私が世界を壊す前に

seto

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長官は口癖のように言っていた。
『役に立て。それだけがお前の存在意義だ。』と。それこそ呪文のように。
フリードリヒは、別に長官の役になど立ちたくはなかった。だが、それしか苦痛から逃れる方法がなかったのだ。そうして手を染めていく内に、罪悪感すらも薄れていった。そうして疲弊しきった頃、フィオニスの手によって救いあげられたのだ。


故にフリードリヒはなんとかしてフィオニスの役に立ちたかった。存在価値を示さなければ、捨てられてしまう。この暖かい場所から放り出されたら、今度こそ心が壊れてしまう。だが、フィオニスがフリードリヒに何かを命じることはなかった。
「では何故、エルフを拾ったのですか‥?」
フリードリヒは、縋るようにフィオニスを見つめる。エルフには役割が与えられている。フリードリヒの目にはそう映っていた。そこに羨ましささえ感じるほどに。
「何故‥‥?」
フィオニスが繰り返す。
ふむ、と考えるように口元に手をやり、拾った理由を考える。本当の事を言えば、人として生きて欲しかったからに他ならない。だが、およそ魔王らしからぬ答えを口にする訳には行かなかった。
「理由がいるのか?」
「え‥‥?」
少し考えてから、フィオニスが問い返す。
思ってもみなかった問に、フリードリヒは困惑した。
「あの街で何を刷り込まれたか知らんが、私に不足しているものはない。不要なものは山ほどあるがな。」
続く言葉に、フリードリヒの肩が大きく震えた。もし、不要だと思われたら。
「フィオニス様‥っ。僕は‥‥っ!!」
焦って開いた唇を、フィオニスの指がそっと制する。白く靱やかな指が唇に触れ、フリードリヒは息を飲んだ。
「不要なものはこの街には入れない。お前も、シリウスもこの世界には必要だ。」
そう言ってフッと僅かに口角を上げると、フリードリヒの瞳が見開かれた。
「まだここの生活には慣れないだろう。だが、無理して自分の価値を証明する必要は無い。それにお前はまだ子供だ。役に立ちたいと願うなら、まずは勉学に励む事だ。」
そう言ってフィオニスはフリードリヒの頭を撫でた。あの時見た、笑みと共に。
初めて与えられる感覚に、フリードリヒの心が震える。その手が離れても、しばらく動けなかった程だ。

フィオニスは何も望まない。何も命じない。だからこそ、フリードリヒは焦燥感が募る。どうにかして役に立ちたい。この人に必要として貰えるように。そばに、置いて貰えるように。
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