私が世界を壊す前に

seto

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窓のひとつを割って城の中へと入る。
割れたステンドグラスが、火の光をチラチラと反射させながら落ちていき、地面に落ちてさらに千々に砕けた。豪奢なシャンデリアが廊下を照らし、毛足の短い赤い絨毯が道の先まで続いている。廊下に降り立つと、フィオニスはエクトールの腰を離した。
「静か、ですね。」
エクトールが言う。
城の中は静まり返っており、敵一体出る気配がない。だが、人の気配はある。
フィオニスは廊下の先へと視線を流す。貴族達はどうやらその先の王の間に集まっているようだ。
「‥妙な魔法の気配がします。」
そう言ってクルースニクは眉を寄せた。
その言葉にフィオニスが目を閉じて、魔法の気配を追う。魔力の流れを追うと、どうやら王の間に魔法陣が展開されているようだと分かって。
「‥古代魔法、だな。」
魔力の強さから、フィオニスはそう判断する。今は使える者がだいぶ少なくなったと魔神が話していた。だがそれでも、魔力さえあれば発動することは可能なのだと彼女は言った。
「諦めの悪い‥。」
クルースニクがその端正な顔に不快感を表した。
「フィオニス様、お気をつけください。展開されている魔法は、おそらくは拘束魔法でしょう。」
「この期に及んでまだそんな事を‥」
エクトールの言葉に、呆れたようにクルースニクがそう落とした。
「‥どちらにせよ、奴らに逃げ場は無い。1箇所に留まってくれるのであれば、手間が省けると言うものだ。」
フィオニスはそう言うと、王の間へと進んだ。

フィオニスは黒樫の扉にひたりと片手を添える。すると一拍置いてから、バァンと扉が弾け飛んだ。その瞬間、息を飲む音と僅かな悲鳴が室内へと落ちた。
「‥お前達はここに。」
フィオニスはそう言うと、2人を廊下に残して1人王の間へと踏み入れた。
部屋には複数の貴族の姿があった。男ばかりの所を見ると、さすがに家族は外に逃がしたようだと分かる。家族を守ろうとするその気持ちを、何故僅かでも他者へと向けられなかったのかとフィオニスは思った。

貴族達はフィオニスの姿を目にすると、僅かにざわめいた。
「これはこれは‥」
「噂通り、と言うことでしょうか。」
「なんと、美しい。」
口々にフィオニスを値踏みする言葉が飛び交う。魔王を前にしていると言うのに、なんとも緊張感がない。そこまで敷かれている古代魔法を信用しているのか。
フィオニスは道の両側に控える貴族達に目もくれずに真っ直ぐに玉座を見据えた。そこには年老いた王が静かに鎮座していた。その隣には、例の公爵がいやらしい笑みを湛えてフィオニスを見下ろしている。
「‥‥王を、殺したか。」
静かにフィオニスが言う。すると公爵の笑みが広がった。
「さすがは魔王、一目で見抜くか。」
クックッと公爵は喉の奥で笑った。
他の貴族達の様子を見るに、彼らも共犯だと言うことが分かる。保存魔法がかけられており、死体に損壊はない。だが、既に死後数日がたっているようだった。
「名を、フィオニスと言ったかな?」
公爵が言う。会話をする気もなくなったフィオニスは、ただ静かに公爵を見据えた。すると何故か公爵はニヤリと笑みを深めた。
「魔王フィオニスよ。兵を引き上げなさい。そして我が駒として、その身を捧げるのだ。」
そう高らかに言い放てば、廊下に控えるクルースニクの怒気が上がった。エクトールはそんな公爵の性格を知っていたのか、不快感を示す事はなかったが、それでも睨みつけるように彼を見据えている。

会話の無駄か、とフィオニスが魔法を発動しようと左手を軽く振り上げた瞬間、足元の魔法陣が反応した。
「かかったな!?」
公爵が喜色の声を上げる。
足元に巨大な魔法陣が展開され、四方八方から魔力で練られた太い鎖があらわれ、フィオニスの体へと巻きついていく。その様子に、他の貴族達も歓喜の声を上げた。

手首を後ろ手にまとめられ、さらに腕を押さえつけるかのようにフィオニスの上体にも幾重にも鎖が巻きついていく。両の足は足首から太腿にかけて巻き付かれ、床へと縫いとめられた。対象物の魔力を吸って起動するタイプのようで、その拘束の強さは対象物の魔力の強さに比例するようだ。
「はははっ!! 油断したな、魔王よ!!」
公爵が高らかに笑う。
そしてゆったりとした足取りで、玉座へ続く階段を降りてくる。
「それにしても美しい。
くく、この美しき獣が私の物に‥っ!! 実にいい気分だっ!!」
まるで演説をするかのように大袈裟な身振り手振りで公爵が言う。フィオニスを見つめるその恍惚とした瞳には、フィオニスに対する淫情が滲んでいた。
「何、悲観することは無いぞ魔王よ。その体もその武力も、余すことなく私が使ってやろう。まずは、そうだな‥。特別に私自ら愛してやろう。」
その公爵の言葉に、貴族達も呼応する。
少しでもおこぼれに預かりたいのだろう。この強欲な公爵が、分け与えるとは考えにくいが。

だがこの時、公爵は気づいていなかった。
フィオニスの後ろに控えるクルースニクが、その場から動かなかった事の意味を。
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