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65.お布団を並べて
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マキノは、玄関の外へみんなを見送りに出た。
店の前には、直前に呼んでいたタクシーが2台止まっていて、仁美さんと敏ちゃんの家族が乗り込んでいく。千尋さんは飲んでいないので自分で運転して帰る。
免許取りたての遊が、マキノの車でカズと後輩くんを花矢倉まで送って行くことになっていて、有希ちゃんのお母さんが有希ちゃんとその友達を。真央ちゃんのお母さんは未来ちゃんと直也君も送ってくれるようだった。
イズミさんが残って片づけを手伝うと言ったが、大丈夫と断って、春樹さんに、達彦さん家族を送って行ってもらった。これで全員だ。
美緒が、店の中に残って片づけを進めていた。
1人になって心細いかな?と顔色をうかがってみたが、そうでもなさそうだ。
座敷の方は、帰るまでにスタッフ達みんながあらかた片付けてしまったので、ケーキ皿とコーヒーカップの洗い物だけ。
マキノが深呼吸をした。
「はぁ、力が抜けるな~。人がたくさん集まると、楽しいけど疲れるね。少し休憩しようよ。美緒ちゃんコーヒー飲んだ?」
「はい。いただきました。私は大丈夫ですよ。」
美緒は手を止めないで言った。
「パティシエさん、ケーキおいしかったよ。」
「あ、ありがとうございます。でもつくったってほどではないし・・」
「ちょっと気を抜いてると時間なんてすぐ経っちゃうね」
「そうですね・・。」
達彦さんの家族を送って行った春樹はすぐに戻ってきて、その後しばらくして遊が戻って、一気に掃除は進み、お店はすっかり片付いた。
10時を少し回って、ヒロトも戻ってきた。
「マキノさん。工房の方、大急ぎで終わらせましたよ。」
「お疲れさま。じゃあ、美緒ちゃんは預かった。キミは早く寝たまえ。」
「えっ?ええと・・。」
「あっ、ヒロトさん!オレ風呂の用意してきますね!」
遊が気を利かせて、下の階へたんたんと降りて行った。
「あの・・ええと。」
「もー、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔しないの。さっき言ったこと、もう一度言ってあげるからね。いい?ゆっくり言うからよく聞いてね。美緒ちゃんが。明日の朝。ヒロトの工房の仕事を見学するの。だから5時半に迎えに来てあげてね。歩いて行ける距離だけど、真っ暗だし場所も知らないでしょ?わかった?さっさとしないと寝る時間なくなっちゃうよ。」
「はぁ・・はい。」
まだ半信半疑なヒロトにはもうそれ以上言及せず、春樹とマキノは、かえろかえろ、と美緒を自宅へと連れて行ってしまった。必要な事は言ってあるから、朝になると迎えに来るだろう。
美緒ちゃんには、母親が来た来たときに使っていた2階の部屋をそのまま使ってもらうことにした。
「美緒ちゃん身長いくつかな・・。」
「158です。」
「私のはちょっと大きいかな。まぁ寝るだけだから、大丈夫か。」
マキノは自分より体格の小さい美緒に、いそいそとスエットの上下とおニューの下着を出してきて、お風呂の用意を始めた。
「春樹さん、明日も学校だよね?」
「うん。明日行って、そのあと土日で、その後28日に行って終わり。」
「わかったー。お風呂先に入ってねー。」
「・・学校、ですか?」
「言ってなかったっけ?春樹さん先生なんだよ。」
「やっぱり・・。さっき先生って司会の女の子が言ってたし・・。でも、最初は本当にお店のスタッフだと思ってました。オーナーがマキノさんって聞いたから、その旦那さんがスタッフって・・そういうのもありなのかな?と思ってた。」
「わかるわかる。カフェスタイルが似合いすぎてるものね。でも、スタッフにしては態度大きいよね。」
マキノと美緒はクスクスと笑った。
「明日の朝・・早いのは、大丈夫かな?」
「スイーツのお店にいる時、製造に入る日は始発の電車に乗ってましたし・・少々のことは大丈夫ですよ。」
マキノは、うん とうなずいて、今度はお風呂に向かう春樹に言った。
「今日私、美緒ちゃんと一緒に2階で寝るね!」
「わかったー。」
「美緒ちゃんはこっちに来て手伝って。2階は寒いなぁ。タイマーしてなかったから。」
ヒーターをつけて、押入れから布団をドサドサと出してきた。
マキノは、まだカフェも始まってない頃に、迷子の中学生を保護したことを思い出した。
こんなふうに一緒にお布団を並べて・・。何か話をしたっけ?いつも私のほうが早く寝ちゃったかな。
まぁ・・詳しい事情は知らないけど、感受性が豊かで、素直で、生きづらさを抱えてて。
そして、とてもいい子だったな・・。一緒に土を掘ったり、お料理したり楽しかった。
何を思ってるの?辛いことあるの?楽しいこと思い出してるの?
お話しようよ。
お布団を並べると、なぜか、心の中を覗いてみたくなる。
美緒ちゃんと、あったかそうな敷きパッドを広げながら、
「なんだか、修学旅行みたいだね。」と、マキノが笑った。
― ― ― ― ― ― ― ―
昨日まで顔も知らなかった人についてきて、その自宅に泊めてもらうことになるなんて・・・。
美緒は、こんな状況を受け入れてしまっている自分が不思議だった。
どちらかと言うと突発的な出来事に対応するのは苦手だった。
マキノさんは、カフェから帰ってくる車の中からワクワクした様子で、自分もその雰囲気につられているのかもしれなかった。
マキノさんは目をキラキラと輝かせながら、二つ布団を並べて敷いてくれて、自分のスエットやタオル歯ブラシ・・お泊りセットを全部セットしてくれて、お風呂や歯磨きをすませて寝支度を整え「ほらほら早く!」と急き立てられて、さっさと電気を消してしまった。
修学旅行のようだと言ったけど、マキノさんはまるで引率してきた先生のようだ。
自分が一人暮らししている付近は、比較的静かなのだが、夜中でも車の往来があった。
ここの静かさは、都会とは全く次元が違う。
「静かですね・・。」
「でしょう。自慢の1つね。田舎の。カフェの下の部屋なら、川の音も聞こえるんだよ。」
「へえ・・。気づきませんでした。」
「寝る前しかわからないもの。」
下の階から人の気配がしている。旦那さんはまだ起きているみたい。いいのかしら、お世話もせずに・・。
美緒の心配をよそに、マキノさんは、また楽しそうに話しかけてきた。
「美緒ちゃんて、25歳なんだって?」
「はい。マキノさんは2つ上だって聞きました。」
「2つしか違わないんだね。最初もっと幼く見えたよ。」
「童顔なんですよ。田舎くさい顔で。」
「そんなことないよ。ケーキの作業してる時なんて7、きりりっとしてかっこよかった。」
「え~そうですか?」
「うん。ところで美緒ちゃん、敬語は使わなくていいよ。年の差は縮まっていくんだよ?」
「でも、・・・ヒロトのボスだし・・。」
「私と美緒ちゃんの間に、ヒロトは関係ないでしょ。」
「そっかな・・。」
・・敬語やめるのは無理な気がするなぁ・・私の性格もあるし。
でも、確かに、年上なのに緊張しない人だとは思う・・。
「美緒ちゃんは・・・・すごいね。」
「んーと,・・何がですか?。」
「行動力だよぅ。こんなところまで一人で来て。」
「いや・・そんなことは・・。」
「ヒロトの事、1年も思い続けてたの?ずっと好きだったの?」
「う・・どうかなぁ。わかりません。」
「わからないって??・・それでその行動力?」
「うん・・ちゃんとふられてなかったから。もう一度話をして、はっきりさせたかったというか。」
「ふられるのを確定するなんて嫌でしょ?塞ぎかけてる傷口をわざわざこじ開けることになるかもしれないのに。うやむやに終わったほうがましかだよ。」
「ううん・・場合によるとは思うけど、私は、終わりなら終わりって言ってもらった方がよかったと思う。そうでないと、次のこと考えられなかったから。」
「・・そか。それはやっぱり、好きだったんだねぇ・・。」
「・・そうかなぁ。新しい恋とか、できそうに思えなかったんですよね・・。」
「そうか~・・・ヒロトはホント悪いな。優柔不断なやつだ。それは今も変わらないけど。」
「優しすぎるのもダメですよね。」
「うふふふふ」
ふいにマキノさんが楽しそうに笑った。
「なんですか?」
「恋バナって言うんだね。こういうの。うふふふ。楽しいね。」
それを聞いて、今度は美緒のほうが笑えてきた。マキノさん、女子高生に戻ってる。
「じゃああの・・聞いてもいいですか?マキノさんって、どうやって結婚決めたんですか?」
「えー・・ええと・・。プロポーズしてくれたけど、なんかおかしかったの。」
「何がですか?」
「うちの旦那さん、直感型って言ったでしょ?プロポーズのセリフの順番間違えたんだって。」
「えー、どういうことですか?」
「まだプロポーズしてくれてもないうちにね、結婚したあとどうするこうするって先に考えてて、そのアイディアを私に話そうとして、先にプロポーズしなきゃって思い出したみたい。」
「へえ・・それってもう、気持ちが通じてたからとか?」
「そうかな、本人は野生のカンとか本能って言ってたっけかな・・・。」
「おつきあい長かったんですか?」
「いやいや・・初デートからプロポーズまで、実は、1か月足らずだよ・・。」
「ええ・・・まじですか。」
「あとから気づいて、自分でもびっくりしたよ。もうちょっと落ち着いて考えればよかった。あはははは。」
ひとしきり、おかしそうに笑ってからマキノさんは言った。
「でも、ずっと一緒にいたかったから嬉しかったよ。」
「そうですか・・いいですね。うらやましい。」
「でもいろいろ急だったから、戸惑うこともあった。」
「でしょうね・・。」
「ノロけていいなら言うけど、今、幸せだよ。半年経ったけど飽きてないしずっと一緒にいたいって思うよ。」
「半年?」
「うん。結婚して半年。」
「へー・・まだ新婚さんだ。」
「・・それにしても・・ヒロトは大変だな・・・。」
「家の事ですか?」
「ううん。そうじゃなくて・・。家の事なんて、ホントはなんとかなるんだよ。」
「なんとかなる?どういう意味ですか?」
「親の借金なんて、本来子どもには関係ないもの。」
「そうかな・・でも、家族だから・・。」
「財産は放棄することができるけど、そこよ。ヒロトの性格が大変なのよ。」
「・・・。」
「今度は美緒ちゃんのこと考え始めるでしょ?」
「私ですか・・?」
「あれね、ヒロトも美緒ちゃんが好きだったと思うよ。今日の話じゃなくて離れてた時もずっと。」
「そうですかね・・」
「うちに来てからしか知らないけど、彼女の気配とかまったくなかったし、若い女の子なんて避けてたし。」
「そうなんですか?」
「ふふ。だからね、突然現れた美緒ちゃんのこと守りたいと思ってると思う。だってあんなに送りがってたし。・・でも、よく考えてみたら自分の家は今大変な事になってるし・・美緒ちゃんにまで苦労を背負わせたくない。・・身を引こうと思ってる・・と、そんな感じかな。」
「・・・・。」
「バカだよね。」
「うん。バカですね。」
「・・・。」
「・・・。」
「美緒ちゃん,・・・自分の大事なものは、自分で・・守らないとダメだよ。」
「はい。」
「ヒロトがぶっ倒れても、・・自分は・・しっかりしていられるように・・」
「はい。」
「ヒロト・・バカだから・・・。」
うんそう。ヒロトは、バカなのだ。お人好しで、流されて、苦労をしょい込むのだ。
「・・わかってきましたよ。」
「・・ん?」
「わたし、ヒロトと離れてる間、もっと優しくしてあげたらよかったって思ってたけど。」
「・・うん。」
「そうじゃなくて、マキノさんみたいに、ピシッとするのがいいかなって。」
「・・ん。」
「明日が、楽しみになって来ました・・。」
「・・・。」
「ヒロトの頑張ってるところを見て・・・」
「・・・。」
「自分が何をできるのか考えます・・。」
「・・・。」
「マキノさん?」
「・・・。」
耳を澄ますと、スースーと規則正しい呼吸の音が聞こえる。
あらー・・。
今までしゃべってたのに、寝ちゃってる・・・。
信じられない寝付きののよさ。
美緒は、くすっと笑ってスマホのアラームの時間をもう一度確認した。
時刻は12時半過ぎ・・。あの片づけを全部済ませて、おしゃべりしてこの時間に寝られるなら御の字だと思う。みんな段取りもいいし手際もいい。采配がいいのかな。
ヒロトがずっと勢いよく片付けてたのも無駄ではなかったってこと。
明日朝、ヒロトが5時半に迎えに来る・・。
身支度をしてお布団畳めばいいだけだから5時に起きれば十分か。
美緒は、まくらの横にスマホを置いた。
さあ、私も、・・寝よう。
ゆっくりと息をし、目を閉じた。
店の前には、直前に呼んでいたタクシーが2台止まっていて、仁美さんと敏ちゃんの家族が乗り込んでいく。千尋さんは飲んでいないので自分で運転して帰る。
免許取りたての遊が、マキノの車でカズと後輩くんを花矢倉まで送って行くことになっていて、有希ちゃんのお母さんが有希ちゃんとその友達を。真央ちゃんのお母さんは未来ちゃんと直也君も送ってくれるようだった。
イズミさんが残って片づけを手伝うと言ったが、大丈夫と断って、春樹さんに、達彦さん家族を送って行ってもらった。これで全員だ。
美緒が、店の中に残って片づけを進めていた。
1人になって心細いかな?と顔色をうかがってみたが、そうでもなさそうだ。
座敷の方は、帰るまでにスタッフ達みんながあらかた片付けてしまったので、ケーキ皿とコーヒーカップの洗い物だけ。
マキノが深呼吸をした。
「はぁ、力が抜けるな~。人がたくさん集まると、楽しいけど疲れるね。少し休憩しようよ。美緒ちゃんコーヒー飲んだ?」
「はい。いただきました。私は大丈夫ですよ。」
美緒は手を止めないで言った。
「パティシエさん、ケーキおいしかったよ。」
「あ、ありがとうございます。でもつくったってほどではないし・・」
「ちょっと気を抜いてると時間なんてすぐ経っちゃうね」
「そうですね・・。」
達彦さんの家族を送って行った春樹はすぐに戻ってきて、その後しばらくして遊が戻って、一気に掃除は進み、お店はすっかり片付いた。
10時を少し回って、ヒロトも戻ってきた。
「マキノさん。工房の方、大急ぎで終わらせましたよ。」
「お疲れさま。じゃあ、美緒ちゃんは預かった。キミは早く寝たまえ。」
「えっ?ええと・・。」
「あっ、ヒロトさん!オレ風呂の用意してきますね!」
遊が気を利かせて、下の階へたんたんと降りて行った。
「あの・・ええと。」
「もー、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔しないの。さっき言ったこと、もう一度言ってあげるからね。いい?ゆっくり言うからよく聞いてね。美緒ちゃんが。明日の朝。ヒロトの工房の仕事を見学するの。だから5時半に迎えに来てあげてね。歩いて行ける距離だけど、真っ暗だし場所も知らないでしょ?わかった?さっさとしないと寝る時間なくなっちゃうよ。」
「はぁ・・はい。」
まだ半信半疑なヒロトにはもうそれ以上言及せず、春樹とマキノは、かえろかえろ、と美緒を自宅へと連れて行ってしまった。必要な事は言ってあるから、朝になると迎えに来るだろう。
美緒ちゃんには、母親が来た来たときに使っていた2階の部屋をそのまま使ってもらうことにした。
「美緒ちゃん身長いくつかな・・。」
「158です。」
「私のはちょっと大きいかな。まぁ寝るだけだから、大丈夫か。」
マキノは自分より体格の小さい美緒に、いそいそとスエットの上下とおニューの下着を出してきて、お風呂の用意を始めた。
「春樹さん、明日も学校だよね?」
「うん。明日行って、そのあと土日で、その後28日に行って終わり。」
「わかったー。お風呂先に入ってねー。」
「・・学校、ですか?」
「言ってなかったっけ?春樹さん先生なんだよ。」
「やっぱり・・。さっき先生って司会の女の子が言ってたし・・。でも、最初は本当にお店のスタッフだと思ってました。オーナーがマキノさんって聞いたから、その旦那さんがスタッフって・・そういうのもありなのかな?と思ってた。」
「わかるわかる。カフェスタイルが似合いすぎてるものね。でも、スタッフにしては態度大きいよね。」
マキノと美緒はクスクスと笑った。
「明日の朝・・早いのは、大丈夫かな?」
「スイーツのお店にいる時、製造に入る日は始発の電車に乗ってましたし・・少々のことは大丈夫ですよ。」
マキノは、うん とうなずいて、今度はお風呂に向かう春樹に言った。
「今日私、美緒ちゃんと一緒に2階で寝るね!」
「わかったー。」
「美緒ちゃんはこっちに来て手伝って。2階は寒いなぁ。タイマーしてなかったから。」
ヒーターをつけて、押入れから布団をドサドサと出してきた。
マキノは、まだカフェも始まってない頃に、迷子の中学生を保護したことを思い出した。
こんなふうに一緒にお布団を並べて・・。何か話をしたっけ?いつも私のほうが早く寝ちゃったかな。
まぁ・・詳しい事情は知らないけど、感受性が豊かで、素直で、生きづらさを抱えてて。
そして、とてもいい子だったな・・。一緒に土を掘ったり、お料理したり楽しかった。
何を思ってるの?辛いことあるの?楽しいこと思い出してるの?
お話しようよ。
お布団を並べると、なぜか、心の中を覗いてみたくなる。
美緒ちゃんと、あったかそうな敷きパッドを広げながら、
「なんだか、修学旅行みたいだね。」と、マキノが笑った。
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昨日まで顔も知らなかった人についてきて、その自宅に泊めてもらうことになるなんて・・・。
美緒は、こんな状況を受け入れてしまっている自分が不思議だった。
どちらかと言うと突発的な出来事に対応するのは苦手だった。
マキノさんは、カフェから帰ってくる車の中からワクワクした様子で、自分もその雰囲気につられているのかもしれなかった。
マキノさんは目をキラキラと輝かせながら、二つ布団を並べて敷いてくれて、自分のスエットやタオル歯ブラシ・・お泊りセットを全部セットしてくれて、お風呂や歯磨きをすませて寝支度を整え「ほらほら早く!」と急き立てられて、さっさと電気を消してしまった。
修学旅行のようだと言ったけど、マキノさんはまるで引率してきた先生のようだ。
自分が一人暮らししている付近は、比較的静かなのだが、夜中でも車の往来があった。
ここの静かさは、都会とは全く次元が違う。
「静かですね・・。」
「でしょう。自慢の1つね。田舎の。カフェの下の部屋なら、川の音も聞こえるんだよ。」
「へえ・・。気づきませんでした。」
「寝る前しかわからないもの。」
下の階から人の気配がしている。旦那さんはまだ起きているみたい。いいのかしら、お世話もせずに・・。
美緒の心配をよそに、マキノさんは、また楽しそうに話しかけてきた。
「美緒ちゃんて、25歳なんだって?」
「はい。マキノさんは2つ上だって聞きました。」
「2つしか違わないんだね。最初もっと幼く見えたよ。」
「童顔なんですよ。田舎くさい顔で。」
「そんなことないよ。ケーキの作業してる時なんて7、きりりっとしてかっこよかった。」
「え~そうですか?」
「うん。ところで美緒ちゃん、敬語は使わなくていいよ。年の差は縮まっていくんだよ?」
「でも、・・・ヒロトのボスだし・・。」
「私と美緒ちゃんの間に、ヒロトは関係ないでしょ。」
「そっかな・・。」
・・敬語やめるのは無理な気がするなぁ・・私の性格もあるし。
でも、確かに、年上なのに緊張しない人だとは思う・・。
「美緒ちゃんは・・・・すごいね。」
「んーと,・・何がですか?。」
「行動力だよぅ。こんなところまで一人で来て。」
「いや・・そんなことは・・。」
「ヒロトの事、1年も思い続けてたの?ずっと好きだったの?」
「う・・どうかなぁ。わかりません。」
「わからないって??・・それでその行動力?」
「うん・・ちゃんとふられてなかったから。もう一度話をして、はっきりさせたかったというか。」
「ふられるのを確定するなんて嫌でしょ?塞ぎかけてる傷口をわざわざこじ開けることになるかもしれないのに。うやむやに終わったほうがましかだよ。」
「ううん・・場合によるとは思うけど、私は、終わりなら終わりって言ってもらった方がよかったと思う。そうでないと、次のこと考えられなかったから。」
「・・そか。それはやっぱり、好きだったんだねぇ・・。」
「・・そうかなぁ。新しい恋とか、できそうに思えなかったんですよね・・。」
「そうか~・・・ヒロトはホント悪いな。優柔不断なやつだ。それは今も変わらないけど。」
「優しすぎるのもダメですよね。」
「うふふふふ」
ふいにマキノさんが楽しそうに笑った。
「なんですか?」
「恋バナって言うんだね。こういうの。うふふふ。楽しいね。」
それを聞いて、今度は美緒のほうが笑えてきた。マキノさん、女子高生に戻ってる。
「じゃああの・・聞いてもいいですか?マキノさんって、どうやって結婚決めたんですか?」
「えー・・ええと・・。プロポーズしてくれたけど、なんかおかしかったの。」
「何がですか?」
「うちの旦那さん、直感型って言ったでしょ?プロポーズのセリフの順番間違えたんだって。」
「えー、どういうことですか?」
「まだプロポーズしてくれてもないうちにね、結婚したあとどうするこうするって先に考えてて、そのアイディアを私に話そうとして、先にプロポーズしなきゃって思い出したみたい。」
「へえ・・それってもう、気持ちが通じてたからとか?」
「そうかな、本人は野生のカンとか本能って言ってたっけかな・・・。」
「おつきあい長かったんですか?」
「いやいや・・初デートからプロポーズまで、実は、1か月足らずだよ・・。」
「ええ・・・まじですか。」
「あとから気づいて、自分でもびっくりしたよ。もうちょっと落ち着いて考えればよかった。あはははは。」
ひとしきり、おかしそうに笑ってからマキノさんは言った。
「でも、ずっと一緒にいたかったから嬉しかったよ。」
「そうですか・・いいですね。うらやましい。」
「でもいろいろ急だったから、戸惑うこともあった。」
「でしょうね・・。」
「ノロけていいなら言うけど、今、幸せだよ。半年経ったけど飽きてないしずっと一緒にいたいって思うよ。」
「半年?」
「うん。結婚して半年。」
「へー・・まだ新婚さんだ。」
「・・それにしても・・ヒロトは大変だな・・・。」
「家の事ですか?」
「ううん。そうじゃなくて・・。家の事なんて、ホントはなんとかなるんだよ。」
「なんとかなる?どういう意味ですか?」
「親の借金なんて、本来子どもには関係ないもの。」
「そうかな・・でも、家族だから・・。」
「財産は放棄することができるけど、そこよ。ヒロトの性格が大変なのよ。」
「・・・。」
「今度は美緒ちゃんのこと考え始めるでしょ?」
「私ですか・・?」
「あれね、ヒロトも美緒ちゃんが好きだったと思うよ。今日の話じゃなくて離れてた時もずっと。」
「そうですかね・・」
「うちに来てからしか知らないけど、彼女の気配とかまったくなかったし、若い女の子なんて避けてたし。」
「そうなんですか?」
「ふふ。だからね、突然現れた美緒ちゃんのこと守りたいと思ってると思う。だってあんなに送りがってたし。・・でも、よく考えてみたら自分の家は今大変な事になってるし・・美緒ちゃんにまで苦労を背負わせたくない。・・身を引こうと思ってる・・と、そんな感じかな。」
「・・・・。」
「バカだよね。」
「うん。バカですね。」
「・・・。」
「・・・。」
「美緒ちゃん,・・・自分の大事なものは、自分で・・守らないとダメだよ。」
「はい。」
「ヒロトがぶっ倒れても、・・自分は・・しっかりしていられるように・・」
「はい。」
「ヒロト・・バカだから・・・。」
うんそう。ヒロトは、バカなのだ。お人好しで、流されて、苦労をしょい込むのだ。
「・・わかってきましたよ。」
「・・ん?」
「わたし、ヒロトと離れてる間、もっと優しくしてあげたらよかったって思ってたけど。」
「・・うん。」
「そうじゃなくて、マキノさんみたいに、ピシッとするのがいいかなって。」
「・・ん。」
「明日が、楽しみになって来ました・・。」
「・・・。」
「ヒロトの頑張ってるところを見て・・・」
「・・・。」
「自分が何をできるのか考えます・・。」
「・・・。」
「マキノさん?」
「・・・。」
耳を澄ますと、スースーと規則正しい呼吸の音が聞こえる。
あらー・・。
今までしゃべってたのに、寝ちゃってる・・・。
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美緒は、くすっと笑ってスマホのアラームの時間をもう一度確認した。
時刻は12時半過ぎ・・。あの片づけを全部済ませて、おしゃべりしてこの時間に寝られるなら御の字だと思う。みんな段取りもいいし手際もいい。采配がいいのかな。
ヒロトがずっと勢いよく片付けてたのも無駄ではなかったってこと。
明日朝、ヒロトが5時半に迎えに来る・・。
身支度をしてお布団畳めばいいだけだから5時に起きれば十分か。
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