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2043ー2057 高瀬邦彦
74-(2/4)
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ジー……ジ、ジジ……
朦朧とする意識の中に、いつもの機械音が染みてくる。不快だ。高瀬の中は居心地が悪い。
居心地が悪いのは高瀬も同じだろう。
相馬の暗殺に巻き込まれて自分まで負傷し、しかも相馬を乗っ取っていた悪霊に取り憑かれて堂々と居座られている。相馬の喪失を受け入れる間もなく、その元凶を伴って事後処理をしなければならない。自身の体調も快復しているとはいえない。
怒りも悲しみも表に出さず心の内に押し込める。その場所に私がいるのだ。
「……シキ? まだ話は終わっていない」
私が気を逸らすのが気に入らないのか、肩を掴む手に力がこもる。本当に容赦がない。
先ほどから高瀬は相馬の死について考え続けている。答えのないまま堂々巡りでますます深みにはまっていく。
今日は日中特に忙しかったらしいな。かなり機嫌が悪そうだ。表面には決して出さない苛立ちは、内省を過剰にさせる。
私は高瀬の隣に横たわり、されるがまま、ただじっとしている。何度も私の名を呼び話しかけるが、初めから答えは期待されていない。こいつは独りが寂しいだけだ。
「シキ。相馬は……なぜ消されなければならなかった? 照陽グループは、はじめから相馬を消す気でいた。国家機密漏洩が心配なら一生軟禁でもすれば済む話だ。研究施設は元々世間から隔離されている。情報管理も厳密だ。NH社にとっても、相馬はまだ役に立つ研究者だったはずだ。……機密を知って消されるなら、私はどうして生きている? 世界的スキャンダルを口実にしてまで相馬を暗殺しなければいけない理由とは何だ?」
肩と髪を掴まれた私は、身動きが取れなくなった。昏い目が私を捕らえる。
「照陽のターゲットはあなただった。違うか? あなたのせいで、相馬は心だけでなく肉体も失った。私は相馬の死に加担したと思っていたが、そうではない。相馬は、もうずっと前に……とっくにいなくなっていた。そうだ、既に相馬はいなかった。私は相馬を殺してなどいない。そうだろう? あなたが相馬とすり替わっていたと知って、正直ほっとした。相馬を殺したのはあなただ。あなたが相馬を殺したのだと、堂々と責めることができて本当に良かった」
強く掴まれたまま、私は高瀬に引き倒された。
震える手が私の罪を執拗に確かめる。激情が押し寄せる。
ああ、高瀬は狂気の淵にいる。
怒りや悲しみを涙ではなく暴力で発散し、破壊的衝動を抑えられない自分に絶望して落涙する。
私に傷をつけながら、自分自身が傷ついている。
「……っがっ、はっ……たか、せ……痛っ」
心の中で何をやろうと自由だ。何度繰り返そうと自由だ。ここは高瀬の意識の中だ。
だが、きっと私の存在が高瀬に箍を外させている。私も罰を受けたがっている。お前を絶望に誘うのは私だ。
高瀬に引きずられながら、私は笑っているのかもしれない。
痛みが広がるたびに、まるでそこだけが浄化されたような静けさに包まれる。この痛みは慈雨だ。
私は責められ罰せられたいのだ。この痛みが生きる免罪符として私を安心させるのだ。
あまりにも自分勝手でわがままな倒錯。
満たされることのない錯覚と知りながら、この快感を貪る私は堕落しているのか。
なあ、死神。お前なら何と答えてくれる?
朦朧とする意識の中に、いつもの機械音が染みてくる。不快だ。高瀬の中は居心地が悪い。
居心地が悪いのは高瀬も同じだろう。
相馬の暗殺に巻き込まれて自分まで負傷し、しかも相馬を乗っ取っていた悪霊に取り憑かれて堂々と居座られている。相馬の喪失を受け入れる間もなく、その元凶を伴って事後処理をしなければならない。自身の体調も快復しているとはいえない。
怒りも悲しみも表に出さず心の内に押し込める。その場所に私がいるのだ。
「……シキ? まだ話は終わっていない」
私が気を逸らすのが気に入らないのか、肩を掴む手に力がこもる。本当に容赦がない。
先ほどから高瀬は相馬の死について考え続けている。答えのないまま堂々巡りでますます深みにはまっていく。
今日は日中特に忙しかったらしいな。かなり機嫌が悪そうだ。表面には決して出さない苛立ちは、内省を過剰にさせる。
私は高瀬の隣に横たわり、されるがまま、ただじっとしている。何度も私の名を呼び話しかけるが、初めから答えは期待されていない。こいつは独りが寂しいだけだ。
「シキ。相馬は……なぜ消されなければならなかった? 照陽グループは、はじめから相馬を消す気でいた。国家機密漏洩が心配なら一生軟禁でもすれば済む話だ。研究施設は元々世間から隔離されている。情報管理も厳密だ。NH社にとっても、相馬はまだ役に立つ研究者だったはずだ。……機密を知って消されるなら、私はどうして生きている? 世界的スキャンダルを口実にしてまで相馬を暗殺しなければいけない理由とは何だ?」
肩と髪を掴まれた私は、身動きが取れなくなった。昏い目が私を捕らえる。
「照陽のターゲットはあなただった。違うか? あなたのせいで、相馬は心だけでなく肉体も失った。私は相馬の死に加担したと思っていたが、そうではない。相馬は、もうずっと前に……とっくにいなくなっていた。そうだ、既に相馬はいなかった。私は相馬を殺してなどいない。そうだろう? あなたが相馬とすり替わっていたと知って、正直ほっとした。相馬を殺したのはあなただ。あなたが相馬を殺したのだと、堂々と責めることができて本当に良かった」
強く掴まれたまま、私は高瀬に引き倒された。
震える手が私の罪を執拗に確かめる。激情が押し寄せる。
ああ、高瀬は狂気の淵にいる。
怒りや悲しみを涙ではなく暴力で発散し、破壊的衝動を抑えられない自分に絶望して落涙する。
私に傷をつけながら、自分自身が傷ついている。
「……っがっ、はっ……たか、せ……痛っ」
心の中で何をやろうと自由だ。何度繰り返そうと自由だ。ここは高瀬の意識の中だ。
だが、きっと私の存在が高瀬に箍を外させている。私も罰を受けたがっている。お前を絶望に誘うのは私だ。
高瀬に引きずられながら、私は笑っているのかもしれない。
痛みが広がるたびに、まるでそこだけが浄化されたような静けさに包まれる。この痛みは慈雨だ。
私は責められ罰せられたいのだ。この痛みが生きる免罪符として私を安心させるのだ。
あまりにも自分勝手でわがままな倒錯。
満たされることのない錯覚と知りながら、この快感を貪る私は堕落しているのか。
なあ、死神。お前なら何と答えてくれる?
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