67 / 110
67.号泣とキスと
しおりを挟む
昨日からずっと、ヒロトが言ってくれるのか、私が言わなきゃいけないのか、言いたいのに言えなくて、モヤモヤしていたこと・・・。
言ったとたん微妙なバランスが壊れそうで、言えなかったこと。
それを、美緒は、突然はっきりと宣言した。
「好き。」
簡単な言葉だ。
昨日から・・お互い分かってるのに、分からないようなふりして、認めてなかった。
認めると、戻れなくなるから。
だから負い目のあるヒロトのほうが、言いだすのはハードルが高いとは思う。
それを乗り越えてくれたら、かっこよかったのになぁ。
でも、ヒロトの性格じゃ、無理かな。
・・一番言いたいこと。心から思っていることを相手に伝えるのって、・・勇気が要る。
ヒロトもさっき、同じことを言った。
ちゃんと受け止めてもらえなかったら、きっと傷ついてしまう。
すこし微笑んでから、言葉をつなぎ始めた。
ただ伝えるために。
「ヒロトが思ってるほど、わたしは、しっかり者じゃないんだよ。
弱虫だし。ずっとヒロトがいてくれたから、都会で一人でもがんばって来れた。
だからヒロトがいなくなってから、家の中はめちゃくちゃになっちゃった。
お掃除もできなくなって、何もやる気がなくなって、
しばらくはごはんも食べれなくて、やせちゃったし。
わたしがそんなに弱い子だって、知らなかったでしょ?」
「・・・。」
責めてるんじゃなくて、こうだったんだよって、知ってほしいだけなんだ・・。
自分の頬に手を当てて、笑顔になっていることを確かめた。
「私は、ヒロトが流されちゃう性格だって、よく知ってた。
彼女ができたって聞いたけど、断れなくてそっちへ行っちゃったんじゃないかなと思ったの・・・。
でも、ヒロトにとっては、私もその彼女もどっちでも同じで、ヒロトの横の席が彼女に入れ替わっちゃっただけかなって・・・自信がなくなっちゃったんだ。」
「・・・。」
「聞いてる? 手は動いてる?」
「聞いてるよ。」
「私はね。最初に同じグループになった時からずっとヒロトのこと好きだった。
一緒にいた6年間は、ヒロトにとっての私ってなんなのかなって考えてた。
長い時間つきあって、そろそろプロポーズしてくれたらいいのになって、待ってたんだよ。
・・・会わなくなってからの一年間だって・・・彼女できたって聞いても、
・・・他の・・他の誰も好きになれずに・・・それまでと同じように・・ううんいなくなって余計に、
ヒロトのことばっかり、好きだったんだよ。・・・突然一人ぼっちになって・・・。
すごく・・・すごくつらかったんだよ?」
勝手に涙があふれてきた。
「美緒、ちょっと待って・・。」
ヒロトが何か言いかけたが、もう言葉が止まらない・・。
「・・私、勇気出してここまできて、ホントによかったと思ってるんだ。
ヒロトに会えて、嬉しかった。
だって今も、好きだもの。だから来たんだもん。
ヒロトが昔と同じように優しかったからホッとしたよ。
財布を喜んでくれて、持って来てよかったって思った。」
ポロポロと涙があふれる。
「待ってってば・・。」
「浮気したのなんか、もうどうでもいいと思ってるし。
私が優しくしなかったから悪かったんだなって、反省してたんだもん。
借金のことなんか、よく知らないけど、お父さんのおかげで、ヒロトに会えて、
感謝しきれないから、返すの手伝ってあげてもいいって思ってるぐらいなんだよ。」
「美緒、待ってって。」
ヒロトは持っていた調理の道具をうまく置けずガチャガチャとシンクの中に落とした。
「ずっとずっと大好きだったんだよ。ヒロト。今でも・・。今も・・。」
「わかった。・・わかったからもう黙って・・・」
ヒロトが美緒を抱きしめた。
「悪かったよ・・ほんとに悪かった。」
「う・・う・・・」
・・もう・・抱きしめてはもらえないって、諦めてた・・。
来てよかった・・・勇気出して、来てよかった・・・。
「うあああん・・」
自分からもヒロトの背中に手を回してしがみつく。
「ああああん・・」
「ごめん。美緒 ごめん・・。」
・・ヒロトの腕は、記憶にあるよりも強い力で、自分の体をぎゅうぎゅうと抱いてくれている。
ヒロトの右肩に顔をうずめたまま文句を言った。
「ヒロトがぁぁ・・私を好きだって、言ってくれなぃぃ・・」
「言いたいんだよ。言いたいけど、言えないんだってば・・」
「言ってくれなぃぃぃ・・」
自分でも駄々っ子のようだと思った。でも止められない。
ずずーっと鼻をすすった。
「言わないとぉ・・ぅ・・泣き止まないからぁ・・・ぅぅ」
「わかったよ。言うよ。好きだよ。美緒が好きだよ。」
「うそぉ・・誰にだって優しいくせにぃ・・」
「・・・違うって・・オレだって、ずっと美緒に会いたかったんだって・・」
「うわああああああん・・・」
好きだって言った?
会いたかったって?
ほんと?
もっと。
もっと。
もっと言ってよ。
もっと・・
「請求しないと・・キスもしてくれなぁぃ・・ぃ・・。」
「せ、請求・・・」
「いちいち、・・いちいち、不器用・・なんだからぁ・・ぅ・・ぅ・・」
ヒロトが自分の肩から美緒の顔を引き剥がした。
涙と鼻水でボロボロだよぉぉ・・
「こんな顔ぉぉぉ・・見ないでよぉ・・ぅ・・。」
「酔っ払いが、からんでるみたいだよ、美緒・・」
困惑しきった顔で、まともな事を言わないでってば・・。
「う、うるさぁ・・ぃ・・。」
ヒロトの唇が、一瞬自分の唇にふれた。
「ぅ・・?」
そのままの距離で、ヒロトが言った。
「もう泣かないでくれよ・・・頼む・・・。」
そう言ってから、今度は深いキスをした。
「ぅ・・・ん・・・んん・・・。」
「・・・。」
脳が溶けるかもしれないと思った・・・。
泣いていたのか、怒っていたのか、嬉しかったのか、
何がなんだかよくわからなくなった。
唇が離れてもしばらくは声が出なかった。
ヒロトの呼吸が聞こえる、ヒロトの鼓動が伝わってくる・・。
もう離れたくない・・
ヒロトも同じように感じている?
そう、信じたい・・。
信じたいけど・・・。
だんだん呼吸が整ってきた。
照れもあって、ヒロトの肩に頬を乗せたままボソボソとさっきの文句の続きを言った。
「言ってからキスしてもらったって嬉しくない・・。」
「そう言われても・・・。」
「言われたら、したくなくてもやりそうだものヒロトは。」
「そんなことないって、オレにだって意志はある。」
「その意志をわかるようにしてくれないと。」
「むずかしいな。美緒は。」
「ヒロトがバカなんだよぅ。」
「わかってるよ。オレ、鈍感だし細かいことわかんないし。」
「・・バカ。」
「・・苦労しょい込むようなことになるかもしれんから、躊躇してるのに。」
「・・バカ。」
「じゃあ美緒が、オレにして欲しいこと言ってくれればいいじゃないか。」
「・・・こっちから言って何かしてもらっても嬉しくないんだって。」
「・・美緒、ホントに酔っぱらってるの?」
「もうっ・・・・じゃあ、私の言うことなんでもきくの?」
「きくよ。」
「私が間違ってもいいの?」
「いいよ。美緒の言う事なら、間違ってても信じる。」
「わっ・・・わたしを、・・・好きって言って。」
「好きだよ。」
「・・きっ・・きっ・・きっ・・キスして。」
ヒロトがさっきと同じように濃厚なキスをした。
「・・ん・・っ・・・」
・・・不覚だった。
自分から言っておいて・・
幸せすぎて・・頭がクラクラしてしまう。・・。
そのクラクラしている頭の片隅に、ヒロトの小さな声が聞こえた。
「・・なんだか尻に敷かれそうな気がするな・・。」
「・・な・・っ!?」
涙がひっこんだ。
「・・・タオルちょうだい。」
「はい。」
ヒロトはそれまでしっかりと抱いていた体を離して、畳んでカゴに積んであったタオルを一枚とって渡した。
美緒は、おもむろにごしごしと顔を拭いて、お化粧崩れちゃったよ・・とつぶやいた。
ヒロトのバカ。ほんとにバカ。
そして、
「時間に遅れちゃうよ? 次は何をしたらいいの? ヒロトも手を止めないでね。」
と言った。
― ― ― ― ―
午後2時頃に,美緒だけが歩いてカフェに戻ってきた。
「マキノさんありがとうございました。見学、おもしろかったですよ。」
「お・・おもしろかったの?」
「はい。わたしに何ができるのかしっかり見てきました。」
「ほほう。」
「ヒロトのお尻を叩くことと、ヒロトを私のお尻に敷けばいいってわかりました。」
「ぷっ・・・へぇ。」
美緒は、ヒロトの仕事の手伝いをしたあと、スーパーやお弁当の配達にもついて行ったらしい。
配達は、その日も千尋さんが来てくれていた。
「午後からは、にぎやかなおばちゃん達が4人来たので、ごあいさつしました。みたらし団子の仕込みをするのを、ヒロトと一緒に手伝いました。」
「あら、それはいいわ。あのおばちゃん達が味方だと心強いよ。」
「ヒロトとすっかり仲良しでしたね。」
「年配の人にウケがいいのよね。ヒロトは。ところで美緒ちゃん、コーヒーはいかが?」
「はい。いただきます。ヒロトが帰ってくるまでに、いろいろご報告を・・。」
「うんうん。ウフフ。昨日の話の続きだ。」
美緒は少し声のトーンを落として話し始めた。
「本当は、ヒロトの方から何か言うまで待ってようと思ったんだけど、今まで自分がしてきたことで引け目があるのか、すごく煮えきらなくて、私が先にキレちゃったんです。」
「キレた?怒ったの?」
「うふふ・・・かっこ悪いので言えませんけど、正直に気持ちをぶつけてるうちに、私泣いてしまって、それにうろたえたヒロトが、私の好きなようにしたらいいって。私の言うことを何でも聞くって言いました。」
「へー・・・。それはどういう意味?」
「たぶん・・深い意味はないと思いますよ。」
「・・・ヒロトらしいというか。」
「でも・・ヒロトは私でいいんだなって、思えました・・。」
「へえ。」
「でもね、ひどいんです。」
「何が?」
「ヒロトったら、尻に敷かれそうって、言ったんですよ!」
「ぶーーーーっ。なにそれ。」
「ぷふふふふ。」
「あはははは。」
ひとしきり笑ってからマキノが言った。
「・・あのさ、なんの意味もないって美緒ちゃん言ったけどさ、それってプロポーズと同義じゃないかな?」
「そう。・・・そう・・・とも取れるんですよね・・。プロポーズ待ってたんだよって私が言ったあとの言葉だったし。」
「ひゃー。やったじゃない。美緒ちゃん」
「いやいや。・・ヒロト自身は、結婚とか全然考えてないと思います。」
「あー・・まぁ、たぶんそうか。」
美緒は、ゆったりと笑っていた。
「私、しばらくは今の自分のお仕事を続けながら、ヒロトの手伝いをしにお休みのたびにここに通いたいと思ってるんですけど、いいでしょうか?」
「うん。いいよいいよ。なんなら毎週土曜日にきて、うちに泊まってもいいよ?」
「えっ‥いやそんなに甘えちゃい悪いですよ。・・でもたまに、マキノさんとはおしゃべりしたいな・・。」
「うふふふ・・。そうだね。」
「うん。」
美緒が嬉しそうに笑うのを見て、
からまっていた糸が、ひとつ、ほどけたんだな・・・と、マキノは思っていた。
言ったとたん微妙なバランスが壊れそうで、言えなかったこと。
それを、美緒は、突然はっきりと宣言した。
「好き。」
簡単な言葉だ。
昨日から・・お互い分かってるのに、分からないようなふりして、認めてなかった。
認めると、戻れなくなるから。
だから負い目のあるヒロトのほうが、言いだすのはハードルが高いとは思う。
それを乗り越えてくれたら、かっこよかったのになぁ。
でも、ヒロトの性格じゃ、無理かな。
・・一番言いたいこと。心から思っていることを相手に伝えるのって、・・勇気が要る。
ヒロトもさっき、同じことを言った。
ちゃんと受け止めてもらえなかったら、きっと傷ついてしまう。
すこし微笑んでから、言葉をつなぎ始めた。
ただ伝えるために。
「ヒロトが思ってるほど、わたしは、しっかり者じゃないんだよ。
弱虫だし。ずっとヒロトがいてくれたから、都会で一人でもがんばって来れた。
だからヒロトがいなくなってから、家の中はめちゃくちゃになっちゃった。
お掃除もできなくなって、何もやる気がなくなって、
しばらくはごはんも食べれなくて、やせちゃったし。
わたしがそんなに弱い子だって、知らなかったでしょ?」
「・・・。」
責めてるんじゃなくて、こうだったんだよって、知ってほしいだけなんだ・・。
自分の頬に手を当てて、笑顔になっていることを確かめた。
「私は、ヒロトが流されちゃう性格だって、よく知ってた。
彼女ができたって聞いたけど、断れなくてそっちへ行っちゃったんじゃないかなと思ったの・・・。
でも、ヒロトにとっては、私もその彼女もどっちでも同じで、ヒロトの横の席が彼女に入れ替わっちゃっただけかなって・・・自信がなくなっちゃったんだ。」
「・・・。」
「聞いてる? 手は動いてる?」
「聞いてるよ。」
「私はね。最初に同じグループになった時からずっとヒロトのこと好きだった。
一緒にいた6年間は、ヒロトにとっての私ってなんなのかなって考えてた。
長い時間つきあって、そろそろプロポーズしてくれたらいいのになって、待ってたんだよ。
・・・会わなくなってからの一年間だって・・・彼女できたって聞いても、
・・・他の・・他の誰も好きになれずに・・・それまでと同じように・・ううんいなくなって余計に、
ヒロトのことばっかり、好きだったんだよ。・・・突然一人ぼっちになって・・・。
すごく・・・すごくつらかったんだよ?」
勝手に涙があふれてきた。
「美緒、ちょっと待って・・。」
ヒロトが何か言いかけたが、もう言葉が止まらない・・。
「・・私、勇気出してここまできて、ホントによかったと思ってるんだ。
ヒロトに会えて、嬉しかった。
だって今も、好きだもの。だから来たんだもん。
ヒロトが昔と同じように優しかったからホッとしたよ。
財布を喜んでくれて、持って来てよかったって思った。」
ポロポロと涙があふれる。
「待ってってば・・。」
「浮気したのなんか、もうどうでもいいと思ってるし。
私が優しくしなかったから悪かったんだなって、反省してたんだもん。
借金のことなんか、よく知らないけど、お父さんのおかげで、ヒロトに会えて、
感謝しきれないから、返すの手伝ってあげてもいいって思ってるぐらいなんだよ。」
「美緒、待ってって。」
ヒロトは持っていた調理の道具をうまく置けずガチャガチャとシンクの中に落とした。
「ずっとずっと大好きだったんだよ。ヒロト。今でも・・。今も・・。」
「わかった。・・わかったからもう黙って・・・」
ヒロトが美緒を抱きしめた。
「悪かったよ・・ほんとに悪かった。」
「う・・う・・・」
・・もう・・抱きしめてはもらえないって、諦めてた・・。
来てよかった・・・勇気出して、来てよかった・・・。
「うあああん・・」
自分からもヒロトの背中に手を回してしがみつく。
「ああああん・・」
「ごめん。美緒 ごめん・・。」
・・ヒロトの腕は、記憶にあるよりも強い力で、自分の体をぎゅうぎゅうと抱いてくれている。
ヒロトの右肩に顔をうずめたまま文句を言った。
「ヒロトがぁぁ・・私を好きだって、言ってくれなぃぃ・・」
「言いたいんだよ。言いたいけど、言えないんだってば・・」
「言ってくれなぃぃぃ・・」
自分でも駄々っ子のようだと思った。でも止められない。
ずずーっと鼻をすすった。
「言わないとぉ・・ぅ・・泣き止まないからぁ・・・ぅぅ」
「わかったよ。言うよ。好きだよ。美緒が好きだよ。」
「うそぉ・・誰にだって優しいくせにぃ・・」
「・・・違うって・・オレだって、ずっと美緒に会いたかったんだって・・」
「うわああああああん・・・」
好きだって言った?
会いたかったって?
ほんと?
もっと。
もっと。
もっと言ってよ。
もっと・・
「請求しないと・・キスもしてくれなぁぃ・・ぃ・・。」
「せ、請求・・・」
「いちいち、・・いちいち、不器用・・なんだからぁ・・ぅ・・ぅ・・」
ヒロトが自分の肩から美緒の顔を引き剥がした。
涙と鼻水でボロボロだよぉぉ・・
「こんな顔ぉぉぉ・・見ないでよぉ・・ぅ・・。」
「酔っ払いが、からんでるみたいだよ、美緒・・」
困惑しきった顔で、まともな事を言わないでってば・・。
「う、うるさぁ・・ぃ・・。」
ヒロトの唇が、一瞬自分の唇にふれた。
「ぅ・・?」
そのままの距離で、ヒロトが言った。
「もう泣かないでくれよ・・・頼む・・・。」
そう言ってから、今度は深いキスをした。
「ぅ・・・ん・・・んん・・・。」
「・・・。」
脳が溶けるかもしれないと思った・・・。
泣いていたのか、怒っていたのか、嬉しかったのか、
何がなんだかよくわからなくなった。
唇が離れてもしばらくは声が出なかった。
ヒロトの呼吸が聞こえる、ヒロトの鼓動が伝わってくる・・。
もう離れたくない・・
ヒロトも同じように感じている?
そう、信じたい・・。
信じたいけど・・・。
だんだん呼吸が整ってきた。
照れもあって、ヒロトの肩に頬を乗せたままボソボソとさっきの文句の続きを言った。
「言ってからキスしてもらったって嬉しくない・・。」
「そう言われても・・・。」
「言われたら、したくなくてもやりそうだものヒロトは。」
「そんなことないって、オレにだって意志はある。」
「その意志をわかるようにしてくれないと。」
「むずかしいな。美緒は。」
「ヒロトがバカなんだよぅ。」
「わかってるよ。オレ、鈍感だし細かいことわかんないし。」
「・・バカ。」
「・・苦労しょい込むようなことになるかもしれんから、躊躇してるのに。」
「・・バカ。」
「じゃあ美緒が、オレにして欲しいこと言ってくれればいいじゃないか。」
「・・・こっちから言って何かしてもらっても嬉しくないんだって。」
「・・美緒、ホントに酔っぱらってるの?」
「もうっ・・・・じゃあ、私の言うことなんでもきくの?」
「きくよ。」
「私が間違ってもいいの?」
「いいよ。美緒の言う事なら、間違ってても信じる。」
「わっ・・・わたしを、・・・好きって言って。」
「好きだよ。」
「・・きっ・・きっ・・きっ・・キスして。」
ヒロトがさっきと同じように濃厚なキスをした。
「・・ん・・っ・・・」
・・・不覚だった。
自分から言っておいて・・
幸せすぎて・・頭がクラクラしてしまう。・・。
そのクラクラしている頭の片隅に、ヒロトの小さな声が聞こえた。
「・・なんだか尻に敷かれそうな気がするな・・。」
「・・な・・っ!?」
涙がひっこんだ。
「・・・タオルちょうだい。」
「はい。」
ヒロトはそれまでしっかりと抱いていた体を離して、畳んでカゴに積んであったタオルを一枚とって渡した。
美緒は、おもむろにごしごしと顔を拭いて、お化粧崩れちゃったよ・・とつぶやいた。
ヒロトのバカ。ほんとにバカ。
そして、
「時間に遅れちゃうよ? 次は何をしたらいいの? ヒロトも手を止めないでね。」
と言った。
― ― ― ― ―
午後2時頃に,美緒だけが歩いてカフェに戻ってきた。
「マキノさんありがとうございました。見学、おもしろかったですよ。」
「お・・おもしろかったの?」
「はい。わたしに何ができるのかしっかり見てきました。」
「ほほう。」
「ヒロトのお尻を叩くことと、ヒロトを私のお尻に敷けばいいってわかりました。」
「ぷっ・・・へぇ。」
美緒は、ヒロトの仕事の手伝いをしたあと、スーパーやお弁当の配達にもついて行ったらしい。
配達は、その日も千尋さんが来てくれていた。
「午後からは、にぎやかなおばちゃん達が4人来たので、ごあいさつしました。みたらし団子の仕込みをするのを、ヒロトと一緒に手伝いました。」
「あら、それはいいわ。あのおばちゃん達が味方だと心強いよ。」
「ヒロトとすっかり仲良しでしたね。」
「年配の人にウケがいいのよね。ヒロトは。ところで美緒ちゃん、コーヒーはいかが?」
「はい。いただきます。ヒロトが帰ってくるまでに、いろいろご報告を・・。」
「うんうん。ウフフ。昨日の話の続きだ。」
美緒は少し声のトーンを落として話し始めた。
「本当は、ヒロトの方から何か言うまで待ってようと思ったんだけど、今まで自分がしてきたことで引け目があるのか、すごく煮えきらなくて、私が先にキレちゃったんです。」
「キレた?怒ったの?」
「うふふ・・・かっこ悪いので言えませんけど、正直に気持ちをぶつけてるうちに、私泣いてしまって、それにうろたえたヒロトが、私の好きなようにしたらいいって。私の言うことを何でも聞くって言いました。」
「へー・・・。それはどういう意味?」
「たぶん・・深い意味はないと思いますよ。」
「・・・ヒロトらしいというか。」
「でも・・ヒロトは私でいいんだなって、思えました・・。」
「へえ。」
「でもね、ひどいんです。」
「何が?」
「ヒロトったら、尻に敷かれそうって、言ったんですよ!」
「ぶーーーーっ。なにそれ。」
「ぷふふふふ。」
「あはははは。」
ひとしきり笑ってからマキノが言った。
「・・あのさ、なんの意味もないって美緒ちゃん言ったけどさ、それってプロポーズと同義じゃないかな?」
「そう。・・・そう・・・とも取れるんですよね・・。プロポーズ待ってたんだよって私が言ったあとの言葉だったし。」
「ひゃー。やったじゃない。美緒ちゃん」
「いやいや。・・ヒロト自身は、結婚とか全然考えてないと思います。」
「あー・・まぁ、たぶんそうか。」
美緒は、ゆったりと笑っていた。
「私、しばらくは今の自分のお仕事を続けながら、ヒロトの手伝いをしにお休みのたびにここに通いたいと思ってるんですけど、いいでしょうか?」
「うん。いいよいいよ。なんなら毎週土曜日にきて、うちに泊まってもいいよ?」
「えっ‥いやそんなに甘えちゃい悪いですよ。・・でもたまに、マキノさんとはおしゃべりしたいな・・。」
「うふふふ・・。そうだね。」
「うん。」
美緒が嬉しそうに笑うのを見て、
からまっていた糸が、ひとつ、ほどけたんだな・・・と、マキノは思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。
クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる