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地図に記された場所に向かえば、小さな小屋のようなものがあった。中には複数の気配が感知できる。微かに香る血の匂いは、恐らく勇者のものだ。
フィオニスはディルムッドを伴って、小屋の前へと降り立った。ドカッと扉を踏み抜いて小屋の中へと押しいれば、勇者を中心に小さな子供達が震えるようにして身を寄せあっていた。
「‥‥魔王フィオニス様でしょうか?」
震える子供達をあやす様に撫でながら、勇者が問う。その翡翠の瞳は白く濁り、焦点が合わない。恐らく上手く見えていないのだろう。その証拠に、フィオニス達の姿は捉えても、視線が合うことはなかった。
「いかにも。」
フィオニスが短く答えると、勇者は笑みを広げた。
「手紙を受け取って下さったのですね。」
フィオニスはその問いに、無言でもって肯定する。
「私の名はエクトール。豊穣の女神、ソルティエーレ様の紋章を賜る勇者です。」
そう言って勇者エクトールは恭しく頭を下げる。それでもフィオニスは答えない。しかしエクトールは薄くぼやける視界の中に、フィオニスを捉えていた。
「お願いがございます。」
エクトールは静かに続ける。
「我が身をどうしようと構いません。代わりにこの子供達を救って下さいませんか?」
その言葉に、フィオニスは思わずため息を吐いた。1人ずつ震える子供達を睥睨し、再度息を吐く。
「残念だが、無理な相談だ。」
そう言ってフィオニスは腰に下げた剣を抜く。
「それは、私には救えない。」
そう言って子供の喉元へ剣を突きつけると、子供は豹変してフィオニスへと襲いかかった。
子供は、人の形をしていなかった。人に無理やり獣を縫いつけたような歪な生命体。人工的に作られたキメラ。エクトールの傍に侍っていた子供たちはみな、そういったキメラの失敗作のようだった。
切り捨てたキメラの血が、エクトールに降りかかる。傷んだ髪や痩せこけた頬を赤く染め、ポタリと床へと滴った。
「‥‥」
頬にかかった血をエクトールの荒れた指先が掬った。
「愚かな。魔王に救いを求めるとは。」
フィオニスが吐き捨てるように言う。
その間に、ディルムッドがキメラ達を処理していった。しかしその剣筋はいつもより荒い。恐らくディルムッドも憤っているのだろう。表情にはおくびにも出さないが。
全てを切り捨てるのに、数分もかからなかった。その間、エクトールは動かなかった。指先に着いた赤を見つめたまま。
「ー‥」
ハクリと唇が動く。
しかしそれは言葉にならずに落ちた。
「‥‥っ‥ぁ‥」
エクトールの瞳にじわりと涙が滲む。指先に着いた血を抱きしめるように引き寄せ、うずくまった。
「ぅ、ぁ‥あ‥‥っ」
堪えきれなかった嗚咽が唇の隙間からこぼれ落ち、その双眸からポロポロと涙が溢れて頬を伝った。エクトールは気づいていたのだ。大切に守ってきたそのキメラ達が、既に死んでいることに。
フィオニスはディルムッドを伴って、小屋の前へと降り立った。ドカッと扉を踏み抜いて小屋の中へと押しいれば、勇者を中心に小さな子供達が震えるようにして身を寄せあっていた。
「‥‥魔王フィオニス様でしょうか?」
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「いかにも。」
フィオニスが短く答えると、勇者は笑みを広げた。
「手紙を受け取って下さったのですね。」
フィオニスはその問いに、無言でもって肯定する。
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そう言って勇者エクトールは恭しく頭を下げる。それでもフィオニスは答えない。しかしエクトールは薄くぼやける視界の中に、フィオニスを捉えていた。
「お願いがございます。」
エクトールは静かに続ける。
「我が身をどうしようと構いません。代わりにこの子供達を救って下さいませんか?」
その言葉に、フィオニスは思わずため息を吐いた。1人ずつ震える子供達を睥睨し、再度息を吐く。
「残念だが、無理な相談だ。」
そう言ってフィオニスは腰に下げた剣を抜く。
「それは、私には救えない。」
そう言って子供の喉元へ剣を突きつけると、子供は豹変してフィオニスへと襲いかかった。
子供は、人の形をしていなかった。人に無理やり獣を縫いつけたような歪な生命体。人工的に作られたキメラ。エクトールの傍に侍っていた子供たちはみな、そういったキメラの失敗作のようだった。
切り捨てたキメラの血が、エクトールに降りかかる。傷んだ髪や痩せこけた頬を赤く染め、ポタリと床へと滴った。
「‥‥」
頬にかかった血をエクトールの荒れた指先が掬った。
「愚かな。魔王に救いを求めるとは。」
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その間に、ディルムッドがキメラ達を処理していった。しかしその剣筋はいつもより荒い。恐らくディルムッドも憤っているのだろう。表情にはおくびにも出さないが。
全てを切り捨てるのに、数分もかからなかった。その間、エクトールは動かなかった。指先に着いた赤を見つめたまま。
「ー‥」
ハクリと唇が動く。
しかしそれは言葉にならずに落ちた。
「‥‥っ‥ぁ‥」
エクトールの瞳にじわりと涙が滲む。指先に着いた血を抱きしめるように引き寄せ、うずくまった。
「ぅ、ぁ‥あ‥‥っ」
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