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74.営業やってみます
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元旦から3日まで、ヒロトは美緒の部屋で過ごした。
31日の大みそかの日までガッツリ仕事で疲労を貯めていたはずのヒロトは、その3日で気力体力ともにすっかり回復したようだった。
ヒロトは、クリスマスのパーティーの日に遊の部屋に泊まったのがとても快適だったようで、カフェが始まる1日前から遊のいる下の部屋にお泊りセットを持参すると言っていた。スーパーとお弁当が始まるまでに、カフェの営業が軌道にに乗っていた方が気持ちいいからって。
年末、マキノさんに「また泊りにおいで」と言ってもらったので、この際甘えてしまおうと思う。
本当は、自分の仕事が始まるまでに、カフェの今年の初日からおじゃまして、これから先の話をしたかったのだが、今年に入ってカフェのリズムが整う事が大事だとヒロトが言っていたこともあり、次の土曜日まで我慢した。
ヒロトの父さんの負債の内訳も教えてもらった。
正直言って、その額に実感がわかない。
・・埋め尽くされそうな仕事の山を抱えてしまったして、途方に暮れているだけでは何も変わらないけれど、自分の手に届くところから片付けて行けば、いつの間にか少しずつ整理できていくんじゃないかしら。
千里の道も一歩から?・・そんなに甘くないといは思うけど、何もしないよりきっとマシ。
「それ以上増えないっていうのは、お母さんグッジョブだね。」
「そうなんだよ・・オレおふくろの心臓すげーなって思ったわ。」
「本当にもう増えない?別の意味でお父さんが。」
「これで増やすぐらいだったら、オヤジなんか車に詰めて本気でダムに放り込んでやる。」
「・・あはは。お父さん仕事あったんでしょ?」
「うん。こんなご時世に奇跡だよ。たまたま人が辞めてその後任を探してる会社があったことも、前の職場で仕事を世話してやろうと思ってくれる人がいたこともさ。ほんとありがたいよな。運が良かった。明日仕事始めか・・。ちゃんとするのかなぁ。やってくれないと首絞める。」
「大丈夫なんじゃない。」
「だといいけど。」
「でもなぁ、その給料全額でも、月々に返していく分にも足りないんだよな。」
「逃げ回ってマイナスになったり、仕事みつからなくて収入ゼロよりよっぽどいいじゃない。」
「まあそうだな。」
「月々に返していく分は最低限として、別にどかっとまとめて返せるように積み立てたいね。」
「できるかなぁ。」
「できるよ。ヒロトが寝ないで働くから。」
「ぐ・・・。」
「今度の土曜日にマキノさんちに言っていいか聞いてみる。」
「うん。マキノさんはめったに人を拒まないから、なるべく空気は読んで、無理は言っちゃダメだよ。」
「わかってる。わたし、マキノさん大好きになっちゃったよ。」
「・・うん。わかるよ。」
「これから、がんばろうね。」
「ああ。意地でも。」
「わたしも手伝う。」
「頼りにしてるよ。」
「・・うん。」
― ― ― ― ―
その次の週末、早朝から、クリスマスイブの日と同じように、美緒は電車とバスでるぽのカフェまでやってきた。
試食をヒロトに作らせて、千尋の運転で、スーパーの店舗や、その道中にあるコンビニや、小さな商店にも営業に行って、注文と契約をもらって回った。
ホームセンターで伝票やファイルと小さな金庫を買って、工房の分の管理を徹底できるようにやり方を考えた。だいたいのことはすべてマキノに相談して決めたことだし、すんなりと契約をもらえるのも、マキノの根回しと推しがあってのことだ。
千尋には午前中つきあってくれたことに礼を言って、そのあと土曜日にいっしょに作業しているおばちゃん達から、責任者の乃木阪さんに連絡を取って、お弁当とスーパーを手伝ってくれる人を募集しているという打診をした。
美緒は、限られた時間を有功に使って精力的に動いた。
おだんご作りを一緒にしているのが功を奏しているのか、おばちゃん達はみんなヒロトに対してフレンドリーだ。
お手伝いをして欲しいという話しをしていると、ヒロトのお弁当を自宅に配達してほしいという注文が取れたり、隣の町のスーパーまで配達するのなら、私の知り合いの売店にも置いてやってほしいという声が聞こえたり、仕事がみるみる増えてきた。
万事が順調に進んできているように見える。
注文が増えるのはいいけれど、大丈夫だろうか。
今までだけでも、結構仕事がきつそうだったけど・・。
・・ううん。大丈夫。
きっと、カフェの皆さんもおばちゃん達も、みんなヒロトを助けてくれる。
してくれたことにはきっちり対価を支払って、感謝の気持ちを忘れなければ、絶対大丈夫。
私も、手伝う!
カフェの仕事が終わる頃には、春樹さんも店に来やってきた。
マキノさんと遊君と私とヒロト、5人一緒にまかないの夕ご飯をいただくことになった。
やらなくちゃいけないことをしただけだったが、マキノさんが感心したようにねぎらってくれた。
「今日は美緒ちゃん大活躍だったね。」
「いえ、そんなことないです。おぜん立てができていたから・・その通りにさせてもらっただけですし。」
「その一歩って、なかなか動きだせないものなんだよ。」
「そうかな・・でも、自分が営業したことを自分が実行するわけじゃないので、なんだか責任とらないみたいでモヤッとします。」
「ああ、そうだね。その気持ちはわかるけどね。でも、ヒロトだから大丈夫と思うでしょ。」
「まぁ。・・そうですね。そうじゃないと言えないですねぇ。」
「・・さてじゃあ、美緒ちゃんのお給料どうしようか?」
「え?いらないですよ。勝手にやったことだから・・。」
「美緒ちゃんのやりたい事とうちのして欲しいことが一致して、美緒ちゃんが動いてくれたわけだから、報酬が発生しても当然と思うけど・・そうだな。ヒロトからお給料もらおうか?」
「いえ・・・。」
美緒は、黙々と夕ご飯を食べているヒロトの顔をちらりと見てから、すこし考える様子を見せた。
「んー・・と、差し出がましいかもすけど、私がやっていいなら、工房の経理のことしたほうがいいでしょうか・・。」
「経理?やってみようと思うなら遠慮しなくていいよ。きっちり分けられる方がこちらはありがたいから。きっと敏ちゃんは泣いて喜ぶよ。複雑になって頭抱えてたし。」
「週末だけでも・・大丈夫かな。」
「それは大丈夫だよ。平日はヒロトか千尋さんが伝票の管理をするから、あと必要なのは電卓だけ。ヒロトができればいいけど、片手間でいいかげんになるより、まとまった時間を使って一気にやってしまったほうがいい場合もあるね。」
マキノもヒロトの顔を見た。
「ヒロト君。あなたの仕事の話してるのよ。」
「はぁ。分かってます。頑張ります。」
「・・・なんか、実感がこもってないね。」
というマキノの言葉に、同意します。と反応してしまった。
マキノさんと顔を見合わせてため息をついた。
― ― ― ― ― ― ― ―
マキノは、春樹さんの車を自分のもののように、どうぞどうぞと美緒を乗せ、自宅へと一緒に帰ってきてまた、どうぞどうぞと招き入れた。
「すみません。甘えてしまって・・・。」
「いいよいいよ。大歓迎だよ。」
今日は帰ってくるのが早い時間だったので、前回よりも気分がゆったりだ。
「明日も早朝から工房にいくのでしょ?」
「うん、行きます。ヒロトが迎えに来てくれます。」
「そうかそうか。」
「あっ、あの。朝早いから、マキノさんには起きていただかなくても・・いつも通り過ごしてくださいね。」
「うん。私たちのことは、気を遣わなくてもいいよ。美緒ちゃん、何か飲む?」
「ありがとう。なんでも・・あっ、カフェでバタバタしてて忘れてたけど、お土産があるんですよ。」
「あら。なんだろ。」
美緒が持ってきたお土産はいちご大福だった。
「おおおっ!手作り??」
「餡は市販のだから。手作りとは言わないと思うけど。」
「やっぱり手作りじゃない~。春はいちごだよねーなんて素敵なのー。」
お茶を用意するマキノに、美緒が尋ねてきた。
「マキノさん。参考にお聞きしたいんですけど・・・。」
「はいはい、なあに。」
「今の時点で、ぎりぎりヒロトが一人でできる仕事量だと思うんです。そして、量のわりに効率が悪いと思ってて・・、今後一気に増えるじゃないですか。」
「うん・・おばちゃん達は、うまく雇えそうだった?」
「はい・・乃木坂さんは好感触でした。」
「でも、黙々とひとりで仕事するのが好きみたいね。ヒロトは。」
「そうなんです。昔からキツイところを一人で頑張ってしまう。」
「・・・いい子だね。ヒロトは。」
「バカですよ。」
美緒は、そういうおバカなヒロトが愛しくて仕方ないように言った。
「そのことで・・個人によって全然力量が違いますでしょ、一部のおばちゃんだけを選んで雇っても問題ないないのかなってことと、配達も大変になってくるから、千尋さんの負担はどうなのかなってのも気になります。」
「んー・・そうだね。善意でするするって言ってくれても、速度にや仕上がりに差があったら同じ時給出すのに違うものね・・。」
「はい。」
「みたらし作りをだいぶ前からやってるから、乃木阪さんに聞けばどの人がいいか推薦してくれるかもしれないね。それと、研修期間の時間数を決めて、その間は時給低くしてもいいかも。」
マキノが淹れたお茶は甘いお菓子に合わせて玉露だった。
「・・お茶入ったよ。」
「ありがとうございます。」
「お・・白あんなんだね。」
「ホントだ・・。」
「これは、上品なお味だなあ・・。」
「よかった・・。」
先にお風呂の用意等をして戻ってきた春樹が会話に加わった。
「この作業をするといくらみたいな報酬の支払い方でもいいかもね。」
「なるほど。」
「分け方難しいかな・・。」
「このお茶いい香り~・・それに、いちご大福って誰が考えたんだろうね。天才だね。」
「うん・・。」
うふふ・・と笑ってから,少しためらいながら美緒は続けた。
「あのう・・この辺って、アパートとか借りられる部屋ってあるんでしょうか・・。」
「あら・・お引っ越し考えてるの?」
「いえ・・・それも参考に・・。今住んでいるところのお家賃高いし、交通費もかかるし。いずれこっちで仕事するなら自分の部屋が欲しいと思って・・。」
「美緒ちゃん,去年から今までの短い時間でそんなことまで考えたの?」
「いや・・短い時間で結婚決めたマキノさんには負けますよ。」
美緒は、照れたように笑った。
「先走り過ぎなのはわかってます。ヒロトと結婚や同棲するとかまで考えたわけじゃないんです。ヒロトにも人権ってものがあるしなんて言ういうかもわからないし。でもまぁ、そばにいたいとは思っているんです。」
「そっか。」
ああ・・・あんなヒロトを、こんなに好きでいてくれる女性がいたってことが感慨深いわ。これを泣かせるなんて、罰が当たるよ?ヒロト。
「スーパーはこれからどんな感じ?」
「ほぼ思惑通りOKがでました。開始のタイミングはお店によって少しずつずらしてお願いしたんです。だから徐々に増えていきます。工房から配達の経費を負担しなくちゃダメですよね。千尋さんの人件費も・・たくさんかかるのかな。」
「車の維持費のことはまぁ・・横に置いといていいよ。一応私の私物でもあるし、遊も使いたいみたいだし。千尋さん一人に毎日配達の責任持ってもらうのも申し訳ないかな。また、考えとくよ。」
「明日の朝、作業しながらヒロトとも相談します。しばらく試行錯誤でいいですか。またマキノさんいい考えがあったら教えてください。」
「うん・・。」
「なんか、目の前のあることだけでキャパ超えてしまってて・・、もっと将来のこともきっちり考えなくちゃいけないのに・・。」
「美緒ちゃんは、すごい頑張ってるよ。もうちょっと力抜いてもいいよ。」
その夜は、マキノはいつも通り春樹と一緒の部屋で休むことにして、美緒の世話はあまり焼かなかった。
もうお客さんではないからだ。
「この前使った部屋は、当分美緒ちゃん用ってことにしておくからね。自分でお布団おも敷いて、朝は自分で起きて行ってね。がんばれ。応援はがんがんするからね。」
「はい。ありがとうございます。」
マキノは、夜にはそう言ったが、美緒が出かける時間になるとやっぱり寝ていられなくて、朝食におにぎりを作って持たせた。
「すみません。お布団貸してもらえるだけで充分と思っていたのに、結局お世話をかけちゃって。」
「いいんだよこんなことぐらい。頑張ってね。」
「はい。寒いからもう中に入ってくださいね。」
「うん。」
時間通りにヒロトが迎えに来た。
「いろいろ大変かもしれないけど、しっかりしてねヒロト君。」
マキノはヒロトの車のお尻をてんと叩いて、クツクツと笑った。
「わかってますよ。」
「わかってないと思うけど、頑張ってね。」
ヒロトは、美緒の前向きな笑顔を乗せて「いってきます。」と走り去った。
31日の大みそかの日までガッツリ仕事で疲労を貯めていたはずのヒロトは、その3日で気力体力ともにすっかり回復したようだった。
ヒロトは、クリスマスのパーティーの日に遊の部屋に泊まったのがとても快適だったようで、カフェが始まる1日前から遊のいる下の部屋にお泊りセットを持参すると言っていた。スーパーとお弁当が始まるまでに、カフェの営業が軌道にに乗っていた方が気持ちいいからって。
年末、マキノさんに「また泊りにおいで」と言ってもらったので、この際甘えてしまおうと思う。
本当は、自分の仕事が始まるまでに、カフェの今年の初日からおじゃまして、これから先の話をしたかったのだが、今年に入ってカフェのリズムが整う事が大事だとヒロトが言っていたこともあり、次の土曜日まで我慢した。
ヒロトの父さんの負債の内訳も教えてもらった。
正直言って、その額に実感がわかない。
・・埋め尽くされそうな仕事の山を抱えてしまったして、途方に暮れているだけでは何も変わらないけれど、自分の手に届くところから片付けて行けば、いつの間にか少しずつ整理できていくんじゃないかしら。
千里の道も一歩から?・・そんなに甘くないといは思うけど、何もしないよりきっとマシ。
「それ以上増えないっていうのは、お母さんグッジョブだね。」
「そうなんだよ・・オレおふくろの心臓すげーなって思ったわ。」
「本当にもう増えない?別の意味でお父さんが。」
「これで増やすぐらいだったら、オヤジなんか車に詰めて本気でダムに放り込んでやる。」
「・・あはは。お父さん仕事あったんでしょ?」
「うん。こんなご時世に奇跡だよ。たまたま人が辞めてその後任を探してる会社があったことも、前の職場で仕事を世話してやろうと思ってくれる人がいたこともさ。ほんとありがたいよな。運が良かった。明日仕事始めか・・。ちゃんとするのかなぁ。やってくれないと首絞める。」
「大丈夫なんじゃない。」
「だといいけど。」
「でもなぁ、その給料全額でも、月々に返していく分にも足りないんだよな。」
「逃げ回ってマイナスになったり、仕事みつからなくて収入ゼロよりよっぽどいいじゃない。」
「まあそうだな。」
「月々に返していく分は最低限として、別にどかっとまとめて返せるように積み立てたいね。」
「できるかなぁ。」
「できるよ。ヒロトが寝ないで働くから。」
「ぐ・・・。」
「今度の土曜日にマキノさんちに言っていいか聞いてみる。」
「うん。マキノさんはめったに人を拒まないから、なるべく空気は読んで、無理は言っちゃダメだよ。」
「わかってる。わたし、マキノさん大好きになっちゃったよ。」
「・・うん。わかるよ。」
「これから、がんばろうね。」
「ああ。意地でも。」
「わたしも手伝う。」
「頼りにしてるよ。」
「・・うん。」
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その次の週末、早朝から、クリスマスイブの日と同じように、美緒は電車とバスでるぽのカフェまでやってきた。
試食をヒロトに作らせて、千尋の運転で、スーパーの店舗や、その道中にあるコンビニや、小さな商店にも営業に行って、注文と契約をもらって回った。
ホームセンターで伝票やファイルと小さな金庫を買って、工房の分の管理を徹底できるようにやり方を考えた。だいたいのことはすべてマキノに相談して決めたことだし、すんなりと契約をもらえるのも、マキノの根回しと推しがあってのことだ。
千尋には午前中つきあってくれたことに礼を言って、そのあと土曜日にいっしょに作業しているおばちゃん達から、責任者の乃木阪さんに連絡を取って、お弁当とスーパーを手伝ってくれる人を募集しているという打診をした。
美緒は、限られた時間を有功に使って精力的に動いた。
おだんご作りを一緒にしているのが功を奏しているのか、おばちゃん達はみんなヒロトに対してフレンドリーだ。
お手伝いをして欲しいという話しをしていると、ヒロトのお弁当を自宅に配達してほしいという注文が取れたり、隣の町のスーパーまで配達するのなら、私の知り合いの売店にも置いてやってほしいという声が聞こえたり、仕事がみるみる増えてきた。
万事が順調に進んできているように見える。
注文が増えるのはいいけれど、大丈夫だろうか。
今までだけでも、結構仕事がきつそうだったけど・・。
・・ううん。大丈夫。
きっと、カフェの皆さんもおばちゃん達も、みんなヒロトを助けてくれる。
してくれたことにはきっちり対価を支払って、感謝の気持ちを忘れなければ、絶対大丈夫。
私も、手伝う!
カフェの仕事が終わる頃には、春樹さんも店に来やってきた。
マキノさんと遊君と私とヒロト、5人一緒にまかないの夕ご飯をいただくことになった。
やらなくちゃいけないことをしただけだったが、マキノさんが感心したようにねぎらってくれた。
「今日は美緒ちゃん大活躍だったね。」
「いえ、そんなことないです。おぜん立てができていたから・・その通りにさせてもらっただけですし。」
「その一歩って、なかなか動きだせないものなんだよ。」
「そうかな・・でも、自分が営業したことを自分が実行するわけじゃないので、なんだか責任とらないみたいでモヤッとします。」
「ああ、そうだね。その気持ちはわかるけどね。でも、ヒロトだから大丈夫と思うでしょ。」
「まぁ。・・そうですね。そうじゃないと言えないですねぇ。」
「・・さてじゃあ、美緒ちゃんのお給料どうしようか?」
「え?いらないですよ。勝手にやったことだから・・。」
「美緒ちゃんのやりたい事とうちのして欲しいことが一致して、美緒ちゃんが動いてくれたわけだから、報酬が発生しても当然と思うけど・・そうだな。ヒロトからお給料もらおうか?」
「いえ・・・。」
美緒は、黙々と夕ご飯を食べているヒロトの顔をちらりと見てから、すこし考える様子を見せた。
「んー・・と、差し出がましいかもすけど、私がやっていいなら、工房の経理のことしたほうがいいでしょうか・・。」
「経理?やってみようと思うなら遠慮しなくていいよ。きっちり分けられる方がこちらはありがたいから。きっと敏ちゃんは泣いて喜ぶよ。複雑になって頭抱えてたし。」
「週末だけでも・・大丈夫かな。」
「それは大丈夫だよ。平日はヒロトか千尋さんが伝票の管理をするから、あと必要なのは電卓だけ。ヒロトができればいいけど、片手間でいいかげんになるより、まとまった時間を使って一気にやってしまったほうがいい場合もあるね。」
マキノもヒロトの顔を見た。
「ヒロト君。あなたの仕事の話してるのよ。」
「はぁ。分かってます。頑張ります。」
「・・・なんか、実感がこもってないね。」
というマキノの言葉に、同意します。と反応してしまった。
マキノさんと顔を見合わせてため息をついた。
― ― ― ― ― ― ― ―
マキノは、春樹さんの車を自分のもののように、どうぞどうぞと美緒を乗せ、自宅へと一緒に帰ってきてまた、どうぞどうぞと招き入れた。
「すみません。甘えてしまって・・・。」
「いいよいいよ。大歓迎だよ。」
今日は帰ってくるのが早い時間だったので、前回よりも気分がゆったりだ。
「明日も早朝から工房にいくのでしょ?」
「うん、行きます。ヒロトが迎えに来てくれます。」
「そうかそうか。」
「あっ、あの。朝早いから、マキノさんには起きていただかなくても・・いつも通り過ごしてくださいね。」
「うん。私たちのことは、気を遣わなくてもいいよ。美緒ちゃん、何か飲む?」
「ありがとう。なんでも・・あっ、カフェでバタバタしてて忘れてたけど、お土産があるんですよ。」
「あら。なんだろ。」
美緒が持ってきたお土産はいちご大福だった。
「おおおっ!手作り??」
「餡は市販のだから。手作りとは言わないと思うけど。」
「やっぱり手作りじゃない~。春はいちごだよねーなんて素敵なのー。」
お茶を用意するマキノに、美緒が尋ねてきた。
「マキノさん。参考にお聞きしたいんですけど・・・。」
「はいはい、なあに。」
「今の時点で、ぎりぎりヒロトが一人でできる仕事量だと思うんです。そして、量のわりに効率が悪いと思ってて・・、今後一気に増えるじゃないですか。」
「うん・・おばちゃん達は、うまく雇えそうだった?」
「はい・・乃木坂さんは好感触でした。」
「でも、黙々とひとりで仕事するのが好きみたいね。ヒロトは。」
「そうなんです。昔からキツイところを一人で頑張ってしまう。」
「・・・いい子だね。ヒロトは。」
「バカですよ。」
美緒は、そういうおバカなヒロトが愛しくて仕方ないように言った。
「そのことで・・個人によって全然力量が違いますでしょ、一部のおばちゃんだけを選んで雇っても問題ないないのかなってことと、配達も大変になってくるから、千尋さんの負担はどうなのかなってのも気になります。」
「んー・・そうだね。善意でするするって言ってくれても、速度にや仕上がりに差があったら同じ時給出すのに違うものね・・。」
「はい。」
「みたらし作りをだいぶ前からやってるから、乃木阪さんに聞けばどの人がいいか推薦してくれるかもしれないね。それと、研修期間の時間数を決めて、その間は時給低くしてもいいかも。」
マキノが淹れたお茶は甘いお菓子に合わせて玉露だった。
「・・お茶入ったよ。」
「ありがとうございます。」
「お・・白あんなんだね。」
「ホントだ・・。」
「これは、上品なお味だなあ・・。」
「よかった・・。」
先にお風呂の用意等をして戻ってきた春樹が会話に加わった。
「この作業をするといくらみたいな報酬の支払い方でもいいかもね。」
「なるほど。」
「分け方難しいかな・・。」
「このお茶いい香り~・・それに、いちご大福って誰が考えたんだろうね。天才だね。」
「うん・・。」
うふふ・・と笑ってから,少しためらいながら美緒は続けた。
「あのう・・この辺って、アパートとか借りられる部屋ってあるんでしょうか・・。」
「あら・・お引っ越し考えてるの?」
「いえ・・・それも参考に・・。今住んでいるところのお家賃高いし、交通費もかかるし。いずれこっちで仕事するなら自分の部屋が欲しいと思って・・。」
「美緒ちゃん,去年から今までの短い時間でそんなことまで考えたの?」
「いや・・短い時間で結婚決めたマキノさんには負けますよ。」
美緒は、照れたように笑った。
「先走り過ぎなのはわかってます。ヒロトと結婚や同棲するとかまで考えたわけじゃないんです。ヒロトにも人権ってものがあるしなんて言ういうかもわからないし。でもまぁ、そばにいたいとは思っているんです。」
「そっか。」
ああ・・・あんなヒロトを、こんなに好きでいてくれる女性がいたってことが感慨深いわ。これを泣かせるなんて、罰が当たるよ?ヒロト。
「スーパーはこれからどんな感じ?」
「ほぼ思惑通りOKがでました。開始のタイミングはお店によって少しずつずらしてお願いしたんです。だから徐々に増えていきます。工房から配達の経費を負担しなくちゃダメですよね。千尋さんの人件費も・・たくさんかかるのかな。」
「車の維持費のことはまぁ・・横に置いといていいよ。一応私の私物でもあるし、遊も使いたいみたいだし。千尋さん一人に毎日配達の責任持ってもらうのも申し訳ないかな。また、考えとくよ。」
「明日の朝、作業しながらヒロトとも相談します。しばらく試行錯誤でいいですか。またマキノさんいい考えがあったら教えてください。」
「うん・・。」
「なんか、目の前のあることだけでキャパ超えてしまってて・・、もっと将来のこともきっちり考えなくちゃいけないのに・・。」
「美緒ちゃんは、すごい頑張ってるよ。もうちょっと力抜いてもいいよ。」
その夜は、マキノはいつも通り春樹と一緒の部屋で休むことにして、美緒の世話はあまり焼かなかった。
もうお客さんではないからだ。
「この前使った部屋は、当分美緒ちゃん用ってことにしておくからね。自分でお布団おも敷いて、朝は自分で起きて行ってね。がんばれ。応援はがんがんするからね。」
「はい。ありがとうございます。」
マキノは、夜にはそう言ったが、美緒が出かける時間になるとやっぱり寝ていられなくて、朝食におにぎりを作って持たせた。
「すみません。お布団貸してもらえるだけで充分と思っていたのに、結局お世話をかけちゃって。」
「いいんだよこんなことぐらい。頑張ってね。」
「はい。寒いからもう中に入ってくださいね。」
「うん。」
時間通りにヒロトが迎えに来た。
「いろいろ大変かもしれないけど、しっかりしてねヒロト君。」
マキノはヒロトの車のお尻をてんと叩いて、クツクツと笑った。
「わかってますよ。」
「わかってないと思うけど、頑張ってね。」
ヒロトは、美緒の前向きな笑顔を乗せて「いってきます。」と走り去った。
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