3 / 110
3.時の記念日
しおりを挟む
しばらくすると、それまでおしゃべりをしていた藤間さんが会計に立った。
「春ちゃん、マキノちゃんと結婚するんだってね。おめでとう。」
マキノがレジの前に立つと、藤間さんは、厨房の中にいる春樹に声をかけた。
「はい。ありがとうございます。」
「お幸せにねぇ。」
「ありがとうございました~。」
先日、朝市のおばちゃん達に結婚することになったと報告をすると、「そうなると思った。」「やっぱりね。」と口をそろえてひやかされた。
3カ月ぐらい前に、朝市が行われている時、朝市広場の目の前の国道で、マキノが自転車ごとバイクにはねとばされたのを目撃した人がたくさんいて、その時の春樹の活躍が何度も噂話にでていたらしく、それにどんどん尾ひれがついていった。
藤間さんは、事故の現場を見たわけでもないのに、マキノが事故をしたことも知っていたし、婚約の報告をしたわけでもなかったがちゃんと知っていた。
とにかく、刺激の少ない田舎では、ちょっとしたことがご近所の噂になり、誰もがあることやないことや全然なかったことも、いろんなことをよく知っていた。
都会に暮らしていたマキノは、こんな現象を不思議に感じるし、時折わずらわしくもありつつ、微笑ましく思う。今のところ隠すことも後ろめたい所も何もないので、お店の宣伝になるから、噂話も一応歓迎だ。でたらめで下品なこと以外はね。
春樹は、藤間さん達とおしゃべりをしながら一緒に玄関を出てそのまま見送り、玄関横のプレートをCLOSEDにひっくり返した。そして、自分の車の中から何かを取ってきて座敷の方へ向かい叔父さん達のテーブルを片付け始めた。
マキノは、立ったまま真央ちゃんの試作オムライスを口に運びつつ、明日の仕込みの野菜を切ったりして下準備をしていた。オムライスはチキンライスが少しべたっとしていて、たまごもどうやらうまく半熟にならなかったようで、スクランブルエッグのようになっていた。でもお味はまぁまぁ。あともう少しがんばれ。
さっきまでテーブルを片付けてくれていた春樹は、食器などを全部シンクへ運びそのまま洗てくれている。すっかりスタッフになっちゃった。
マキノは、そのまま予定していた翌日の仕込みを終え、からあげの下味をつけた鶏肉の入ったボウルにラップをして台下冷蔵庫に仕舞って顔をあげた。すると、洗い物を終えた春樹がこちらを見て自分の仕事が片付くのを待っているのに気が付いた。
「なあに?」
「今日役場に行く用があったから、婚姻届の申請用紙をもらってきたんだ。」
「ほー・・。」
マキノの少し呆けたような返事を気にするでもなく春樹は続けた。
「婚姻届って365日24時間受け付けてくれるんだって。知ってた?」
「ううん。」
さっきからまな板で切っていた野菜を大きな冷蔵庫の中の下の棚にタッパに入れた野菜をパタンパタンとしまい、最後まで使っていたボウルや道具をガチャガチャと洗いながらマキノが返事をする。
「時の記念日に入籍しないか?」
「それって、いつ?」
「やっぱり知らなかったか。6月10日だよ。」
「もうすぐじゃない。いいよ。けど、何か意味があるの?」
「時間を大切にしようってことらしいよ。」
「・・名前のまんまだね。」
「過去も未来も大切な時間であって、与えられた限られた時間を大切にしよう。ってなことを確認する日なんだってさ。」
「へえ~。今初めて知った。」
「個人的な思い入れがあるってわけではないよ。オレとしては・・明日でもいいし、なんなら今からでもいいぐらい。」
「・・・。」
マキノはそれには返事をせずふふっと笑った。
そして、まな板にざざーっと水を流して片付けた。
「ただいまー。」
と遊が帰ってきて、買い物袋を調理台にどんと置いた。
「おかえり~。遊、ありがとう。」
「これおつり。ここに置いとくよ~。」
ざぶざぶと布巾を洗ってぎゅうっとしぼる。
「は~い。お疲れさん。遊も気をつけて帰るのよ~。」
「はいはい。お疲れでしたー。」
遊が買ってきた物は袋のまま冷蔵庫に放り込んで、マキノは春樹の横に座った。
「要するに、遅刻しちゃダメ。約束守れ。ってことかな?」
「え?なにが?」
「時間を大切にしようの意味。」
「ああそれか。そう。教育的立場からするとそうなるかな。」
「時間ね、大事だもんね。」
と、マキノは印鑑をことりと机に置いた。
「春ちゃん、マキノちゃんと結婚するんだってね。おめでとう。」
マキノがレジの前に立つと、藤間さんは、厨房の中にいる春樹に声をかけた。
「はい。ありがとうございます。」
「お幸せにねぇ。」
「ありがとうございました~。」
先日、朝市のおばちゃん達に結婚することになったと報告をすると、「そうなると思った。」「やっぱりね。」と口をそろえてひやかされた。
3カ月ぐらい前に、朝市が行われている時、朝市広場の目の前の国道で、マキノが自転車ごとバイクにはねとばされたのを目撃した人がたくさんいて、その時の春樹の活躍が何度も噂話にでていたらしく、それにどんどん尾ひれがついていった。
藤間さんは、事故の現場を見たわけでもないのに、マキノが事故をしたことも知っていたし、婚約の報告をしたわけでもなかったがちゃんと知っていた。
とにかく、刺激の少ない田舎では、ちょっとしたことがご近所の噂になり、誰もがあることやないことや全然なかったことも、いろんなことをよく知っていた。
都会に暮らしていたマキノは、こんな現象を不思議に感じるし、時折わずらわしくもありつつ、微笑ましく思う。今のところ隠すことも後ろめたい所も何もないので、お店の宣伝になるから、噂話も一応歓迎だ。でたらめで下品なこと以外はね。
春樹は、藤間さん達とおしゃべりをしながら一緒に玄関を出てそのまま見送り、玄関横のプレートをCLOSEDにひっくり返した。そして、自分の車の中から何かを取ってきて座敷の方へ向かい叔父さん達のテーブルを片付け始めた。
マキノは、立ったまま真央ちゃんの試作オムライスを口に運びつつ、明日の仕込みの野菜を切ったりして下準備をしていた。オムライスはチキンライスが少しべたっとしていて、たまごもどうやらうまく半熟にならなかったようで、スクランブルエッグのようになっていた。でもお味はまぁまぁ。あともう少しがんばれ。
さっきまでテーブルを片付けてくれていた春樹は、食器などを全部シンクへ運びそのまま洗てくれている。すっかりスタッフになっちゃった。
マキノは、そのまま予定していた翌日の仕込みを終え、からあげの下味をつけた鶏肉の入ったボウルにラップをして台下冷蔵庫に仕舞って顔をあげた。すると、洗い物を終えた春樹がこちらを見て自分の仕事が片付くのを待っているのに気が付いた。
「なあに?」
「今日役場に行く用があったから、婚姻届の申請用紙をもらってきたんだ。」
「ほー・・。」
マキノの少し呆けたような返事を気にするでもなく春樹は続けた。
「婚姻届って365日24時間受け付けてくれるんだって。知ってた?」
「ううん。」
さっきからまな板で切っていた野菜を大きな冷蔵庫の中の下の棚にタッパに入れた野菜をパタンパタンとしまい、最後まで使っていたボウルや道具をガチャガチャと洗いながらマキノが返事をする。
「時の記念日に入籍しないか?」
「それって、いつ?」
「やっぱり知らなかったか。6月10日だよ。」
「もうすぐじゃない。いいよ。けど、何か意味があるの?」
「時間を大切にしようってことらしいよ。」
「・・名前のまんまだね。」
「過去も未来も大切な時間であって、与えられた限られた時間を大切にしよう。ってなことを確認する日なんだってさ。」
「へえ~。今初めて知った。」
「個人的な思い入れがあるってわけではないよ。オレとしては・・明日でもいいし、なんなら今からでもいいぐらい。」
「・・・。」
マキノはそれには返事をせずふふっと笑った。
そして、まな板にざざーっと水を流して片付けた。
「ただいまー。」
と遊が帰ってきて、買い物袋を調理台にどんと置いた。
「おかえり~。遊、ありがとう。」
「これおつり。ここに置いとくよ~。」
ざぶざぶと布巾を洗ってぎゅうっとしぼる。
「は~い。お疲れさん。遊も気をつけて帰るのよ~。」
「はいはい。お疲れでしたー。」
遊が買ってきた物は袋のまま冷蔵庫に放り込んで、マキノは春樹の横に座った。
「要するに、遅刻しちゃダメ。約束守れ。ってことかな?」
「え?なにが?」
「時間を大切にしようの意味。」
「ああそれか。そう。教育的立場からするとそうなるかな。」
「時間ね、大事だもんね。」
と、マキノは印鑑をことりと机に置いた。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。
クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる