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御芳にて
秋刀魚
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朝食を食べ終えたリョウは、菜箸を受け取り、揚げ油の鍋の前に躊躇なく立つ。
乱切りにしたサツマイモはキッチンペーパーでちゃんと水気を吸い取って、中華鍋の端から油にすべらせていく。すぐにじょわわーっと泡が出てくる。
「水分はちゃんと拭き取っておかないと油がはねて危ないからね。あがったらこっちのトレイにあげていって。」
「はーい。」
マキノは、別のお鍋に砂糖と水と少しのしょうゆをたらして飴の用意をする。飴をからめたら火からおろしてすぐにバラバラに冷ますので、先にクッキングペーパーを広げて準備万端にした。すばやくしないと一つずつがくっついてしまう。
「泡が少なくなっておイモがふっくらして来たらあげていいよ。新しい油は焦げ目がわかりにくいから。」
「うむ・・」
リョウがトレイに揚がったイモを並べ始めた。全部が揚がったところで、飴のお鍋の火を少し強くしていく。サラサラだった液体がとろんとなってきて、べっこう色に変わりかけたところへ、イモを全部投入。お鍋を振ってざっざざっざと全体に飴をまぶす。そして飴が充分からんだらすばやくクッキングペーパーに並べた。
「熱いうちに食べてもいいけど、やけどに気をつけて。」
「う・・うん。」
リョウが、おイモを一つずつばらして冷ましている間に、マキノはイズミさんに電話でお伺いを立てた。いくつかのパックに大学イモを詰めてから二人はイズミさんのお宅へと向かった。
国道を駅方面へ走って、いつもの朝市の空き地の前を通り過ぎてペンション・ポムドテールへ行くまでの途中で、左に折れると、すぐの家だ。
どうぞあがっていえいえここで結構ですの押し問答のあと、玄関先に立ったままイズミさんに大学イモをおしつけて、お芋ほり大会にお誘いした。
「サツマイモは嬉しいわね。最近この辺では潰滅状態だもの。」
イズミさんの一存で、軽トラックのことも、ご主人が使わない水曜日に貸してくれることになり、明後日にはマキノの車と交換しておくことになった。
次は、ペンション・ポムドテールへと向かった。今日のお客さんは2組だけでオーナー一人で充分対応できるらしい。ゆっくりしている奥さんに大学ポテトと数本のサツマイモを渡して、食材の仕入れのことを教えてもらいたいと伝えた。
「あら、ありがとう。自分で作ったの?マキノちゃん最近ずいぶん頑張ってるね。」
奥さんに勧められてロビーの応接セットに座って待っていると、紅茶とアップルパイが出てきた。
「これも手作りですか。」
「主人のね。」
こちらはシェフだから当然かもしれないが、達彦さんのクッキーにしても、最近クオリティの高い手作りのお菓子によく出会う。隣にいるリョウがそのパイを凝視していた。
「どうぞ召し上がってね。このお嬢ちゃんは妹さん?」
「いえ違うんですが。でも妹のようなものです。」
ポムのママさんはそれ以上気にせず、マキノの質問に答えて、生鮮食品や乾物、食器などの仕入れ先を気前よく教えてくれた。
「野菜はそこの朝市で買ったりできるけど、旬のものしかないでしょう。通年通して必要なものもあるし、品質の安定してる業者さんとは仲良くしておかなくちゃ。卸売市場は車で1時間ほどかかって毎日通うのはつらいでしょ。きのこ類はね、町内の生産業者が安くて物もいいよ。それからお米、県内産もおいしいの。地元産って謳うとウケがいいし、つながり作りで近所のお米屋さんで買えばいいと思う。配達もしてくれるしね。」
「なるほど。」
「それと、知り合いのパン屋さんを紹介してあげる。おいしいし卸値で分けてもらえるはずだから。値段は自分で交渉するといいんじゃないかな。」
「ぜひお願いします。ありがたいです。」
ケーキやパンは、少しは作れるけれど、商品として出すのであれば納得できるものを安定して作らなくちゃいけない。でも今そんな研究をしている余裕はない。あわてずに今できる最上の形を作ってから、いずれは自分でできることを試行錯誤すればいい。
ポムのママさんと話し込んでいて、しばらく存在を忘れそうになっていたが、リョウは?・・と見ると、とくに居心地悪そうでもなく、紅茶にはお砂糖とミルクをたっぷり入れて優雅にアップルパイをたいらげていた。これが好きなんだろう。じっと見てたしね。
「私またここにゆっくり遊びに来ます。ここのやり方は、いろいろ勉強になるから。」
「あら是非どうぞ。ヒマな時にお茶でもしましょ。」
「はい。ありがとうございます。」
マキノはとリョウは、ポムドテールをおいとまして、今度は違う方向へ車を走らせた。
「どこ行くの?大学イモは配り終わったんでしょ?」
怪訝そうにリョウがたずねる。
「リョウ、勉強は何が得意?」
「得意な物なんてないよ・・。」
「じゃあ、いつから学校に行ってなかったっけ?」
「・・・・。1年の、2学期。」
「勉強はどうしてた?」
「・・たまには、やってたよ。・・えー。それなにさ。なんだよぅ。」
わかりやすくぶすっとしたリョウを連れて向かったのは書店だった。そこで英会話の問題集を買ってから、スーパーで夕ご飯の買い物をして家に戻った。
「こんなところで勉強のことを思い出させるなんて・・。」
「こんなところってなんだよ。そもそもリョウは勉強道具は荷物に入ってるの?絵も描きたいんでしょう?サクラは道具を持って来てくれてた?」
「・・どっちも、あるけどさ。」
不機嫌そうなリョウのことは意に介さずに、買い物してきた食材を並べながらマキノは歌うような独り言をつぶやきながらせっせと夕飯の用意を始めた。
「今日の夕ご飯は、和食かな~。サンマ~。大根おろし~。サラダ・・はポテトサラダ~。それと、しめじとえのきのソテ~・・んーお味噌汁は何にしよう。」
「・・お豆腐。」
「うん。わかった。」
「・・・マキノは、なんだか機嫌がいいね。」
「うふふ。リョウは不機嫌になったね。リョウの顔見てたら、勉強したくなっちゃったんだから、今日はつきあいなさいよ。」
「いやだよ。」
「そんなこと言わずにつきあいなさいよ。」
「やだよ。」
「リョウ。・・アップルパイ好きでしょ。」
「え?」
「明日、作ってあげようか?」
「・・う?」
「そのために今日冷凍パイシートとシナモン買ったんだからね。ふふふ・・。」
「・・・ぅぅぅ。」
「よし決まり。リョウは、私がたてる予定につきあうこと。」
「えー・・」
「今日の夜、勉強したら。明日はアップルパイを焼く。焼き立てだよ。おいしいよ。」
「えー・・。」
「往生際悪いなぁ。ごはん作るのも手伝ってよ?そのあと自由時間あげるからさ。ほら。」
マキノは勝ち誇ったように笑って、リョウにも台所に立つように促した。
「リョウはさ、あれからおいしいごはんの食べ方実践してる?」
「ええと、どうやるんだっけ?」
「食べるまでに、自分にできうる限りのおいしそうな想像をするんだよ。」
「ああ、あれか。」
「今日の献立で、できる?」
「んー・・・・。わかんないよ。」
今日のリョウの役割分担は、おみそ汁の出汁のいりこの処理。大根おろし。サラダのきゅうりをスライサーでテケテケすること。きのこソテーの炒め役。以上だ。
「じゃあねぇ、私がサンマでやってみようか?・・ええとね、今秋でしょ?サンマが一番太ってて脂がのっておいしい季節なわけ。まずは塩をたっぷりすり込んで、しばらくなじませる。そうするとうまみが出るんだよ。水分が出てくるからそれをキッチンペーパーで拭いて、火が通りやすいように斜めに切り目を入れてね。
今日はグリルで焼くけど、七輪て知ってる?昔の人は炭をいこして網を乗せて、その上でパタパタとうちわであおいで焼いてたの。テレビで見たことない?赤くいこった炭の上で、サンマがだんだんと焼けてくるでしょ。脂が炭にぽたっと落ちてジュワジュワッ。煙がモクモクっ。そっと裏返すと皮がフクフクとふくれて焦げ目がついて、そしてまたうちわでパタパタパタ。煙は煙たいんだけど、その香りがサンマを包んで、ふくよかで、なんともいえない風味を与えるのよね~。炭火ならではよね。」
ごくり・・
「その焦げ目の上に、大根おろしのせて、お醤油をちょっとたらして一緒に食べるとおいしいよ。レモンをしぼってもいいなぁ。」
マキノはそう言いながら、冷蔵庫からレモンを取りだしてきた。
「わかったよ・・確かにおいしそうだよ。でもそんなにうまく想像できないってば。」
「経験の差だね。」
「食い意地の差だよ。」
「そうとも言う。おなかを減らして、いろいろ食べれば、おいしい経験が増えるよ。」
出来上がったお料理が並んだ。いただきますと挨拶をして向かい合ってお皿をつつく。
「ああ・・どうして大根おろしは焼き魚に合うんだろうなぁ。」
「おいしけりゃ、なんでもいいよ。」
「リョウ、お味噌汁いいお出汁がでてるよ。手間かけた甲斐があったね。」
マキノがずずっとみそ汁をすすると、リョウは不満げな顔をした。
「お料理って、めんどくさい。」
「そうだねぇ。めんどくさいねぇ。」
「マキノは、なんでお料理ばかりしてるの?」
リョウがもぐもぐと食べながら聞いた。
「めんどくさいけど、好きだから。リョウだって、絵を描くのは好きでしょ?でもずっと描き続けるのは面倒でしょ?」
「んー。そうかもしれないな。」
「気が向かないときは、好きな事でもめんどくさい。食べたいものを思いついたら、よしやろう!って思う。そのとたん面倒くさくはなくなる。」
「目先のことは、私のやる気にはならないんだよ・・。」
「リョウ、違うよ。目先じゃなくて、食べたい物は、不変の真理だよ。」
「ふへんのしんり?・・むつかしい事言えばいいと思って。」
「これでいいと思うんだ。私。・・食べたい物を食べて、やりたいことをするために、ここまで来たんだもん。」
「・・・?」
「へへへ。さあ、さっさと食べて。かたづけて。さあさあさあ。リョウも、勉強だよ。絵を描きたかったらそれでもいいけど?どっちでもいいよ。」
「むぅ~。」
リョウはうなった。
「どっちもめんどくさいよ~。」
マキノは宣言通り、寝る前にコタツに座って英語の問題集を広げた。
「リョウは何をするの?数学?見せて。なつかしいな。あれ?でも全然わかんない。覚えてないや~。リョウ・・。これ、わかるの?」
「・・・。」
「そんないやそうな顔しなさんな。連立方程式か・・こういうのって、やり始めるとけっこうおもしろいんだよ。答えがぴったり合えば快感なんだから。今日は私も数学でいいか。せっかくだから最初からやってみようよ。最後の練習問題、競争しようよ。」
「一度習ってるんだから、マキノのほうができるに決まってるじゃないか。」
「リョウは、老化というものを甘く見てる。」
いつもマキノがメモ代わりにしているルーズリーフを解答用紙にして、2人そろってカリカリとシャープペンを走らせた。たまにぶつぶつと文句を言いながらもリョウは2つの単元を一気に消化した。
「あー疲れた。さすが、若い脳だね。やっぱりリョウできるじゃない。勉強また一緒にやろうね。」
「やだよ。めんどくさいよ。」
「そんなこと言っていいと思ってんの? あ、明日ウィンナー届くといいのにな。楽しみだな~。」
「ホントにマキノは食べることばっかだ。」
「否定しないよ。」
乱切りにしたサツマイモはキッチンペーパーでちゃんと水気を吸い取って、中華鍋の端から油にすべらせていく。すぐにじょわわーっと泡が出てくる。
「水分はちゃんと拭き取っておかないと油がはねて危ないからね。あがったらこっちのトレイにあげていって。」
「はーい。」
マキノは、別のお鍋に砂糖と水と少しのしょうゆをたらして飴の用意をする。飴をからめたら火からおろしてすぐにバラバラに冷ますので、先にクッキングペーパーを広げて準備万端にした。すばやくしないと一つずつがくっついてしまう。
「泡が少なくなっておイモがふっくらして来たらあげていいよ。新しい油は焦げ目がわかりにくいから。」
「うむ・・」
リョウがトレイに揚がったイモを並べ始めた。全部が揚がったところで、飴のお鍋の火を少し強くしていく。サラサラだった液体がとろんとなってきて、べっこう色に変わりかけたところへ、イモを全部投入。お鍋を振ってざっざざっざと全体に飴をまぶす。そして飴が充分からんだらすばやくクッキングペーパーに並べた。
「熱いうちに食べてもいいけど、やけどに気をつけて。」
「う・・うん。」
リョウが、おイモを一つずつばらして冷ましている間に、マキノはイズミさんに電話でお伺いを立てた。いくつかのパックに大学イモを詰めてから二人はイズミさんのお宅へと向かった。
国道を駅方面へ走って、いつもの朝市の空き地の前を通り過ぎてペンション・ポムドテールへ行くまでの途中で、左に折れると、すぐの家だ。
どうぞあがっていえいえここで結構ですの押し問答のあと、玄関先に立ったままイズミさんに大学イモをおしつけて、お芋ほり大会にお誘いした。
「サツマイモは嬉しいわね。最近この辺では潰滅状態だもの。」
イズミさんの一存で、軽トラックのことも、ご主人が使わない水曜日に貸してくれることになり、明後日にはマキノの車と交換しておくことになった。
次は、ペンション・ポムドテールへと向かった。今日のお客さんは2組だけでオーナー一人で充分対応できるらしい。ゆっくりしている奥さんに大学ポテトと数本のサツマイモを渡して、食材の仕入れのことを教えてもらいたいと伝えた。
「あら、ありがとう。自分で作ったの?マキノちゃん最近ずいぶん頑張ってるね。」
奥さんに勧められてロビーの応接セットに座って待っていると、紅茶とアップルパイが出てきた。
「これも手作りですか。」
「主人のね。」
こちらはシェフだから当然かもしれないが、達彦さんのクッキーにしても、最近クオリティの高い手作りのお菓子によく出会う。隣にいるリョウがそのパイを凝視していた。
「どうぞ召し上がってね。このお嬢ちゃんは妹さん?」
「いえ違うんですが。でも妹のようなものです。」
ポムのママさんはそれ以上気にせず、マキノの質問に答えて、生鮮食品や乾物、食器などの仕入れ先を気前よく教えてくれた。
「野菜はそこの朝市で買ったりできるけど、旬のものしかないでしょう。通年通して必要なものもあるし、品質の安定してる業者さんとは仲良くしておかなくちゃ。卸売市場は車で1時間ほどかかって毎日通うのはつらいでしょ。きのこ類はね、町内の生産業者が安くて物もいいよ。それからお米、県内産もおいしいの。地元産って謳うとウケがいいし、つながり作りで近所のお米屋さんで買えばいいと思う。配達もしてくれるしね。」
「なるほど。」
「それと、知り合いのパン屋さんを紹介してあげる。おいしいし卸値で分けてもらえるはずだから。値段は自分で交渉するといいんじゃないかな。」
「ぜひお願いします。ありがたいです。」
ケーキやパンは、少しは作れるけれど、商品として出すのであれば納得できるものを安定して作らなくちゃいけない。でも今そんな研究をしている余裕はない。あわてずに今できる最上の形を作ってから、いずれは自分でできることを試行錯誤すればいい。
ポムのママさんと話し込んでいて、しばらく存在を忘れそうになっていたが、リョウは?・・と見ると、とくに居心地悪そうでもなく、紅茶にはお砂糖とミルクをたっぷり入れて優雅にアップルパイをたいらげていた。これが好きなんだろう。じっと見てたしね。
「私またここにゆっくり遊びに来ます。ここのやり方は、いろいろ勉強になるから。」
「あら是非どうぞ。ヒマな時にお茶でもしましょ。」
「はい。ありがとうございます。」
マキノはとリョウは、ポムドテールをおいとまして、今度は違う方向へ車を走らせた。
「どこ行くの?大学イモは配り終わったんでしょ?」
怪訝そうにリョウがたずねる。
「リョウ、勉強は何が得意?」
「得意な物なんてないよ・・。」
「じゃあ、いつから学校に行ってなかったっけ?」
「・・・・。1年の、2学期。」
「勉強はどうしてた?」
「・・たまには、やってたよ。・・えー。それなにさ。なんだよぅ。」
わかりやすくぶすっとしたリョウを連れて向かったのは書店だった。そこで英会話の問題集を買ってから、スーパーで夕ご飯の買い物をして家に戻った。
「こんなところで勉強のことを思い出させるなんて・・。」
「こんなところってなんだよ。そもそもリョウは勉強道具は荷物に入ってるの?絵も描きたいんでしょう?サクラは道具を持って来てくれてた?」
「・・どっちも、あるけどさ。」
不機嫌そうなリョウのことは意に介さずに、買い物してきた食材を並べながらマキノは歌うような独り言をつぶやきながらせっせと夕飯の用意を始めた。
「今日の夕ご飯は、和食かな~。サンマ~。大根おろし~。サラダ・・はポテトサラダ~。それと、しめじとえのきのソテ~・・んーお味噌汁は何にしよう。」
「・・お豆腐。」
「うん。わかった。」
「・・・マキノは、なんだか機嫌がいいね。」
「うふふ。リョウは不機嫌になったね。リョウの顔見てたら、勉強したくなっちゃったんだから、今日はつきあいなさいよ。」
「いやだよ。」
「そんなこと言わずにつきあいなさいよ。」
「やだよ。」
「リョウ。・・アップルパイ好きでしょ。」
「え?」
「明日、作ってあげようか?」
「・・う?」
「そのために今日冷凍パイシートとシナモン買ったんだからね。ふふふ・・。」
「・・・ぅぅぅ。」
「よし決まり。リョウは、私がたてる予定につきあうこと。」
「えー・・」
「今日の夜、勉強したら。明日はアップルパイを焼く。焼き立てだよ。おいしいよ。」
「えー・・。」
「往生際悪いなぁ。ごはん作るのも手伝ってよ?そのあと自由時間あげるからさ。ほら。」
マキノは勝ち誇ったように笑って、リョウにも台所に立つように促した。
「リョウはさ、あれからおいしいごはんの食べ方実践してる?」
「ええと、どうやるんだっけ?」
「食べるまでに、自分にできうる限りのおいしそうな想像をするんだよ。」
「ああ、あれか。」
「今日の献立で、できる?」
「んー・・・・。わかんないよ。」
今日のリョウの役割分担は、おみそ汁の出汁のいりこの処理。大根おろし。サラダのきゅうりをスライサーでテケテケすること。きのこソテーの炒め役。以上だ。
「じゃあねぇ、私がサンマでやってみようか?・・ええとね、今秋でしょ?サンマが一番太ってて脂がのっておいしい季節なわけ。まずは塩をたっぷりすり込んで、しばらくなじませる。そうするとうまみが出るんだよ。水分が出てくるからそれをキッチンペーパーで拭いて、火が通りやすいように斜めに切り目を入れてね。
今日はグリルで焼くけど、七輪て知ってる?昔の人は炭をいこして網を乗せて、その上でパタパタとうちわであおいで焼いてたの。テレビで見たことない?赤くいこった炭の上で、サンマがだんだんと焼けてくるでしょ。脂が炭にぽたっと落ちてジュワジュワッ。煙がモクモクっ。そっと裏返すと皮がフクフクとふくれて焦げ目がついて、そしてまたうちわでパタパタパタ。煙は煙たいんだけど、その香りがサンマを包んで、ふくよかで、なんともいえない風味を与えるのよね~。炭火ならではよね。」
ごくり・・
「その焦げ目の上に、大根おろしのせて、お醤油をちょっとたらして一緒に食べるとおいしいよ。レモンをしぼってもいいなぁ。」
マキノはそう言いながら、冷蔵庫からレモンを取りだしてきた。
「わかったよ・・確かにおいしそうだよ。でもそんなにうまく想像できないってば。」
「経験の差だね。」
「食い意地の差だよ。」
「そうとも言う。おなかを減らして、いろいろ食べれば、おいしい経験が増えるよ。」
出来上がったお料理が並んだ。いただきますと挨拶をして向かい合ってお皿をつつく。
「ああ・・どうして大根おろしは焼き魚に合うんだろうなぁ。」
「おいしけりゃ、なんでもいいよ。」
「リョウ、お味噌汁いいお出汁がでてるよ。手間かけた甲斐があったね。」
マキノがずずっとみそ汁をすすると、リョウは不満げな顔をした。
「お料理って、めんどくさい。」
「そうだねぇ。めんどくさいねぇ。」
「マキノは、なんでお料理ばかりしてるの?」
リョウがもぐもぐと食べながら聞いた。
「めんどくさいけど、好きだから。リョウだって、絵を描くのは好きでしょ?でもずっと描き続けるのは面倒でしょ?」
「んー。そうかもしれないな。」
「気が向かないときは、好きな事でもめんどくさい。食べたいものを思いついたら、よしやろう!って思う。そのとたん面倒くさくはなくなる。」
「目先のことは、私のやる気にはならないんだよ・・。」
「リョウ、違うよ。目先じゃなくて、食べたい物は、不変の真理だよ。」
「ふへんのしんり?・・むつかしい事言えばいいと思って。」
「これでいいと思うんだ。私。・・食べたい物を食べて、やりたいことをするために、ここまで来たんだもん。」
「・・・?」
「へへへ。さあ、さっさと食べて。かたづけて。さあさあさあ。リョウも、勉強だよ。絵を描きたかったらそれでもいいけど?どっちでもいいよ。」
「むぅ~。」
リョウはうなった。
「どっちもめんどくさいよ~。」
マキノは宣言通り、寝る前にコタツに座って英語の問題集を広げた。
「リョウは何をするの?数学?見せて。なつかしいな。あれ?でも全然わかんない。覚えてないや~。リョウ・・。これ、わかるの?」
「・・・。」
「そんないやそうな顔しなさんな。連立方程式か・・こういうのって、やり始めるとけっこうおもしろいんだよ。答えがぴったり合えば快感なんだから。今日は私も数学でいいか。せっかくだから最初からやってみようよ。最後の練習問題、競争しようよ。」
「一度習ってるんだから、マキノのほうができるに決まってるじゃないか。」
「リョウは、老化というものを甘く見てる。」
いつもマキノがメモ代わりにしているルーズリーフを解答用紙にして、2人そろってカリカリとシャープペンを走らせた。たまにぶつぶつと文句を言いながらもリョウは2つの単元を一気に消化した。
「あー疲れた。さすが、若い脳だね。やっぱりリョウできるじゃない。勉強また一緒にやろうね。」
「やだよ。めんどくさいよ。」
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