マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos

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77.融通がきかないね。

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「へっ・・?」
「何も言わないでっ!」
遊が何か言うまでに、今日の会話の調子と同じように、すこし強めに言いきった。
「あの・・・」
「・・ちょっとやってみたかったのっ!だから黙ってて。」
「はぃ・・・。」

心臓がバックバックしてる。
われながら、策が無さすぎる・・・。
でも、正直言って、よくやった、わたし。
うぁん・・泣きそうだよ・・。

「・・あ。」
遊が声を出した。
「黙ってて・・ってば・・。」
「いや・・雪が降ってきたからさ・・。」

「・・ホントだ。」
遊が立ち止まって、少しの間、雪が落ちてくるのを眺める。

「こっち、あまり雪はふらないよね・・・。」
あぁ・・遊の実家の方は、もっと降るんだね・・・。
故郷のこと思い出したのかな・・。

「・・雪は・・・なんか、いいね。」
真央は、そう言って遊の顔を見上げた。
遊が何か言いたげな顔で、自分を見下ろした。
自分は今どんな顔をしてるんだろ・・・。
「・・・。」

遊はあいまいに相槌を打つようにうなずいて、それ以上何も言わずまた歩きはじめた。

駅までの道は、短い。

とても短い。

でも、遊は、いつもより少し、ゆっくり歩いてる。

これ以上、言葉が出てこないけど、もういいことにする。

こうやって、遊に触れていられる時間を、大事にしたい・・。


明るい駅前まで来て、真央は、組んでいた腕をぱっとほどいた。
「この先の切符は、私が買うね。」
と笑った。

・・やってみたかったことは、やってみて気が済んだはずなので、なんでもないことにしなければいけない・・。

「・・・。」
遊は、何も言わなかった。


その後の電車の区間は、我ながら口数が少なかった。
かぶっていた「カフェ仲間」のお面がはずれかかって、本当のことしか話せない気がした。
せめて言葉は選ばなくちゃ・・。

「遊は・・・専門学校合格したら、るぽのカフェも卒業するんでしょ?」
こんな質問は、遊の心の底に触れそうな気がしたから、聞く勇気なんてないや・・と思っていた。
「うん・・・そうなるね。店を離れるのは、家を出る時よりも未練があるよ。」
「なんで?」
「自分の気持ちがよくわかんない。実家は居心地悪かったけど、あの店は居心地が良かった,・・・それだけのことかもしんない。」


電車を降りて、改札を出る。そして、コインパーキングまで歩く。
真央がバッグから財布を出して言った。
「ここも出すよ。」
「ダメだよ。真央、何言ってんだよ。」
「だって・・私が誘って来てもらったんだしさ・・」
「・・・・・。」
「っ!」
・・間違えたっ・・未来が誘ったんだった。
一瞬冷や水をかぶったような気持ちになる・・。
いや・・私たちが・・だからいいのか・・・あああ・・・。
もぅうう・・言ってしまいたい。
好きなんだよって・・・。
なんでぶちまけてしまわないのか、わからなくなってきた。
デートして、2人になって、腕まで組んで、まだ、ごまかさないといけないの・・


気持ちが整理できなくて、黙るしかなくなった。
このまま何も言わずにいれば、冗談にできる。
なんでもなかったことにできる。

遊は鈍感だから、今日腕を組んだりして「えっ?」って思ったかもしれないけど、そんなこと、あとからいくらでも言い訳できるのだ。
男の子と恋人どうしみたいに、腕組んでみたかったんだもん。
遊だったら、許してくれるって思ったから。
雰囲気を楽しめたわ。ありがとうって・・・。


心の中では山ほど言い訳しているが、言葉は出てこない。
助手席に座って、シートベルトをつける。
パーキングから出る時に精算の機械に横付けするのを見て、「遊は、運転上手になったね。」という言葉が出た。深く考えないほうが、ちゃんとおしゃべりできるんだ。
「そう?ありがとう。」
遊は、屈託なく笑った。
遊の笑顔で、張りつめていた気持ちが少し緩んだ。

「いろいろ思うことはあったけど・・やっぱ学校の近くで住んで、できるだけ通勤通学は短い方がいいよな。」
遊が、話題をさかのぼって、また話し始めた。
「そりゃそうだよ。」
「真央も、一人暮らしするんだろ?」
「うん。こんな田舎から通ってたら、人生の時間が損だと思って。」
「ふん・・・バイトするの?」
「する。何もかも頑張る。勉強もバイトも家事洗濯とかも。」
「えらいな。」
「まだ口だけだから、えらくないよ。」
「心構えだけでもえらいさ。」
「・・・遊もえらいよ。もうやってるじゃない。」
「そうかな。へへ。・・オレは素直だから、褒められると喜ぶよ。」

車は、真央の自宅の前に停まった。
とうとう・・家についてしまった・・・。
はぁ・・・心の中でため息をつく。

「今日は楽しかったよ。いろいろありがとう。」
「こちらこそ。楽しかったよ。またどこか行こうな。るぽ卒業までに。」
「・・うん。明後日の面接、頑張ってね。」
「おう。」

またいこうな・・と言われて、ふわっと温かい気持ちがふくらんで,
卒業までに・・と言われて、しゅんとしぼむ。
そこから先は・・。どうなるんだろう。
「じゃあまた、明日なー。」
「うん。またあした。」
遊が走り去って行く。

明日も会えるんだ。今日が最後でなくて・・よかった。



遊が乗った車を見送り、車のテールライトが消えた曲がり角をしばらく見つめて、しばらくしてようやく
「ただいま。」と玄関を開けた。
「おかえり~。たのしかった?」
母さんが話しかけてきた。
「うん・・・すごく楽しかった。楽しすぎて寂しくなった。」
「ふうん・・よかったね。よくわかんないけど。」
・・・ううう。こんなの誰にもわかってもらえない。
自分の部屋に入って努力してそっと戸を閉め、バッグを持ったままベッドにバタリところがった。






目の前に投げ出されて口が開きかかっているバッグから、遊にねだって買ってもらったエルモを出した。

ふわふわと、さわり心地がいい。
しばらく、ふにふにとエルモの感触を確かめていて、ふいに大声で泣きたいような気持ちになった。



ごめん・・・
言えなかった。

可哀想なのは、わたし。
わたしの理性が、ホントの気持ちが出てくるのを、止めちゃった。

伝えたかった。
伝えたかった。
伝えたかった。


なんで言わなかったの。
・・・・なんで告らなかったのおおお!
どうしてええええええええええ!!!
私のばかばかばかばかばか・・・
あああああああああ あたまのなかがぐちゃぐちゃだあああああ!!!

真央はベッドにころがったまま、足をバタバタとさせた。

・・・。

「まお!何を暴れてるの。」
部屋の前を通りかかった母さんが、ドアの外で言ってる。
真央は、ぴたりと動きを止めた。


・・でも、今日は一日中楽しくて、嬉しくて、ふわふわとして・・・。
幸せだったなぁ・・。


「はあああぁ・・。」

言えばよかったかもしれない・・・。
言わなくてよかったのかもしれない・・・。
もう、わかんない。

ルルル ルルル と スマホが鳴った。
少しドキッとしたけど、この呼び出し音は、未来だ。
むくっと起きて電話に出る。

「もしもし?」
『真央、どうだった?』
「なにがよ。未来こそどうだったのよ。」
『あのね・・私と直也君、真央の話ばっかしてたんだからね。』
「えー、なんでよ。」
『・・・本当はね、直也君は自分の友達をね、真央に紹介したかったんだって。』
「えっ・・」
『自信を持って紹介できるいい奴だって言ってた。クラスは違うけど真央のこと好きなんだって・・・本人の了解もらってないから名前は言えないけど、今日は私がどうしてもって言って遊を誘っちゃったから・・・遊がへんな奴だったら、やめとけって言うつもりだったんだって。』
「・・・。」
『真央、聞いてるの?』
「・・きいてるよ・・。」
『そりゃ遊は・・いい子だとわたしも思うよ。今日一日一緒に遊んで、直也君も遊のこと気に入ったみたいで、複雑だって言ってたし・・。』
「そんなこと突然言われてもわかんないよ・・。」
『まぁね・・。でも紹介されたからってすぐにつきあえとか、好きになれとか言ってるわけじゃないんだからさ・・ちょっとぐらい考えたりできない?』
「・・・。」
『真央がどうするにしても、私は・・応援するけどさ・・。』

つきあう・・という単語に反応して、真央は今日のことを思い出した。
遊と腕を組んで歩いた・・感覚がまだ残ってる。
いろんなシーンの、遊のしぐさが、表情が、声が、頭の中でぐるぐるとまわる。


「無理・・。考えられない。」

だって・・・遊は、今日一日、私といてくれた。

私を見て、私とおしゃべりして、私の事考えてくれてた。
ただの友達として・・だったかもしれないけど、やさしかった。

『・・真央。』

「自分でも思うよ・・別にいいじゃないって。遊なんて・・脈のなさそうなのやめて、他の子見ればって・・。」

『うん・・。』

「でも・・ダメなんだもん。」

『・・・わかるけど・・。でもね、真央。誰かが自分のいいところ見つけて好意をもってくれるって、すごく・・嬉しい事だと思わない?』

「うん。わかってる・・。」
『・・・』

「でも・・今は無理・・もう、どうしても他の人じゃダメだよ。」

『・・真央。』

「なんで・・ダメなんだろうね。好きになる気持ちって、融通利かないね・・。」

『・・・・好きなんだね遊のこと。』

未来にそう言われて、泣きたくなった。


母さんの声が聞こえた。
「まおー お風呂入りなさいよー。」

「未来ぅ・・また今度、話聞いて。母さんが呼んでるから行くわ。」
『うん。わかった。・・じゃあひとつだけ聞いていい?』
「うん。」

『私たちと別行動になった後も、真央は楽しかったの?』

「うん。・・告れなかったけど、すごく・・楽しかった。生きて来て一番うれしい日だった。」

『そう。・・よかった。』

「未来、今日はありがとうね。じゃあまた明日。」

『うん。また明日ね。』


真央は、母さんから呼ばれているのはわかっていたが、部屋から出る気にならなかった。

「ああああ・・だって、他の人じゃ、ダメなんだもん・・・うぅぅ・・・。」

うめきながら、もう一度ベッドにころがり枕に顔をうずめた。


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