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第十五章 それぞれの思考が交差する新たなルート

……どうか、気付いて【アイリス視点】

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 久しぶりに実家に帰ってきた。

 門前で懐かしむように屋敷を見渡す。
 庭には色彩な花が並んでおり、手入れしている侍女が一人いるが、私に気付いて目が合ったがすぐに目を逸らし、作業に集中していた。

 中央で掃除をしている侍女が二人程いるが、その二人も私の事を居ないものとして掃除の手を止めない。

 私が家を出る前よりも少しだけ……ほんの少しだけ小汚くなっている気がする。

 もう何年ぶりだろうか。

 出来ることなら帰りたくなかった。

 意を決して踏み入れる。公爵邸とは違い、使用人の出迎えは無し。ましてや私を白い目で見てくる。

 それも当然か。資金援助してくれている貴族の嫡男と結婚したのだが、私が子供を産めない身体なのを知るとあの手この手で身に覚えのない悪逆非道の数々を噂として広められた。離婚した後は、お父様やお母様にもその噂が耳に入り、絶縁となった。

 一切、私の話は聞き耳を立ててくれなかった。

 身勝手な離婚をされた、世間から白い目を浴びせられるから、私を悪者に仕立て上げて嫡男に不利じゃない状況を作った。

 その事に気付いたのは何もかも失った後だったんだけど。

 今回、実家に帰ったのは婚約話があるからだった。

 影で悪女と呼ばれている私に婚約話だなんて、裏があると思う。

 それでも、お仕えしているソフィア様の名前を出され、軽く脅された以上従うしかない。

 屋敷のエントランスに入ると丁度お父様が仕事に向かおうとしていた。
 お父様の後ろにはお母様が。

 私は急いでカーテシーをして挨拶をする。

「ご無沙汰しております。お父様、お母様」

 するとお父様は明らかに嫌そうな顔をした。お前に父と呼ばれたくなんかないとでも言いそうだった。

 つられて私も嫌な顔になりそうになったが、自分の心を落ち着かせて笑ってみせた。

「お気を付けて」

 お父様は無言で私の横を通り過ぎる。お母様はお父様を見送った後、そそくさとエントランスから離れていく。

 悪評を広められてから、お父様は私を憎たらしい目で見るようになった。

 お母様は、私を居ないものとして見るようになった。

 もちろん、その悪評は嘘で固められたもの。真実ではない。

 ただ、本音を言うと……私の話をちゃんと聞いてほしかった。噂だけで判断しないでほしかった。

「……よく顔を見せてこれたわね」
「汚点が何しに来たの?」
「本当に有り得ない。私たちの前では猫を被ってたなんて……」
「しっ、聞こえるって。旦那様の目を盗んで今度は私たちが何されるか分からないわよ」

 侍女の二人組がヒソヒソと声を潜めていたけども、私にはハッキリと聞こえた。

 多分、わざと聞こえるように言っているんだろう。

 デメトリアス家に居た時は、悪い噂を耳にしているはずなのに、旦那様や奥様は労いの言葉をくれた。
 噂じゃなく、私自身を見てくれていた。それは旦那様や奥様だけじゃない、使用人たちも私の声に耳を傾けてくれた。それにソフィア様も不器用ながら慕ってくれているのが伝わってくる。

 ーーだからこそ大丈夫。

 ちゃんと解決をしたらデメトリアス家に戻りたい。ソフィア様の専属侍女として働きたい。

 ソフィア様は何も言わずに離れたことを悲しんでいるのかな。

 ……気付いてくれるといいな。宝石の使い方と空白の手紙の意味に。

 自分自身で解決しようと試みてたけど、こっそりと調べたら私だけでは解決出来そうにない問題だとわかった。

 ーー早く気付いて。

 ある人物を思い出していた。青い髪の水色の瞳の男性……。魔法に詳しくて遺跡が大好きな方。ソフィア様には甘く、使用人には厳しいけど、時々優しく褒めてくれて、ちゃんと見てくれている。そのギャップが堪らなくて侍女たちは密かに想いを寄せている方たちが多い。

 本音は、その方に気付いてほしい……でも、私のために動いてくれるかな。

 ……動いてくれると嬉しいな。

 そう祈りを込め、未だに悪口を言っている侍女を無視して歩き出す。自分の寝室を目指して。

 途中で足をかけられそうになったりしたが、何とか交わせた。


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