25 / 60
25
しおりを挟む
「‥‥っ‥」
何度目かの吐精を終えて、フィオニスは深く息を吐く。痛みを感じにくいはずなのに、快楽は従順に拾うこの体に頭が痛くなる。
「ったく、神々は何を考えてるんだ‥」
魔神は可能性だと言った。
みなまで言わなかったが、人が人を愛し、愛される可能性を完全に失くしたくはなかったのだろう。それもまた神々の慈悲なのだ。
「はぁ‥‥、安易に口にするんじゃなかった‥。」
身体の熱を持て余しながら、フィオニスは呟く。もちろん魂を喰らった事に、後悔はない。これだけで済むならマシな方だ。
だがこれ程熱が停滞するとは思わなかったのだ。
「‥‥‥‥まさか、絶倫?」
最悪な予感がして、フィオニスは顔をしかめる。この体は神々によって完成された体だ。精が尽きる事がないのかもしれない。
「さい、あく‥」
思わず前世の口調でボヤいてしまう。そのままドサリとベッドへ四肢を投げ出し、内側を巡る熱に耐えるように瞼を閉じた。
コンコン。
その時、ノックの音が響いた。
フィオニスは視線だけで扉を伺う。
足音や気配で、誰が尋ねてきたのかは分かっていた。宣教師、ベルナールだ。フィオニスが最初に召喚した魔族のひとりだ。そして唯一、神々の声を聞くことのできる魔族。魔神に何か、吹き込まれたか。
「‥‥入れ。」
フィオニスが上体を起こしながら、低くそう落とす。
すると遠慮がちに扉が開き、ベルナールが入室してきた。腰ほどもある長い白銀の髪は仄かに光を帯び、神秘的な琥珀の瞳は僅かな光でもキラキラと弾いて輝いた。白に金の刺繍を施した神官服を纏うその姿は、まさに神に仕えるに等しい美しさだ。
一見すると魔族的な特徴のないベルナールだが、その背には白い翼が3対隠されている。
「部屋には近づくなと、厳命したはずだが?」
フィオニスが問う。
「承知しております。しかしー‥」
「何を吹き込まれたか知らんが、魔神の言うことは気にしなくていい。1人でどうとでもなる。」
にべも無くそう告げると、ベルナールの眉が下がる。
「ですが、フィオニス様ー‥」
「くどい。私はお前たちをそんな事のために呼んだのではない。」
出ていけと暗に伝えるが、俯いたベルナールが退出する事なかった。
「フィオニス様。」
ベルナールが口を開く。
まだ何かあるのかと視線で問おうと、顔を上げた瞬間、ドサリとベッドの上に押し倒された。
「‥何をしている?」
フィオニスが問う。
「ご無礼を。ですが、貴方様が我々をどうのような意図で呼んだかは重々存じております。その肩に、重い責任を押し付けてしまっている事も。」
ですが、とベルナールは続ける。
「貴方様1人が犠牲になるなど、到底許される事ではありません。それは、8神とて同じ。どうか、どうか我々にもその責を背負わせて下さいませ。」
間近で交わる視線は真剣で。フィオニスは思わず怯んでしまう。
「っ‥‥、そういう事では‥」
「この熱は、1人では対処出来ないと魔神ソルシエル様より聞き及んでおります。勇者様を喰らうことが、1番の解決策であることも。ですが、知神ケントニウス様が示して下さいました。渦巻く熱を紛らわせる方法を。」
あぁ嫌な予感がする、とフィオニスは思う。焦る心と内を巡る熱に、ポーカーフェイスが崩れそうだ。
ベルナールの顔が近い。彼は真剣なのだろうが、その綺麗な瞳に見つめられてフィオニスはそれどころではなかった。ギシリとベッドが軋む音に、ヒクリと喉が震えた。
「‥‥頼む、これ以上は。」
フィオニスが思わずそう落として、顔を背ける。そんなフィオニスの姿に、ベルナールは微かに瞳を開いた。
「‥‥‥‥こういう事に、慣れていない。」
片腕で顔を隠しながら、フィオニスが言う。もはや顔を作っている余裕などなかった。ベルナールは続く言葉を待っているようだ。フィオニスは仕方なく続ける。
「それに、男同士だろう‥?」
「この世界では、些末なことです。」
返される言葉に、フィオニスは思わず頭を抱えた。いや、何となく分かってはいた。考えたくなかっただけで。
「‥‥けど、それでも。義務や責任ではなく、貴方が触れたいと思った人に触れてあげて欲しい。」
口調を取り繕う余裕も、フィオニスはなかった。顔を背けたまま視線だけでベルナールを見上げれば、ベルナールが微かに息を飲んだ気配がした。
何度目かの吐精を終えて、フィオニスは深く息を吐く。痛みを感じにくいはずなのに、快楽は従順に拾うこの体に頭が痛くなる。
「ったく、神々は何を考えてるんだ‥」
魔神は可能性だと言った。
みなまで言わなかったが、人が人を愛し、愛される可能性を完全に失くしたくはなかったのだろう。それもまた神々の慈悲なのだ。
「はぁ‥‥、安易に口にするんじゃなかった‥。」
身体の熱を持て余しながら、フィオニスは呟く。もちろん魂を喰らった事に、後悔はない。これだけで済むならマシな方だ。
だがこれ程熱が停滞するとは思わなかったのだ。
「‥‥‥‥まさか、絶倫?」
最悪な予感がして、フィオニスは顔をしかめる。この体は神々によって完成された体だ。精が尽きる事がないのかもしれない。
「さい、あく‥」
思わず前世の口調でボヤいてしまう。そのままドサリとベッドへ四肢を投げ出し、内側を巡る熱に耐えるように瞼を閉じた。
コンコン。
その時、ノックの音が響いた。
フィオニスは視線だけで扉を伺う。
足音や気配で、誰が尋ねてきたのかは分かっていた。宣教師、ベルナールだ。フィオニスが最初に召喚した魔族のひとりだ。そして唯一、神々の声を聞くことのできる魔族。魔神に何か、吹き込まれたか。
「‥‥入れ。」
フィオニスが上体を起こしながら、低くそう落とす。
すると遠慮がちに扉が開き、ベルナールが入室してきた。腰ほどもある長い白銀の髪は仄かに光を帯び、神秘的な琥珀の瞳は僅かな光でもキラキラと弾いて輝いた。白に金の刺繍を施した神官服を纏うその姿は、まさに神に仕えるに等しい美しさだ。
一見すると魔族的な特徴のないベルナールだが、その背には白い翼が3対隠されている。
「部屋には近づくなと、厳命したはずだが?」
フィオニスが問う。
「承知しております。しかしー‥」
「何を吹き込まれたか知らんが、魔神の言うことは気にしなくていい。1人でどうとでもなる。」
にべも無くそう告げると、ベルナールの眉が下がる。
「ですが、フィオニス様ー‥」
「くどい。私はお前たちをそんな事のために呼んだのではない。」
出ていけと暗に伝えるが、俯いたベルナールが退出する事なかった。
「フィオニス様。」
ベルナールが口を開く。
まだ何かあるのかと視線で問おうと、顔を上げた瞬間、ドサリとベッドの上に押し倒された。
「‥何をしている?」
フィオニスが問う。
「ご無礼を。ですが、貴方様が我々をどうのような意図で呼んだかは重々存じております。その肩に、重い責任を押し付けてしまっている事も。」
ですが、とベルナールは続ける。
「貴方様1人が犠牲になるなど、到底許される事ではありません。それは、8神とて同じ。どうか、どうか我々にもその責を背負わせて下さいませ。」
間近で交わる視線は真剣で。フィオニスは思わず怯んでしまう。
「っ‥‥、そういう事では‥」
「この熱は、1人では対処出来ないと魔神ソルシエル様より聞き及んでおります。勇者様を喰らうことが、1番の解決策であることも。ですが、知神ケントニウス様が示して下さいました。渦巻く熱を紛らわせる方法を。」
あぁ嫌な予感がする、とフィオニスは思う。焦る心と内を巡る熱に、ポーカーフェイスが崩れそうだ。
ベルナールの顔が近い。彼は真剣なのだろうが、その綺麗な瞳に見つめられてフィオニスはそれどころではなかった。ギシリとベッドが軋む音に、ヒクリと喉が震えた。
「‥‥頼む、これ以上は。」
フィオニスが思わずそう落として、顔を背ける。そんなフィオニスの姿に、ベルナールは微かに瞳を開いた。
「‥‥‥‥こういう事に、慣れていない。」
片腕で顔を隠しながら、フィオニスが言う。もはや顔を作っている余裕などなかった。ベルナールは続く言葉を待っているようだ。フィオニスは仕方なく続ける。
「それに、男同士だろう‥?」
「この世界では、些末なことです。」
返される言葉に、フィオニスは思わず頭を抱えた。いや、何となく分かってはいた。考えたくなかっただけで。
「‥‥けど、それでも。義務や責任ではなく、貴方が触れたいと思った人に触れてあげて欲しい。」
口調を取り繕う余裕も、フィオニスはなかった。顔を背けたまま視線だけでベルナールを見上げれば、ベルナールが微かに息を飲んだ気配がした。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる