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2039ー2043 相馬智律
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リツは私を振り払い、なおも笠原に近づこうとした。
ザシュッ!
「リツ!」
私と笠原は同時に叫び、同時に動いていた。二人がリツに覆いかぶさった瞬間、リツの足首と腕から、火花のように赤い色が散った。
「お前、こうなるとわかっていたな!」
「リツを頼んだ」
笠原はそれだけ言うと瞬時に私とリツから離れた。
話が噛み合っていないだろう!
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!
笠原の身体が崩れる前に、私は三度音を聞いた。
カイ⁉︎
リツに重なり地に伏せて動けないまま、笠原を目で追った。
カイ?
全ての音が消えていた。笠原の音も消えた。
静寂。
もう撃って来る気配はない。
警備員たちは建物の陰に移動したまま動かない。
私は立ち上がって周囲を見回した。
任務完遂ということか。
笠原にゆっくりと近づく。
「カイ!」
私が笠原の前に立つよりも早く、リツは地を這って笠原に折り重なった。
どちらが赤く染めたのか。何度も見覚えのある光景に、私は虚しい溜息しか出なかった。
「カイ! カイ⁉︎」
リツが呼びかけるのは、ただの赤い塊だ。応えるはずもない。
「リツ。君も怪我をして……」
リツの身体を起こそうとして肩に手をかけた私は、あまりの衝撃に声をなくした。
リツ⁉︎
リツの足首と腕には皮膚が深く裂けた傷があり、すぐにも止血が必要な状態と思われた。
だが、その奥からはシリコーンで覆われた金属柱がのぞいていた。
油の匂い。
裂け目から見える鈍い光沢。
私はとっさに上着を脱いでリツを覆った。
リツが不思議そうに私を見上げた。
「リツ……君は……」
「え?」
リツはわずかに起き上がって、怪我をした足首を見た。
「な……に。何? これ何⁉︎」
リツは私以上の衝撃を受けていた。
わっと立ち上がろうとして倒れ、それでも立ち上がって動こうとした。
完全に錯乱状態だった。手で顔を覆って絶叫するが、声にならずに喉から切り裂くような空気が抜ける音が響き続けた。
私はリツを抱き抱え、力ずくで抑え込んだ。
「リツ! 大丈夫だから! 大丈夫だから! リツ、大丈夫だ!」
全く聞こえていないであろうリツは、私にしがみついて暴れ続けた。
どういうことだ? 何が起きている?
混乱しているのは私も同じだ。だが、私以上にリツが混乱しているではないか。
「リツ……」
その時、聞こえるはずのない声がした。
リツの手を、掴むはずのない手が掴んだ。
「カイ⁉︎」
ところどころ砕け散った赤い塊から、無傷の腕が伸びていた。
リツの手を掴んだ笠原の手は動いていなかった。掴まれたリツも、じっと動かなくなった。
「リツ、大丈夫だ。このままシキと行け。約束したろう? 身の安全は考慮した。お前の命を俺より優先すると保証したろう? シキは大丈夫だ……」
リツは何度もうなずいた。
「お前……何をしたのだ?」
私はようやく声に出して言った。
「お前たちは幽霊が視えないからな。バラバラになった肉を動かすのは難儀だな」
原形をとどめない頭部に残る口がわずかに動くたび、おぼれるような声に押されて命の残骸が吐き出されていく。
「そうじゃない! リツのことだ!」
「ああ、そっちか。シキ……これが、お前の望んだ未来だ……」
ザシュッ!
「リツ!」
私と笠原は同時に叫び、同時に動いていた。二人がリツに覆いかぶさった瞬間、リツの足首と腕から、火花のように赤い色が散った。
「お前、こうなるとわかっていたな!」
「リツを頼んだ」
笠原はそれだけ言うと瞬時に私とリツから離れた。
話が噛み合っていないだろう!
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!
笠原の身体が崩れる前に、私は三度音を聞いた。
カイ⁉︎
リツに重なり地に伏せて動けないまま、笠原を目で追った。
カイ?
全ての音が消えていた。笠原の音も消えた。
静寂。
もう撃って来る気配はない。
警備員たちは建物の陰に移動したまま動かない。
私は立ち上がって周囲を見回した。
任務完遂ということか。
笠原にゆっくりと近づく。
「カイ!」
私が笠原の前に立つよりも早く、リツは地を這って笠原に折り重なった。
どちらが赤く染めたのか。何度も見覚えのある光景に、私は虚しい溜息しか出なかった。
「カイ! カイ⁉︎」
リツが呼びかけるのは、ただの赤い塊だ。応えるはずもない。
「リツ。君も怪我をして……」
リツの身体を起こそうとして肩に手をかけた私は、あまりの衝撃に声をなくした。
リツ⁉︎
リツの足首と腕には皮膚が深く裂けた傷があり、すぐにも止血が必要な状態と思われた。
だが、その奥からはシリコーンで覆われた金属柱がのぞいていた。
油の匂い。
裂け目から見える鈍い光沢。
私はとっさに上着を脱いでリツを覆った。
リツが不思議そうに私を見上げた。
「リツ……君は……」
「え?」
リツはわずかに起き上がって、怪我をした足首を見た。
「な……に。何? これ何⁉︎」
リツは私以上の衝撃を受けていた。
わっと立ち上がろうとして倒れ、それでも立ち上がって動こうとした。
完全に錯乱状態だった。手で顔を覆って絶叫するが、声にならずに喉から切り裂くような空気が抜ける音が響き続けた。
私はリツを抱き抱え、力ずくで抑え込んだ。
「リツ! 大丈夫だから! 大丈夫だから! リツ、大丈夫だ!」
全く聞こえていないであろうリツは、私にしがみついて暴れ続けた。
どういうことだ? 何が起きている?
混乱しているのは私も同じだ。だが、私以上にリツが混乱しているではないか。
「リツ……」
その時、聞こえるはずのない声がした。
リツの手を、掴むはずのない手が掴んだ。
「カイ⁉︎」
ところどころ砕け散った赤い塊から、無傷の腕が伸びていた。
リツの手を掴んだ笠原の手は動いていなかった。掴まれたリツも、じっと動かなくなった。
「リツ、大丈夫だ。このままシキと行け。約束したろう? 身の安全は考慮した。お前の命を俺より優先すると保証したろう? シキは大丈夫だ……」
リツは何度もうなずいた。
「お前……何をしたのだ?」
私はようやく声に出して言った。
「お前たちは幽霊が視えないからな。バラバラになった肉を動かすのは難儀だな」
原形をとどめない頭部に残る口がわずかに動くたび、おぼれるような声に押されて命の残骸が吐き出されていく。
「そうじゃない! リツのことだ!」
「ああ、そっちか。シキ……これが、お前の望んだ未来だ……」
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