魔女のCafe

ちゃんゆー

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第1部 弟子入り編

落ちこぼれの弟子入り

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今から数百年程前、「魔女裁判」が世界中で行われていた。

魔女の疑惑がかけられたものは全員理不尽な裁判にかけられ火あぶりにされていった。
中には魔法も使えなければ戦う力すら持っていない弱い女性たちも免罪で次々に殺されていった。
抵抗もできない女性たちを、なにも罪の無い女性たちを惨殺していたのだ。

そんな理不尽な世の中に終止符を打ったのは、本物の力を持った7人の魔女たちだった。
後に後世で語り継がれていく「魔女戦争」である。
強大な力を持った7人の魔女たちは被害に遭った人々を助け、元凶を打ち砕いていった。

そんな歴史の背景もあり、現在魔女という存在は平和の象徴として讃えられており、今では魔女を目指す女性も少なくない。

各地にある魔法の学園では、魔女になりたいと夢を抱えた少女たちや、賢者を目指す少年たちが今日も勉学に励んでいた。





ここはとある森林に囲まれた場所にある町、ラクライール。

森林に囲まれたその街並みの風景はとても美しく、住むにはとても快適な場所だ。
この町にも魔法学園はあり、町の子供たちは将来のために日々魔法の勉学に励んでいた。

「はい、今日の座学はここまで、次は実習授業だから遅れずに演習場に行くように」

先生の言葉に、生徒たちは各自準備をして教室を出て行く。

「準備はこれでよし!」

他の生徒たちに続いてこの学園の生徒の1人であるモニカ・レンブルは教室を出て演習場に向かった。
演習場では、すでに先生が準備を終えており、生徒が集まったのを確認して口を開いた。

「さて、今日は的に向かって魔法を撃つ練習をしてもらう」

そう言って先生は的を指差した。

「使う魔法はなんでもいい、堅実に基本魔法を練習しても良し、少しレベルの高い魔法を使うのも良し、それは各自の判断に任せる」

説明を一通り終えると、先生は的から離れていった。

「準備ができたものから始めるように」

その言葉に、周りの生徒たちが個々に魔法を練習し始める。
モニカも的の前に立ち練習を始めようとした。

「おいおい、また失敗しに来たのかよお前」

そんなモニカの前にライノ・ブルックスと言う生徒が1人声をかけてきた。

「ライノ…」

「いい加減諦めろよ、お前に魔法の才能なんかないんだって」

「そんなの、まだわからないじゃない…」

「それ前にも聞いたって、入学してから成長してないのによくもまぁ諦めずに頑張れるもんだな!」

ライノはそう言って笑った、モニカは悔しそうな表情を浮かべて、的に向き直る。

(今日こそ成功させてみせる!)

モニカは杖を構えて火球を頭の中に思い浮かべる。

(よし、イメージはバッチリ!)

杖の先から赤い光が輝きはじめる。

「ファイアーボール!」

モニカの杖から火球が放たれる!
…はずだった。
ボンっ!と大きい音を立てて杖の先が爆発した。火球が当たるはずの的は綺麗なままだった。

「けほっけほっ…!」

モニカは爆発の煙と焦げ臭い匂いで咳き込んだ、そんな姿を見てライノとその周りにいる生徒が笑った。

「ほらな、やっぱり無理じゃないか!」

「う、うるさい!」

ライノの言葉にモニカは反論するも、笑いが止むことはなかった。

「こんな初歩的な魔法も使えないとか、お前才能なさすぎるだろ」

そう言ってライノは杖を的に向ける。

「ファイアーボールはこうやって使うんだよ!」

そう言うと、ライノの杖からいくつもの火球が的めがけて飛んでいった。
モニカが壊すはずだった的はライノの魔法によって粉々に砕けた。

「あ、私の的が…」

「お前の的ってなんだよ、どうせなにも当たらないくせに」

ライノは相変わらず笑いながらその場から離れていった。
モニカはそんなライノたちの背中を見て、なにも言えずただ俯くことしか出来なかった。



授業も終わり、モニカは肩を落として帰路についていた。

「結局、今日も上手く魔法が使えなかったな…」

入学当初から全く上達しない自分に嫌気が差していた。
周りのみんなはいろんな魔法を次々に覚えている、全くなにも使えないのは自分1人だけだった。
魔法の上達には個人差があるなんて話を聞いてはいたが、ここまで酷いと本当に才能がないとしか思えなくなってくる。
この学園に来てもう1年が経とうとしているのにも関わらずだ。

「向いてないのかな、私…」

泣きそうになるのを堪えながら歩いていた。

「わぶっ!?」

そんなモニカの顔に一枚の紙が飛んできた。

「もう、なんなの!?」

苛立ちを露わにして、モニカはその紙を顔から引き剥がす。
なんとなくその飛んできた紙に目を向ける。
そこには、美味しそうな料理がたくさん並んでいた。
それを見てモニカは大きくため息をついた。

「いっそのこと料理人にでもなろうかな…」

半ば諦めた感じで呟きつつ、その紙を読み進める。
それにしても美味しそうなチラシで、料理もすごく食欲をそそる雰囲気が出ている。チラシを見てるだけで涎が出てきそうなほど…。

「魔女のCafe…?」

店の名前はタイミングがいいのか悪いのか、名前に魔女と入っているCafeだった。

「落ち込んでる側から魔女って…」

モニカはため息をつきつつも、その料理が気になって仕方なかった。

「行ったらなにか気持ちも変わるかも…」

なにも根拠のない気持ちから、なんとなく行ってみようとチラシの場所に向かってモニカは歩き出した。



魔女のCafeは森の奥に位置していた。
授業後ということもありあたりは暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。

「こんなところにあるのかな?」

書いてある場所に向かって歩いてはいるものの一向にそれらしい建物は見当たらない。

「うぅー、お店はどこなのー?」

木々のざわめきが魔物の呻き声に聞こえてきて気が気じゃなくなってきた。
早足で歩くこと数分、やっと一つの建物を見つけた。

「あ、あそこかな!?」

モニカはその建物に向かって走っていった。
お店の前に着くと中から良い匂いが漂ってきた、お店の雰囲気もどこか絵本に出てくるようなデザインのお店だった。

「可愛いお店、入ってみよう」

モニカはお店の扉をゆっくりと開く。
…。
中はまだ誰もいなかった。時間を見る限りでは丁度開店するタイミング、まだそんなに人が来る時間でもないのかもしれない。

「すいません、誰かいますか?」

モニカはお店の奥に向かって声をかける。
人が出てくる気配はない。

「あれ、今日はお休みなのかな?すいませーん!」

モニカはさっきよりも大きい声で店の奥に向かって声をかけてみるが、やはり誰も出てこない。

「んー、誰もいないのかな…」

全く今日はついてない日だと思いながらモニカは肩を落とした。
その瞬間、店の奥から目にも止まらぬ閃光がモニカの頬すれすれを飛んでいった。

「…っ!?」

何が起きたかわからなかったが、閃光が飛んで言った方に目をやると、1匹の鳥を貫いて壁に刺さっていた。
パニック状態のモニカは何事かと思考を巡らせてあたふたしていた、すると奥から1人の女性が出てきた。

「まったく、食材が逃げるんじゃないよ、もう開店時間になっちゃったじゃない」

奥から出てきた女性はとてもスタイルの良い女性だった。
その女性は固まってるモニカを見て、焦った様子で厨房から出てきた。

「お、お客さん!?ごめんごめん、まさかいるとは思ってなくて、怪我はない!?」

「あ、えと、あの大丈夫です」

呆気に取られてたモニカだったが、女性の声にだんだんと冷静さを取り戻していった。

「あの、ここって、カフェなんですか?」

「え、あ、そうだよ!食べにきてくれたんだよね?」

女性は申し訳なさそうな顔をしつつ、席に誘導してくれた。

「ごめんね、あんなことしちゃったわけだし今日はサービスしとくよ!」

その女性はそう言って厨房の中に消えていった。

モニカは待ってる間、なんとなく店の中を見渡していた。
店の中のインテリアはどれも魔女を連想させるものが多く配置されていた。
儀式に使う鏡や鍋、ザ・魔女って雰囲気の先が渦巻状になっている杖や、宝石など…。
でも暗い雰囲気はなく、それらが面白おかしく配置されていて、見ているだけでも楽しい気分になった。

「お待たせ、とりあえず適当に作っちゃったけど味は保証するから!」

なんだかんだで食事ができたようだ。
目の前に出てきたのは綺麗に盛り付けされた肉料理とパンだった。

「お、おいしそう…」

「でしょ!見た目だけじゃないから食べてみて!」

モニカは催促されるがままに料理を口に運ぶ。

「…!」

今まで食べてきたどんな料理をも凌駕する味だった。
とんでもなく美味しい料理だ。

「どう?」

女性はニコニコと笑いながら聞いてくる。

「すごく、すごく美味しいです!こんな料理を食べたのははじめてです!!」

モニカは我を忘れて一口、また一口と料理を口に運ぶ。

「いやー、いい食べっぷりだね、作った甲斐があったよ」

女性は笑って、私の向かいの席に座った。

「開店したのはいいけどまだ客足がそんなになくてね、チラシ作ったりして頑張ってるのよ」

「そうなんですね、でもこの味を知ったらみんなくると思います」

「そう言ってくれるとありがたいね、嬉しいよ」

女性はまた笑って、食べているモニカの姿を見ていた。

「でもお料理といいさっきの魔法といい、すごく腕がいいんですね、びっくりしました」

「あはは、料理もそうだけど魔法のセンスも私はそれなりにあるからね、じゃなきゃ魔女のCafeなんて名前の店にはしないよ」

その言葉でモニカはハッとなる。
そうだ、料理もだけどお店の名前も気になってここの来たのだ。

「あの、もしかして魔女なんですか?」

モニカは恐る恐る尋ねてみる。

「そうよ、私は魔女だよ」

女性はあっけらかんとした態度で答えた。
その様子に妙に気の抜けたモニカだったが、言葉を続けた。

「どうして、あんなに強い魔法が使えるようになるんですか?」

「んー、なんでかしら、私は物心ついた時には結構使えてたからあんまり意識はしてないかな」

「…。」

モニカはその言葉に押し黙る。

「あれ、もしかしてなんかまずいこと言った?」

「い、いえ、羨ましいなと思いまして…」

「羨ましい?なにが?」

女性は首を傾げてモニカの顔を覗き込む。
モニカは、才能という言葉が頭の中を駆け巡っていた。
凡人はやはり努力しても報われないのかと…。
でもどうしてもモニカは夢を諦めきれなかった。
モニカは意を決したように立ち上がり、口を開く。

「あの!私を弟子にしていただけないですか!?」

「は、え…?」

女性は相当面食らったようで、開いた口が塞がらなかった。

「私、全然魔法が使えるようにならないんです。でもどうしても魔女になりたくて…」

「…。」

「お願いします、私を弟子にしてください!」

モニカは深々と頭を下げる。
少しの間沈黙が続いた、その沈黙を破ったのは女性の方だった。

「いや、別に弟子はとってないから無理」

「え…」

女性はすくっと立ち上がり、踵を返す。

「え、あの!」

モニカは慌てて女性についていく。

「お店のこともなんでも手伝います!だから、私を…!」

「無理なものは無理、それに魔法使えるようにならないって、単純に向いてないんじゃないの?」

その言葉にモニカの足が止まる。
向いてない、その言葉がモニカの胸に深く突き刺さった。

「魔女になるのが夢なのかは知らないけど、人には向き不向きがあるんだし別の道を探したら?」

そんなモニカには目もくれず淡々と話す女性。

「逆に諦めずに突き進む方が時間の無駄だと思うけど、そんなことする暇があったら別のことして親孝行でもしたら?」

女性の言葉にモニカはゆっくり口を開く。

「親は、昔に亡くなってて、いないです」

「あらそうなの?それはごめんね」

女性は相変わらず声のトーンを変えずに言葉を返した。なんとも冷たいあしらい方だった。
モニカは俯いたまま顔を上げず、泣きそうになるのを必死に堪えて踵を返した。

やっぱり自分はどこにいっても落ちこぼれのままなんだ、そう思いつつ出口に向かって歩いていった…

「ちょっと待って」

後ろから声がした。
呼び止めたのはその女性だった。

「な、なんですか?」

モニカは泣きそうだった顔を必死に隠して返事を返した。

「その腕輪ってなに?」

「え?」

女性はモニカの両腕に一つずつ付いてる腕輪を指差した。

「この腕輪ですか?」

「そう」

「えと、あの、両親の形見の腕輪です」

「ふーん、なんで両腕に?」

「あ、なんかこうやってつけるとお守りになるみたいで…」

私の説明には対して興味ないようだが、腕輪をじっと見つめていた。
女性は何かを考え込んでいたようだが、少しして私の腕を引き寄せた。

「え?あの?」

「…。」

「どうしたんですか?」

「…。」

私の問いかけに応答せず、じっとその腕輪を見つめて何か考えているようだった。
訳もわからずモニカはされるがままに腕を引かれたままだった。

やがて女性はモニカの手を離し、口を開いた。

「わかった、あんたを弟子にするわ」

ということでモニカはその女性の弟子になることになった。
…。

「えぇええ!?急にあの、なんでですか!?」

ナレーションはともかく、モニカは驚き女性に詰め寄る。

「鬱陶しいわね、気が変わったのよ」

「でも、あんなに拒絶してたのに…」

「気まぐれなのよ私は」

「き、気まぐれって…」

その答えにモニカはまた気が抜けてしまいその場にへたり込んだ。
それを見て女性は訝しげな表情でモニカの顔を覗き込む。

「なに?嬉しくないの?」

「い、いえ、嬉しいですけど…」

前後の事情もあり、素直に喜べないモニカだった。

「まぁとにかく、弟子になるからにはこのお店の手伝いとかもしてね」

そんなことには気にもかけないようにマイペースなその女性は訝しげな表情とは打って変わり、にこっと笑った。

「私の名前はイリア、イリア・クラスティア、よろしくね」

モニカはその名前を聞いてギョッとなる。

「え、あ、えぁ?」

とてつもなく間抜けな声を出した。

「なに?なんか変だった?」

相変わらずもマイペースなイリア。

「え、あの、イリア・クラスティアって、あの7人の魔女の、ですか?」

「あー、そんな風に言われてたねそういえば」

「イリアさんって、あの『雷閃の魔女』って呼ばれてる…」

「そうそう、なんか胡散臭いからその二つ名みたいなの気に食わないんだけどね」

「…。」

「ん?」

「えええええええぇえ!?!?」

多分、この日が今まで生きてきた中で一番大きな声が出た一瞬であろうモニカであった。



兎にも角にも、無事(?)モニカは伝説の7人の魔女の1人、『雷閃の魔女』イリアに弟子入りを果たすことができた。
この一件から、モニカの人生は大きい運命に巻き込まれていくことになる。
それはまだまだ先の話になるが、モニカの運命の物語はここからはじまったのである。
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