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1974ー2039 大村修一
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私は大学卒業後、Neo-HCD社への就職を果たした。マツカワ電機が半官半民で参入したアンドロイド事業に、研究職として採用されたのだ。
Human Centered Design。
松川社長の精神だった、人間中心設計のことだ。
人間の快適性、安全性などを重視した製品やサービスを基本とするものづくりを掲げながら実態は軍需産業と化していたNH社は、暗黙の了解として表と裏の部門を併設していた。
社会に広く知られるロボット製作のパイオニアは表のNH社だ。店頭での受付や企業のマスコットキャラクター的な位置づけで様々なアンドロイドを試作的に世に出し始めていた。
時には非効率な動きの方が人間らしく見えるし、安心感と愛着を得られる。社会全体に受け入れられるためには、不必要に警戒されてはならない。人間に近い未知の生物たるアンドロイドは、人間側が抵抗なく徐々に慣れるために多少精度を落として小出しに進化させた方がいい。
裏部門の最先端技術が数年後に型落ちして表部門の製品に一部応用される同社のシステムは実に効率良くできていた。
大学在学中にアンドロイドの感情表現を研究した私は、入社当初、当然ながら表部門のプログラム研究機関に配属された。
作ろうとしていたのは、より人間らしい反応を見せるアンドロイドだ。相手に不安や警戒心を持たせず、親しみや信頼を勝ち得て不自然に見せない対応をパターンに組み込むのだ。
ロボットがロボットであることを偽り人間と化す技術は、私の生き方を反映させたようなものだった。
一方で、「魂の器」となるアンドロイドボディの研究は素人だったが、感情表現技術で協働するボディ部署の人間と多く交流し、知識を増やしていった。
「魂の器」。
いつ完成するともしれない夢ではあったが、今の全てが私の未来を作っているという確かな手応えに充実を感じていた。さらに、自分が新たな世界を作り出そうとしていることが楽しくて仕方がなかった。
「大村君はヒューミントに関心が強いのかな?」
入社して数年もしないうちに部署長から声がかかった。部署長は常日頃から職員の研究内容だけでなく素行も観察していた。
ヒューミント。すなわち、人との接触を通じた情報収集による諜報活動のことである。
私が本来の部署に限らずボディ部署にも出入りして広く知識を集めていたのを気にしたのだろう。しかも、協働業務の場だけではなく、社員食堂やら親睦会やらで個人的にボディ部署の人間と親しくなり、仕事の愚痴や世間話に紛れて漏らす情報を相手に知られず拾っていたことに部署長は気づいたらしい。
そもそも、相手に不安や警戒を抱かせない仕草をアンドロイドに仕込もうとしていた時点で私は要注意人物であったはずだ。
私は部署長に気づかれるように、少々派手にやっていた。気づいてもらわねば困るのだ。
それが、裏部門への入り口だった。
研究開発の制限なく倫理をも超えた技術の最先端、最も未来に近い所に私は立った。
広大な敷地を持つ地方の研究施設への転勤は、世間からの隔離を意味した。
研究者として大村修一の名前が表に出ることはなくなった。
Human Centered Design。
松川社長の精神だった、人間中心設計のことだ。
人間の快適性、安全性などを重視した製品やサービスを基本とするものづくりを掲げながら実態は軍需産業と化していたNH社は、暗黙の了解として表と裏の部門を併設していた。
社会に広く知られるロボット製作のパイオニアは表のNH社だ。店頭での受付や企業のマスコットキャラクター的な位置づけで様々なアンドロイドを試作的に世に出し始めていた。
時には非効率な動きの方が人間らしく見えるし、安心感と愛着を得られる。社会全体に受け入れられるためには、不必要に警戒されてはならない。人間に近い未知の生物たるアンドロイドは、人間側が抵抗なく徐々に慣れるために多少精度を落として小出しに進化させた方がいい。
裏部門の最先端技術が数年後に型落ちして表部門の製品に一部応用される同社のシステムは実に効率良くできていた。
大学在学中にアンドロイドの感情表現を研究した私は、入社当初、当然ながら表部門のプログラム研究機関に配属された。
作ろうとしていたのは、より人間らしい反応を見せるアンドロイドだ。相手に不安や警戒心を持たせず、親しみや信頼を勝ち得て不自然に見せない対応をパターンに組み込むのだ。
ロボットがロボットであることを偽り人間と化す技術は、私の生き方を反映させたようなものだった。
一方で、「魂の器」となるアンドロイドボディの研究は素人だったが、感情表現技術で協働するボディ部署の人間と多く交流し、知識を増やしていった。
「魂の器」。
いつ完成するともしれない夢ではあったが、今の全てが私の未来を作っているという確かな手応えに充実を感じていた。さらに、自分が新たな世界を作り出そうとしていることが楽しくて仕方がなかった。
「大村君はヒューミントに関心が強いのかな?」
入社して数年もしないうちに部署長から声がかかった。部署長は常日頃から職員の研究内容だけでなく素行も観察していた。
ヒューミント。すなわち、人との接触を通じた情報収集による諜報活動のことである。
私が本来の部署に限らずボディ部署にも出入りして広く知識を集めていたのを気にしたのだろう。しかも、協働業務の場だけではなく、社員食堂やら親睦会やらで個人的にボディ部署の人間と親しくなり、仕事の愚痴や世間話に紛れて漏らす情報を相手に知られず拾っていたことに部署長は気づいたらしい。
そもそも、相手に不安や警戒を抱かせない仕草をアンドロイドに仕込もうとしていた時点で私は要注意人物であったはずだ。
私は部署長に気づかれるように、少々派手にやっていた。気づいてもらわねば困るのだ。
それが、裏部門への入り口だった。
研究開発の制限なく倫理をも超えた技術の最先端、最も未来に近い所に私は立った。
広大な敷地を持つ地方の研究施設への転勤は、世間からの隔離を意味した。
研究者として大村修一の名前が表に出ることはなくなった。
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