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第三章 『子猫』を拾いました

太りましたアピールをしたい

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「んー……。ちょっとお腹周りがふっくらしたかな」

 侍女のアイリスにドレスの着替えを手伝ってもらいながら、全身が映る鏡の前でお腹周りを触っていた。

「そのようですね。スタイルが宜しいのに勿体ない気もしますね」
「そうなの?」
「はい。やっぱり、ボディーラインがはっきりするドレスは止めてこちらのフワッとした感じのドレスにした方が宜しいのではありませんか?」
「いいえ。このドレスでいくわ」

 アイリスは言いづらそうに身体のラインが見えずらいドレスを私に見せてきたが、それだと意味がない。
 今日は王太子殿下がお見えになるのよ。
 ちょっと太りましたアピールをしたい。

 今着ているドレスは、太る前に測った時のサイズなので、若干キツイ。でもそれがいい。
 太ってると思わせるには十分!

 それに、結界のことをお義父さまに報告してから三週間。度々結界が消えかかったりしてるからまだ解決してないんだろう。

 殿下が来る理由は、結界のことなのかしら?

 ただ純粋に私に会いに来たというのはあの腹黒ドS殿下のことだ。ありえないと思う。

 それに、殿下なら無理やりにでも私を婚約者に出来るはず。
 それなのにして来ない。私の気持ちを尊重してるんだろうけど、殿下が腹黒いというのを忘れてはいけない。
 なにか、裏がありそうなんだもの。

 それに、魔法石に強めの魔力がいきなり宿るなんてこと有り得る!?

 もうそろそろ魔力が尽きかけてたのよ。それなのに、気を失っている間に魔力が。それも以前よりも高い魔力が宿ったなんて。

 そんなのおかしい。気を失っている間なにがあったんだろう。
 思い出せないということは、気を失っている間に誰かが魔法石に触れたということになるんだけど。

 私の知ってる限りでは、高い魔力を持ってる人は屋敷には居ない。

 一体、どうなってるの?

 考え込んでいると、ノック音が聞こえ返事をする。

 すると、一人の侍女が王太子殿下がお見えになったと知らせてくれた。

 殿下がお見えになったと聞いて、途端に緊張してしまった。

 どうしよう。また失礼な態度をとってしまったら。

 とっさに掴んだペンダントから優しくて温かいものを感じたら、その緊張が嘘のようになくなってしまった。

 え……。

「どうしました? ソフィア様」
「う、ううん。なんでもない」

 なに、今の。

 ペンダントを掴んだら優しい温かさを感じたと思ったら緊張が解れた。

 アレン王太子殿下の元に向かいながら私は、これから嫌なことが起こる前触れじゃないことを祈りながら歩いていた。


 ーーーーーーーーーーーー

 アレン王太子殿下は、すでにサロンに通されていた。
 ソファに座って、テーブルには数枚のクッキーをのせたお皿と紅茶が入っているティーカップが置かれている。

 サロンに来た私は、殿下と目が合うと片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばした。両手でスカートの裾を軽く持ち上げてゆっくりと挨拶した。

「ごきげんよう。アレン王太子殿下」

 殿下は、私のことを頭の天辺から足のつま先まで見たあと、一回咳払いしてソファから立ち上がり、私に近付くと片足を前に出して膝で軽く曲げ、後ろ側の足はまっすぐ伸ばしたまま、背筋を伸ばして片手は胸の前にもっていき、もう片方は後ろに、お辞儀をした。

 言わずともわかる。気付くと思っていたわ。
 私が少し太ったことに。

 でも、触れないのは、流石ね。

 私からしたら触れても良かったんだけど。

「ごきげんよう。ソフィア嬢。今日はね、君の先生でもあるノア殿から預かって来たんだ」

 殿下が私のペンダントを見た瞬間、驚いたように目を丸くした。

 気付かれた? 私の魔法石が以前よりも魔力が高くなってることに。

「あの、何か?」
「いや。ノア殿から君に魔法石をプレゼントしたいらしいのだが、ノア殿は今、俺の父上の命令でしばらくデメトリアス家には来れないそうだから、丁度会いに行こうとしていた俺が届けることになったんだ」
「えっ、そんなわざわざ……。申し訳ありません」
「気にしないで。俺がそうしたいだけだから。ノア殿も遠慮していたんだけど、俺が無理に頼んだようなもんだし」
「頼んだ……ですか?」
「うん。ソフィア嬢にお会いしたかったので。お元気そうで」
「ありがとうございます」

 ここは、素直に喜ぶべき?
 絶対になにか裏がありそうな気がするのよね。

「それはそうと、ソフィア嬢の魔法石からは変わった魔力を感じるね」
「ええ。気が付いたら、不思議な魔力が宿っていたんです。ただ、その原因がわからなくて」
「原因がわからない……か」

 私と殿下は向かい合わせにソファに座ると殿下が難しい顔をして考えこんだ。

「少し、見せてくれないか?」

 私と目が合うと、殿下はフッと微笑んだ。私は、慌てて首から下げてあるペンダントを取り外して殿下に見せた。

 殿下は私からペンダントを受け取ると、ペンダントをまじまじと見つめている。

「これ、一度でも使った?」
「いいえ。まだです」

 魔力が宿ってから一度も使ってない。
 理由は簡単。怖いのよ。自分の知らないところで訳もわからないうちに魔力が宿ってるんだもの。
 これを怖いと思うのは自然なことだと思う。

 この魔法石は安全だと心の奥底で思ってる気もする。こんなに温かいんだもん。
 でも使うとなると、迷ってしまう。

「わかった」

 殿下が片手をあげたら護衛している騎士二人が軽くお辞儀をしてサロンから出て行った。それに続いて私の屋敷で働いている使用人たちも後を追うように一礼してサロンを出て行く。
 今、サロンにいるのは私と殿下の二人だけ。

「殿下?」

 急にどうしたのだろうかと、不安になってると殿下が口を開いた。

「この魔法石を調べたい。けど、それにはソフィア嬢の協力も必要になる」
「私の……」
「魔法石の種類によっては持ち主を選ぶのもあるからね。もし、持ち主を選ぶ魔法石だったら調べることはできないんだけど」

 殿下は言いづらそうにしている。何を言いたいのか、私はなんとなくわかった気がする。

「危険なものかも知れない。ということでしょうか?この魔法石から優しい温かさを感じます。それほど危険なものとは思えませんが」
「そうなのか?でも、この間……いや、なんでもない」

 殿下は何かを言いかけてやめた。
 この間、なにがあったのだろうかと考えるとあの音響魔導具の音と関係があるのだろうか。
 私にはそれしか思い当たらない。

「あの、音響魔導具の音と関係があるのですか? あの時、何があったのでしょうか? 音が鳴り響いた後、ノア先生が若干動揺していたように見えました」
「え、ああ、んー。ごめん。それは言えない」
「そうですか」

 明らかに目を泳がした。
 殿下が動揺してるのを相手に見せるのは珍しいことだと思うが、子供だからというのもありそう。

 あまり感情を表に出すような人じゃないと、思っていたけど私が知ってる殿下は十代後半。

 王太子殿下であろうとまだまだ子供。裏があるなんて、考えすぎだったのかもしれない。

「あの、私はなにをすればいいんですか?」
「それは明日話す。魔導具も用意しないといけないしね。それと、ルーカス殿と話がしたい」
「あっ、はい。お義父さまを呼んで参ります!」

 慌てて立ち上がり、お義父さまを呼びに行った。


 お義父さまをサロンに通して、私は殿下に一礼してからサロンを出た。
 二人で話したいらしい。それなら応接室とかの方が良いのではと思ったけど、あまり余計なことは言わないことにした。

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