マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos

文字の大きさ
11 / 67
御芳にて

もてなす

しおりを挟む
マキノはリョウちゃんをそのまま家まで連れて帰って、リュックをおろすように勧めた。
日が傾いてきて、エアコンも効き始めて、暑さがちょっとマシになった。

「さっき夕ご飯を作り始めてたからね。・・続きをするから、ちょっと待ってて。」
「・・はい。」

マキノはささがきゴボウの続きを始めた。
リョウちゃんものっそりと横に立ってマキノの手の動きを観察している。
「おもしろい?」
「うん。」
ゴボウをささがき終えて、次の作業に移るときに、はたと気がついた。

「汗かいたでしょ。ごはんはすぐできるからシャワーでも浴びる?お湯を張ろうか?お湯につかったほうが疲れとれるんじゃない?」
「シャワーで、いいです・・。」

 一度包丁を置いて、先にリョウちゃんをお風呂へと案内した。
「このシャンプーの匂い大好きなんだ。使ってね。タオルはこれ使えばいいよ。赤いのを回してしばらく待てば、ちょうどいいお湯が出るからね。」
「はい。」

 リョウちゃんがシャワーをしている間に、自分は台所仕事をどんどん進めていく。献立どうしよう。サクラも来るし、きんぴらと、豚バラこんにゃくと、お味噌汁だけではちょっと寂しい。何か追加しよう。野菜はコールスローがさっぱりしていいかな。マグロのおさしみが冷凍庫にあった。足りなければ、お素麺でもゆがこうか。
 キャベツを切って塩を振りしばらく置く。しんなりしてきたら、水分をギュッと絞ってハムとマヨネーズとはちみつであえたらコールスローのできあがり。こんにゃくは手でちぎってアクを抜きフライパンでちりちりと炒める。豚肉を投入して調味料を加えて水分が飛ぶまで炒める。簡単なレシピだが結構おいしいのだ。いつのまにかリョウちゃんがシャワーから戻っていて、さっきと同じように台所でつったったままマキノの動きを見学している。

「もうすぐできるから、テレビでも見てる?」
 リモコンを渡したが、リョウちゃんはそのまま台所に居座った。
 マキノは、リョウちゃんの動向は気にも留めずにそのまま作業を続ける。さっきささがいたゴボウは、牛コマも投入して炒め煮にして仕上げ。次は、スライサーでしゃしゃっと大根のつまをこしらえて、半解凍にしたお刺身を切ってバランの上に盛り付けた。庭で青シソを育てておけばよかったなぁと思いついた。そして、なめこのお味噌汁。そうめんの出汁は市販のものだけど、県内産のお素麺は細くて腰があっておいしい。
 サクラが嬉しそうに食べる顔が思い浮かんで、先に自分が嬉しくなってきた。

「リョウちゃん。ごはんですよ。」
「・・はい。」
 相変わらずリョウちゃんは口数が少ない。・・でも、最初よりはずいぶん表情が柔らかい。
「いただきます。」
「い・・いただきます。」
 マキノがいただきますの挨拶をして、もぐもぐと食べ始めると、リョウちゃんもそのあと小さな声で真似をして、もそもそと食事を口へと運び始めた。
「これ、おいしいです。」
 こんにゃくを口の中でもごもごとかみしめながら、リョウちゃんが言った。そういえば、自分から口を開いたのは今が最初かもしれないな。ごはんは気に入ったのかな。
「それはありがとう。たんとおあがり。」
 リョウちゃんが食べているのを見ていると、お母さんになったような気分になってきた。

 そのままふたりとも寡黙に食事を終えて、しばらくすると、サクラがたどりついた。
「こんばんはー。ごめんくださーい。」
丁度その時、マキノとリョウちゃんは、食後の夏みかんをむいていた。
「リョウちゃん心配したよ~。ここがマキノの新居かぁ。あ、お世話になったね、ありがとう。」
「どういたしまして。」
「ここは、車が横付けできていいねぇ。」
「地面が広いのが取り柄なの。畑をつぶせばもっと停められるけどね。サクラちゃんも、ごはんはいかが?」
「えっ、いいのー!」

 マキノがサクラのために取ってあった料理を冷蔵庫から出して、目の前に並べ始めると、サクラの目がキラキラと輝いた。
「うっはー。素敵・・。」
 会社の近所で一人暮らしをしていた時と同じように、サクラはあたりまえのごとく食卓に座って「いただきまーす。」と、次々と口に放り込み始めた。
 そして食べながら、マキノにはリョウちゃんのことを簡単に説明した。

 サクラのお母さんと、リョウちゃんのお母さんと、今回リョウちゃんが滞在する予定だったO市のおばさんとが、三姉妹で、リョウちゃんは夏休みの間、おばさんちで過ごす予定になっているのだ。
 サクラは、お刺身を食べ、豚コンニャクを食べ、ごはんをかきこんで、コールスローを食べ、お味噌汁を飲んだ。
 食べる勢いが素晴らしい。スポーツマンみたい。

「サクラちゃん、ちゃんと噛んで食べようね・・。」
「んんん。わがっでるぅ。」
サクラは食事を終えて冷たい麦茶を飲みほした。
「ぷはー。ああおいしい。マキノのお料理好きだわぁ。」
「はいはい、それはどうもありがとう。」
「早くカフェ開業すればいいのに。」
「いやいや・・まだノウハウ積めてない気がするのよね。ここの改装資金も足りないし。」

 マキノはサクラに、保健所でもらった要項をサクラに見せた。
 サクラは、しばらくその書類に目を通して「ふむ。」とひとつうなずいて、自分の座っている場所からぐるっと部屋を見渡した。
「何か書くモノ、紙と鉛筆貸して。」
 サクラは、マキノからルーズリーフと鉛筆を受け取ると、おもむろに立ち上がって間取りを描きながら家の中をぐるぐるとまわりはじめた。
「ふーん。・・・・これってさ、トイレだけお客さんも使えるようになんとかして、調理場と、こことを区切れるようにドアをつければ、いいだけじゃないかな。」
「えっ。なんて?」
 サクラは、さらさらと現状の間取りをラフに書いたあと、いくつかの線を入れた。

「サクラさんて、どうしてそんな正確な図が書けるの?そんな才能初めて知ったよ。」
「才能かどうか知らないけど、物や建物の配置とか質量とか空間を把握するのがね、わりと得意なのよ。わたし。」
「それは、ええと、動物的なあれかな・・帰巣本能的な。」
「何言ってんの。ほらこれ見て、その要項に書いてある条件だけなら、こことここだけ、なんとかすればとりあえずは営業の許可は下りるね。」
「あ、ほんとだ。でも調理場とか座敷とか、今のままだと使い勝手悪いし・・。」
「本格的にやらなくても、週末だけっていうのもありじゃない?」
「週末営業・・・そ、そうか。その手もあるのか・・。」
一瞬、ちらりと何かが見えた気がした。

「でも、どうせ改装するなら、部分部分を少しずつするより、一気にやったほうが効率はいいから、そこんとこはよく考えたほうがいいかもしんないね。」
 サクラの意外な才能に驚きつつ、視点を変えて家の中を見まわす。自分が考えている以外にも、いくつも方法はあることに気づかされた。サクラの言葉は、会社を辞めてカフェを始める時も背中を押してくれたのだ。本人にはそんな自覚はないだろうが・・。
 マキノは、サクラの書いた図と家の中をもう一度見比べた。

 あ・・。ふと、横でテレビを見ていたリョウちゃんが目に入った。
 サクラとの話が弾んで、つい引き留めてしまったが、リョウちゃんも疲れているのか眠そうだ。そういえば、サクラもリョウちゃんを送ってこれから自宅まで長距離を運転しなきゃいけないのだった。

「明日は日曜日だし、二人とも泊まってく?」
「えーいいの?!遠慮しないよ? ね。リョウちゃん。」
「・・うん。」
「じゃあサクラちゃんのパジャマ代わりのTシャツ、出してあげるよ。リョウちゃんはお着替えあるんでしょ?保護者さん達にも連絡入れてね。」
「サンキューサンキュー。」

 サクラは調子よくうなずきながらスマートフォンの文字をスタタタと打った。
 お泊りを提案しておきながら、夜具が揃っていないので、マキノは、隣の座敷にマットレスや座布団や敷布団をいろいろと敷いて、タオルケットや肌布団や大きめのバスタオルを引っ張り出してきた。
サクラがそれを見て、楽しそうにクスクスと笑った。
「おもしろそうだねぇ。」
「ひとり暮らしゆえ、まともな夜具はそろってませんよ。すみませんね。」
「夏なんだからなんでもいいよ。」
「迷子になって疲れてるでしょ。今日は早く寝ちゃおう。」
「うんうん。それがいい。」

その日は、さっさと片づけを済ませて、川の字になって寝ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...