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第十話
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翌日、僕は仮病を使い、休むことにした。ずっとベッドにもぐりこんで、お腹が痛いとしきりに言った。おかげで学校を休めることになった。
そうして僕はディックさんが朝の仕事を終えて案とやらを伝えに来るのを待っていた。
すると、チャイムが鳴る音が聞こえた。それでも気にせず僕は寝ていた。
玄関の開く音がする。
しばらくして、母の声が聞こえた。
「治、部活の先輩だっていう人が来たけど」
僕はそれを聞いた途端、布団を跳ね飛ばし、下へと降りていった。
玄関にいたのは御坂先輩だった。学生服姿ではなく、私服姿だった。
「片山君」
「先輩」
「昨日、無事だったんだね」
「はい。先輩がいろいろ教えてくれていたおかげで」
「ちょっと話せる?」
「はい」
「治、お腹痛いんじゃないの?」
母が訊いた。
「今はそんな場合じゃないからいい」
「あ、仮病使ったね」
「いや、お腹が痛いのは本当なんだけど、いいじゃん別に!」
僕は笑ってごまかしながら、上に行った。そして学生カバンをもって御坂先輩と外に出ようとした。
「何やってるの、片山君?今日は休日でしょ」
「え、ああそうでしたっけ」
「そうだよ。だからこうして遊びに来たっていうのに」
母がこっちを見ている。にやけた表情をしている。
「違う、ただの部活の先輩」
「ふふーん」
母が笑っているのが気に食わなかった。それと何とも気恥ずかしくって、僕は御坂先輩を連れて部屋へ引っ込んだ。
母親がついてきていないか確認して、部屋のドアを閉めた。
「先輩、今日って本当に休日でしたっけ?」
「休日だよ?」
「そうでしたか」
僕は床に座った。それに伴い、御坂先輩も座った。
「昨日は本当にごめんなさい」
御坂先輩が謝った。
「昨日もそうでしたけど、御坂先輩はいったい何を謝っているんですか?」
「そのことも含めて、話をしようと思う。信じられないような話もあるかもしれないけど、とりあえず何も聞かずにまずは聞いて」
「わかりました」
「えっとね、私のお母さんが死んだっていう話は聞いたっていうけど、私のお父さんが死んだっていう話までは聞いてないよね」
「はい」
僕はあの父親すら御坂先輩の本当の親ではないということを知って驚いた。
「じゃあそこから。私のお父さんが死んで、死んだのは交通事故でだったんだけど、それで私はお母さんと二人で暮らしてたのね。それでお母さんが再婚したのがあの男だったの。あいつはお母さんに色目ばっか使ってすっかりお母さんをだましてしまったけれど、あいつは私の家に踏み入る資格さえない、本当の下衆野郎だった。私はあいつ出会った時から嫌いだった。なんとなく、人のことを人として見ていないみたいな感じがして。
それであの父親が家に来てから、あいつはお母さんも私もさんざんいじめるようになった。気に入らないことがあるといつも私を殴ったりした。跡が見えづらいように体のほうを殴るなんて言うのは当たり前だった。それからお母さんにも、あれができていないとかこれは違うとか言って、さんざんお母さんのことを否定したり、ののしったりしていじめた。そんなことをしていたらお母さん、だんだん元気がなくなっていっちゃって。いつの間にか肺炎で寝込んだかと思ったら、死んじゃった。
あいつ、お母さんが死んで悲しむとかしなかった。それどころかすぐに別の女を呼び込んで、結婚して。それであの女、子供もつれていて。それがあの、居間の母親と淳平ってやつ。
それからはもう、本当にひどい生活だった。家族のだれも私と血がつながっていないし、誰もが私のことを居候とか邪魔者みたいに扱った。殴るけるなんて言うのはやっぱり亡くならなかったし、ろくなことがなかった。
でも本当に恐ろしいのはここからなの。あいつらがただの血も涙もない冷血漢だとかだったらどれほどよかったかしれない。
私もね、中学生になってからは夜更かしとかも、し始めるようになったの。そうしたら、お父さんとかお母さん、さらには小さい淳平までもが夜中に歩き回っている足音を聞いたの。それは深夜二時くらいのことだったし、淳平なんてその時、まだ八歳だったの。それで足音は皆一階へ降りて行って、玄関から出ていくの。
こんな夜に何をしているんだろうって思って寝床を見たりするとやっぱり誰もいなくて、何かしているんだっていうことが分かった。でもその時はまだ何をしているのかなんてわからなかった。
それから私は本当に何も知らなくて、友達を家に招き入れたことがあったの。今思い出しても、本当に後悔するようなことだった。私があの時、みんなをまねきれさえしなければよかったのに。
もうあらかじめ言ってしまうけれど、あいつは夜中に女を襲って、そいつに子供をはらませるの。その被害に私の友達皆があってしまった。
でもやっぱりその時の私は何も知らなくて、変な噂が立っても不本意だとしか思わなかったんだけど。
それでも私はそのうち漸く、すべてを知ることができた。私はあいつらは夜に出て何をしているのかを知りたくて何とかして調べようとした。
あいつらが帰るのは日が昇る直前ぐらいなんだけど、私はある時、あいつらが帰った時に何か話すのを聞こうとしたの。そこであいつらが集まるであろう、リビングのクローゼットのところに隠れていることにしたの。
そうしたら、その時に全部を聴くことができた。あの男が夜に女を襲っていることも知ったし、あの女が男を襲って精を奪って命をすり減らしていることも。淳平も同じように女を襲っていたみたいだった。それでもう一つ、恐ろしいことを聞いた。私を生かしておいてあるのは淳平に初めての獲物として与えるためであって、淳平は精通が来るまで待っているということだった。
その時から私はずっと、死ぬこととか淳平に襲われることしか考えられなかった。民俗学研究部に入っていろいろと調べたりとかしてみたけれど、助けになるような手段は一つも見つからなかった。
そんな時に君が現れた。妖精にあったとかいうし、あいつらみたいな化け物にも強いのかと思ったりもした。でも相談しようか本当に迷った。片山君に問いただされた時、つい変なことも行っちゃったけど、やっぱりあれも助けてもらいたかったからかもしれないし。
それでもいざぐいぐいと来られると恐ろしくなってきちゃって、片山君が殺されたらどうしようとか思って必死に隠そうとした。
でも結局片山君は家に来ちゃったし、そのうえあの女に襲われたはずなのに生きている。ねえ訊きたいんだけど、どうやってあの女を追い払うことができたの?」
「いやまあ、僕じゃなくて、ディックさんと千代さんが助けてくれたんですけど」
「だれなの、その二人?」
「えー、ちょっと呼んできます」
僕は部屋を出て二人を呼ぼうとした。すると部屋のすぐ外に二人はいた。母親もいる。
僕は母親を追い払うと、ディックさんと千代さんを部屋にいれた。
部屋に入ってきた二人を見て、御坂先輩は驚いたようだった。
「ああ、この方がディックさん。うちで働いてくれている妖精です。で、この犬っていうと怒るんですけど千代さんです」
「うん……」
「お初にお目にかかります、ディックと申します」
「あ、御坂奈緒と言います」
「ええまあ、このディックさんと千代さんとがいたおかげで、僕は助かったんです」
「そう、なんだ」
僕はあの夜に起こったことを説明した。
「僕の方はこんな感じでしたけど、先輩はどうして、逃げ出してこられたんですか?」
「ああ、夜になったらあいつらみんな出て行っちゃったの。それだから家には私一人しかいなかったし、逃げ出してこられた」
「ふむ、しかしそれだけだとわかりかねますな。どうして昨日の夜に限って逃げ出そうと考えたのです?あなたの言うところによれば、あやつらは毎日のように夜は家を空けていたはず。それならばいつだって逃げ出すこともできたでしょうに」
「それは、逃げてもどうしようもなかったからなんです。どこへ逃げたって、誰かが助けてくれるわけでもないし、そのまま生活しているわけでもないですし。でもあの時は片山君がいてくれましたので」
その言葉を聞くと、僕は胸のほうがじんと温かくなるのを感じた。
「しかし、片山様は殺されていたかもしれませんよ?あなたは私や千代様がおられることをご損じなかったはずです。さすれば片山様が一人であの化け物を退治できるものとお思いになったのでしょうか」
「いえ、そういうわけではないんです。片山君がいたからっていうのは、片山君に最後に会いたかったからなんです。もう淳平も大分成長していましたし、私の身はもう破滅寸前でした。もう頼るとするなら片山君しかいませんでした。片山君でだめなら、私はもう死ぬよりほかないと考えていました。それからもう一つ、もし死んでしまっていたとしたらの話なんですけど、その時は片山君に謝っておきたかったんです。むしろ、それが一番でした。片山君は死ぬだろうと思っていたので。だから朝早く、誰も片山君をどこかへ運び去らないうちに来たんです。そのつもりで来たのに普通に片山君が下りてきたからその時は本当に驚いたけど」
御坂先輩は僕に向けていった。
「なるほど、そういうわけでございましたか。御坂さんにはぜひともお礼を申し上げなければなりません。もし御坂さんご自身であの家を脱出なされなかったならば、我々はどうあっても死ぬ運命にございましたから。実に思ってもみなかった幸運でございます」
「え?そうだったんですか、ディックさん」
「はい、恐れながら今ここで告白させていただきますが、昨夜のうちに妙案はどうしても出てこず、私はそのことを治様にお伝えするつもりでありました。そしてまた、治様はそれを聞かれるや、あの家へ突撃していくことと思いいたしており、今日でわが命運も尽きたものと覚悟していた次第でございます」
「何か、すいませんでしたディックさん。ずいぶん心配をかけてしまっていたんですね」
「お気になさることはございません。これも仕事のうちですので」
これまでは不安から解き放たれた解放感と、御坂先輩を救えたという感慨を味わっていた。しかしこれからまだやることが残っている。そろそろそのことも考えなければいけなかった。
「あの、これからあの化け物たちをどうするかなんですけど」
「あのさ、片山君」
「はい?」
「最後になるかもしれないし、ちょっとやり直したいことっていうか、訂正したいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「まず敬語やめて」
「なんでですか?」
「いいからやめる」
唐突に下された指示の意味が僕にはまるで分らなかった。
「ああ、なん、で?」
先輩を相手に敬語を使わないでいると、たまらなく言いづらかった。敬意を表していないようで、なんだかルール違反をしているようなひやひやした気持ちになった。
「なんでかっていうとね、あ」
「なんです、なに?」
「やっぱ何もかも終わってからにするね」
「え?なんで?」
「うんとね、じゃあ知りたかったら二人とも生きてることだね」
「いま言ってくださいよ」
「敬語は駄目」
「あ」
「それよりもあの化け物どもをどうするかだけど」
「ああ、はい」
僕はとうとう聞くことをあきらめた。多分、僕が生きていて、御坂先輩も生きていて、ことがすべて終わらないと何も聞けないだろう。
「では私に妙案がございます。こうなされば、必ずやかの化け物どもらを退治できることに相違ないでしょう」
「それはいったい、どんな方法なんでしょうか?」
「私はある毒の粉を知っております。これをほんの少量でも飲み物なり食べ物なりに振りかけ、それを飲み食いしたものは確実に死んでしまうという代物でございます。やや遅効性なのですが、全員に気取られずに毒を飲んでもらうためにはちょうどいいでしょう。この毒は人間界には存在しないものでございますから、万が一肢体の解剖などがございましたところで、一向に差し支えがございません。なぜと言って毒は物質ではなく、魂への毒であるから、化学などでは到底見つかるものではないからです。
きゃつら化け物は必ず、夜なかに我々を襲撃するでしょう。その時には家を空けてしまうに相違ありません。全精力を傾けて襲撃すべき、大事な時ですからな。さすれば家への侵入は容易になりましょう。もし万が一残っていたところで、一人ぐらいならば殺すこともできましょう。二人以上ならば逃げるよりほかにありませんが。そして我々は空っぽであろう家に侵入するのです。侵入するのには御坂さんの持っている鍵を使えばよろしい。御坂さん、鍵は持っていますよね?」
「はい」
「ではそのカギで侵入しますればあとは飲み物などに毒を仕込むだけでございます。あとは勝手にきゃつらの死体が転がっているという寸法です。差し当たって、今日の夜には私のみで行くことにします。この小さな体を駆使してきゃつらの家の庭に隠れこみ、きゃつらが出発したとみるや毒を盛りに行く次第です。ほかの皆様方は家に折られるままですと危険でございますから、わたくしの友人の住みかに案内しますので、そこでお待ちくだされ」
「わかりました。千代さんもつれていきますか?一人でおいておくと、あの化け物も千代さんを恨んでいることでしょうし、危ないと思うんです」
「私も同意見でございます。千代様をお連れいたしましょう」
そして僕らは夜の十時ぐらいになると、家を出た。ディックさんについていくと、廃屋に案内された。その廃屋は元病院であると思われるものだった。
ディックさんは立ち入り禁止と書いてあるにもかかわらず廃屋へ入っていってしまった。
「ディックさん、ここは何か出たりとかはしませんよね?」
僕は中へは入らず、外からディックさんに尋ねた。
「存じ上げません。しかし今はここよりほかに安全なところはございますまいでしょう」
ここにいたら命は助かっても、悪霊に取りつかれてしまいそうな気がした。しかしディックさんが好意でここへ案内してくれたということもあって、そんなことは言えなかった。御坂先輩も何も言わなかった。
中へ入っていくと、中は割ときれいだった。案外、過ごすには快適であるように思われた。
ディックさんはそして中で誰かの名前を呼んだ。すると一人の赤い帽子をかぶった妖精が現れた。その妖精は老人のようなしわくちゃな顔をしていた。
「ディック。どうしてきた。しかも人間に加えて犬まで」
千代さんがうなった。犬扱いされたことに怒っているのだ。
「千代様、落ち着いてくださいませ。あまりことをこじらせてはならないのですから。ミヒャエル、彼らをここにおいてほしい。彼らの人品については私が補償する。二人とも私のようなものにも敬意を払う大変良いお方で、ここでもまず粗相をすることはない。あの千代様にしても前世は人間であり、その記憶をお持ちであるから、大層物わかりの良い方だ」
「まあ、おまえがそこまで言うなら構わないが、しかしただ置いておくと言ったっていろいろとあるんだぜ?第一、こんなところに人間がいて万が一見つかったりでもしたらいろいろとうるさくなることもあるしな。そうしたら夜なのに俺は眠れず、大変な迷惑になる」
「わかっている。お前に迷惑をかけてしまうのは重々承知だ。だから今回のことは千円で引き受けてはくれないだろうか?」
「五千円だ」
「三千円」
「手を打とう」
ディックさんとミヒャエルさんは握手をした。
「それでは治様、私はこれからきゃつらの庭へと行ってまいりまする。ミヒャエル、くれぐれもお二方をよろしく頼んだぞ」
「おう」
ディックさんはそして廃屋を出て行ってしまった。
それから僕らはミヒャエルさんに一つの部屋に連れていかれた。そこはもともとは病室として使われていたものと思われた。布団などは特になく、床に座って過ごすことになった。
部屋はもともとミヒャエルさんの者らしく、ミヒャエルさんは床に腰を下ろした。僕らも腰を下ろした。
「ミヒャエルさん」
「何だね?」
「ここって、幽霊は出ますか?」
「当り前だ。病院で死んだやつがたくさんいる。まあ気にすることはない。ここには妖精もたくさんいるが、今までだれ一人として幽霊にひどい目にあわされたやつはいないやね」
「そうですか……」
僕らはそれから、何事も話すことなかった。しかし全員が全員起きていて、ディックさんの帰りを待っていた。
そして三時半になったころ、ディックさんが部屋へと戻ってきた。
ミヒャエルさんがもうすでに寝ていたので、僕らは無言で笑顔をかわすだけにしておいた。月の銀色の光に照らされたディックさんの笑みに僕は感動の気持ちさえをも感じた。
それから僕らは皆で僕の家に帰った。
翌日は土曜日だったので、僕と御坂先輩と千代さんとで家に行ってチャイムを押した。押したときには化け物がドアの隙間から腕を出してきて僕らを引きずり込むのではないかという想像にさいなまれた。
しかし誰も玄関まで来る様子がなかった。僕らはそれを確認すると御坂先輩のカギで家のドアを開けた。
中へ入っていっても誰も反応しない。
あのリビングへ行ってみると、食卓のところで三匹の化け物が突っ伏した状態だったり、椅子から転げ落ちた状態で死んでいた。
明かりをつけてみると、その化け物の顔形がよくわかった。その化け物の肌は墨を塗ったかのように黒ずんでおり、ぽかんと開けた口からは針のように鋭い牙が見えた。顔は醜く、猿の顔に豚の鼻をつけたような顔だった。
それから警察に電話をした。
それからのひと騒ぎは全くこの小説の趣旨とは異なるものであり、また書くほどのことでもないので省略する。ただ、僕らに一切嫌疑はかからなかったこと、御坂先輩の両親は失踪という扱いになったことだけは伝えておこう。
僕らは事が一通りおさまるとまた僕の家に帰っていった。
御坂先輩は僕の部屋に入ると、部屋の中にいたディックさんに出てもらうようにお願いしていた。
「片山君、あのすべてが終わったら教えるって言っていたことなんだけど」
「ああそうですよ!教えてください、あれはどういうことなんですか?」
「だから敬語じゃなくていいのに」
「あ、そうだった」
「で、なんで秘密にしていたかなんだけど、ほら戦場に行く前にさ約束事を果たしちゃったりとかなんか願いが叶っちゃったりするとさ、もういいやってなって死んだりすることってあるじゃない?」
「はい」
「だから秘密してたんだけど。まあ、全部終わったってことで今から言うね。あのさ、前に片山君さ私に告白したけどさ、その時断ったじゃない?」
「……はい」
「でもあれは、うちの親にあなたを近づけたくなくてそう言っただけで、今はそうじゃなくなったし、それなら答えをもう一回考え直す必要っていうのもあるわけじゃない」
「はい、その通りだと思います」
「というわけで考え直したんだけど」
御坂先輩は一回下を向いた。それから少しだけ顔をあげていった。
「いいよ」
○
僕は待ち合わせ場所の駅前をうろうろと歩いていた。この日は初めての御坂先輩とのデートだった。
このデートに行く前日は服がどうのこうのと考えたり、どういうことをするかということばかりを考えていて二時近くまで起きていた。それにもかかわらず朝には六時に起きてやはりデートでは何をするのかをずっと考えていたり、予定を見直していたりした。
駅前に来たのは集合時間の一時間前であった。御坂先輩は当然いなかった。
そしてこれはまったく僕の失態だったのだけれど、駅前としか言わなかったから、駅前という広大な空間のどこに御坂先輩が来るのかちっとも見当がつかないでいるのだ。
それだからこうしてずっとうろうろして、御坂先輩をなるべく早く見つけられるようにしているのだった。
「治君」
後ろから声が聞こえた。これは聞き間違いではなく、御坂先輩の声だった。
振り向くとそこには御坂先輩が立っていた。
「奈緒」
僕は言った。
そして御坂先輩へと歩み寄った。
「行こう」
そういって御坂先輩は僕の手を取った。その手を僕は握り返した。
そして二人して駅から出て行った。
そうして僕はディックさんが朝の仕事を終えて案とやらを伝えに来るのを待っていた。
すると、チャイムが鳴る音が聞こえた。それでも気にせず僕は寝ていた。
玄関の開く音がする。
しばらくして、母の声が聞こえた。
「治、部活の先輩だっていう人が来たけど」
僕はそれを聞いた途端、布団を跳ね飛ばし、下へと降りていった。
玄関にいたのは御坂先輩だった。学生服姿ではなく、私服姿だった。
「片山君」
「先輩」
「昨日、無事だったんだね」
「はい。先輩がいろいろ教えてくれていたおかげで」
「ちょっと話せる?」
「はい」
「治、お腹痛いんじゃないの?」
母が訊いた。
「今はそんな場合じゃないからいい」
「あ、仮病使ったね」
「いや、お腹が痛いのは本当なんだけど、いいじゃん別に!」
僕は笑ってごまかしながら、上に行った。そして学生カバンをもって御坂先輩と外に出ようとした。
「何やってるの、片山君?今日は休日でしょ」
「え、ああそうでしたっけ」
「そうだよ。だからこうして遊びに来たっていうのに」
母がこっちを見ている。にやけた表情をしている。
「違う、ただの部活の先輩」
「ふふーん」
母が笑っているのが気に食わなかった。それと何とも気恥ずかしくって、僕は御坂先輩を連れて部屋へ引っ込んだ。
母親がついてきていないか確認して、部屋のドアを閉めた。
「先輩、今日って本当に休日でしたっけ?」
「休日だよ?」
「そうでしたか」
僕は床に座った。それに伴い、御坂先輩も座った。
「昨日は本当にごめんなさい」
御坂先輩が謝った。
「昨日もそうでしたけど、御坂先輩はいったい何を謝っているんですか?」
「そのことも含めて、話をしようと思う。信じられないような話もあるかもしれないけど、とりあえず何も聞かずにまずは聞いて」
「わかりました」
「えっとね、私のお母さんが死んだっていう話は聞いたっていうけど、私のお父さんが死んだっていう話までは聞いてないよね」
「はい」
僕はあの父親すら御坂先輩の本当の親ではないということを知って驚いた。
「じゃあそこから。私のお父さんが死んで、死んだのは交通事故でだったんだけど、それで私はお母さんと二人で暮らしてたのね。それでお母さんが再婚したのがあの男だったの。あいつはお母さんに色目ばっか使ってすっかりお母さんをだましてしまったけれど、あいつは私の家に踏み入る資格さえない、本当の下衆野郎だった。私はあいつ出会った時から嫌いだった。なんとなく、人のことを人として見ていないみたいな感じがして。
それであの父親が家に来てから、あいつはお母さんも私もさんざんいじめるようになった。気に入らないことがあるといつも私を殴ったりした。跡が見えづらいように体のほうを殴るなんて言うのは当たり前だった。それからお母さんにも、あれができていないとかこれは違うとか言って、さんざんお母さんのことを否定したり、ののしったりしていじめた。そんなことをしていたらお母さん、だんだん元気がなくなっていっちゃって。いつの間にか肺炎で寝込んだかと思ったら、死んじゃった。
あいつ、お母さんが死んで悲しむとかしなかった。それどころかすぐに別の女を呼び込んで、結婚して。それであの女、子供もつれていて。それがあの、居間の母親と淳平ってやつ。
それからはもう、本当にひどい生活だった。家族のだれも私と血がつながっていないし、誰もが私のことを居候とか邪魔者みたいに扱った。殴るけるなんて言うのはやっぱり亡くならなかったし、ろくなことがなかった。
でも本当に恐ろしいのはここからなの。あいつらがただの血も涙もない冷血漢だとかだったらどれほどよかったかしれない。
私もね、中学生になってからは夜更かしとかも、し始めるようになったの。そうしたら、お父さんとかお母さん、さらには小さい淳平までもが夜中に歩き回っている足音を聞いたの。それは深夜二時くらいのことだったし、淳平なんてその時、まだ八歳だったの。それで足音は皆一階へ降りて行って、玄関から出ていくの。
こんな夜に何をしているんだろうって思って寝床を見たりするとやっぱり誰もいなくて、何かしているんだっていうことが分かった。でもその時はまだ何をしているのかなんてわからなかった。
それから私は本当に何も知らなくて、友達を家に招き入れたことがあったの。今思い出しても、本当に後悔するようなことだった。私があの時、みんなをまねきれさえしなければよかったのに。
もうあらかじめ言ってしまうけれど、あいつは夜中に女を襲って、そいつに子供をはらませるの。その被害に私の友達皆があってしまった。
でもやっぱりその時の私は何も知らなくて、変な噂が立っても不本意だとしか思わなかったんだけど。
それでも私はそのうち漸く、すべてを知ることができた。私はあいつらは夜に出て何をしているのかを知りたくて何とかして調べようとした。
あいつらが帰るのは日が昇る直前ぐらいなんだけど、私はある時、あいつらが帰った時に何か話すのを聞こうとしたの。そこであいつらが集まるであろう、リビングのクローゼットのところに隠れていることにしたの。
そうしたら、その時に全部を聴くことができた。あの男が夜に女を襲っていることも知ったし、あの女が男を襲って精を奪って命をすり減らしていることも。淳平も同じように女を襲っていたみたいだった。それでもう一つ、恐ろしいことを聞いた。私を生かしておいてあるのは淳平に初めての獲物として与えるためであって、淳平は精通が来るまで待っているということだった。
その時から私はずっと、死ぬこととか淳平に襲われることしか考えられなかった。民俗学研究部に入っていろいろと調べたりとかしてみたけれど、助けになるような手段は一つも見つからなかった。
そんな時に君が現れた。妖精にあったとかいうし、あいつらみたいな化け物にも強いのかと思ったりもした。でも相談しようか本当に迷った。片山君に問いただされた時、つい変なことも行っちゃったけど、やっぱりあれも助けてもらいたかったからかもしれないし。
それでもいざぐいぐいと来られると恐ろしくなってきちゃって、片山君が殺されたらどうしようとか思って必死に隠そうとした。
でも結局片山君は家に来ちゃったし、そのうえあの女に襲われたはずなのに生きている。ねえ訊きたいんだけど、どうやってあの女を追い払うことができたの?」
「いやまあ、僕じゃなくて、ディックさんと千代さんが助けてくれたんですけど」
「だれなの、その二人?」
「えー、ちょっと呼んできます」
僕は部屋を出て二人を呼ぼうとした。すると部屋のすぐ外に二人はいた。母親もいる。
僕は母親を追い払うと、ディックさんと千代さんを部屋にいれた。
部屋に入ってきた二人を見て、御坂先輩は驚いたようだった。
「ああ、この方がディックさん。うちで働いてくれている妖精です。で、この犬っていうと怒るんですけど千代さんです」
「うん……」
「お初にお目にかかります、ディックと申します」
「あ、御坂奈緒と言います」
「ええまあ、このディックさんと千代さんとがいたおかげで、僕は助かったんです」
「そう、なんだ」
僕はあの夜に起こったことを説明した。
「僕の方はこんな感じでしたけど、先輩はどうして、逃げ出してこられたんですか?」
「ああ、夜になったらあいつらみんな出て行っちゃったの。それだから家には私一人しかいなかったし、逃げ出してこられた」
「ふむ、しかしそれだけだとわかりかねますな。どうして昨日の夜に限って逃げ出そうと考えたのです?あなたの言うところによれば、あやつらは毎日のように夜は家を空けていたはず。それならばいつだって逃げ出すこともできたでしょうに」
「それは、逃げてもどうしようもなかったからなんです。どこへ逃げたって、誰かが助けてくれるわけでもないし、そのまま生活しているわけでもないですし。でもあの時は片山君がいてくれましたので」
その言葉を聞くと、僕は胸のほうがじんと温かくなるのを感じた。
「しかし、片山様は殺されていたかもしれませんよ?あなたは私や千代様がおられることをご損じなかったはずです。さすれば片山様が一人であの化け物を退治できるものとお思いになったのでしょうか」
「いえ、そういうわけではないんです。片山君がいたからっていうのは、片山君に最後に会いたかったからなんです。もう淳平も大分成長していましたし、私の身はもう破滅寸前でした。もう頼るとするなら片山君しかいませんでした。片山君でだめなら、私はもう死ぬよりほかないと考えていました。それからもう一つ、もし死んでしまっていたとしたらの話なんですけど、その時は片山君に謝っておきたかったんです。むしろ、それが一番でした。片山君は死ぬだろうと思っていたので。だから朝早く、誰も片山君をどこかへ運び去らないうちに来たんです。そのつもりで来たのに普通に片山君が下りてきたからその時は本当に驚いたけど」
御坂先輩は僕に向けていった。
「なるほど、そういうわけでございましたか。御坂さんにはぜひともお礼を申し上げなければなりません。もし御坂さんご自身であの家を脱出なされなかったならば、我々はどうあっても死ぬ運命にございましたから。実に思ってもみなかった幸運でございます」
「え?そうだったんですか、ディックさん」
「はい、恐れながら今ここで告白させていただきますが、昨夜のうちに妙案はどうしても出てこず、私はそのことを治様にお伝えするつもりでありました。そしてまた、治様はそれを聞かれるや、あの家へ突撃していくことと思いいたしており、今日でわが命運も尽きたものと覚悟していた次第でございます」
「何か、すいませんでしたディックさん。ずいぶん心配をかけてしまっていたんですね」
「お気になさることはございません。これも仕事のうちですので」
これまでは不安から解き放たれた解放感と、御坂先輩を救えたという感慨を味わっていた。しかしこれからまだやることが残っている。そろそろそのことも考えなければいけなかった。
「あの、これからあの化け物たちをどうするかなんですけど」
「あのさ、片山君」
「はい?」
「最後になるかもしれないし、ちょっとやり直したいことっていうか、訂正したいことがあるんだけど」
「何ですか?」
「まず敬語やめて」
「なんでですか?」
「いいからやめる」
唐突に下された指示の意味が僕にはまるで分らなかった。
「ああ、なん、で?」
先輩を相手に敬語を使わないでいると、たまらなく言いづらかった。敬意を表していないようで、なんだかルール違反をしているようなひやひやした気持ちになった。
「なんでかっていうとね、あ」
「なんです、なに?」
「やっぱ何もかも終わってからにするね」
「え?なんで?」
「うんとね、じゃあ知りたかったら二人とも生きてることだね」
「いま言ってくださいよ」
「敬語は駄目」
「あ」
「それよりもあの化け物どもをどうするかだけど」
「ああ、はい」
僕はとうとう聞くことをあきらめた。多分、僕が生きていて、御坂先輩も生きていて、ことがすべて終わらないと何も聞けないだろう。
「では私に妙案がございます。こうなされば、必ずやかの化け物どもらを退治できることに相違ないでしょう」
「それはいったい、どんな方法なんでしょうか?」
「私はある毒の粉を知っております。これをほんの少量でも飲み物なり食べ物なりに振りかけ、それを飲み食いしたものは確実に死んでしまうという代物でございます。やや遅効性なのですが、全員に気取られずに毒を飲んでもらうためにはちょうどいいでしょう。この毒は人間界には存在しないものでございますから、万が一肢体の解剖などがございましたところで、一向に差し支えがございません。なぜと言って毒は物質ではなく、魂への毒であるから、化学などでは到底見つかるものではないからです。
きゃつら化け物は必ず、夜なかに我々を襲撃するでしょう。その時には家を空けてしまうに相違ありません。全精力を傾けて襲撃すべき、大事な時ですからな。さすれば家への侵入は容易になりましょう。もし万が一残っていたところで、一人ぐらいならば殺すこともできましょう。二人以上ならば逃げるよりほかにありませんが。そして我々は空っぽであろう家に侵入するのです。侵入するのには御坂さんの持っている鍵を使えばよろしい。御坂さん、鍵は持っていますよね?」
「はい」
「ではそのカギで侵入しますればあとは飲み物などに毒を仕込むだけでございます。あとは勝手にきゃつらの死体が転がっているという寸法です。差し当たって、今日の夜には私のみで行くことにします。この小さな体を駆使してきゃつらの家の庭に隠れこみ、きゃつらが出発したとみるや毒を盛りに行く次第です。ほかの皆様方は家に折られるままですと危険でございますから、わたくしの友人の住みかに案内しますので、そこでお待ちくだされ」
「わかりました。千代さんもつれていきますか?一人でおいておくと、あの化け物も千代さんを恨んでいることでしょうし、危ないと思うんです」
「私も同意見でございます。千代様をお連れいたしましょう」
そして僕らは夜の十時ぐらいになると、家を出た。ディックさんについていくと、廃屋に案内された。その廃屋は元病院であると思われるものだった。
ディックさんは立ち入り禁止と書いてあるにもかかわらず廃屋へ入っていってしまった。
「ディックさん、ここは何か出たりとかはしませんよね?」
僕は中へは入らず、外からディックさんに尋ねた。
「存じ上げません。しかし今はここよりほかに安全なところはございますまいでしょう」
ここにいたら命は助かっても、悪霊に取りつかれてしまいそうな気がした。しかしディックさんが好意でここへ案内してくれたということもあって、そんなことは言えなかった。御坂先輩も何も言わなかった。
中へ入っていくと、中は割ときれいだった。案外、過ごすには快適であるように思われた。
ディックさんはそして中で誰かの名前を呼んだ。すると一人の赤い帽子をかぶった妖精が現れた。その妖精は老人のようなしわくちゃな顔をしていた。
「ディック。どうしてきた。しかも人間に加えて犬まで」
千代さんがうなった。犬扱いされたことに怒っているのだ。
「千代様、落ち着いてくださいませ。あまりことをこじらせてはならないのですから。ミヒャエル、彼らをここにおいてほしい。彼らの人品については私が補償する。二人とも私のようなものにも敬意を払う大変良いお方で、ここでもまず粗相をすることはない。あの千代様にしても前世は人間であり、その記憶をお持ちであるから、大層物わかりの良い方だ」
「まあ、おまえがそこまで言うなら構わないが、しかしただ置いておくと言ったっていろいろとあるんだぜ?第一、こんなところに人間がいて万が一見つかったりでもしたらいろいろとうるさくなることもあるしな。そうしたら夜なのに俺は眠れず、大変な迷惑になる」
「わかっている。お前に迷惑をかけてしまうのは重々承知だ。だから今回のことは千円で引き受けてはくれないだろうか?」
「五千円だ」
「三千円」
「手を打とう」
ディックさんとミヒャエルさんは握手をした。
「それでは治様、私はこれからきゃつらの庭へと行ってまいりまする。ミヒャエル、くれぐれもお二方をよろしく頼んだぞ」
「おう」
ディックさんはそして廃屋を出て行ってしまった。
それから僕らはミヒャエルさんに一つの部屋に連れていかれた。そこはもともとは病室として使われていたものと思われた。布団などは特になく、床に座って過ごすことになった。
部屋はもともとミヒャエルさんの者らしく、ミヒャエルさんは床に腰を下ろした。僕らも腰を下ろした。
「ミヒャエルさん」
「何だね?」
「ここって、幽霊は出ますか?」
「当り前だ。病院で死んだやつがたくさんいる。まあ気にすることはない。ここには妖精もたくさんいるが、今までだれ一人として幽霊にひどい目にあわされたやつはいないやね」
「そうですか……」
僕らはそれから、何事も話すことなかった。しかし全員が全員起きていて、ディックさんの帰りを待っていた。
そして三時半になったころ、ディックさんが部屋へと戻ってきた。
ミヒャエルさんがもうすでに寝ていたので、僕らは無言で笑顔をかわすだけにしておいた。月の銀色の光に照らされたディックさんの笑みに僕は感動の気持ちさえをも感じた。
それから僕らは皆で僕の家に帰った。
翌日は土曜日だったので、僕と御坂先輩と千代さんとで家に行ってチャイムを押した。押したときには化け物がドアの隙間から腕を出してきて僕らを引きずり込むのではないかという想像にさいなまれた。
しかし誰も玄関まで来る様子がなかった。僕らはそれを確認すると御坂先輩のカギで家のドアを開けた。
中へ入っていっても誰も反応しない。
あのリビングへ行ってみると、食卓のところで三匹の化け物が突っ伏した状態だったり、椅子から転げ落ちた状態で死んでいた。
明かりをつけてみると、その化け物の顔形がよくわかった。その化け物の肌は墨を塗ったかのように黒ずんでおり、ぽかんと開けた口からは針のように鋭い牙が見えた。顔は醜く、猿の顔に豚の鼻をつけたような顔だった。
それから警察に電話をした。
それからのひと騒ぎは全くこの小説の趣旨とは異なるものであり、また書くほどのことでもないので省略する。ただ、僕らに一切嫌疑はかからなかったこと、御坂先輩の両親は失踪という扱いになったことだけは伝えておこう。
僕らは事が一通りおさまるとまた僕の家に帰っていった。
御坂先輩は僕の部屋に入ると、部屋の中にいたディックさんに出てもらうようにお願いしていた。
「片山君、あのすべてが終わったら教えるって言っていたことなんだけど」
「ああそうですよ!教えてください、あれはどういうことなんですか?」
「だから敬語じゃなくていいのに」
「あ、そうだった」
「で、なんで秘密にしていたかなんだけど、ほら戦場に行く前にさ約束事を果たしちゃったりとかなんか願いが叶っちゃったりするとさ、もういいやってなって死んだりすることってあるじゃない?」
「はい」
「だから秘密してたんだけど。まあ、全部終わったってことで今から言うね。あのさ、前に片山君さ私に告白したけどさ、その時断ったじゃない?」
「……はい」
「でもあれは、うちの親にあなたを近づけたくなくてそう言っただけで、今はそうじゃなくなったし、それなら答えをもう一回考え直す必要っていうのもあるわけじゃない」
「はい、その通りだと思います」
「というわけで考え直したんだけど」
御坂先輩は一回下を向いた。それから少しだけ顔をあげていった。
「いいよ」
○
僕は待ち合わせ場所の駅前をうろうろと歩いていた。この日は初めての御坂先輩とのデートだった。
このデートに行く前日は服がどうのこうのと考えたり、どういうことをするかということばかりを考えていて二時近くまで起きていた。それにもかかわらず朝には六時に起きてやはりデートでは何をするのかをずっと考えていたり、予定を見直していたりした。
駅前に来たのは集合時間の一時間前であった。御坂先輩は当然いなかった。
そしてこれはまったく僕の失態だったのだけれど、駅前としか言わなかったから、駅前という広大な空間のどこに御坂先輩が来るのかちっとも見当がつかないでいるのだ。
それだからこうしてずっとうろうろして、御坂先輩をなるべく早く見つけられるようにしているのだった。
「治君」
後ろから声が聞こえた。これは聞き間違いではなく、御坂先輩の声だった。
振り向くとそこには御坂先輩が立っていた。
「奈緒」
僕は言った。
そして御坂先輩へと歩み寄った。
「行こう」
そういって御坂先輩は僕の手を取った。その手を僕は握り返した。
そして二人して駅から出て行った。
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