182年の人生

山碕田鶴

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1878ー1913 吉澤識

13-(2/3)

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 港には長居することなく、すぐ馬車に戻った。扉を開ける加藤が静かに頭を下げる。差し出され続けた手が、今は出ない。

「手を貸せ。乗る時にまだ胸が痛む」
「はい」

 加藤の手を強引に杖代わりにして馬車に入った。

「このまま屋敷へ戻るのか?  それとも他に用事はあったか?  私はこれからどこへ行く?」

 加藤は一礼すると、無言で扉を閉めた。
   深い溜息が自然に出た。
   まるで棺桶だな。さしずめ加藤は納棺師か。馬鹿な男だ。指先が震えていたではないか。
 馬車に揺られながら、ぼんやりと窓の外を眺めた。目に焼き付けるほどの景色でもない。
 宮田は……最期に何を見たのであろうな……。
 私は非科学的なものに興味はない。幽霊の類は見たことがない。だから、あの世で宮田に会えるなど期待もしていない。
 もし会えたとて、何を言う? お疲れ様でした、か。情緒に欠けるな。
 宮田には詫びておきたい。私が宮田の死期を早めてしまったとしたら寝覚めが悪い。
 ククッ、私はどこまでも身勝手だ。自分のために詫びるのか。今さら寝覚めもなかろうにな。ゆるせ、宮田。

 時よ止まれ。汝は美しいーー

 かのファウストのごとく、自らの終わりを宣告してこの世を去ることができたなら、どれほど幸せであろうか。私の宣告は、百年後か、千年後か……この身体が朽ちて後もなおこの世への好奇心は止むまいな。
 この世の生に満足して退場できるならば、悪魔に魂を売り渡すくらい安いものだ。事象の全てを見せてくれるなら、喜んで悪魔について行ってやる。
 まあ、悪魔を信じない私には、この世の果てなどしょせん絵空事だがな。
 悔いのない人生ではあったが、私は生ききっていない。
   大陸の革命と自立はどうなるのか。近い戦争に我が国はどう出るのか。鉄道も自動車も各地に広がり、当たり前に使う日が来るのか。日々の道楽を楽しみながら世の行く末を眺めるのは、贅沢であろうか。
 空が赤く染まる。私の命も、沈む日の如しだ。
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