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第二章 『魔力』が無いと勝手に思い込んでいました

イケボの魅力に取り憑かれてしまう。恐ろしい(別の意味で)この世界は

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 どこに行ったのだろうと周りを見渡しながら歩いていると、先生が寝泊まりしている客室で声が聞こえた。その声は聞きなれた声の他にもうひとつ。深みのある声だった。
 なにかを話しているが、屋敷内に知らない誰かが居たとしたら大問題。

 先生の落ち着いた声と深みのある声が交互に聞こえ、イケボすぎて胸が苦しくなる。 
 声優さんの生ボイスを聞いた時の感覚。耳が幸せで何も考えられなくなった時の感覚よ。

 ダメ! いけない! 今はイケボの魅力に取り憑かれてる場合じゃない!
 ホント、恐ろしい……この世界は。油断したら惹き込まれてしまう。

 私は、扉を開けようと手を伸ばしたがすぐに手を引っ込めた。
 なにを言っているのかまでは聞き取れないけど、邪魔してはいけないと思ってしまった。

 誤解してる人もいるだろうから弁解させてください。空気が読めないんじゃなく。あの時はびっくりしてしまったんです。陛下と殿下がいきなり来てしまい、考えるより先に行動してしまったんです。
 今、思い返すととんでもないことをしてしまったとすごく後悔しています。


 私はいけないことだとは思っていても、扉をほんの少しだけ開けて覗いた。

 昼間だというのにカーテンが閉め切られてて薄暗く、先生はどこに居るんだろうと目で探しているとクローゼット近くで動く何かが見えた。

 そこは光に包まれている。正確には壁に映し出されている人がいた。それは通信用の魔導器具だとすぐにわかった。私もよく義弟との連絡に使っているから。
 見知らぬ誰かを招き入れたんじゃないかと心配していたけど、そうじゃないことに安堵の息を漏らす。

 〈本当にいいのか? お前の研究結果だろ。それを皇帝に見せればお前はもっと上に行けるはずだ〉
「構いません。私はそんなものに興味がありませんから」
 〈本当、変わってんな〉
「……」

 光が消えるのと同時にそこに映し出された人も消え、先生は息を深く吐きながらカーテンを開けた。
 薄暗かった部屋に光が差し込む。

 私は我に返って扉をさらに開けようとしたが迷ってしまった。
 今開けて大丈夫なのか。さっきまで大切な話をしていたようにも見え、後日改めて渡しに行った方がいいような気がして仕方ない。

 扉にもたれかかるように立ち聞きしていたので、動きづらいドレスでは予想外につんのめって扉が全開になってしまった。
 先生が驚いて振り向いていたが、私もまさか扉が全開になってしまうとは思ってもいなかった。
 前に倒れてしまったが、手に持っていた本は離さないようにしっかりと胸に抱いていた。

「ソフィア様!?」
「うぅ」

 もう、裾が長めのドレスを着るのをやめよう。

 慌てて駆け寄った先生はゆっくりと立ち上がる私の顔を心配そうに覗き込んた。

「大丈夫ですか!?」
「はい。大丈夫です」

 先生は胸を撫で下ろしたかと思ったら私が持っている本に気付いて顔色を変えた。

「これ」
「先生の落し物ですよね?」

 私は本を先生に渡そうとしたら先生は私の両腕を乱暴に掴んだ。

「お怪我は!?」
「えっと」

 先生の切羽詰まったその表情を見たこと無かった私は少し……、いいえ。かなり動揺してしまった。

 いつもクールな先生が取り乱したところなんてかなり貴重! カメラがあったら写真撮りたいぐらい。

 なんでこの世界には、カメラがないのかしら。

「魔法が消えてる?」
「え?」

 先生は本を見ながらボソリと呟いた。
 私は聞き取れずに聞き返したが、私と目が合うと先生は困ったように笑った。

「すみません。取り乱しました。日記をありがとうございます」
「いえ、でも不思議なんですよ。それ、魔導日記で持ち主以外の人が持つと攻撃魔法が発動するって聞いたのに発動しなかったんです」

 私は先生に本を渡すと、先生は本と私を交互に見た。

「ご心配ありません。この日記にはめ込まれてる魔法石の不具合でしょう」
「魔法石に不具合なんてあるんですか?」
「えぇ。ですから、ソフィア様はご心配することではありませんよ」

 本当にそうなのかな。
 先生は上手く誤魔化しただろうけど、先生の瞳は動揺を隠しきれていない。
 んー……。この様子だと、本当の理由なんて教えてくれなさそう。

「あの、ソフィア様は」

 先生が何かを言いかけた時だった。遠くの方から警報のような、サイレンみたいな音が聞こえてきた。

 この音は最強魔導士を決める大会が近いという合図の音。
 詳しくは知らないけど、令嬢や子息は大会の様子を魔導具で見ることが出来る。私は前の大会の時は高熱でうなされていたから見ていない。

「先生?」

 険しい顔でなにも言わずにずっと窓の外を見ていたので少し不安になって弱々しく先生を呼ぶ。

 先生は私の声に反応した。

「どうしたんですか?」
「すみません、ソフィア様。しばらくは魔法を教えられなくなりそうです」
「それはどうして」

 先生は私の質問には一切返すことはなく、なにも言わずに部屋から出ようとしたから私は思わず先生のコートの裾を掴んでしまったが、すぐにコートの裾を放して何事もなかったかのように振る舞う。

 こんな子供な私には、なにも話してくれないのはわかってる。けど、少し寂しい気持ちがある。

「あっ、あはは。どこか旅行ですか? でも先生は、魔導士じゃなくて魔術士でしょ。大会の審査員とかやるんですか? さっきのサイレンも大会を知らせるサイレンだったんですよね?」
「さい……れん?」
「あっ、いえ。さっきの音です」
「ああ。今のは大会を知らせる音ではないと思います。正確には音響魔導具ですが。詳しくは申し上げられませんが、間違いありません」

 さっきの音は音響魔導具から出された音だ。
 ゲームのプレイ中に私は音響魔導具が言いづらく、サイレンでいいのでは? と勝手に解釈していた。無意識にサイレンと言ってしまった。

 先生が聞き返してくれなかったらずっとサイレンって言ってそうだった。

 最強魔導士を決める大会じゃない?

 それならあの音は?

 その疑問を言葉にする前に先生は部屋を出ていってしまった。
 取り残された私は立ちつくすしかなかった。





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