私が世界を壊す前に

seto

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世界樹。
それは神々がこの世界を支えるために植えたとされる、4本の大樹。その根は万病を癒し、その葉はあらゆる傷を塞ぐ。花には解毒の作用があり、その実をかじれば千年を生きる事ができるという。

フィオニスが拾ったエルフ族は、そんな世界樹を管理する一族なのだとフリードリヒは言う。
「世界樹を管理するエルフ族はみな、特殊な髪の色をしています。髪の外側と内側で、色が異なるのです。」
フリードリヒの言葉に、確かにそうだったな、とフィオニスは思う。
オーレリアンをはじめ、拾ったエルフ族はみな髪の色に特徴があった。インナーカラーと呼ばれるやつか、とフィオニスは気にも止めなかったが、どうやらそれが世界樹を管理する一族の特徴なのだという。

魔神が言うには、世界樹は一本を残し全て消失しているという。そしてその最後の一本が、この魔の森の中心に鎮座している。奇しくも、フィオニスが建てた城のすぐそばに。彼らはその最後の一本を求めて、ここへ流れてきたのだろうと魔神は言った。
「世界樹の管理をさせるのですか?」
フリードリヒが問う。
「まぁ、希望があればな。」
「‥‥希望?」
フィオニスの言葉に、フリードリヒは首を傾げた。
「あぁ。彼らがやりたいと言うのなら、好きにさせよう。」
フィオニスがそう続ければ、フリードリヒはその目をまん丸に見開いた。
「‥‥世界樹ですよ?」
「あぁ。」
「万病を癒し、あらゆる傷を塞ぐのですよ?」
「そのようだな。」
「惜しくはないのですか?」
フリードリヒのその瞳には、困惑と焦燥が滲んでいた。


フリードリヒは、物心がつく頃には地方長官の屋敷にいた。目の前に並べられた数字を計算し、長官の望む数字になるよう調整をする。それが実は横領の手伝いをさせられていたのだと気づいたのは、もう少し大きくなってからだった。

市民から集めた税を少なくない額中抜きして、懐へ収める。それがバレぬよう数字を調整し、上へと報告する。市民には、ギリギリまで増税を課し、払えなければ奴隷へと落として他国へと売る。
そんな数字の改竄も、詐欺まがいの書類の作成も、長官は全てフリードリヒにやらせていた。
それが出来なければ食事を抜かれ、寝る事すらも許されない。しかし神の加護のせいで、フリードリヒは死ぬ事が出来なかった。それなのにその加護は、フリードリヒの苦痛を軽くしてくれる事はなかったのだ。

そのうちフリードリヒが仕事を拒否するようになると、暴行を加えられるようになった。血を吐くまで殴られ、なじられる。しかしそれでも死ぬ事は出来なかった。神の加護のせいで。もはや呪いだ。

せめて被害が少ないように。せめて傷つく人が減るように。フリードリヒは必死に頭を働かせた。
それでも長官の要求は日に日に酷くなっていく。フリードリヒの心はゆっくりと疲弊していった。
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