魔女のCafe

ちゃんゆー

文字の大きさ
11 / 21
第2部 魔女裁判編

偽りの真実

しおりを挟む
モニカたちの朝は早かった。

「ライノ!ゆっくりしすぎだよ!」

「いやいや!お前たちが早すぎるんだよ!」

ライノはバタバタしながらも2人の後を追いかけていた。

モニカは朝からあまり余裕のなさそうな表情で中央魔導院へと向かっていた。
そんなモニカの後ろをついていくライノとアリーシャは顔を見合わせて心配そうな顔をしてまたモニカの背中へと視線を戻した。

やがて3人は中央魔道院の大きな門の前へと着いた。

「…。」

3人はそびえ立つ大きな建物を見上げる。
仰々しい作りから威圧感を感じてなんとなく怯んでしまう。

「行こう…!」

モニカの声に頷く2人。

「どこに行くの?」

すると、モニカたちに声をかけてきた人がいた。
モニカはその声にむり向く。

「フ、フラウさん?」

そこにいたのは昨日一緒にいたフラウだった。
そして、その隣にはもう1人男の人が立っていた。その人は髪の毛は丁度真ん中で色が分かれていてどことなく不思議な雰囲気を漂わせていた。

「だ、誰??」

「わ、わからない」

ライノとアリーシャは警戒した様子でフラウと男の人を見た。

「あの、どうしてここに?」

「モニカのことだから何か良からぬことを考えてるのかなと、昨日の少しの間の行動を見てて思ってね」

「よ、よからぬことなんて、考えてないです」

「それなら、どうしてここに?」

フラウはそう言って魔導院を指差す。
モニカは何も言えずに俯いた。

「もしかして、直談判にでも行くつもりだった?」

「…。」

モニカは何も答えず押し黙る。
その様子を見てフラウはため息をつき、隣にいた男の人はおかしそうに小さく笑った。

「突き返されるだけだよ、それに、下手したら捕まるよ?」

「そんなこと!やってみないとわからないじゃないですか!」

モニカは声を荒げる。

「じっとしてなんかいられないです!私は、師匠に死んで欲しくなんかないんです!」

その必死さに、アリーシャとライノは俯いた。

「でも、モニカが捕まるのは師匠柄望んでること?」

「そ、それは…」

「少なくともそんなことは望んでないだろうね」

フラウの言葉に何も言い返す言葉がなかった。
何も言えないことと、何もできない自分に悔しさがこみ上げてきて、ギュッと握る手にさらに力がこもった。

「だからさ、やり方を少し変えようよ」

フラウの言葉にぱっと顔を上げる。

「え…?」

「ね、ソナタ」

不思議そうな顔をしているモニカを尻目に、フラウは男の人、ソナタの方を見る。

「ふふ、そうだね」

ソナタはちょこんと会釈をし、モニカたちの前にきた。

「はじめまして、僕はソナタ・レントって言います、よろしくね」

「あ、えと、私はモニカ・レンブルです」

「お、俺はライノ・ブルックス」

「私は、アリーシャ・フレデリアです」

それぞれに自己紹介する。
それを聞いてソナタはニコッと笑う。

「よろしくね3人とも、とりあえずちょっと提案の話をするね」

そういうと、ソナタは少し真面目な顔になった。

「正面から入って院長に会わせてくださいってのは確実に無理だと思う、なんなら処刑の前日でそれどころな騒ぎじゃないだろうからね」

ソナタは魔導院を指差しながら話した。

「そこで、入り口がダメならなんかなら入れるんじゃないかなと思ってね」

そう言ってソナタは怪しい顔で笑った。それをみてフラウもつられて笑った。
3人はまだ話を理解していないようだった。

「君たち、ちょっと大変だろうけどするようにしないかい?」

「ど、どうやって」

「いい質問だね、ライノくん」

ソナタはライノの頭にぽんっと手を置いた。

「裏口からの侵入経路は僕の頭に入ってるから大丈夫だよ、後は僕の指示に従ってついてきてもらえればディーンさんのところまで連れていくよ」

ソナタのセリフに驚きを隠せない3人。
そして、モニカはフラウに目を向ける。

「フラウさん、貴方たちは一体…」

「ごめん、モニカ」

フラウはモニカたちに向かって頭を下げた。

「私さ、昨日傭兵みたいなことしてるって言ったけど、あれは嘘でさ、本当は暗殺者を生業にしてたの」

「え…?」

モニカはその言葉に唖然とした。
それと同時に、ふと疑問が頭の中に浮かんできた。

「な、なんでそんな方たちが、私たちの手助けをしてくれるんですか?」

「…。」

フラウは一呼吸おいて、口を開く。

「あんなに必死なモニカを見たのにほっとけるわけないでしょ」

「え?」

「それに、暗殺者やってるから意外かもしれないけど、人を助けるのに理由なんてなんでもいいでしょ?」

「あ…」

以前モニカが2人に言ったセリフだった。

モニカはそんなフラウの言葉に泣きそうになる、どうしてもここ数日は涙腺が緩くなっていた。

「さて、感動的な会話してるところ申し訳ないけど、ちゃっちゃと済ませようか」

ソナタのセリフに、そこにいる一同は賛同した。



魔導院には出入口が2方向にある。
その出入口は見張りや検問があるため、職員以外が入っていくのはその検問を潜り抜けなければならない。
ましてやモニカたちのような子供が入れる場所ではない。一発で検問に引っかかるだろう。

「な、なぁ、出入口って2つしかないよな?あんなとこどうやって通るんだ?」

「ふふ、こっちだよ」

ソナタに誘導されて一同はその後ろをついていく。
すると、建物の脇に小さな入り口があった。
そこには見張りが1人いるのみで、後は誰もいない。出入りもあまりないようだ。

「あそこから侵入するよ」

ソナタがそこを指差す。

「どうやって?鍵とかは?」

ライノの言葉にソナタが説明を始めた。

「まず僕が先行してあの見張りを眠らせてくるよ、そしたら合図するからみんなこっちにきてね。
そしたら侵入するんだけど、そこからは僕が知ってる経路から行くから絶対僕についてくるようにね」

それだけ伝えたら、ソナタは軽い身のこなしでその見張りに近づく。
音もなく近づき、あっという間にその見張りの後ろについた。

すると、ソナタは両手を見張り頭の両サイドに掲げる。
ものの数秒で、その見張りはバタッと倒れた。
そのまま見張りを目立たない場所に移動させ、手をこちらに向かって振った。

「よし、行くよ」

フラウの言葉に、モニカたちも後に続いた。

「す、すげぇ、ぐっすり眠ってる」

「まぁね、君たちほどじゃないけど少しは魔法も使えるんだよ」

ソナタは少し得意げな顔をした。

手際良く見張りのポケットから鍵を引き抜き、難なく裏口を開けた。
長い廊下が扉を空けてすぐの空間にあった。

「さて、ここから上に行くよ」

なんとなく予想はしていた3人だったが、ソナタを見てぽかんと口を開けた。
3mほどの天井高の人が入れるサイズの通気口にひょいっと飛び乗っていた。

「み、身軽だなぁ…」

アリーシャは失笑していた。

「はい、続いていくよ」

フラウとソナタの手を借りて、3人はなんとか天井裏へと登った。
そこから先は暗い道と劣悪な足元の中進んでいった。

慣れない3人はフラウとソナタの手を借りてなんとか進んでいった。

やがて、ソナタが一室の天井上で身をかがめた。

「さて、お目当ての人がいたよ」

天井の隙間から部屋の中を覗く。
そこには、通知書に移っていた魔道院長がいた。

「じゃあ、またまた先行するからフラウはタイミング見てみんなで降りてきて」

再びソナタは音もなくするするっと部屋へと降りていった。
しばらくすると、合図があったようでフラウに誘導されて順番に部屋へと降りていった。

「なんの用だ、揃いも揃って」

低く威圧感のある声に、モニカはハッとなった。
以前カフェに手紙を持ってきた集団の中にいた人だと気づくのにはそう時間はかからなかった。

「まぁまぁ、別に暗殺しにきたわけじゃないですから」

そんな魔道院長、ディーン・グレゴリーとは正反対にソナタは柔らかい口調で話した。

「どういうことだ?」

「いやね、今回の処刑について貴方に直談判したいって子がいるから連れてきたんだよね」

そう言ってゆっくりとソナタがモニカを指を刺した。

「お前は…」

ディーンもモニカを見てカフェにいた女の子だと気付いた。

「あの、師匠、えと、イリアさんの処刑の事で…」

「…。」

モニカは深呼吸を挟んで、口を開く。

「取り下げてください」

はっきりした口調でそう伝えた。
少しの間、沈黙が部屋を埋める。

「なぜだ?」

その沈黙を破ったのはディーンだった。

「イリアさんが、あの人が人を殺すなんて絶対しません!あんな優しい人が、そんなこと…!」

「いいや、殺したんだ、間違いなくな」

モニカの言葉を遮ってディーンが口を開いた。

「お前はあの女の何を知ってるかは知らないが、その現場に血塗れの状態で立っていたんだ、これ程までに分かりやすい証拠なんかないだろう」

「そ、そんな、嘘です…!」

「いいや、嘘じゃない、私もこの目で見たからな」

ディーンはそう言って、自室の机に乗っていた写真を手に取った。

「そ、そんな…」

モニカは膝から崩れ落ちる。
フラウはそんなモニカを見かねて口を開いた。

「でも、30年越しでその判決はおかしくないですか?
昔は殺人なんて当たり前に行われていた世の中だったんですよ?それを今になってなぜ…」

「確かに、昔はそうだだったな、それなら今更裁いても仕方ない…」

「じゃあどうして…!」

「殺されたのは私のたった1人の家族である妹だ」

その言葉に、その場の全員が押し黙った。

「私怨なのはわかっている、だがな、私はあの女が、イリア・クラスティアが許せなかった」

ディーンは手元の写真を見つめて静かに語る。

「私の妹、マリアはな、イリアとは小さい時から仲が良かったのだ。
イリアも小さい頃のマリアのことをよく面倒を見てくれていた」 

話しつつも、ディーンの拳には力がこもっていく。

「そんなマリアもイリアのことを慕っていつもくっついて歩いていた、私もそれを見てあの女を信用していた、それなのにッ!」

声色にだんだんと怒気が見え始めてくる。

「あの女は、マリアを裏切って殺したのだ!それをどうやって許せと言うんだ!?」

モニカに向かってディーンはとてつもない剣幕で怒鳴った。
モニカは何も言えずに黙っていた。

「これを聞いても、お前はまだ処刑を取り下げろというのか?」

少し声色が静かになったディーンの言葉に、その場の全員が声を押し殺した。

少しの間の沈黙が、何時間にも感じた時、ポツリとモニカが口を開いた。

「わかり、ました…」

モニカの言葉にみんながモニカに目を向けた。

「話してくれて、ありがとうございます…」

顔を上げたモニカの顔をみて、ディーンは少しばかりだが驚く。
モニカの頬には大粒の涙が溢れて、それでも必死に笑顔を作ろうと必死になっていた。

「ご迷惑をお掛けして、すいません、でした」

「…。」

「事情も知らずに、失礼なこと、たくさん、言ってしまって…」

必死に話すモニカに、ディーンは静かに顔を逸らした。
モニカはゆっくりと踵を返すと、扉の方に向かっていった。

「モニカ?」

フラウは、心配そうに声をかける。

「帰りましょう、フラウさん」

顔は上げずにドアノブに手をかけた。

「待て」

ディーンがモニカを呼び止める。

「このまま出ていったらどちらにせよ捕まる、私もエントランスまでついて行こう」

ディーンの言葉に、モニカはゆっくりと頷いた。



ディーンは一同を送り届け、自室に戻った。
処刑は明日だ。やっとマリアの無念が晴らされる。
しかし、モニカのあの表情を見て、やはりイリアに対して思うことがあった。

「イリアの、弟子か…」

ディーンはもう一度写真を手に撮り、そこに映るイリアとマリアを見つめる。

「イリアよ、何故お前はマリアを殺したのだ…」

イリアに情がないわけではない、昔からの仲だからこそ、苦渋の決断をした。

最初こそ、イリアではなく他の誰かが殺したのだと、躍起になって犯人探しをしていた。
しかし、探せば探すほど、イリアしか当てはまらなくなっていった。
そして、エスタスがイリアが殺したという証拠で私は確証したのだ。
殺害に使われたナイフに、イリアの魔力がこびり付いていたからだ。

「明日で、全てが終わる…」

このことに終止符を打てると思い、ディーンはため息をついた。

だが、最後にディーンはイリアに聞きたいことがあった。
やはり、マリアを殺した動機についてがどうしても気になった。

「処刑前に、最後に話に行くか」

ディーンはそう心に決め、自室を後にした。

明日に全てが終わる、それが、偽りの真実とも知らずに。
ただゆっくりと、処刑の時間は迫ってきていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...