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49.取り立ての人、あらわる
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オヤジが家出して2日経った。
「おやじは?」
ヒロトは仕事から帰るとまず母親に尋ねる。
「何も言ってこないわよ。」
「どこかから取り立ての電話はあった?誰か来た?」
「取り立てじゃないけどお父さんはいるか?って電話が2件あったわ・・。誰も来てない。」
「飯は食った?」
おふくろはうなずいた。
直前まで普通に買い物もしていたし、財布には常識的な金額が入っていた。
別に、借金があってもただちに食べる物に困るわけではない。
「これからしばらく生活する分はオレが出すよ。光熱費や電話代なんかも入れるから,引き落としの通帳よこしといて。月に利息だけで何十万とか言われても無理だしさ、生きれるようにだけ最低限よけて一生かかっても少しずつ返して納得してもらうしかないだろ。」
「悪いね・・・ヒロト。」
「まったく・・おふくろも、離婚すりゃ簡単なのに・・。家はどうなるって?」
「父さんのお姉さんが買い取ってくれるって。」
「大阪の伯母さんか・・・要するに、それも借りだな。ため息が出るな。売っちまって、どこか安い賃貸に入りゃいいんじゃないかと思うけど?」
「・・・・。」
おふくろは、家を売るのも、離婚するのも、オヤジが自己破産するのもいやだと言う。
何を考えて甘いことを言っているのか、爺さんのことが気になるのか、世間体を考えているのか。よくわからん。
今は・・・まぁ,やれるとこまでやりゃいいさ。
オヤジとじいさんが死んで,おふくろがあきらめれば,何もかも放り出せるだろう。
一生こんな生活が続くわけじゃないだろう・・たぶん。
「おふくろは、何かできる仕事ないのかなぁ・・。」
言ってはみたが、50超えた特に芸もないおばさんに、何ができるというのだ・・。
じいさんは脳梗塞で、右半身が麻痺している。ヘルパーやデイサービス、ショートステイはあるが、時間も限られているし、施設に入れるのは金銭的に無理だと思う。介護保険のこともよくわからんし、調べればなにかいい手があるのかもしれないが、おふくろ自身が年寄りを看るものだと思い込んでいるから、あまり考えてない。ぼけっとしていないでしっかり調べるべきなのか。
「できれば、この家にいたいんだけど・・。」
「その家が、もううちの家じゃないんだからな。」
現状に固執する母親にすこしイラッとして、少々きつい口調になってしまった。
「この本とか、いらねえ物、処分したらどうなんだよ?古本屋に売ってしまえよ。」
オヤジが買ってきて読んだ立派な本が棚にずらりと並んでいるのを見て、またムカついてそんなことを口走った。自分がそう言ってから、古本屋よりオークションのほうがいいんじゃないか?とふと思い立った。
押入れの中に、引き出物や、何かもらい物の食器類やタオルセットなんかが使わずに貯めてあるよな・・・。いらない物がわんさか・・
自分のPCを立ち上げてオークションを見てみた。
お。オヤジの本と同じのも売れてるのがあるな。古本屋よりよっぽどいいだろう。
まずは、おふくろに教えてみようかな・・。内職もいいけど、まずはオヤジの人生を物から精算だ。
おふくろインターネットは理解できるのかな・・それができれば一番だが、適性が無けりゃ自分がやりとりして、発送とかコンポとかだけさせてもいいしな。面倒になれば中古の物をとってくれるところに持っていきゃいいだけだ。
ヒロトはその夜、オークションの出品の仕方を調べてみた。フォームを作って、サイズや商品の特徴を入力して他の出品を見て値段を調べて、値段設定をする。送料の調べ方も教える。決済の仕方もなるべく単純にしておく。ネットでのやり取りは母親ができそうにないなら自分がやってやってもいいだろう。
母親に教えてみると、意外にマウスの使い方がうまい。
相手とのやりとりも、ひな形を作っておけば、それを見て返事もできそうだ。
時間はかかるけど、時間だけはたっぷりあるし、徐々に慣れてくるだろう。
焼け石に水でも・・こんな状態で余分なモノどっさり持ってるよりもなるべく減らしたほうがいい。おふくろには言わないが、いざこの家を出るとなった時のことも頭の片隅にある。処分できるものはどんどん処分していこうや。
ああ,そうだ,なけなしの貯金はマキノさんにでも預かっててもらおうかなぁ・・・ここに置いておくとまずい気もするからな。母親が信用できないわけじゃない。父親はあやしいが、怖い人が来てそれを見たら・・。
取られることはなくても、金が少しでもあると知ったらいい気はしないだろう。
翌日は、じいさんを施設にデイサービスで預けている間に、少し自分のカネを引き出してきて、母親と一緒にカネを貸してくれている親戚3件と、オヤジの知人3件を回った。
今オヤジがどういう状況で行方不明になっているのかを説明して、もし来ても決してこれ以上貸してくれるなということ、月々ほんの少しずつだが家族で返していくことと、怖いところが終わったら額を増やすからという約束だ。
貸してくれた金額はいろいろだったが、今3万渡して、来月からは日を決めて一律1万円ずつ振り込む。口座番号も聞いた。自分の給料でやって行けるかな・・。
さてその怖いところは、どう交渉すればいいのか・・見当がつかん。
ギャンブルですったもともと架空のカネもあるが、高利貸しから現金を借りているところもあるらしい。
爺さんが、デイサービスから帰ってくる頃にあわせて、自宅へ戻った。
家の前には、一見普通のおじさんが待っていた。
「ご主人さんはいらっしゃいますか?」
と丁寧な様子で尋ねられた。
「おりませんが。」
「何時にお帰りになる?」
やっぱり・・丁寧だ。
「わかりません。」
「待たせてもらってもいいかな?」
「はい、どうぞ。」
母親があっさりとそのおじさんを家に上げた。
コタツの置いてある居間に通されてそのおじさんが座布団に座る。
そして、自分に向かって、話しかけてきた。
「息子さん?」
「そうですけど。」
おじさんは、穏やかに笑っている。
顔はおだやかだが、何を考えているんだろう・・。
普通のセーターの上に、ジャンパーを着て、スラックス履いて、パンチパーマでもスキンヘッドでもない。
ゆるいパーマはかかっていそうだ。スーツじゃないし、メガネもサングラスもかけてない。
普通の人じゃないんだろうな・・と想像してみるが、どう見ても、普通の人にしか見えなかった。
ある時、豹変するんだろうか?
オヤジが帰ってきたら、怒鳴り散らすんだろうか・・・。
「どうぞ。」
と、おふくろが熱いお茶を出した。
そのおじさんが、ずずずとそのお茶をすすった。
名刺はくれたのだが、結局オヤジのなんなのかは、わからなかった。
ほどなくして、じいさんがデイサービスから帰ってきた。
座位が取れるから車イスには乗れる。入浴をさせてもらえるのがとてもありがたい。
おふくろがじいさんの世話をしている間、自分は食事の用意を始めた。
この人、寒い中で一日待っていたんだろうか。
それとも、デイが終わる頃合いを見計らって来たのか・・・。
いつまでいるつもりだろう?
6時を過ぎた。腹も減って来たし、味噌汁と、親子丼と、サラダをこしらえた。漬物もそえた。
じいさんは、居間とつながった隣の部屋にベッドが置いてあって、そこで寝たり座ったりテレビを見たりして時間をつぶす。呂律は回らなくてあまりしゃべらないが、頭は83歳の年齢相応にまわりの言う事は理解する。
右半身が動かないから左手でスプーンを持つ。ひとりで食べられる。
母親は、いつもじいさんの声の聞こえるところにいて、夜も昼も世話をしている。
ヒロトは、その客の分も飯を作った。
自分とおふくろはダイニングで食べる。
「これ、息子さんが料理したの?」
おじさんがたずねてきた。
「はい。」
「うまいねぇ。こういう事できる男は、おじさん尊敬するんだよ。」
「いや。・・一応仕事ですから。」
「ああ、料理人さん?そうだったの。」
「すみませんがお先に失礼します。明日も仕事あるんで。」
ヒロトはそう言って、風呂も済ませて、2階の自分の部屋へと引っ込もうとした。
そこで、ああそうだ・・と思いついて、居間にあるサイドボードの上で、自分のスマホの充電をすることにした。父親から電話がかかるかどうかわかるだろ? 意識するかどうかもわからんが。
ちなみに、母親は携帯電話を持っていない。ずっと家にいるからだ。
さて、寝よう。
勝手に来た客だ。生活を乱される筋合いはない。
ボソボソと話声が時折聞こえたが、勝手にすりゃいいや・・と母親に任せた。
朝、起きていくと、母親はいつものように台所で朝めしを作ったり洗濯をしたりしていた。
「あのおっさんは?」
「夜10時前ぐらいに帰ったよ。何か知らないけど、奥さん頑張ってね。って言われたわ。お父さんが帰ってこないってことは信じてくれたと思うけど・・・。」
ぷ・・・。へんなやつ。
「でも、オヤジは金がなくなったら帰ってくるだろ。ガソリンなくなって財布がすっからかんになったらさ。」
「そうかしらねぇ・・。」
「あのおっさんと、何しゃべってたんだ?」
「お父さんに借金があるってことを言ってくるから・・あの人もちろん取り立てに来たんだけど。正直にあのメモを見せたわよ。どこにどれだけあるって書置きのね・・。借金あるのは知ってたけど、私も詳しい事は知らないし、一昨日出て行ったきりだし、話すこともなくなって、世間話とかあのおじさん自分の娘さんの話してたわよ。わたしが家族でがんばろうと思うって言ったら、なんか同情されちゃったみたい。」
「漫画みたいだな。」
「あの人に、利息つかないようにしてもらえないかなって・・・頼んでみようかな。」
「えー・・。できるのか?無理だろ。」
「だって・・向こうにとっては自己破産されたり逃げられたり死んだりしたら、一円もとれないのでしょ?それよりましじゃない?・・。」
「・・・。」
おふくろ・・意外と図太いな。怖くないのか?
たしかに不法な行為の上に成り立つ借金だからな。公に出るとまずいようにも思う。
昨日のおっさんはただの取り立てだから、そんな交渉したって無駄だと思うが。
「オレは今日とにかく、オーナーと話して仕事増やして頑張ったら給料上げてもらえるかどうか相談してくるわ。」
「オーナーに借りちゃダメだよ。」
「借りるなんて言ってない。死んでも借りることはない。」
「おやじは?」
ヒロトは仕事から帰るとまず母親に尋ねる。
「何も言ってこないわよ。」
「どこかから取り立ての電話はあった?誰か来た?」
「取り立てじゃないけどお父さんはいるか?って電話が2件あったわ・・。誰も来てない。」
「飯は食った?」
おふくろはうなずいた。
直前まで普通に買い物もしていたし、財布には常識的な金額が入っていた。
別に、借金があってもただちに食べる物に困るわけではない。
「これからしばらく生活する分はオレが出すよ。光熱費や電話代なんかも入れるから,引き落としの通帳よこしといて。月に利息だけで何十万とか言われても無理だしさ、生きれるようにだけ最低限よけて一生かかっても少しずつ返して納得してもらうしかないだろ。」
「悪いね・・・ヒロト。」
「まったく・・おふくろも、離婚すりゃ簡単なのに・・。家はどうなるって?」
「父さんのお姉さんが買い取ってくれるって。」
「大阪の伯母さんか・・・要するに、それも借りだな。ため息が出るな。売っちまって、どこか安い賃貸に入りゃいいんじゃないかと思うけど?」
「・・・・。」
おふくろは、家を売るのも、離婚するのも、オヤジが自己破産するのもいやだと言う。
何を考えて甘いことを言っているのか、爺さんのことが気になるのか、世間体を考えているのか。よくわからん。
今は・・・まぁ,やれるとこまでやりゃいいさ。
オヤジとじいさんが死んで,おふくろがあきらめれば,何もかも放り出せるだろう。
一生こんな生活が続くわけじゃないだろう・・たぶん。
「おふくろは、何かできる仕事ないのかなぁ・・。」
言ってはみたが、50超えた特に芸もないおばさんに、何ができるというのだ・・。
じいさんは脳梗塞で、右半身が麻痺している。ヘルパーやデイサービス、ショートステイはあるが、時間も限られているし、施設に入れるのは金銭的に無理だと思う。介護保険のこともよくわからんし、調べればなにかいい手があるのかもしれないが、おふくろ自身が年寄りを看るものだと思い込んでいるから、あまり考えてない。ぼけっとしていないでしっかり調べるべきなのか。
「できれば、この家にいたいんだけど・・。」
「その家が、もううちの家じゃないんだからな。」
現状に固執する母親にすこしイラッとして、少々きつい口調になってしまった。
「この本とか、いらねえ物、処分したらどうなんだよ?古本屋に売ってしまえよ。」
オヤジが買ってきて読んだ立派な本が棚にずらりと並んでいるのを見て、またムカついてそんなことを口走った。自分がそう言ってから、古本屋よりオークションのほうがいいんじゃないか?とふと思い立った。
押入れの中に、引き出物や、何かもらい物の食器類やタオルセットなんかが使わずに貯めてあるよな・・・。いらない物がわんさか・・
自分のPCを立ち上げてオークションを見てみた。
お。オヤジの本と同じのも売れてるのがあるな。古本屋よりよっぽどいいだろう。
まずは、おふくろに教えてみようかな・・。内職もいいけど、まずはオヤジの人生を物から精算だ。
おふくろインターネットは理解できるのかな・・それができれば一番だが、適性が無けりゃ自分がやりとりして、発送とかコンポとかだけさせてもいいしな。面倒になれば中古の物をとってくれるところに持っていきゃいいだけだ。
ヒロトはその夜、オークションの出品の仕方を調べてみた。フォームを作って、サイズや商品の特徴を入力して他の出品を見て値段を調べて、値段設定をする。送料の調べ方も教える。決済の仕方もなるべく単純にしておく。ネットでのやり取りは母親ができそうにないなら自分がやってやってもいいだろう。
母親に教えてみると、意外にマウスの使い方がうまい。
相手とのやりとりも、ひな形を作っておけば、それを見て返事もできそうだ。
時間はかかるけど、時間だけはたっぷりあるし、徐々に慣れてくるだろう。
焼け石に水でも・・こんな状態で余分なモノどっさり持ってるよりもなるべく減らしたほうがいい。おふくろには言わないが、いざこの家を出るとなった時のことも頭の片隅にある。処分できるものはどんどん処分していこうや。
ああ,そうだ,なけなしの貯金はマキノさんにでも預かっててもらおうかなぁ・・・ここに置いておくとまずい気もするからな。母親が信用できないわけじゃない。父親はあやしいが、怖い人が来てそれを見たら・・。
取られることはなくても、金が少しでもあると知ったらいい気はしないだろう。
翌日は、じいさんを施設にデイサービスで預けている間に、少し自分のカネを引き出してきて、母親と一緒にカネを貸してくれている親戚3件と、オヤジの知人3件を回った。
今オヤジがどういう状況で行方不明になっているのかを説明して、もし来ても決してこれ以上貸してくれるなということ、月々ほんの少しずつだが家族で返していくことと、怖いところが終わったら額を増やすからという約束だ。
貸してくれた金額はいろいろだったが、今3万渡して、来月からは日を決めて一律1万円ずつ振り込む。口座番号も聞いた。自分の給料でやって行けるかな・・。
さてその怖いところは、どう交渉すればいいのか・・見当がつかん。
ギャンブルですったもともと架空のカネもあるが、高利貸しから現金を借りているところもあるらしい。
爺さんが、デイサービスから帰ってくる頃にあわせて、自宅へ戻った。
家の前には、一見普通のおじさんが待っていた。
「ご主人さんはいらっしゃいますか?」
と丁寧な様子で尋ねられた。
「おりませんが。」
「何時にお帰りになる?」
やっぱり・・丁寧だ。
「わかりません。」
「待たせてもらってもいいかな?」
「はい、どうぞ。」
母親があっさりとそのおじさんを家に上げた。
コタツの置いてある居間に通されてそのおじさんが座布団に座る。
そして、自分に向かって、話しかけてきた。
「息子さん?」
「そうですけど。」
おじさんは、穏やかに笑っている。
顔はおだやかだが、何を考えているんだろう・・。
普通のセーターの上に、ジャンパーを着て、スラックス履いて、パンチパーマでもスキンヘッドでもない。
ゆるいパーマはかかっていそうだ。スーツじゃないし、メガネもサングラスもかけてない。
普通の人じゃないんだろうな・・と想像してみるが、どう見ても、普通の人にしか見えなかった。
ある時、豹変するんだろうか?
オヤジが帰ってきたら、怒鳴り散らすんだろうか・・・。
「どうぞ。」
と、おふくろが熱いお茶を出した。
そのおじさんが、ずずずとそのお茶をすすった。
名刺はくれたのだが、結局オヤジのなんなのかは、わからなかった。
ほどなくして、じいさんがデイサービスから帰ってきた。
座位が取れるから車イスには乗れる。入浴をさせてもらえるのがとてもありがたい。
おふくろがじいさんの世話をしている間、自分は食事の用意を始めた。
この人、寒い中で一日待っていたんだろうか。
それとも、デイが終わる頃合いを見計らって来たのか・・・。
いつまでいるつもりだろう?
6時を過ぎた。腹も減って来たし、味噌汁と、親子丼と、サラダをこしらえた。漬物もそえた。
じいさんは、居間とつながった隣の部屋にベッドが置いてあって、そこで寝たり座ったりテレビを見たりして時間をつぶす。呂律は回らなくてあまりしゃべらないが、頭は83歳の年齢相応にまわりの言う事は理解する。
右半身が動かないから左手でスプーンを持つ。ひとりで食べられる。
母親は、いつもじいさんの声の聞こえるところにいて、夜も昼も世話をしている。
ヒロトは、その客の分も飯を作った。
自分とおふくろはダイニングで食べる。
「これ、息子さんが料理したの?」
おじさんがたずねてきた。
「はい。」
「うまいねぇ。こういう事できる男は、おじさん尊敬するんだよ。」
「いや。・・一応仕事ですから。」
「ああ、料理人さん?そうだったの。」
「すみませんがお先に失礼します。明日も仕事あるんで。」
ヒロトはそう言って、風呂も済ませて、2階の自分の部屋へと引っ込もうとした。
そこで、ああそうだ・・と思いついて、居間にあるサイドボードの上で、自分のスマホの充電をすることにした。父親から電話がかかるかどうかわかるだろ? 意識するかどうかもわからんが。
ちなみに、母親は携帯電話を持っていない。ずっと家にいるからだ。
さて、寝よう。
勝手に来た客だ。生活を乱される筋合いはない。
ボソボソと話声が時折聞こえたが、勝手にすりゃいいや・・と母親に任せた。
朝、起きていくと、母親はいつものように台所で朝めしを作ったり洗濯をしたりしていた。
「あのおっさんは?」
「夜10時前ぐらいに帰ったよ。何か知らないけど、奥さん頑張ってね。って言われたわ。お父さんが帰ってこないってことは信じてくれたと思うけど・・・。」
ぷ・・・。へんなやつ。
「でも、オヤジは金がなくなったら帰ってくるだろ。ガソリンなくなって財布がすっからかんになったらさ。」
「そうかしらねぇ・・。」
「あのおっさんと、何しゃべってたんだ?」
「お父さんに借金があるってことを言ってくるから・・あの人もちろん取り立てに来たんだけど。正直にあのメモを見せたわよ。どこにどれだけあるって書置きのね・・。借金あるのは知ってたけど、私も詳しい事は知らないし、一昨日出て行ったきりだし、話すこともなくなって、世間話とかあのおじさん自分の娘さんの話してたわよ。わたしが家族でがんばろうと思うって言ったら、なんか同情されちゃったみたい。」
「漫画みたいだな。」
「あの人に、利息つかないようにしてもらえないかなって・・・頼んでみようかな。」
「えー・・。できるのか?無理だろ。」
「だって・・向こうにとっては自己破産されたり逃げられたり死んだりしたら、一円もとれないのでしょ?それよりましじゃない?・・。」
「・・・。」
おふくろ・・意外と図太いな。怖くないのか?
たしかに不法な行為の上に成り立つ借金だからな。公に出るとまずいようにも思う。
昨日のおっさんはただの取り立てだから、そんな交渉したって無駄だと思うが。
「オレは今日とにかく、オーナーと話して仕事増やして頑張ったら給料上げてもらえるかどうか相談してくるわ。」
「オーナーに借りちゃダメだよ。」
「借りるなんて言ってない。死んでも借りることはない。」
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