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第2部 魔女裁判編
最悪の審判
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クリスタルパレスの街並みは、夜に向かうにつれて明かりなどが綺麗に光っている。
街灯なども水晶で出来てるため反射して綺麗に輝いている。
しかしモニカにはそんな灯が逆に不安を煽るような怪しい灯に見えてしまっていた。
「師匠と、ラクライールに戻りたいな…」
モニカの呟きは、街の喧騒に消えていった。
そんな時、目の前を見ていなかったモニカは誰かにぶつかった。
「痛っ!」
相手の方が身長が高かったため、モニカはその場に尻餅をついた。
「ご、ごめんなさい!」
モニカはすぐに立ち上がり頭を下げた。
「いいよいいよ、そんなことより大丈夫?怪我してない?」
ぶつかった相手は自分のことよりモニカのことを気にかけてくれた。
モニカが顔をあげると、そこにはショートヘアのボーイッシュな感じの女の人がいた。
「あ、私は大丈夫です…」
「そう?それならよかった」
女の人はそう言って笑った。
「なんかボーッとしてたみたいだけど大丈夫??」
「あ、その…」
その言葉に、モニカは押し黙る。
その様子を見て、女の人は話を進めた。
「ここは都心部だしまだ安全だけど、1人で歩くのは危ないよ?」
「そ、そうなんですね…」
「それとも、何か探してたりする?」
「…。」
再びモニカは押し黙る。
「何か訳ありみたいだね?」
女の人はそう言ってモニカの顔を覗き込んだ。
モニカはちょっとびっくりして退く、その時に少し緊張が解けたのか、モニカのお腹がぐーっとなった。
何というよくわからないタイミング。
「ぷっ」
女の人は吹き出して笑った。
モニカは恥ずかしくて顔を赤らめる。
「お悩みの少女みたいだし、ここはお姉ちゃんがご飯をご馳走しようか!」
「え、そんな、会ったばかりで悪いですよ!」
「これも何かの縁でしょ?知りたいことがあれば教えるし、ついておいで」
そう言って街の中を歩き出す女の人、モニカはそれについていくように歩き出した。
2人が入ったお店は活気ある酒場だった。もちろんモニカはお酒は飲まないが、食事も充実していた。
女の人は2人でつまめるものをいくつか注文して、モニカにメニューを渡してきた。
「お腹空いてるでしょ?何でも頼んでいいよ」
「本当に、悪いですよ…」
「気にしない気にしない」
女の人はそう言って笑った。
モニカは促されるままに、パスタを注文した。それを見て女の人もステーキを注文していた。
「そういえば自己紹介がまだだったね、私の名前はフラウ・ライラット、仕事はまぁ傭兵みたいなことしてるよ」
「あ、えっと、私はモニカ・レンブルです、ラクライールから来ました」
「ラクライール、列車があるにしても長旅だったでしょ?」
「そうですね…」
モニカは力なく笑い、相槌を打った。
フラウは手元の飲み物を一口のみ、口を開く。
「なんでここにきたの?なんか理由があるんでしょ?」
「え、えっと」
モニカは口ごもるが、なんとなくフラウに対して安心感があるせいか、ぽつぽつと話し始めた。
「私の師匠、なんですけど、魔女裁判にかけられるかもしれなくて…」
「魔女裁判、あなたの師匠が?」
フラウは魔女裁判という言葉に首を傾げる。
「そもそもこんな時代に魔女裁判て、時代錯誤にも程が…」
フラウは何かを思い出し、言葉を止めた。
それにモニカは顔を上げる。
「どうしました?」
「もしかして、イリア・クラスティアのこと?」
「え!?」
モニカはその名前を聞いて、過剰反応する。
それを見てフラウも理解したようだった。
「し、知ってますか!?魔女裁判のこと!」
「そうだね、確か魔導院がやるって通知してた」
「そんな…」
モニカはその言葉を聞いて肩を落とす。
「でも、魔女裁判なんて今やったら批難の的だからさ、えらくディーン魔道院長は中傷されてたね」
「ディーン…?」
「あぁ、魔導院の一番偉い人ね」
そう言ってフラウは店の掲示板を指差す、そこには魔導院の通知書が貼ってあった。そこに1人の年配の男性が写っていた。
「結構な頑固者でね、今回のその通知もいきなりだったから」
「…。」
「その、イリアさんって何したの?何か犯罪とか…」
「そんなことしてませんっ!!」
モニカの声が店に響く、何事かと何人かこちらを見てる人もいた。
フラウはモニカの言葉に目を見開いた。
「師匠は、師匠は私のことを助けてくれました!全く魔法が使えなかった私を弟子にしてくれたんです!
師匠は犯罪なんてしてません!そんなことするような人じゃないです!」
一気にまくし立てるモニカにフラウは圧倒された。
それと同時に、涙目になるモニカを見て必死さが痛いほど伝わってきた。
「そっか、そうなのね」
「…っ!」
モニカはハッとなって、静かに席に座った。
「す、すいません…」
「いやいや、大丈夫だよ!」
フラウは首を横に振り笑った。
「モニカ、大丈夫だよ、そんな人が変な判決もらったりしないよ」
「…。」
俯いて今にも涙が溢れそうなモニカの肩に優しく手を置いた。
「きっと無事に帰ってこれるよ、安心しな?」
「…はい」
モニカはフラウの言葉に弱々しく笑顔を見せた。
しかし、現実というのは残酷なものだった。
突然、店の扉が勢いよく開いた。その音で、店中の人が出入り口に視線を集める。
そこには息を切らした男の人が1枚の紙を手に持っていた。
男は息を整えると口を開いた。
「き、聞いてくれ!魔女裁判の判決が出たみたいだ!」
その言葉で、店中の客は騒ぎ始めて、男の元に駆け寄る。
当然、その言葉を聞いてモニカも席を立ち上がる。
「ち、ちょっと、モニカ!待って!」
フラウは走り出したモニカを追いかける。
その言葉を気にする余裕もないモニカは、人だかりをどうにか押し除けて前に進む。
早く不安をかき消したい、フラウの言う通り無事に帰ってこれると信じたい。
その思いが頭の中を駆け巡る。
そして、モニカは先頭まで躍り出た。
そして、男の持つ通知書を見た。
「モ、モニカ!」
遅れてフラウが先頭まで出てきた。
フラウはモニカの背中を見つけ近寄る、そして、それと同時にその通知書が目に入った。
2人とも、何もいえずその場で固まった。
『魔女イリア・クラスティア 死刑判決』
判決は、2人の予想を裏切る結果だった。
「し、死刑、って、どういうこと、ですか…?」
「モ、モニカ…」
フラウは声をかけようにも言葉が浮かばなかった。
モニカはその結果に呆然と立ち尽くしている。
「フラウ、さん…」
振り向いたモニカの顔を見て、フラウは目を逸らす。
「嘘ですよね、死刑なんて…」
「モニカ…」
「嘘、ですよ、そんなの…」
モニカは力なくその場に膝をついた。
フラウはそんなモニカの肩を抱えて、ゆっくりと店を出た。
夜も更けて灯りも点々となった頃、モニカとフラウは広場の噴水の側に腰を落ち着けていた。
フラウは途中で拾った通知書に目を通す。罪状なども事細かに書いていた。
どうやら30年程前に人を殺したらしい。
それが今になって魔女裁判にて判決が下った。
「なんで、30年前のことを今更…」
30年前はまだモニカもフラウも生まれていない、しかし、聞く話ではその頃は人殺しなんて日常茶飯事の戦乱の世だったそうだ。
それを今更取り上げた意図がわからなかった。
「モニカ、落ち着いた?」
フラウは力なく座っているモニカに目をやる。
相変わらず俯いていた。
フラウはかける言葉が見つからないまま、ただモニカの側についてることしかできなかった。
「ありがとうございます、フラウさん」
「え?」
突然の言葉に、フラウは間の抜けた声を出した。
「私なんかのために一緒に来てくださって、ありがとうございます」
「そんな、結局私はなにも…」
モニカはゆっくりと顔を上げた。
目元は泣き腫らして真っ赤になっている、しかしモニカは無理に笑顔を作った。
「フラウさんに会ってなかったら、もしかしたら何も知らないまま事が終わってしまうところでしたから」
「…。」
「私、帰りますね」
モニカはそう言って立ち上がり、ゆっくりと宿に向かって歩き始める。
そんなモニカの背中を見て、フラウは一抹の不安を感じていた。
「処刑予定日は、明後日か…」
フラウは、通知書にもう一度目を通しモニカとは反対方向に歩き始めた。
フラウは街外れの一軒家に訪れた。
街並みとは似合わないその一軒家は、どこから見てもボロ家だった。
フラウはなんの躊躇もなくその家に入っていく。
「ねぇ、いる?」
入るや否や、フラウは家の中にそう声をかける。
すると、暗闇の中から1人男が現れた。
「やぁ、こんな遅くにどうしたの?」
その男はニコッと笑って口を開いた。
「ソナタ、ちょっとお願いがあるんだけど」
ソナタと呼ばれたその男は首を傾げる。
「お願い?なにかあった?」
「ちょっと、今日知り合った子がちょっと気になってね」
「なかなかホットな話題みたいだね」
ソナタは苦笑いを浮かべた。
「それで、お願いって?」
聞いてくるソナタにフラウはさっきの通知書を見せた。
「あぁ、その通知書か」
「知ってる?」
「そりゃ知ってるよ、暗殺者なら情報には敏感でないとね」
「さすがね」
「それで?何する気?」
フラウは、その通知書を折りたたんでポケットにしまう。
「この処刑される人、今日知り合った女の子の師匠なのよ」
「へぇ、そうなんだ」
ソナタの顔色が変わる。
「処刑を止めて欲しいとかそういう依頼?」
「いや、違うよ」
フラウの言葉と顔色を見て、ソナタは何かを察知する。
そして、優しく笑った。
「もしかして、また何も見返りがない話かな?」
「…うん」
「はは、フラウは本当にお人好しだね」
ソナタは静かに笑い、そしてフラウに向き直る。
「暗殺者らしからぬ行動だよね、いつも思うけど」
「そういう性分なんだから仕方ないでしょ」
「まぁね」
そう言ってソナタはまた笑う。
「でもまぁ、お人好しは嫌いじゃないよ、何をすればいい?」
「ふふ、結局手伝ってくれるし、あんたも相当お人好しね」
「そうかもね」
そう言って2人は笑った。
そして、2人の話し合いがその夜ゆっくりと始まった。
一方、モニカたちは今日の通知書の内容のことで、こちらも話し合いになっていた。
ライノもアリーシャも、泣き腫らしたモニカの顔を見て、かける言葉が見つからないでいた。
「2人とも、私ね、明日魔道院長に話をしてこようと思うの」
「え?」
その言葉にライノがサッと顔を上げる。
アリーシャも同様に顔を上げた。
「絶対におかしいよ、師匠はそんな罪のない人を殺すような事はしないよ!」
モニカの言葉に、ライノは俯く。
「その事実がまぁ、どうなのかはわからないけど…」
アリーシャがゆっくりと口を開く。
「それにしても30年前のことを今更掘り返してくるのはおかしい、よね…?」
「確かに、そうだよな」
アリーシャの言葉にライノは頷いた。
「理由も兼ねて話に行くのは、私は賛成だよ」
「アリーシャ…」
アリーシャの言葉に、モニカはまた泣きそうになるのを堪えた。
そんなモニカを見て、アリーシャは笑った。
「まてまて、なんか俺置いてかれてるぞ」
ライノもそんな2人を見て悪戯に笑ってみせた。
「たく、女子は強いなぁ、俺全く頭回ってないっての!」
そんなライノの言葉に、2人は笑った。
処刑執行日は明後日。
その日に向けて、それぞれに決意をしたそんな1日はやっと終わりを告げた。
その状況をイリアは知らないまま、魔道院の監獄に入れられていた。
イリアはなんの抵抗もせずにここまで来た。
それからというもの、出された食事は何も食べず、力なく座っていた。
そんなイリアの牢屋越しに、近づいてくる影があった。
「なんの用?」
その気配に気づき、イリアは声をかけた。
「これはこれは、驚かせてしまいましたかね?」
牢屋越しに姿を現したのは、白いローブを見に纏った、あの時モニカに手紙を手渡した男だった。
「いやね、最後の時間が近づいてきてるので様子を見に、と思いましてね」
その男はそんなことを話しながら不謹慎にも笑っていた。
その様子を見て、イリアも怪しく笑う。
「本当性格悪いねアンタは」
その言葉にその男は首を傾げる。
「それを知ってるのはあなただけなのでねぇ」
「…。」
「あとは、まぁ、私の性分のこともねぇ」
そう言って男は再び笑った。
「ですが貴方は明後日には処刑される、それを知っている人間はこの世からいなくなる」
「…。」
「私の、過去唯一の失態がこの世から消え去るんですよ!今から待ち切れないですよッ!!」
その男は狂ったように笑い始める、その様子を見て尚イリアは冷静に口を開いた。
「私は死ぬにしても、アンタも気をつけた方がいいんじゃない?」
「…はぁ?」
イリアの言葉に男は怪訝そうな顔をする。
「少なからず処刑になったら他の魔女たちが黙ってないだろうけど」
「脅してるつもりですか?」
男は鉄格子を勢いよく掴む。
「無駄な悪足掻きだなぁ、イリア!そんなもの怖いわけないだろう!手を下さずともお前を処刑まで追い込んだんだぞ!」
男の顔は、狂気そのものだった。
「この30年、長かったぞ。私も気が気でなかった、なにせあの堅物の院長を信じ込ませるのには苦労したからなぁ…」
男の言葉に、イリアは鋭い目で睨んだ。
「エスタス、アンタどこまでも腐ってるわね」
「なんとでも言え、私はお前さえ消えればまた平和に殺していけるからなぁ」
エスタスと呼ばれたその男は踵を返す。
「まぁいい、明後日を楽しみにしているよ」
そう言ってエスタスは牢屋から離れていった。
そんなエスタスから目を逸らし、イリアは監獄の窓から夜空を見上げた。
夜空は無慈悲にも綺麗に輝いていた。
そんな夜空を見つめて、イリアは残りの時間をゆっくりと削っていった。
街灯なども水晶で出来てるため反射して綺麗に輝いている。
しかしモニカにはそんな灯が逆に不安を煽るような怪しい灯に見えてしまっていた。
「師匠と、ラクライールに戻りたいな…」
モニカの呟きは、街の喧騒に消えていった。
そんな時、目の前を見ていなかったモニカは誰かにぶつかった。
「痛っ!」
相手の方が身長が高かったため、モニカはその場に尻餅をついた。
「ご、ごめんなさい!」
モニカはすぐに立ち上がり頭を下げた。
「いいよいいよ、そんなことより大丈夫?怪我してない?」
ぶつかった相手は自分のことよりモニカのことを気にかけてくれた。
モニカが顔をあげると、そこにはショートヘアのボーイッシュな感じの女の人がいた。
「あ、私は大丈夫です…」
「そう?それならよかった」
女の人はそう言って笑った。
「なんかボーッとしてたみたいだけど大丈夫??」
「あ、その…」
その言葉に、モニカは押し黙る。
その様子を見て、女の人は話を進めた。
「ここは都心部だしまだ安全だけど、1人で歩くのは危ないよ?」
「そ、そうなんですね…」
「それとも、何か探してたりする?」
「…。」
再びモニカは押し黙る。
「何か訳ありみたいだね?」
女の人はそう言ってモニカの顔を覗き込んだ。
モニカはちょっとびっくりして退く、その時に少し緊張が解けたのか、モニカのお腹がぐーっとなった。
何というよくわからないタイミング。
「ぷっ」
女の人は吹き出して笑った。
モニカは恥ずかしくて顔を赤らめる。
「お悩みの少女みたいだし、ここはお姉ちゃんがご飯をご馳走しようか!」
「え、そんな、会ったばかりで悪いですよ!」
「これも何かの縁でしょ?知りたいことがあれば教えるし、ついておいで」
そう言って街の中を歩き出す女の人、モニカはそれについていくように歩き出した。
2人が入ったお店は活気ある酒場だった。もちろんモニカはお酒は飲まないが、食事も充実していた。
女の人は2人でつまめるものをいくつか注文して、モニカにメニューを渡してきた。
「お腹空いてるでしょ?何でも頼んでいいよ」
「本当に、悪いですよ…」
「気にしない気にしない」
女の人はそう言って笑った。
モニカは促されるままに、パスタを注文した。それを見て女の人もステーキを注文していた。
「そういえば自己紹介がまだだったね、私の名前はフラウ・ライラット、仕事はまぁ傭兵みたいなことしてるよ」
「あ、えっと、私はモニカ・レンブルです、ラクライールから来ました」
「ラクライール、列車があるにしても長旅だったでしょ?」
「そうですね…」
モニカは力なく笑い、相槌を打った。
フラウは手元の飲み物を一口のみ、口を開く。
「なんでここにきたの?なんか理由があるんでしょ?」
「え、えっと」
モニカは口ごもるが、なんとなくフラウに対して安心感があるせいか、ぽつぽつと話し始めた。
「私の師匠、なんですけど、魔女裁判にかけられるかもしれなくて…」
「魔女裁判、あなたの師匠が?」
フラウは魔女裁判という言葉に首を傾げる。
「そもそもこんな時代に魔女裁判て、時代錯誤にも程が…」
フラウは何かを思い出し、言葉を止めた。
それにモニカは顔を上げる。
「どうしました?」
「もしかして、イリア・クラスティアのこと?」
「え!?」
モニカはその名前を聞いて、過剰反応する。
それを見てフラウも理解したようだった。
「し、知ってますか!?魔女裁判のこと!」
「そうだね、確か魔導院がやるって通知してた」
「そんな…」
モニカはその言葉を聞いて肩を落とす。
「でも、魔女裁判なんて今やったら批難の的だからさ、えらくディーン魔道院長は中傷されてたね」
「ディーン…?」
「あぁ、魔導院の一番偉い人ね」
そう言ってフラウは店の掲示板を指差す、そこには魔導院の通知書が貼ってあった。そこに1人の年配の男性が写っていた。
「結構な頑固者でね、今回のその通知もいきなりだったから」
「…。」
「その、イリアさんって何したの?何か犯罪とか…」
「そんなことしてませんっ!!」
モニカの声が店に響く、何事かと何人かこちらを見てる人もいた。
フラウはモニカの言葉に目を見開いた。
「師匠は、師匠は私のことを助けてくれました!全く魔法が使えなかった私を弟子にしてくれたんです!
師匠は犯罪なんてしてません!そんなことするような人じゃないです!」
一気にまくし立てるモニカにフラウは圧倒された。
それと同時に、涙目になるモニカを見て必死さが痛いほど伝わってきた。
「そっか、そうなのね」
「…っ!」
モニカはハッとなって、静かに席に座った。
「す、すいません…」
「いやいや、大丈夫だよ!」
フラウは首を横に振り笑った。
「モニカ、大丈夫だよ、そんな人が変な判決もらったりしないよ」
「…。」
俯いて今にも涙が溢れそうなモニカの肩に優しく手を置いた。
「きっと無事に帰ってこれるよ、安心しな?」
「…はい」
モニカはフラウの言葉に弱々しく笑顔を見せた。
しかし、現実というのは残酷なものだった。
突然、店の扉が勢いよく開いた。その音で、店中の人が出入り口に視線を集める。
そこには息を切らした男の人が1枚の紙を手に持っていた。
男は息を整えると口を開いた。
「き、聞いてくれ!魔女裁判の判決が出たみたいだ!」
その言葉で、店中の客は騒ぎ始めて、男の元に駆け寄る。
当然、その言葉を聞いてモニカも席を立ち上がる。
「ち、ちょっと、モニカ!待って!」
フラウは走り出したモニカを追いかける。
その言葉を気にする余裕もないモニカは、人だかりをどうにか押し除けて前に進む。
早く不安をかき消したい、フラウの言う通り無事に帰ってこれると信じたい。
その思いが頭の中を駆け巡る。
そして、モニカは先頭まで躍り出た。
そして、男の持つ通知書を見た。
「モ、モニカ!」
遅れてフラウが先頭まで出てきた。
フラウはモニカの背中を見つけ近寄る、そして、それと同時にその通知書が目に入った。
2人とも、何もいえずその場で固まった。
『魔女イリア・クラスティア 死刑判決』
判決は、2人の予想を裏切る結果だった。
「し、死刑、って、どういうこと、ですか…?」
「モ、モニカ…」
フラウは声をかけようにも言葉が浮かばなかった。
モニカはその結果に呆然と立ち尽くしている。
「フラウ、さん…」
振り向いたモニカの顔を見て、フラウは目を逸らす。
「嘘ですよね、死刑なんて…」
「モニカ…」
「嘘、ですよ、そんなの…」
モニカは力なくその場に膝をついた。
フラウはそんなモニカの肩を抱えて、ゆっくりと店を出た。
夜も更けて灯りも点々となった頃、モニカとフラウは広場の噴水の側に腰を落ち着けていた。
フラウは途中で拾った通知書に目を通す。罪状なども事細かに書いていた。
どうやら30年程前に人を殺したらしい。
それが今になって魔女裁判にて判決が下った。
「なんで、30年前のことを今更…」
30年前はまだモニカもフラウも生まれていない、しかし、聞く話ではその頃は人殺しなんて日常茶飯事の戦乱の世だったそうだ。
それを今更取り上げた意図がわからなかった。
「モニカ、落ち着いた?」
フラウは力なく座っているモニカに目をやる。
相変わらず俯いていた。
フラウはかける言葉が見つからないまま、ただモニカの側についてることしかできなかった。
「ありがとうございます、フラウさん」
「え?」
突然の言葉に、フラウは間の抜けた声を出した。
「私なんかのために一緒に来てくださって、ありがとうございます」
「そんな、結局私はなにも…」
モニカはゆっくりと顔を上げた。
目元は泣き腫らして真っ赤になっている、しかしモニカは無理に笑顔を作った。
「フラウさんに会ってなかったら、もしかしたら何も知らないまま事が終わってしまうところでしたから」
「…。」
「私、帰りますね」
モニカはそう言って立ち上がり、ゆっくりと宿に向かって歩き始める。
そんなモニカの背中を見て、フラウは一抹の不安を感じていた。
「処刑予定日は、明後日か…」
フラウは、通知書にもう一度目を通しモニカとは反対方向に歩き始めた。
フラウは街外れの一軒家に訪れた。
街並みとは似合わないその一軒家は、どこから見てもボロ家だった。
フラウはなんの躊躇もなくその家に入っていく。
「ねぇ、いる?」
入るや否や、フラウは家の中にそう声をかける。
すると、暗闇の中から1人男が現れた。
「やぁ、こんな遅くにどうしたの?」
その男はニコッと笑って口を開いた。
「ソナタ、ちょっとお願いがあるんだけど」
ソナタと呼ばれたその男は首を傾げる。
「お願い?なにかあった?」
「ちょっと、今日知り合った子がちょっと気になってね」
「なかなかホットな話題みたいだね」
ソナタは苦笑いを浮かべた。
「それで、お願いって?」
聞いてくるソナタにフラウはさっきの通知書を見せた。
「あぁ、その通知書か」
「知ってる?」
「そりゃ知ってるよ、暗殺者なら情報には敏感でないとね」
「さすがね」
「それで?何する気?」
フラウは、その通知書を折りたたんでポケットにしまう。
「この処刑される人、今日知り合った女の子の師匠なのよ」
「へぇ、そうなんだ」
ソナタの顔色が変わる。
「処刑を止めて欲しいとかそういう依頼?」
「いや、違うよ」
フラウの言葉と顔色を見て、ソナタは何かを察知する。
そして、優しく笑った。
「もしかして、また何も見返りがない話かな?」
「…うん」
「はは、フラウは本当にお人好しだね」
ソナタは静かに笑い、そしてフラウに向き直る。
「暗殺者らしからぬ行動だよね、いつも思うけど」
「そういう性分なんだから仕方ないでしょ」
「まぁね」
そう言ってソナタはまた笑う。
「でもまぁ、お人好しは嫌いじゃないよ、何をすればいい?」
「ふふ、結局手伝ってくれるし、あんたも相当お人好しね」
「そうかもね」
そう言って2人は笑った。
そして、2人の話し合いがその夜ゆっくりと始まった。
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ライノもアリーシャも、泣き腫らしたモニカの顔を見て、かける言葉が見つからないでいた。
「2人とも、私ね、明日魔道院長に話をしてこようと思うの」
「え?」
その言葉にライノがサッと顔を上げる。
アリーシャも同様に顔を上げた。
「絶対におかしいよ、師匠はそんな罪のない人を殺すような事はしないよ!」
モニカの言葉に、ライノは俯く。
「その事実がまぁ、どうなのかはわからないけど…」
アリーシャがゆっくりと口を開く。
「それにしても30年前のことを今更掘り返してくるのはおかしい、よね…?」
「確かに、そうだよな」
アリーシャの言葉にライノは頷いた。
「理由も兼ねて話に行くのは、私は賛成だよ」
「アリーシャ…」
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「まてまて、なんか俺置いてかれてるぞ」
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「たく、女子は強いなぁ、俺全く頭回ってないっての!」
そんなライノの言葉に、2人は笑った。
処刑執行日は明後日。
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その気配に気づき、イリアは声をかけた。
「これはこれは、驚かせてしまいましたかね?」
牢屋越しに姿を現したのは、白いローブを見に纏った、あの時モニカに手紙を手渡した男だった。
「いやね、最後の時間が近づいてきてるので様子を見に、と思いましてね」
その男はそんなことを話しながら不謹慎にも笑っていた。
その様子を見て、イリアも怪しく笑う。
「本当性格悪いねアンタは」
その言葉にその男は首を傾げる。
「それを知ってるのはあなただけなのでねぇ」
「…。」
「あとは、まぁ、私の性分のこともねぇ」
そう言って男は再び笑った。
「ですが貴方は明後日には処刑される、それを知っている人間はこの世からいなくなる」
「…。」
「私の、過去唯一の失態がこの世から消え去るんですよ!今から待ち切れないですよッ!!」
その男は狂ったように笑い始める、その様子を見て尚イリアは冷静に口を開いた。
「私は死ぬにしても、アンタも気をつけた方がいいんじゃない?」
「…はぁ?」
イリアの言葉に男は怪訝そうな顔をする。
「少なからず処刑になったら他の魔女たちが黙ってないだろうけど」
「脅してるつもりですか?」
男は鉄格子を勢いよく掴む。
「無駄な悪足掻きだなぁ、イリア!そんなもの怖いわけないだろう!手を下さずともお前を処刑まで追い込んだんだぞ!」
男の顔は、狂気そのものだった。
「この30年、長かったぞ。私も気が気でなかった、なにせあの堅物の院長を信じ込ませるのには苦労したからなぁ…」
男の言葉に、イリアは鋭い目で睨んだ。
「エスタス、アンタどこまでも腐ってるわね」
「なんとでも言え、私はお前さえ消えればまた平和に殺していけるからなぁ」
エスタスと呼ばれたその男は踵を返す。
「まぁいい、明後日を楽しみにしているよ」
そう言ってエスタスは牢屋から離れていった。
そんなエスタスから目を逸らし、イリアは監獄の窓から夜空を見上げた。
夜空は無慈悲にも綺麗に輝いていた。
そんな夜空を見つめて、イリアは残りの時間をゆっくりと削っていった。
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