魔女のCafe

ちゃんゆー

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第2部 魔女裁判編

1通の手紙

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あの出来事から1ヶ月が経ち、今は何事もなくモニカたちは平和な毎日を送っていた。
ある程度落ち着いた日々を送っているため、モニカ自身も学業とカフェと修行を難なくこなしている。

学校では、以前とは違いモニカの周りにはクラスメイトが集まるようになっていた。
休み時間になればみんなと会話することも多くなったモニカは、少なからず充実感を味わっていた。

滅多に出かけることがなかった休みの日も、ライノとアリーシャと遊びに行くことも増え、2人がカフェに遊びに来ることも増えていた。
イリアとのファーストコンタクトは最悪だったライノも、今はモニカと一緒に魔法を教えてもらったりもするようになった。
一方アリーシャは料理スキルがなかなか高いこともあり、たまにお店の厨房でイリアの手伝いをしたりしていた。

少し前までは考えられなかった光景だが、イリア自身も毎日を退屈ながら楽しんでいた。

「モニカー、おはよー」

「あ、師匠!おはようございます!」

そんな毎日の繰り返しが、今日も始まると思っていた。

「師匠お寝坊さんですね!」

「なかなか起きられんかったー、もう歳だなぁ」

「数百年も生きてる人が今更何言ってるんですか」

「…間違いない」

2人は顔を見合わせて笑った。

モニカは、イリアの朝食を手際よく机に並べた。
最近は食事や休憩時の紅茶などはモニカが準備するようになった。

「んー!モニカのご飯も美味しいわねぇ!」

「えへへ、ありがとうございます」

照れ臭そうに笑うモニカを見て、イリアもつられて笑った。

「あ、そういえば、明日なんだけどさ」

「はい?」

「ちょっと材料の買い出しやらなんやらで少し遠出するから1日いないから」

「あ、そうなんですか!お店はどうしますか?」

「んー、私いないし明日は休みにしとこうか」

「わかりました!次の日の仕込みだけしておきますね」

「ん、よろしくねー」

明日は魔女のCafeはお休みになるようだ。
モニカはその休みに何をやろうかと、今からなんとなく考えていた。

その日もいつも通り何事もなく終わり、次の日になった。
朝からイリアは準備をして、早朝のうちから出かけていった。

モニカが起きると、温かい食事がテーブルに並んでいた。
どうやらイリアが作っていったみたいだ。

「師匠、忙しいのに…」

モニカはその食事の前に座り、両手を合わせた。

「いただきます」

モニカは静かな魔女のCafeの客席で黙々と朝食を食べ始めた。
イリアがいないため、喋ることもない。

静かな時間が進んでいく、聞こえてくるのは鳥のさえずりと秒針の音だけだった。

「んー、何しようかなぁ」

モニカは食事を平らげて、紅茶を飲みつつ考えていると、店の入り口の扉が開いた。

「失礼致します」

声のした方に目を向けると、そこには白いローブに実を包んだ人が数人いた。
モニカは紅茶を机の上に置き、すぐに立ち上がる。

「あ、すいません、今日は定休日でして…」

モニカはお客さんだと思って声をかけようとした。

「いや、私たちは客じゃない」

モニカの声を遮るように真ん中にいた体格の良い男性が前に出てきた。
ローブを着ているため顔はよく見えないが、低い声と喋り方からなんとなく機嫌が良くないのだとモニカは察知した。

「イリアはどこだ?」

「え?」

「どこにいる?」

どことなく敵意のある声に、モニカは一瞬怯む。
恐怖と疑問がモニカの頭をよぎる。
なぜこの人はここまで敵意を剥き出しにしているのか。

「まぁまぁ、落ち着いてくださいディーン様、怖がってるじゃないですか」

後ろにいたローブを着た数人のうちの1人がモニカとディーンと呼ばれた男の間に割って入る。

「ごめんねお嬢さん、このお方今日は少し機嫌が悪いみたいなんだ」

「え、あ、いや、大丈夫です」

しどろもどろになりながらもモニカは答えた。
そんなモニカを見つつ、その割って入ってきた男がフードを取る。
優しそうな顔で、社交性もありそうな雰囲気の若い男性だった。

「ちょっとね、イリアさんに用事があってきたんだけど、今日は留守にしてるかな?」

相変わらず優しい口調で声をかけてくる。

「はい、今日は、食材の買い出しに行ってて、1日戻らないです」

モニカはその男性の言葉に返事を返した。

「そうなんだね、わかった。それなら…」

その男性は懐から1通の手紙を取り出した。

「これをイリアさんに渡してくれないかな?」

「え、これって…」

その手紙には『中央魔導院』の文字と、このラクライールも含まれる国の首都、『クリスタルパレス』の国王の王印が押されていた。
第三者が見れないように特殊な魔法もかけられている。

「そう、重要なお手紙だから必ず渡して欲しいんだ」

「わ、わかりました」

モニカはその手紙を受け取り頷いた。

「ふん、危険を予知して逃げたか」

先程の敵意を剥き出しにしていた男性が低い声で呟く。

「き、危険って、どういうことですか?」

「何も知らないんだな」

相変わらず無愛想で敵意のある声が、モニカの耳に突き刺さる。
そんなモニカを一瞥して、その男は踵を返す。

「どちらにせよお前のような子供には関係ない、必ず渡しておくことだ」

トゲのある言葉に、モニカは少し苛立ちを感じたが、どうも穏やかな話ではないらしくそれ以上追求はしなかった。

その集団は、その手紙だけ置いてすぐに店から去っていった。
1人残されたモニカは再び席に着き、手紙をじっと見つめる。

仰々しい文字の羅列と王印、中に何が書かれているのかとても不安になる。

「大事なのかな?」

モニカは大きなため息をついた。

「師匠、早く帰ってこないかな…」

その不安を無くしたい一心で、イリアの帰りを待った。

まさか、その手紙があんな大事の発端になるとは知らずに。



「ただいまー」

夜遅い時間に、イリアはカフェに戻ってきた。
両手には大量の食材を抱えていた。

「あ、おかえりなさい」

モニカはぴょこぴょことイリアのそばに近づいて、荷物を受け取る。

「いやー、今日はいい食材がたくさん入っててさぁ、なかなか時間取られたよー」

「そうなんですね、いっぱいですね」

どことなく空返事なモニカにイリアは首を傾げる。

「なに、どしたん?なんかあった?」

「あ、えっと、今日師匠にお客さんが来たんですけど…」

「私に?」

モニカは懐から今日受け取った手紙を取り出した。
その手紙を見た瞬間、イリアの表情が強張る。

「その手紙を、持ってきたの?」

明らかに表情も声色もいつもと違うイリアを見て、やはりただ事じゃないんだと悟るモニカ。

「な、なにが、書いてあるんですかね…」

「…。」

モニカの手からその手紙を受け取り、内容に目を通すイリア。
その間は重苦しい静かな空気がカフェに漂う。


長い沈黙がモニカの心臓を締め付けるような感覚に陥らせていた。

ようやくその沈黙を破ったのはイリアだった。

「ふぅ…」

「師匠?」

モニカは心配そうにイリアの顔を覗き込む。

「大した内容じゃなかったわ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、もちろん」

イリアはいつものようにモニカに笑いかけた。

「ただ、これは少しお店を休みにしないとね、ちょっとクリスタルパレスに行かないと」

「そんなんですか」

「ええ、まぁとりあえず、お腹すいたしご飯にしようか」

結局、詳しい内容は教えてもらえなかったが、大したことじゃないと言っていたため、モニカは少し安心した。

その日の夜はいつもと同じようにイリアとモニカは一緒にご飯を食べた。
他愛ない話をしつつ笑って、くだらない話で盛り上がった。
いつもと変わらない会話もあって安心感も増した。

ただ、どことなく暗い表情になるイリアを見て、少し違和感を覚えるモニカだった。



次の日、イリアはいつもよりもしっかりとした格好で、準備をしていた。
モニカもその横について、準備を手伝っていた。

モニカはどうやら今回も留守番のようだ。

「ありがとね、準備手伝ってもらって」

「いえいえ!これくらい弟子なら当然ですよ!」

「…そうね」

またどことなく暗い表情になるイリア。

「準備はこれくらいで良さそうね」

「え?そうなんですか?」

首都に行くにしてはかなり軽装なイリアに、モニカは首を傾げた。

「荷物、少なくないですか?」

「いいのよ、荷物なんて必要ないから」

イリアがそういうならと、モニカは頷いた。

「それじゃあ、いってくるね、モニカ」

「はい!お店はしっかり掃除して綺麗にしてますね!」

「…ふふ、ありがとう」

イリアはそんなモニカを見て弱々しく笑った。
そして魔女のCafeに背を向ける。

「さようなら、モニカ」

「…?いってらっしゃい?」

なんとなくイリアの言葉に違和感を覚えたが、あまり気にせず送り出したモニカだった。

イリアの背中が見えなくなるまで、モニカは見送りを続けた。
この見送りをモニカは後悔することになる、そのことをまだ知らないモニカは、カフェの中へと戻っていった。
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