マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos

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68.年末のバタバタ

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マキノは、年内最後の朝市に来ていた。
12月28日は、曜日に関係なく最終市が行われ、毎年の恒例になっている。
陳列台には、カフェ・ル・ルポの商品と名乗ったヒロトの商品も並んでいる。
売れ行きはいつも通り、午前中には完売してしまうと思われる。
ヒロトがした仕事だが、今月分の売り上げは、とりあえずカフェで管理することになっている。

今日は、みたらしグループのほかにも、手作りこんにゃくを作っているおばちゃんグループが来ていて、串に刺したこんにゃくを炊いたり、できたての生板こんにゃくを出品していた。グループ同士、相互に交流があって楽しくやっているようだ。

マキノは、カフェで留守番しているスタッフに、串こんにゃくを買って帰ろうと思った。


年末に必要なこの土地ならではの野菜やしめ縄、お餅も並んでいる。地元の養鶏場から、新鮮な卵も出ているし、マキノは去年末にも、実家に持って帰りたくて、ここでいろいろ買い込んだことを思い出す。今年のお正月は、実家に帰ろうかな・・・とマキノは考えていた。


ヒロトはまだ工房だ。今日はおばちゃん達があの工房の大掃除を予定していたから、そのままつきあうつもりだろう。
道具類や台所は、うちが持ち込んだ道具が増えているけれども、ヒロトが毎日きちんと磨き上げているようで、おばちゃん達が週末だけを使っていた頃よりもきれいになっているように見えた。あと掃除が必要な事は台所以外の部屋と外回り。まだ31日まで台所は使うが、その分はヒロトがしっかりお掃除するはずだ。


マキノは店に戻ってきて、余分に買ってきた串こんにゃくを、留守番してくれていた遊と仁美さんと、カウンターに座っていた常連の近所のおじちゃん2人と、座敷に座っていた元気な年配女性3人組にも、どうぞと差し出した。彼女らは顔は見たことあるけど名前を知らない。
「あれ、私たちにもくださるの?悪いわね。」
「いえいえ、今年最後のサービスですよ。」
「ありがとう。」「いただきまーす。」
それぞれが串を手に取ってこんにゃくをかじった。

カフェのお店は今日が年内最後の営業で、明日はみんなで大掃除することになっている。


マキノは、いつもと変わりなく仕事をしている遊に、実家へ帰省の連絡をするように促した。
「遊は明日の掃除が終わったら、実家に帰りなさいよ。」
「えとー・・30日に自分の部屋を掃除するから、31日?」
「遊は・・どんどん予定を先送りするね。さっさと実家に帰りなさい。」
「追っ払わないでってば。オレお掃除、頑張るよ?留守番もするし。」

「ダラダラしたいだけのくせに・・。あ。そうだ、31日、ここでおせち作ろうかな・・・」
「もしかして、ヒロトもするの?」
「うん、・・うちのスタッフでいつも自宅で作ってる人に声かけたら、一緒に作ってくれるかな。」
「じゃあ、おれも手伝う・・」
「いや、だーから、遊はさっさと帰りなさいって!」
「いやいや。それをお土産に、元旦に帰るよ。」
「もー。お重もないのに、電車でどうやって持って帰るのよ。」
「えへへ・・・。」
「もう仲直りしてるんでしょ?何で帰りたがらないのかな。」

・・・困ったもんだなぁ。


「ところで、学校はいつからなの?」
「8日から。」
「じゃあ、それまで実家でゆっくりしてくれば?」
「いや、それはダメ。8日までに一度学校に行って、入試のこと相談するつもり。
「あらそう・・。試験っていつなの?」
「書類選考は終わった。あと面接だけ。」
「・・・あらそう。だからその面接っていつよ。」
「1月11日。」
「すぐじゃん。 合格発表は?」
「2週間以内に通知。」
「・・・合格したら、間髪入れずに入学金とかがいるんじゃないの?」
「うん。」
「ちょっとー・・、だからさ。ご両親にしっかり感謝を伝えてご挨拶をしなさいって。」
「もう、先に言ってあるよ。父さんもわかったって言ってたから。でもまだ合格してないじゃん。」
「・・合格は・・・するでしょ。」
「そうかなぁ。」
「むしろ卒業があやしいんじゃないの?」
「・・そう言われるとそうかもしれないけど、先生は大丈夫だって言ってるし。」
「甘いんじゃないの?その教師・・。」
「いいんだよ。オレよりもっと手ごわいやつがいっぱいいるんだから、オレ程度にかかりきってられないさ。」
「ふうん・・。」


遊は以前、卒業後ここから専門学校に通いたいようなことをちらりと漏らした気がするが、それ以来そんな話が出ることはなかった。
片道2時間余りを一人暮らしで通学するなんて、どう考えても現実的ではなかったのだが、今の遊なら根性と気合いでやりとげてしまいそうな気もした。


「それにオレさ、年が明けたら、ダブルデートってのに誘われてるんだよ。」
「えっ?」
「でも・・・なんか仕事の延長って感じなんだよね。」
「あっ・・わかった。真央ちゃん未来ちゃんか。」
「うん。それだよ。未来ちゃんが彼氏できたっぽい。けど、オレに一緒に来てくれって言うんだ。まぁ人数合わせなのはわかるけど、なんでオレなのさ。変だろ?彼氏の友達を連れてくりゃいいじゃん。」
「・・・。」

ちっとも変じゃないわ。と思うけど、口にはしない。
「遊は、未来ちゃんの彼氏と仲良くできそうなの?」
「こないだ来てたけど、しゃべってないし、わかんないな。」
「一日ぐらい、気が合わなくても我慢するのよ。空気が悪くなると未来ちゃんが困るんだから、気を遣ってあげてよ?」
「そんなことわかってるよ。オレは好青年。仲良くするよ。」
「遊は見た目チャラいからな。向こうが警戒してくるんじゃない?」
「え~、オレチャラいの?」
「茶髪テンパがね。そして、妙にイケメンなのが悪いんだよね。でも性格は極めて標準的というか、どっちかというと堅実だね。」
「イケメン?オレ、イケメン?・・そんで、性格は地味ってこと?」
「いや、全体に見て、結局、普通ってことだな。そして普通ってのはとても好ましいから。」
「・・・・。」
「とにかく、若者たちよ、存分に青春したまえ。」
「ちっちっ・・全然青春じゃないよ。」
「失礼なこと言っちゃだめ!」
「なんで失礼になるのさ。」

ああ・・・朴念仁がここにもひとり。

「ダブルデートを楽しみにする人がいるんだから、仕方ねえなぁとか、人数合わせとか、言わないように。」
「はいはい。でもオレ、やっぱり青春とは関係ないと思うん・・・」
「だから言わないように。」
「はいはい。」
「まぁとにかく、楽しんだらいいんだよ。」
「はいはい。」



― ― ― ― ―


29日は、カフェの最終日で大掃除。
敏ちゃんには、お給料を計算してもらって、みんなに渡せるように封筒に入れて用意してある。
換気扇。冷蔵庫の中。ガスコンロ回り。窓ふき。排水溝。厨房の床。裏庭。玄関先。外の溝。普段しないところを重点的に、分担してとりかかった。春樹も今日から冬休みに入っていて一緒に作業してくれている。たくさんの手があると、作業が進むのもあっという間だ。残っている材料の整理を兼ねて簡単なランチを作って、みんなで食べてからお給料を渡すことにした。

遊は午後から下の階のお風呂と自分の部屋を掃除するらしい。
真央ちゃんと未来ちゃんがおもしろがって、遊の部屋を含む下の階の掃除をすると言う。
「してもらったらいいんじゃないの?変なもの持ってるなら先に隠しときなさいよ。」
「そんなのないよ!」


ヒロトは年内まだスーパー出しがあるので午前中は工房に行っていて、それが終わってからの参加だ。
ヒロトが戻ってくると、マキノは声をかけた。
「おかえりお疲れさま。一緒に食べようよ。体は楽になってきた?」
「弁当がないだけで、ずいぶん楽です。」
「美緒ちゃんとは連絡取ってる?」
「ぶっ?・・・はぁ。まぁ。」
ヒロトは言葉はにごしたが、まんざらでもないようだ。

「おせちのオードブルはどんな感じ?」
「大丈夫。進んでます。材料も急な注文でどうかなと思ってたんだけど、いつもの業者さんが今朝のうちに全部入れてくれました。正月向きのもの在庫整理したかったんじゃないかな。安かったし、面白い食材もあるよって、いろいろ教えてもらいました。工房ではすでに黒豆もやり始めてるし、田作りもできてます。」
「ガスコンロの数が足りなくない?」
「いや、火からおろして味が染み込んでいくから、明日スーパー出しと同時進行でやって、カフェに運びます。」
「私も手伝うよ。31日はお昼過ぎぐらいにはできてるといいかな。昨日の突然の思い付きだったのに、意外と注文集まったよね。朝市のおばちゃん達さまさま・・半分は身内だけど。お弁当感覚かな・・3000円って、値段設定もちょうど良いかもしれないね。安いかなーと思ったけど、ちょっと追加な感じがよかったのかもね。一日で食べきれるぐらいなのもいいし、本格的なおせちを作っちゃうと仕出し屋さんとか他のお店と競合しちゃうし。」
「そうっすね。できるだけ見栄えよくしますよ。正月らしく。」
「うん、ヒロト、頼りにしてるよ。」

ヒロトはマキノにそう言われて、照れくさそうに笑った。
その笑った顔が、今までと違って、心に余裕があるように見えた。

「ヒロト君・・・。年明けからヒロトが工房の会計管理するでしょ。」
「はい。」
「これから自分が頑張ったら頑張っただけ、扱う現金が増えてくると思うけど・・・しっかり線引きしないとダメだよ。」
「はぁ。プライベートとはちゃんと分けますよ?」
「ヒロトがお金に関してはきっちりするってことはよくわかってるよ。そうじゃなくて。」
「・・・?」
「家族の負債を自分も負うっていう心構えはいいけれど、ヒロトが稼いだ自分のお金から、自分の分はちゃんと取っといたほうがいいってこと。大事なご両親が苦しんでいても流されないように。有り金全部を渡しちゃダメ。少しでも自分の為に貯蓄しておくの。」
「はい・・。」
「私たちはもう、今後ヒロトの内面には積極的にかかわる気はないけど・・、ヒロトが幸せにできるかもしれない人を大事にするべきだからね。」
「はぁ・・。」
「ご両親もヒロトの幸せを願うはずなの。・・そうでない両親だったら捨ててよしだから。」
「はぁ・・。」
わかってんのかなこいつ・・・
「天秤にかけるとか、ヒロトが超苦手でしょ?」
「はぁ・・。」
「だからその、頼りない返事はやめてってば。」
「はぁ。あっ、はい。」


さて、お掃除もおわり、今年のカフェは、今日でおしまいだ。
「みなさん、お疲れさまでした。来年は4日から営業いたします。シフトは敏ちゃんが作ってくれてあります。来年もまた、よろしくお願いいたします。」
マキノが宣言して、主婦たちはお疲れお疲れと、各々の自宅へと帰って行き、若い連中はカフェの下の階へ顔を見合わせて笑いながらドタバタ降りて行った。


マキノは、それぞれを見送ってから、春樹とともに自宅の掃除をしに帰った。

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