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67.号泣とキスと
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昨日からずっと、ヒロトが言ってくれるのか、私が言わなきゃいけないのか、言いたいのに言えなくて、モヤモヤしていたこと・・・。
言ったとたん微妙なバランスが壊れそうで、言えなかったこと。
それを、美緒は、突然はっきりと宣言した。
「好き。」
簡単な言葉だ。
昨日から・・お互い分かってるのに、分からないようなふりして、認めてなかった。
認めると、戻れなくなるから。
だから負い目のあるヒロトのほうが、言いだすのはハードルが高いとは思う。
それを乗り越えてくれたら、かっこよかったのになぁ。
でも、ヒロトの性格じゃ、無理かな。
・・一番言いたいこと。心から思っていることを相手に伝えるのって、・・勇気が要る。
ヒロトもさっき、同じことを言った。
ちゃんと受け止めてもらえなかったら、きっと傷ついてしまう。
すこし微笑んでから、言葉をつなぎ始めた。
ただ伝えるために。
「ヒロトが思ってるほど、わたしは、しっかり者じゃないんだよ。
弱虫だし。ずっとヒロトがいてくれたから、都会で一人でもがんばって来れた。
だからヒロトがいなくなってから、家の中はめちゃくちゃになっちゃった。
お掃除もできなくなって、何もやる気がなくなって、
しばらくはごはんも食べれなくて、やせちゃったし。
わたしがそんなに弱い子だって、知らなかったでしょ?」
「・・・。」
責めてるんじゃなくて、こうだったんだよって、知ってほしいだけなんだ・・。
自分の頬に手を当てて、笑顔になっていることを確かめた。
「私は、ヒロトが流されちゃう性格だって、よく知ってた。
彼女ができたって聞いたけど、断れなくてそっちへ行っちゃったんじゃないかなと思ったの・・・。
でも、ヒロトにとっては、私もその彼女もどっちでも同じで、ヒロトの横の席が彼女に入れ替わっちゃっただけかなって・・・自信がなくなっちゃったんだ。」
「・・・。」
「聞いてる? 手は動いてる?」
「聞いてるよ。」
「私はね。最初に同じグループになった時からずっとヒロトのこと好きだった。
一緒にいた6年間は、ヒロトにとっての私ってなんなのかなって考えてた。
長い時間つきあって、そろそろプロポーズしてくれたらいいのになって、待ってたんだよ。
・・・会わなくなってからの一年間だって・・・彼女できたって聞いても、
・・・他の・・他の誰も好きになれずに・・・それまでと同じように・・ううんいなくなって余計に、
ヒロトのことばっかり、好きだったんだよ。・・・突然一人ぼっちになって・・・。
すごく・・・すごくつらかったんだよ?」
勝手に涙があふれてきた。
「美緒、ちょっと待って・・。」
ヒロトが何か言いかけたが、もう言葉が止まらない・・。
「・・私、勇気出してここまできて、ホントによかったと思ってるんだ。
ヒロトに会えて、嬉しかった。
だって今も、好きだもの。だから来たんだもん。
ヒロトが昔と同じように優しかったからホッとしたよ。
財布を喜んでくれて、持って来てよかったって思った。」
ポロポロと涙があふれる。
「待ってってば・・。」
「浮気したのなんか、もうどうでもいいと思ってるし。
私が優しくしなかったから悪かったんだなって、反省してたんだもん。
借金のことなんか、よく知らないけど、お父さんのおかげで、ヒロトに会えて、
感謝しきれないから、返すの手伝ってあげてもいいって思ってるぐらいなんだよ。」
「美緒、待ってって。」
ヒロトは持っていた調理の道具をうまく置けずガチャガチャとシンクの中に落とした。
「ずっとずっと大好きだったんだよ。ヒロト。今でも・・。今も・・。」
「わかった。・・わかったからもう黙って・・・」
ヒロトが美緒を抱きしめた。
「悪かったよ・・ほんとに悪かった。」
「う・・う・・・」
・・もう・・抱きしめてはもらえないって、諦めてた・・。
来てよかった・・・勇気出して、来てよかった・・・。
「うあああん・・」
自分からもヒロトの背中に手を回してしがみつく。
「ああああん・・」
「ごめん。美緒 ごめん・・。」
・・ヒロトの腕は、記憶にあるよりも強い力で、自分の体をぎゅうぎゅうと抱いてくれている。
ヒロトの右肩に顔をうずめたまま文句を言った。
「ヒロトがぁぁ・・私を好きだって、言ってくれなぃぃ・・」
「言いたいんだよ。言いたいけど、言えないんだってば・・」
「言ってくれなぃぃぃ・・」
自分でも駄々っ子のようだと思った。でも止められない。
ずずーっと鼻をすすった。
「言わないとぉ・・ぅ・・泣き止まないからぁ・・・ぅぅ」
「わかったよ。言うよ。好きだよ。美緒が好きだよ。」
「うそぉ・・誰にだって優しいくせにぃ・・」
「・・・違うって・・オレだって、ずっと美緒に会いたかったんだって・・」
「うわああああああん・・・」
好きだって言った?
会いたかったって?
ほんと?
もっと。
もっと。
もっと言ってよ。
もっと・・
「請求しないと・・キスもしてくれなぁぃ・・ぃ・・。」
「せ、請求・・・」
「いちいち、・・いちいち、不器用・・なんだからぁ・・ぅ・・ぅ・・」
ヒロトが自分の肩から美緒の顔を引き剥がした。
涙と鼻水でボロボロだよぉぉ・・
「こんな顔ぉぉぉ・・見ないでよぉ・・ぅ・・。」
「酔っ払いが、からんでるみたいだよ、美緒・・」
困惑しきった顔で、まともな事を言わないでってば・・。
「う、うるさぁ・・ぃ・・。」
ヒロトの唇が、一瞬自分の唇にふれた。
「ぅ・・?」
そのままの距離で、ヒロトが言った。
「もう泣かないでくれよ・・・頼む・・・。」
そう言ってから、今度は深いキスをした。
「ぅ・・・ん・・・んん・・・。」
「・・・。」
脳が溶けるかもしれないと思った・・・。
泣いていたのか、怒っていたのか、嬉しかったのか、
何がなんだかよくわからなくなった。
唇が離れてもしばらくは声が出なかった。
ヒロトの呼吸が聞こえる、ヒロトの鼓動が伝わってくる・・。
もう離れたくない・・
ヒロトも同じように感じている?
そう、信じたい・・。
信じたいけど・・・。
だんだん呼吸が整ってきた。
照れもあって、ヒロトの肩に頬を乗せたままボソボソとさっきの文句の続きを言った。
「言ってからキスしてもらったって嬉しくない・・。」
「そう言われても・・・。」
「言われたら、したくなくてもやりそうだものヒロトは。」
「そんなことないって、オレにだって意志はある。」
「その意志をわかるようにしてくれないと。」
「むずかしいな。美緒は。」
「ヒロトがバカなんだよぅ。」
「わかってるよ。オレ、鈍感だし細かいことわかんないし。」
「・・バカ。」
「・・苦労しょい込むようなことになるかもしれんから、躊躇してるのに。」
「・・バカ。」
「じゃあ美緒が、オレにして欲しいこと言ってくれればいいじゃないか。」
「・・・こっちから言って何かしてもらっても嬉しくないんだって。」
「・・美緒、ホントに酔っぱらってるの?」
「もうっ・・・・じゃあ、私の言うことなんでもきくの?」
「きくよ。」
「私が間違ってもいいの?」
「いいよ。美緒の言う事なら、間違ってても信じる。」
「わっ・・・わたしを、・・・好きって言って。」
「好きだよ。」
「・・きっ・・きっ・・きっ・・キスして。」
ヒロトがさっきと同じように濃厚なキスをした。
「・・ん・・っ・・・」
・・・不覚だった。
自分から言っておいて・・
幸せすぎて・・頭がクラクラしてしまう。・・。
そのクラクラしている頭の片隅に、ヒロトの小さな声が聞こえた。
「・・なんだか尻に敷かれそうな気がするな・・。」
「・・な・・っ!?」
涙がひっこんだ。
「・・・タオルちょうだい。」
「はい。」
ヒロトはそれまでしっかりと抱いていた体を離して、畳んでカゴに積んであったタオルを一枚とって渡した。
美緒は、おもむろにごしごしと顔を拭いて、お化粧崩れちゃったよ・・とつぶやいた。
ヒロトのバカ。ほんとにバカ。
そして、
「時間に遅れちゃうよ? 次は何をしたらいいの? ヒロトも手を止めないでね。」
と言った。
― ― ― ― ―
午後2時頃に,美緒だけが歩いてカフェに戻ってきた。
「マキノさんありがとうございました。見学、おもしろかったですよ。」
「お・・おもしろかったの?」
「はい。わたしに何ができるのかしっかり見てきました。」
「ほほう。」
「ヒロトのお尻を叩くことと、ヒロトを私のお尻に敷けばいいってわかりました。」
「ぷっ・・・へぇ。」
美緒は、ヒロトの仕事の手伝いをしたあと、スーパーやお弁当の配達にもついて行ったらしい。
配達は、その日も千尋さんが来てくれていた。
「午後からは、にぎやかなおばちゃん達が4人来たので、ごあいさつしました。みたらし団子の仕込みをするのを、ヒロトと一緒に手伝いました。」
「あら、それはいいわ。あのおばちゃん達が味方だと心強いよ。」
「ヒロトとすっかり仲良しでしたね。」
「年配の人にウケがいいのよね。ヒロトは。ところで美緒ちゃん、コーヒーはいかが?」
「はい。いただきます。ヒロトが帰ってくるまでに、いろいろご報告を・・。」
「うんうん。ウフフ。昨日の話の続きだ。」
美緒は少し声のトーンを落として話し始めた。
「本当は、ヒロトの方から何か言うまで待ってようと思ったんだけど、今まで自分がしてきたことで引け目があるのか、すごく煮えきらなくて、私が先にキレちゃったんです。」
「キレた?怒ったの?」
「うふふ・・・かっこ悪いので言えませんけど、正直に気持ちをぶつけてるうちに、私泣いてしまって、それにうろたえたヒロトが、私の好きなようにしたらいいって。私の言うことを何でも聞くって言いました。」
「へー・・・。それはどういう意味?」
「たぶん・・深い意味はないと思いますよ。」
「・・・ヒロトらしいというか。」
「でも・・ヒロトは私でいいんだなって、思えました・・。」
「へえ。」
「でもね、ひどいんです。」
「何が?」
「ヒロトったら、尻に敷かれそうって、言ったんですよ!」
「ぶーーーーっ。なにそれ。」
「ぷふふふふ。」
「あはははは。」
ひとしきり笑ってからマキノが言った。
「・・あのさ、なんの意味もないって美緒ちゃん言ったけどさ、それってプロポーズと同義じゃないかな?」
「そう。・・・そう・・・とも取れるんですよね・・。プロポーズ待ってたんだよって私が言ったあとの言葉だったし。」
「ひゃー。やったじゃない。美緒ちゃん」
「いやいや。・・ヒロト自身は、結婚とか全然考えてないと思います。」
「あー・・まぁ、たぶんそうか。」
美緒は、ゆったりと笑っていた。
「私、しばらくは今の自分のお仕事を続けながら、ヒロトの手伝いをしにお休みのたびにここに通いたいと思ってるんですけど、いいでしょうか?」
「うん。いいよいいよ。なんなら毎週土曜日にきて、うちに泊まってもいいよ?」
「えっ‥いやそんなに甘えちゃい悪いですよ。・・でもたまに、マキノさんとはおしゃべりしたいな・・。」
「うふふふ・・。そうだね。」
「うん。」
美緒が嬉しそうに笑うのを見て、
からまっていた糸が、ひとつ、ほどけたんだな・・・と、マキノは思っていた。
言ったとたん微妙なバランスが壊れそうで、言えなかったこと。
それを、美緒は、突然はっきりと宣言した。
「好き。」
簡単な言葉だ。
昨日から・・お互い分かってるのに、分からないようなふりして、認めてなかった。
認めると、戻れなくなるから。
だから負い目のあるヒロトのほうが、言いだすのはハードルが高いとは思う。
それを乗り越えてくれたら、かっこよかったのになぁ。
でも、ヒロトの性格じゃ、無理かな。
・・一番言いたいこと。心から思っていることを相手に伝えるのって、・・勇気が要る。
ヒロトもさっき、同じことを言った。
ちゃんと受け止めてもらえなかったら、きっと傷ついてしまう。
すこし微笑んでから、言葉をつなぎ始めた。
ただ伝えるために。
「ヒロトが思ってるほど、わたしは、しっかり者じゃないんだよ。
弱虫だし。ずっとヒロトがいてくれたから、都会で一人でもがんばって来れた。
だからヒロトがいなくなってから、家の中はめちゃくちゃになっちゃった。
お掃除もできなくなって、何もやる気がなくなって、
しばらくはごはんも食べれなくて、やせちゃったし。
わたしがそんなに弱い子だって、知らなかったでしょ?」
「・・・。」
責めてるんじゃなくて、こうだったんだよって、知ってほしいだけなんだ・・。
自分の頬に手を当てて、笑顔になっていることを確かめた。
「私は、ヒロトが流されちゃう性格だって、よく知ってた。
彼女ができたって聞いたけど、断れなくてそっちへ行っちゃったんじゃないかなと思ったの・・・。
でも、ヒロトにとっては、私もその彼女もどっちでも同じで、ヒロトの横の席が彼女に入れ替わっちゃっただけかなって・・・自信がなくなっちゃったんだ。」
「・・・。」
「聞いてる? 手は動いてる?」
「聞いてるよ。」
「私はね。最初に同じグループになった時からずっとヒロトのこと好きだった。
一緒にいた6年間は、ヒロトにとっての私ってなんなのかなって考えてた。
長い時間つきあって、そろそろプロポーズしてくれたらいいのになって、待ってたんだよ。
・・・会わなくなってからの一年間だって・・・彼女できたって聞いても、
・・・他の・・他の誰も好きになれずに・・・それまでと同じように・・ううんいなくなって余計に、
ヒロトのことばっかり、好きだったんだよ。・・・突然一人ぼっちになって・・・。
すごく・・・すごくつらかったんだよ?」
勝手に涙があふれてきた。
「美緒、ちょっと待って・・。」
ヒロトが何か言いかけたが、もう言葉が止まらない・・。
「・・私、勇気出してここまできて、ホントによかったと思ってるんだ。
ヒロトに会えて、嬉しかった。
だって今も、好きだもの。だから来たんだもん。
ヒロトが昔と同じように優しかったからホッとしたよ。
財布を喜んでくれて、持って来てよかったって思った。」
ポロポロと涙があふれる。
「待ってってば・・。」
「浮気したのなんか、もうどうでもいいと思ってるし。
私が優しくしなかったから悪かったんだなって、反省してたんだもん。
借金のことなんか、よく知らないけど、お父さんのおかげで、ヒロトに会えて、
感謝しきれないから、返すの手伝ってあげてもいいって思ってるぐらいなんだよ。」
「美緒、待ってって。」
ヒロトは持っていた調理の道具をうまく置けずガチャガチャとシンクの中に落とした。
「ずっとずっと大好きだったんだよ。ヒロト。今でも・・。今も・・。」
「わかった。・・わかったからもう黙って・・・」
ヒロトが美緒を抱きしめた。
「悪かったよ・・ほんとに悪かった。」
「う・・う・・・」
・・もう・・抱きしめてはもらえないって、諦めてた・・。
来てよかった・・・勇気出して、来てよかった・・・。
「うあああん・・」
自分からもヒロトの背中に手を回してしがみつく。
「ああああん・・」
「ごめん。美緒 ごめん・・。」
・・ヒロトの腕は、記憶にあるよりも強い力で、自分の体をぎゅうぎゅうと抱いてくれている。
ヒロトの右肩に顔をうずめたまま文句を言った。
「ヒロトがぁぁ・・私を好きだって、言ってくれなぃぃ・・」
「言いたいんだよ。言いたいけど、言えないんだってば・・」
「言ってくれなぃぃぃ・・」
自分でも駄々っ子のようだと思った。でも止められない。
ずずーっと鼻をすすった。
「言わないとぉ・・ぅ・・泣き止まないからぁ・・・ぅぅ」
「わかったよ。言うよ。好きだよ。美緒が好きだよ。」
「うそぉ・・誰にだって優しいくせにぃ・・」
「・・・違うって・・オレだって、ずっと美緒に会いたかったんだって・・」
「うわああああああん・・・」
好きだって言った?
会いたかったって?
ほんと?
もっと。
もっと。
もっと言ってよ。
もっと・・
「請求しないと・・キスもしてくれなぁぃ・・ぃ・・。」
「せ、請求・・・」
「いちいち、・・いちいち、不器用・・なんだからぁ・・ぅ・・ぅ・・」
ヒロトが自分の肩から美緒の顔を引き剥がした。
涙と鼻水でボロボロだよぉぉ・・
「こんな顔ぉぉぉ・・見ないでよぉ・・ぅ・・。」
「酔っ払いが、からんでるみたいだよ、美緒・・」
困惑しきった顔で、まともな事を言わないでってば・・。
「う、うるさぁ・・ぃ・・。」
ヒロトの唇が、一瞬自分の唇にふれた。
「ぅ・・?」
そのままの距離で、ヒロトが言った。
「もう泣かないでくれよ・・・頼む・・・。」
そう言ってから、今度は深いキスをした。
「ぅ・・・ん・・・んん・・・。」
「・・・。」
脳が溶けるかもしれないと思った・・・。
泣いていたのか、怒っていたのか、嬉しかったのか、
何がなんだかよくわからなくなった。
唇が離れてもしばらくは声が出なかった。
ヒロトの呼吸が聞こえる、ヒロトの鼓動が伝わってくる・・。
もう離れたくない・・
ヒロトも同じように感じている?
そう、信じたい・・。
信じたいけど・・・。
だんだん呼吸が整ってきた。
照れもあって、ヒロトの肩に頬を乗せたままボソボソとさっきの文句の続きを言った。
「言ってからキスしてもらったって嬉しくない・・。」
「そう言われても・・・。」
「言われたら、したくなくてもやりそうだものヒロトは。」
「そんなことないって、オレにだって意志はある。」
「その意志をわかるようにしてくれないと。」
「むずかしいな。美緒は。」
「ヒロトがバカなんだよぅ。」
「わかってるよ。オレ、鈍感だし細かいことわかんないし。」
「・・バカ。」
「・・苦労しょい込むようなことになるかもしれんから、躊躇してるのに。」
「・・バカ。」
「じゃあ美緒が、オレにして欲しいこと言ってくれればいいじゃないか。」
「・・・こっちから言って何かしてもらっても嬉しくないんだって。」
「・・美緒、ホントに酔っぱらってるの?」
「もうっ・・・・じゃあ、私の言うことなんでもきくの?」
「きくよ。」
「私が間違ってもいいの?」
「いいよ。美緒の言う事なら、間違ってても信じる。」
「わっ・・・わたしを、・・・好きって言って。」
「好きだよ。」
「・・きっ・・きっ・・きっ・・キスして。」
ヒロトがさっきと同じように濃厚なキスをした。
「・・ん・・っ・・・」
・・・不覚だった。
自分から言っておいて・・
幸せすぎて・・頭がクラクラしてしまう。・・。
そのクラクラしている頭の片隅に、ヒロトの小さな声が聞こえた。
「・・なんだか尻に敷かれそうな気がするな・・。」
「・・な・・っ!?」
涙がひっこんだ。
「・・・タオルちょうだい。」
「はい。」
ヒロトはそれまでしっかりと抱いていた体を離して、畳んでカゴに積んであったタオルを一枚とって渡した。
美緒は、おもむろにごしごしと顔を拭いて、お化粧崩れちゃったよ・・とつぶやいた。
ヒロトのバカ。ほんとにバカ。
そして、
「時間に遅れちゃうよ? 次は何をしたらいいの? ヒロトも手を止めないでね。」
と言った。
― ― ― ― ―
午後2時頃に,美緒だけが歩いてカフェに戻ってきた。
「マキノさんありがとうございました。見学、おもしろかったですよ。」
「お・・おもしろかったの?」
「はい。わたしに何ができるのかしっかり見てきました。」
「ほほう。」
「ヒロトのお尻を叩くことと、ヒロトを私のお尻に敷けばいいってわかりました。」
「ぷっ・・・へぇ。」
美緒は、ヒロトの仕事の手伝いをしたあと、スーパーやお弁当の配達にもついて行ったらしい。
配達は、その日も千尋さんが来てくれていた。
「午後からは、にぎやかなおばちゃん達が4人来たので、ごあいさつしました。みたらし団子の仕込みをするのを、ヒロトと一緒に手伝いました。」
「あら、それはいいわ。あのおばちゃん達が味方だと心強いよ。」
「ヒロトとすっかり仲良しでしたね。」
「年配の人にウケがいいのよね。ヒロトは。ところで美緒ちゃん、コーヒーはいかが?」
「はい。いただきます。ヒロトが帰ってくるまでに、いろいろご報告を・・。」
「うんうん。ウフフ。昨日の話の続きだ。」
美緒は少し声のトーンを落として話し始めた。
「本当は、ヒロトの方から何か言うまで待ってようと思ったんだけど、今まで自分がしてきたことで引け目があるのか、すごく煮えきらなくて、私が先にキレちゃったんです。」
「キレた?怒ったの?」
「うふふ・・・かっこ悪いので言えませんけど、正直に気持ちをぶつけてるうちに、私泣いてしまって、それにうろたえたヒロトが、私の好きなようにしたらいいって。私の言うことを何でも聞くって言いました。」
「へー・・・。それはどういう意味?」
「たぶん・・深い意味はないと思いますよ。」
「・・・ヒロトらしいというか。」
「でも・・ヒロトは私でいいんだなって、思えました・・。」
「へえ。」
「でもね、ひどいんです。」
「何が?」
「ヒロトったら、尻に敷かれそうって、言ったんですよ!」
「ぶーーーーっ。なにそれ。」
「ぷふふふふ。」
「あはははは。」
ひとしきり笑ってからマキノが言った。
「・・あのさ、なんの意味もないって美緒ちゃん言ったけどさ、それってプロポーズと同義じゃないかな?」
「そう。・・・そう・・・とも取れるんですよね・・。プロポーズ待ってたんだよって私が言ったあとの言葉だったし。」
「ひゃー。やったじゃない。美緒ちゃん」
「いやいや。・・ヒロト自身は、結婚とか全然考えてないと思います。」
「あー・・まぁ、たぶんそうか。」
美緒は、ゆったりと笑っていた。
「私、しばらくは今の自分のお仕事を続けながら、ヒロトの手伝いをしにお休みのたびにここに通いたいと思ってるんですけど、いいでしょうか?」
「うん。いいよいいよ。なんなら毎週土曜日にきて、うちに泊まってもいいよ?」
「えっ‥いやそんなに甘えちゃい悪いですよ。・・でもたまに、マキノさんとはおしゃべりしたいな・・。」
「うふふふ・・。そうだね。」
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