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第十六章 信頼
素直になるって簡単なようで難しい
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「この度はお招き頂きありがとうございます」
そう、優雅にカーテシーでお辞儀をする彼女はイリア・クリスタ様。
デメトリアス家に戻って三日は過ぎようとしていた。戻った初日なんて、ノア先生や他の使用人たちが何やらバタバタしていた。アレン様となんの話をしたんだろう……。
少し疑問になったが、ノア先生に聞けないまま時間が過ぎてしまった。
その間にお義父さまにイリア様の泊まりの件を話したら早めが良いとのことで今日来てもらうことになった。
なんでこんなに早めにする必要あるんだろう。お義父さまの仕事上の都合かなと最初は思ったけど、どうも引っかかる。
「ゆっくりしてください。イリア殿」
お義父さまはイリア様をほっとしたような瞳で一瞬だけ見ていた……ような気がする。
考え過ぎだといいんだけど、私の知らないところで新たなフラグが立っている……なんてこと無いよね。
アイリスが急に実家に帰って、その代わりに何も書いてない手紙に宝石も……、なにかがありそう。
お義父さまはイリア様に軽く挨拶した後、すぐに執務室に向かってしまった。
お義母さまはイリア様にカーテシーした後、少しだけ雑談してから庭に向かった。
「あの、ソフィア様。お茶にしませんか?」
イリア様はお義父さまとお義母さまの姿が完全に見えなくなってから提案してくれた。
「そう……ですね。サロンに行きましょう」
サロンはエントランスから近い。サロンに向かう道を歩いていたらアレン様から護衛を任されたキースさんがお辞儀をして私とイリア様の後を着いてくる。
私の専属侍女となったリリーはお茶の用意をしてもらっている。準備が出来次第、サロンに持って来るだろう。
「あの、ソフィア様。学園の寮でお見かけした侍女は居ないんですの?」
「学園……? もしかしてアイリスのことでしょうか? 辞めました。今は実家にいると思いますよ」
イリア様は誰かを探すかのように周りを見渡しながら聞いてきたので、教えた。
「……そうですか」
イリア様は何かを考えるように口を手で抑え、真剣な表情となるが私と目が合うとニコッと可愛らしく笑った。
不意打ちの笑顔にドキッとしていると、サロンに着いてしまった。
サロンに入り、イリア様に座るよう促す。
キースさんはサロンの外で待機してもらう。女子会みたいなものだし、男がいるだけで話せない内容もあるかもしれないからね。
テーブルを挟み、お互いに向かい合って座った。
「最近、困ってることありません?」
「いいえ、困ってることなんてありませんよ」
イリア様が不安げに聞いてきた。私は首を左右に振った。
困ってることは沢山ある。……あるんだけど、言えるわけが無い。
「そうですか。変わったこととかはありません?」
「いいえ。特には……あの、なんでそんなこと聞くんですか?」
「すみません。ソフィア様は一人で抱え込む癖があるみたいですので、心配してしまいました」
「ありがとうございます」
「頼りないとは思いますが、困ったことがあれば、いつでも相談してください。待ってますから」
「はい」
イリア様は自分の胸に手を添えて優しく笑みを創る。私はその笑みを見て、心が和らいだ気がする。
しばらくしてからリリーがお茶の用意をしてくれた。
ティーカップにお茶を注ぎ、ソーサラーの上に乗せてから音を立てずに私とイリア様のテーブルの前に置いた。
お茶を注がれたティーカップから湯気とほのかなハーブティーの匂いがする。
テーブルの中心にクッキーを盛り付けたお皿を置いて、リリーはお辞儀をした後、速やかにサロンから出ていった。
「あの、イリア様は……どうして私を気にかけてくれるのでしょうか。まだ会って間もないですよね」
私は紅茶を飲んだ後、テーブルに置いて口を開いた。
イリア様はクッキーを食べると口元を抑える。完全にクッキーを飲み込み、話し出した。
「私はソフィア様に感謝していますので」
「感謝?」
「はい。兄……イアンを私は嫌っていました。その理由は単純なことでお兄様は天才と呼ばれるほど剣の才能がありました。クリスタ家の跡取りはお兄様になるでしょう。私はそれが許せなかった……私が男として生まれたなら兄と肩を並べて剣を振えたんです」
そういえば、イリア様って、上品よりも体を動かすのが好きだったんだっけ。剣の腕は騎士団顔負けレベル。それでもイリア様は女だから、男として生まれた天才と呼ばれているイアン様と比べられていた。
女なのだからと、上品さを身につけさせられ、今では剣も握れていない。そんな中、兄であるイアン様は毎日のように剣を握れて、剣の腕を磨いている。
イリア様はそれが納得出来ないんだっけ。
ゲームではそんな理由でイアン様のことを嫌っていた。
でもどうして私に感謝なんて?
疑問に思っているとイリア様はクスッと笑った。
「兄がとても羨ましかったんです。でも、行方不明になった時気付いたことがあって……お兄様が大好きで、一緒に剣を振るえないことが嫌だったんだって。私自身を守るようにお兄様に傷付くことを沢山言いました。自分がこれ以上傷つくことを恐れ、その不安をお兄様にぶつけてしまった。兄は兄で乙女なところがありますし、家庭的と言いましょうか……お菓子作りが特に好きで……けれど殿方がお菓子作りが好きだなんて、おかしなことです。兄もクリスタ家に恥じないように振舞っていますが、本当はお菓子作りを沢山して、家柄を気にしない生き方を望んでいるんじゃって……そう思ったんです」
何を思ったのか、イリア様は下を向いた後、私の顔……いや、目を真っ直ぐ見つめた。
この感情は誰にだってあると思う。誰だって傷つきたくないもん。
防衛本能で相手を傷付ける人がいる。そんな黒い部分を出す人もいればそうじゃない人もいる。
それは、ゲーム上での悪役令嬢と同じだと思った。.....素直になるって簡単なようで難しいから。
イリア様はイアン様を傷つけてることを罪悪感に囚われながらも自分の感情が上手くコントロール出来なかったんだろうな。
「デメトリアス家から帰宅したお兄様は、何処かスッキリとしていました。私に言ったんです。『イリアは大切なたった一人の双子の妹だ。俺はもう二度とイリアから逃げないと誓おう。イリアが俺を嫌っている理由を話してほしい』……まさか、お兄様の口からそんな言葉が出てくるとは思いませんでしたわ。私は溜め込んでいる全てを言葉として吐き出しました。兄は否定せず黙って最後まで聞いてくださって……とても心が軽くなった気がしました。これまで、かなり悩み憎み、苦しんでいたことだったというのに……」
「心の……心の中に溜め込んでいる毒って、溜め込めば溜め込むほど自分を苦しめます。イアン様はイリア様の言・葉・の・毒・を全て受け止めたかったのかもしれませんね」
「……多分、ソフィア様と出会ってお兄様の心が救われたから私とも向き合う勇気が生まれたのかも知れないんです。そして、私もお兄様と向き合う覚悟が出来ました。そうじゃなければ、今もずっと私が険悪だったと思いますので」
だから、感謝しているのだとイリア様は言った。
確かに、ゲーム内では会話が少なく、トゲトゲしい場面はあった。でも今は、仲が良い双子って感じだ。
私は紅茶が入ったティーカップの下にあるソーサラーごと持ち上げ、ティーカップと手に取ると口付ける。
ハーブティーのほのかな香りと優しい味がした。
そう、優雅にカーテシーでお辞儀をする彼女はイリア・クリスタ様。
デメトリアス家に戻って三日は過ぎようとしていた。戻った初日なんて、ノア先生や他の使用人たちが何やらバタバタしていた。アレン様となんの話をしたんだろう……。
少し疑問になったが、ノア先生に聞けないまま時間が過ぎてしまった。
その間にお義父さまにイリア様の泊まりの件を話したら早めが良いとのことで今日来てもらうことになった。
なんでこんなに早めにする必要あるんだろう。お義父さまの仕事上の都合かなと最初は思ったけど、どうも引っかかる。
「ゆっくりしてください。イリア殿」
お義父さまはイリア様をほっとしたような瞳で一瞬だけ見ていた……ような気がする。
考え過ぎだといいんだけど、私の知らないところで新たなフラグが立っている……なんてこと無いよね。
アイリスが急に実家に帰って、その代わりに何も書いてない手紙に宝石も……、なにかがありそう。
お義父さまはイリア様に軽く挨拶した後、すぐに執務室に向かってしまった。
お義母さまはイリア様にカーテシーした後、少しだけ雑談してから庭に向かった。
「あの、ソフィア様。お茶にしませんか?」
イリア様はお義父さまとお義母さまの姿が完全に見えなくなってから提案してくれた。
「そう……ですね。サロンに行きましょう」
サロンはエントランスから近い。サロンに向かう道を歩いていたらアレン様から護衛を任されたキースさんがお辞儀をして私とイリア様の後を着いてくる。
私の専属侍女となったリリーはお茶の用意をしてもらっている。準備が出来次第、サロンに持って来るだろう。
「あの、ソフィア様。学園の寮でお見かけした侍女は居ないんですの?」
「学園……? もしかしてアイリスのことでしょうか? 辞めました。今は実家にいると思いますよ」
イリア様は誰かを探すかのように周りを見渡しながら聞いてきたので、教えた。
「……そうですか」
イリア様は何かを考えるように口を手で抑え、真剣な表情となるが私と目が合うとニコッと可愛らしく笑った。
不意打ちの笑顔にドキッとしていると、サロンに着いてしまった。
サロンに入り、イリア様に座るよう促す。
キースさんはサロンの外で待機してもらう。女子会みたいなものだし、男がいるだけで話せない内容もあるかもしれないからね。
テーブルを挟み、お互いに向かい合って座った。
「最近、困ってることありません?」
「いいえ、困ってることなんてありませんよ」
イリア様が不安げに聞いてきた。私は首を左右に振った。
困ってることは沢山ある。……あるんだけど、言えるわけが無い。
「そうですか。変わったこととかはありません?」
「いいえ。特には……あの、なんでそんなこと聞くんですか?」
「すみません。ソフィア様は一人で抱え込む癖があるみたいですので、心配してしまいました」
「ありがとうございます」
「頼りないとは思いますが、困ったことがあれば、いつでも相談してください。待ってますから」
「はい」
イリア様は自分の胸に手を添えて優しく笑みを創る。私はその笑みを見て、心が和らいだ気がする。
しばらくしてからリリーがお茶の用意をしてくれた。
ティーカップにお茶を注ぎ、ソーサラーの上に乗せてから音を立てずに私とイリア様のテーブルの前に置いた。
お茶を注がれたティーカップから湯気とほのかなハーブティーの匂いがする。
テーブルの中心にクッキーを盛り付けたお皿を置いて、リリーはお辞儀をした後、速やかにサロンから出ていった。
「あの、イリア様は……どうして私を気にかけてくれるのでしょうか。まだ会って間もないですよね」
私は紅茶を飲んだ後、テーブルに置いて口を開いた。
イリア様はクッキーを食べると口元を抑える。完全にクッキーを飲み込み、話し出した。
「私はソフィア様に感謝していますので」
「感謝?」
「はい。兄……イアンを私は嫌っていました。その理由は単純なことでお兄様は天才と呼ばれるほど剣の才能がありました。クリスタ家の跡取りはお兄様になるでしょう。私はそれが許せなかった……私が男として生まれたなら兄と肩を並べて剣を振えたんです」
そういえば、イリア様って、上品よりも体を動かすのが好きだったんだっけ。剣の腕は騎士団顔負けレベル。それでもイリア様は女だから、男として生まれた天才と呼ばれているイアン様と比べられていた。
女なのだからと、上品さを身につけさせられ、今では剣も握れていない。そんな中、兄であるイアン様は毎日のように剣を握れて、剣の腕を磨いている。
イリア様はそれが納得出来ないんだっけ。
ゲームではそんな理由でイアン様のことを嫌っていた。
でもどうして私に感謝なんて?
疑問に思っているとイリア様はクスッと笑った。
「兄がとても羨ましかったんです。でも、行方不明になった時気付いたことがあって……お兄様が大好きで、一緒に剣を振るえないことが嫌だったんだって。私自身を守るようにお兄様に傷付くことを沢山言いました。自分がこれ以上傷つくことを恐れ、その不安をお兄様にぶつけてしまった。兄は兄で乙女なところがありますし、家庭的と言いましょうか……お菓子作りが特に好きで……けれど殿方がお菓子作りが好きだなんて、おかしなことです。兄もクリスタ家に恥じないように振舞っていますが、本当はお菓子作りを沢山して、家柄を気にしない生き方を望んでいるんじゃって……そう思ったんです」
何を思ったのか、イリア様は下を向いた後、私の顔……いや、目を真っ直ぐ見つめた。
この感情は誰にだってあると思う。誰だって傷つきたくないもん。
防衛本能で相手を傷付ける人がいる。そんな黒い部分を出す人もいればそうじゃない人もいる。
それは、ゲーム上での悪役令嬢と同じだと思った。.....素直になるって簡単なようで難しいから。
イリア様はイアン様を傷つけてることを罪悪感に囚われながらも自分の感情が上手くコントロール出来なかったんだろうな。
「デメトリアス家から帰宅したお兄様は、何処かスッキリとしていました。私に言ったんです。『イリアは大切なたった一人の双子の妹だ。俺はもう二度とイリアから逃げないと誓おう。イリアが俺を嫌っている理由を話してほしい』……まさか、お兄様の口からそんな言葉が出てくるとは思いませんでしたわ。私は溜め込んでいる全てを言葉として吐き出しました。兄は否定せず黙って最後まで聞いてくださって……とても心が軽くなった気がしました。これまで、かなり悩み憎み、苦しんでいたことだったというのに……」
「心の……心の中に溜め込んでいる毒って、溜め込めば溜め込むほど自分を苦しめます。イアン様はイリア様の言・葉・の・毒・を全て受け止めたかったのかもしれませんね」
「……多分、ソフィア様と出会ってお兄様の心が救われたから私とも向き合う勇気が生まれたのかも知れないんです。そして、私もお兄様と向き合う覚悟が出来ました。そうじゃなければ、今もずっと私が険悪だったと思いますので」
だから、感謝しているのだとイリア様は言った。
確かに、ゲーム内では会話が少なく、トゲトゲしい場面はあった。でも今は、仲が良い双子って感じだ。
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