。涙なんかも有効だ。だけど1番いいのは精液だね。”」
「ほんと、ろくでもない‥」
どんなエロゲだとフィオニスは心の中で毒づいた。
「あんな幼い子にそんな事できるかよ。1人で何とかするから、放っておいてくれ。」
「“君ならそういうと思ったとも。では健闘を祈る。”」
何処か悪戯っぽい雰囲気を残しながら、魔神はふらりと部屋から出ていった。

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