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御芳にて
手作りウィンナーとアップルパイ
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火曜日。8時。リョウが居候して3日目。2回目の朝起きだ。
「コラ。リョウ。キミって人は、ホントに毎日毎日朝寝坊だね。」
「・・・・んぐ」
朝に弱いんだなぁこの子は。と、ためいきをつきながら起こす。
「今日の朝ごはんはチーズトーストです。」
「・・・ぐ・・。」
リョウがのそりと起き上ってきた。昨日よりは反応がいい。
「今日は、お布団は自分であげるんだよ。んでもってお洗濯するからリョウの服も出してよ。自分の下着は自分でお洗濯する?それともわたしに使用済みパンツ預けたい?」
「・・いやだ。自分でする。」
お風呂と洗濯機は下の階にある。マキノはリョウに洗濯物を出すように言って、リョウの前で自分の靴下に石けんをこすりつけて手でごしごしと部分洗いをして見せた。
「こんなふうに、しっかりきれいにしたい部分は手荒いね。」
部分洗いの実演の後のお洗濯の仕方は、口で説明して、リョウにさせるつもりだが、マキノの分の洗濯はもう終わっていたので、その靴下は洗濯機は使わずに手ですすいで絞って干した。
「部分洗いができたら、そのまま他の衣類と一緒に洗濯機に放り込めばいいよ。洗剤はここを開けてスプーンで分量を計って入れて。このスイッチを押しておけば勝手に出来上がるから。自分で干すんだよ。」
「うん・・。」
リョウは、洗濯機のスイッチを入れてから、マキノが用意した朝食プレートの前に座った。
マキノは、リョウが来てからはいつものアメリカンよりも少し濃い目に淹れておいて、リョウが起きてからカフェオレにするようになった。今日の朝食は、チーズトーストと、レタスとトマトのサラダ、ハム2枚とパイナップルが一切れ。マキノはリョウが食べている途中のお皿にぶどうを3粒置いた。皮ごと食べられるグリーンのだ。リョウはそれをすぐには食べずに取っておいて、最後に一粒ずつ口に放り込んで、ぼりぼりと噛み砕いた。
リョウが洗いあがった自分の洗濯物を干しているときに、宅急便の荷物が届いた。
「きた!リョウ、ウィンナーのキットだ!見てごらんよ!」
送られてきた包みはクール便で、箱がひんやりしていた。開けるとマキノが注文したもろもろの食材とおもちゃのような調理器具が入っていた。マキノは、そのな器具のレバーをパッケージの袋の上からカチカチとさせて、顔を輝かせた。
「ニョロニョロってひき肉のタネが出てきてね、おもしろいんだよ。ここのファームの体験コースで作ったのもおいしかったの。リョウもいっしょにやろう。」
マキノはおしゃべりしながら、キット以外の食材を冷蔵庫や食品庫に片づけていく。
「こうなったらアップルパイはあとで。先にこっち。」
リョウも、興味が湧いたらしく、残っていた洗濯物を慌てて干した。
さて、作り方は・・とマキノが作り方を読み上げ始めた。
「先に塩漬けの羊腸を水に戻す。」
真空パックになった塩の中から固くてしわしわの皮のようなものが出てきた。
「これが羊の腸か。想像したより気持ち悪くはないな。」
「戻した羊腸をウィンナーメーカーのしぼりだし口につける。」
おもちゃみたいなこの機械はウィンナーメーカーというらしい。羊腸は塩漬けの時はしわしわだったが、しばらく水に浸けていたらドロンとふやけてきた。それをウィンナーメーカーの筒状のしぼりだし口にすこしずつたぐってつけてゆく。なかなか面倒な作業だ。筒にまっすぐ均等にたぐらないと、ひきつれて動かなくなる。リョウが四苦八苦している。
「動かなくなった・・・。」
「じゃあここは、先生がやってあげましょう。」
動かなくなると、手間を惜しまず一旦できているところまではずしてからやり直し。コツが必要だ。手先の器用なマキノがすると腸の装着はものの2分で終わった。
「はい次。練るのは・・このちょっと大きめのお鍋でいこう。これにひき肉の赤身と香辛料を入れて練る。氷を砕いたものを半分入れて練る。だよ。ほら練って。」
リョウが、赤身のひき肉とスパイスとを混ぜて、弾力が出るよう力を入れて練る。
「うりゃ。うりゃ。うりゃ。」
「そうそうその調子。」
練り始めてすぐにマキノは重くて頑丈そうなミキサーを取りだしてきて、冷蔵庫から角氷だして放り込みスイッチを入れた。恐ろしい音をガガガガガと響びかせて氷が砕ける。
氷を入れるのは脂が溶けないようにするためだ。氷がある程度砕けたら、その半分の量をリョウが練っているひき肉の中にざざざっと放り込んだ。
「うえぇ。冷たいよ。手にかかったよ。」
「わるいわるい。練ってると、もっともっと冷たくなるけど、頑張れ頑張れ~。」
「え~。」
リョウは口をとがらせつつも、氷をひき肉で巻き込むようにとぐいぐいと混ぜた。
「これ冷たすぎて痛い。本気で手が凍ってしまうよぅ。」
リョウはしばらく言われた通り練り続けていたが、とうとうくじけて手を止めた。
「わかった。交替ね。でもこれ、しっかり練ることでほんとにおいしくなるんだよ。」
「ふうん。」
リョウは、お肉と脂にまみれた手をぶらぶらさせて休憩に入り、マキノは、ようし見てろと残りの氷をまぜて氷が無くなるまで練った。本当に手が凍りつきそうになった。
「イタイイタイー。」
「だから言ったじゃん。」
「憎らしい顔してないで。そこの脂身入れてー。」
脂身を入れてからは練らなくてもよい。まんべんなく指先でざっと混ぜるようにする。
「生地ができたよ。さっきの機械に入れてカチカチするよー。それそれ。」
空気が入らないように手のひらをうまく使ってメーカーの本体部分にタネを押し込む。
フタを締めてカチッカチッという音を鳴らせてお肉まみれの手でレバーを引くと、さっきしぼりだし口につけた羊腸の先からにゅるっと生地ダネが出た。
「おおっ」
空気が入らないようにしぼり口の先まで羊腸を引っ張りだしてきて結んぶと、準備完了。
「リョウが先にカチカチするといいよ。」
「うん。」
カチッ カチッ カチッ。
「おお。生ウィンナーだ。あ、ゆっくり。ゆっくりやって。」
「うん。」
リョウがレバーをカチカチと引いてにゅるにゅると出てくるウィンナーを、マキノが手で支えてスルスルと引き出してゆく。本体に入っていた生地がなくなるとレバーを引いてもスカスカと進まなくなった。区切りのない生ウィンナーが、1mぐらいの長さになった。
「すごいすごい!おもしろい!」
「これの真ん中を持って、きゅっとしぼってねじっていくよ。次々と。」
棒のようなウィンナーをねじっていくと、連結生ウィンナーができた。ウィンナーメーカーに生地を一回詰めるごとに交代しながらカチカチして生地ダネが形になっていった。作業の途中に二人は何度も顔を見合わせては笑った。スパイスのいい香りと、おいしさへの期待と、作業のおもしろさで、ニヤニヤが止まらない。連結ウィンナーは6本できた。
できあがったウィンナーを80℃のお湯で15分ゆでる。それ以上熱くすると脂が溶けてうまみとジューシーさが失われてしまうのだ。その間にネトネトになった手や鍋や机などをきれいに掃除し、ケチャップとマスタードを用意した。
十五分で、キッチンタイマーがピピピと鳴った。
「いざ。上げるよ。」
「おぅ。」
ウィンナーを引き上げる。それを持ち上げたまま、さっきねじった連結部分をキッチンばさみで切ってゆく。ガーリックとスパイスのいい香りがする。
「よし、実食!」
2人がそれぞれフォークにさして、一口ぱくり。
ボイルドウィンナー特有のやわらかさと弾力があった。口の中にうまみが広がる。
「うむむむ・・うまい・・。冷たいの我慢して練ったかいがあったね・・・。」
「うん・・。」
「ボイルもいいけど、ちょっと焼いてみようか。」
マキノはBBQ用の金串を2本出してきて、ウィンナーを刺した。そしてガスコンロの火をつけ、直接あぶりはじめた。リョウもマキノの真似をして一つの炎の上に2本のウィンナーをかざした。すぐにマキノの方のウィンナーがパチッパチッと音を立てて油を飛ばし始めた。ガスコンロが油で汚れそうだ。くるりと裏返すと、いい感じに焦げ目がつき、ところどころ皮がはじけて破れ、たらりとおいしそうな肉汁が垂れた。
ゴクリ・・。
マキノとリョウは、やけどしそうな熱いウィンナーをふぅふぅして、はふはふと噛みちぎり、口の中でころがした。皮が焼けた香ばしさが加わっている。
「んんーん。・・うまぃっ・・。」
お昼ご飯は、手早くやきそばを作り、それプラスウィンナー数本もフライパンで焼いた。
「友達たくさん呼んで、手作りウィンナーBBQしたいね。」
「・・そだね。」
「生ウィンナーはお鍋にもよさそうだよね。」
「うん。」
「これはこれでおいしいけど、燻製にもしてみたいね。」
「燻製ってなに?」
「煙で燻すんだよ。ダンボール箱と網で何とかなるんじゃないかな。桜のチップが燻製用であるんだよ。」
「スモークか。」
「たまご、チーズとか他にもできるかもしれないね。」
「いいね。」
「ちなみに、お昼からはアップルパイ作るんだよ。」
「・・・。」
リョウがため息をついた。
「ここにいると太りそうだ。」
「大丈夫。運動もさせてあげるから。」
「いやだよ。とんでもないよ。運動なんか大きらいだ。」
「まぁまぁ・・気がついたら動いてたって感じがいいよね。」
「うーぅ。」
「明日のお芋ほりなんか一番いいんじゃない?」
「ああ、あんなの一度にできるわけないよ。死んじゃうよ。」
「全部なんて言ってないじゃない。あれ全部やったら私だって死んじゃうわ。」
昼食を済ませるとすぐにアップルパイに取り掛かった。リョウはマキノが確信していた通り、アップルパイが大好きなのだと白状した。
「リンゴ剥ける?」
「たぶん。」
「包丁はいつもの万能包丁より果物ナイフのほうが使いやすいんじゃない?皮がむけたら言ってね。それさえできたら冷凍パイシートを使うからあとは簡単だよ。」
マキノは、リョウに指示だけして台所に置き去りにし、少し滞っていた家事を始めた。
「できたよ。」
「うん。なかなか上手。それを6つ割りにして、芯を取って、ざくざくと適当に切ってこの小鍋に入れて。」
マキノは、リョウにリンゴのフィリングの作り方を少しずつ指示をだして、ひとつの作業を終えるたびに、次の作業に移れるようにしておいて、また自分の作業にもどった。
小鍋でリンゴを砂糖やレモン汁やレーズンなどと一緒に弱火で煮ていると、リンゴから水分が出て、トロンとしてきた。それにバターとシナモンを入れて軽くまぜると、ゴロゴロしていたリンゴがいくらか溶けてくずれた。
それを冷凍パイシートで包んで、予熱しておいたオーブンに入れて20分ほど焼く。
マキノは、家事をの続きをしようと思って、リョウにもお手伝いの免除を言い渡したが、リョウはそのまま台所をウロウロして、オーブンを何度も外から覗き込んだ。バターと小麦粉が焼ける匂いは、ワクワクする。この匂いのせいで落ち着かないのかも。
「3時になったら食べよう。少し冷めないと食べられないよ。」
「うん。・・・ふくらんできたよ。まだ白いけど。」
「焦げ目がつかないと香ばしくならないからね。ちゃんと焼けるまで待ってね。」
「うん・・。」
リョウの待ちかねている様子はとても微笑ましかった。
焼き上がると、リョウはいそいそとアップルパイに包丁を入れた。少しフライングだ。
サクッ・・と音を立てて、層になった生地がパラパラとくだけ、まだ温かいリンゴとシナモンの香りが鼻をくすぐった。
「アップルパイには、紅茶?」
「うん。ミルクたっぷりにして。」
「わかった。ティーオーレにしてあげるよ。」
リョウの希望を叶えて、濃いめに紅茶を入れて牛乳を温めたものと半々にいれた。
「わあぁ、このアップルパイおいしい。」
「でしょう・・。ん~やっぱ、シンプルなのが一番だねぇ。これが本物だよね。」
「ん~。」
アップルパイを食べて満足した後は、今度こそリョウの自由時間になったた。
「夕ご飯まで好きな事してていいからね。あったかくするんだよ。」
「うん。わかってる。」
返事をしながら、リョウはスケッチブックを抱えて裏庭に出て行った。
「コラ。リョウ。キミって人は、ホントに毎日毎日朝寝坊だね。」
「・・・・んぐ」
朝に弱いんだなぁこの子は。と、ためいきをつきながら起こす。
「今日の朝ごはんはチーズトーストです。」
「・・・ぐ・・。」
リョウがのそりと起き上ってきた。昨日よりは反応がいい。
「今日は、お布団は自分であげるんだよ。んでもってお洗濯するからリョウの服も出してよ。自分の下着は自分でお洗濯する?それともわたしに使用済みパンツ預けたい?」
「・・いやだ。自分でする。」
お風呂と洗濯機は下の階にある。マキノはリョウに洗濯物を出すように言って、リョウの前で自分の靴下に石けんをこすりつけて手でごしごしと部分洗いをして見せた。
「こんなふうに、しっかりきれいにしたい部分は手荒いね。」
部分洗いの実演の後のお洗濯の仕方は、口で説明して、リョウにさせるつもりだが、マキノの分の洗濯はもう終わっていたので、その靴下は洗濯機は使わずに手ですすいで絞って干した。
「部分洗いができたら、そのまま他の衣類と一緒に洗濯機に放り込めばいいよ。洗剤はここを開けてスプーンで分量を計って入れて。このスイッチを押しておけば勝手に出来上がるから。自分で干すんだよ。」
「うん・・。」
リョウは、洗濯機のスイッチを入れてから、マキノが用意した朝食プレートの前に座った。
マキノは、リョウが来てからはいつものアメリカンよりも少し濃い目に淹れておいて、リョウが起きてからカフェオレにするようになった。今日の朝食は、チーズトーストと、レタスとトマトのサラダ、ハム2枚とパイナップルが一切れ。マキノはリョウが食べている途中のお皿にぶどうを3粒置いた。皮ごと食べられるグリーンのだ。リョウはそれをすぐには食べずに取っておいて、最後に一粒ずつ口に放り込んで、ぼりぼりと噛み砕いた。
リョウが洗いあがった自分の洗濯物を干しているときに、宅急便の荷物が届いた。
「きた!リョウ、ウィンナーのキットだ!見てごらんよ!」
送られてきた包みはクール便で、箱がひんやりしていた。開けるとマキノが注文したもろもろの食材とおもちゃのような調理器具が入っていた。マキノは、そのな器具のレバーをパッケージの袋の上からカチカチとさせて、顔を輝かせた。
「ニョロニョロってひき肉のタネが出てきてね、おもしろいんだよ。ここのファームの体験コースで作ったのもおいしかったの。リョウもいっしょにやろう。」
マキノはおしゃべりしながら、キット以外の食材を冷蔵庫や食品庫に片づけていく。
「こうなったらアップルパイはあとで。先にこっち。」
リョウも、興味が湧いたらしく、残っていた洗濯物を慌てて干した。
さて、作り方は・・とマキノが作り方を読み上げ始めた。
「先に塩漬けの羊腸を水に戻す。」
真空パックになった塩の中から固くてしわしわの皮のようなものが出てきた。
「これが羊の腸か。想像したより気持ち悪くはないな。」
「戻した羊腸をウィンナーメーカーのしぼりだし口につける。」
おもちゃみたいなこの機械はウィンナーメーカーというらしい。羊腸は塩漬けの時はしわしわだったが、しばらく水に浸けていたらドロンとふやけてきた。それをウィンナーメーカーの筒状のしぼりだし口にすこしずつたぐってつけてゆく。なかなか面倒な作業だ。筒にまっすぐ均等にたぐらないと、ひきつれて動かなくなる。リョウが四苦八苦している。
「動かなくなった・・・。」
「じゃあここは、先生がやってあげましょう。」
動かなくなると、手間を惜しまず一旦できているところまではずしてからやり直し。コツが必要だ。手先の器用なマキノがすると腸の装着はものの2分で終わった。
「はい次。練るのは・・このちょっと大きめのお鍋でいこう。これにひき肉の赤身と香辛料を入れて練る。氷を砕いたものを半分入れて練る。だよ。ほら練って。」
リョウが、赤身のひき肉とスパイスとを混ぜて、弾力が出るよう力を入れて練る。
「うりゃ。うりゃ。うりゃ。」
「そうそうその調子。」
練り始めてすぐにマキノは重くて頑丈そうなミキサーを取りだしてきて、冷蔵庫から角氷だして放り込みスイッチを入れた。恐ろしい音をガガガガガと響びかせて氷が砕ける。
氷を入れるのは脂が溶けないようにするためだ。氷がある程度砕けたら、その半分の量をリョウが練っているひき肉の中にざざざっと放り込んだ。
「うえぇ。冷たいよ。手にかかったよ。」
「わるいわるい。練ってると、もっともっと冷たくなるけど、頑張れ頑張れ~。」
「え~。」
リョウは口をとがらせつつも、氷をひき肉で巻き込むようにとぐいぐいと混ぜた。
「これ冷たすぎて痛い。本気で手が凍ってしまうよぅ。」
リョウはしばらく言われた通り練り続けていたが、とうとうくじけて手を止めた。
「わかった。交替ね。でもこれ、しっかり練ることでほんとにおいしくなるんだよ。」
「ふうん。」
リョウは、お肉と脂にまみれた手をぶらぶらさせて休憩に入り、マキノは、ようし見てろと残りの氷をまぜて氷が無くなるまで練った。本当に手が凍りつきそうになった。
「イタイイタイー。」
「だから言ったじゃん。」
「憎らしい顔してないで。そこの脂身入れてー。」
脂身を入れてからは練らなくてもよい。まんべんなく指先でざっと混ぜるようにする。
「生地ができたよ。さっきの機械に入れてカチカチするよー。それそれ。」
空気が入らないように手のひらをうまく使ってメーカーの本体部分にタネを押し込む。
フタを締めてカチッカチッという音を鳴らせてお肉まみれの手でレバーを引くと、さっきしぼりだし口につけた羊腸の先からにゅるっと生地ダネが出た。
「おおっ」
空気が入らないようにしぼり口の先まで羊腸を引っ張りだしてきて結んぶと、準備完了。
「リョウが先にカチカチするといいよ。」
「うん。」
カチッ カチッ カチッ。
「おお。生ウィンナーだ。あ、ゆっくり。ゆっくりやって。」
「うん。」
リョウがレバーをカチカチと引いてにゅるにゅると出てくるウィンナーを、マキノが手で支えてスルスルと引き出してゆく。本体に入っていた生地がなくなるとレバーを引いてもスカスカと進まなくなった。区切りのない生ウィンナーが、1mぐらいの長さになった。
「すごいすごい!おもしろい!」
「これの真ん中を持って、きゅっとしぼってねじっていくよ。次々と。」
棒のようなウィンナーをねじっていくと、連結生ウィンナーができた。ウィンナーメーカーに生地を一回詰めるごとに交代しながらカチカチして生地ダネが形になっていった。作業の途中に二人は何度も顔を見合わせては笑った。スパイスのいい香りと、おいしさへの期待と、作業のおもしろさで、ニヤニヤが止まらない。連結ウィンナーは6本できた。
できあがったウィンナーを80℃のお湯で15分ゆでる。それ以上熱くすると脂が溶けてうまみとジューシーさが失われてしまうのだ。その間にネトネトになった手や鍋や机などをきれいに掃除し、ケチャップとマスタードを用意した。
十五分で、キッチンタイマーがピピピと鳴った。
「いざ。上げるよ。」
「おぅ。」
ウィンナーを引き上げる。それを持ち上げたまま、さっきねじった連結部分をキッチンばさみで切ってゆく。ガーリックとスパイスのいい香りがする。
「よし、実食!」
2人がそれぞれフォークにさして、一口ぱくり。
ボイルドウィンナー特有のやわらかさと弾力があった。口の中にうまみが広がる。
「うむむむ・・うまい・・。冷たいの我慢して練ったかいがあったね・・・。」
「うん・・。」
「ボイルもいいけど、ちょっと焼いてみようか。」
マキノはBBQ用の金串を2本出してきて、ウィンナーを刺した。そしてガスコンロの火をつけ、直接あぶりはじめた。リョウもマキノの真似をして一つの炎の上に2本のウィンナーをかざした。すぐにマキノの方のウィンナーがパチッパチッと音を立てて油を飛ばし始めた。ガスコンロが油で汚れそうだ。くるりと裏返すと、いい感じに焦げ目がつき、ところどころ皮がはじけて破れ、たらりとおいしそうな肉汁が垂れた。
ゴクリ・・。
マキノとリョウは、やけどしそうな熱いウィンナーをふぅふぅして、はふはふと噛みちぎり、口の中でころがした。皮が焼けた香ばしさが加わっている。
「んんーん。・・うまぃっ・・。」
お昼ご飯は、手早くやきそばを作り、それプラスウィンナー数本もフライパンで焼いた。
「友達たくさん呼んで、手作りウィンナーBBQしたいね。」
「・・そだね。」
「生ウィンナーはお鍋にもよさそうだよね。」
「うん。」
「これはこれでおいしいけど、燻製にもしてみたいね。」
「燻製ってなに?」
「煙で燻すんだよ。ダンボール箱と網で何とかなるんじゃないかな。桜のチップが燻製用であるんだよ。」
「スモークか。」
「たまご、チーズとか他にもできるかもしれないね。」
「いいね。」
「ちなみに、お昼からはアップルパイ作るんだよ。」
「・・・。」
リョウがため息をついた。
「ここにいると太りそうだ。」
「大丈夫。運動もさせてあげるから。」
「いやだよ。とんでもないよ。運動なんか大きらいだ。」
「まぁまぁ・・気がついたら動いてたって感じがいいよね。」
「うーぅ。」
「明日のお芋ほりなんか一番いいんじゃない?」
「ああ、あんなの一度にできるわけないよ。死んじゃうよ。」
「全部なんて言ってないじゃない。あれ全部やったら私だって死んじゃうわ。」
昼食を済ませるとすぐにアップルパイに取り掛かった。リョウはマキノが確信していた通り、アップルパイが大好きなのだと白状した。
「リンゴ剥ける?」
「たぶん。」
「包丁はいつもの万能包丁より果物ナイフのほうが使いやすいんじゃない?皮がむけたら言ってね。それさえできたら冷凍パイシートを使うからあとは簡単だよ。」
マキノは、リョウに指示だけして台所に置き去りにし、少し滞っていた家事を始めた。
「できたよ。」
「うん。なかなか上手。それを6つ割りにして、芯を取って、ざくざくと適当に切ってこの小鍋に入れて。」
マキノは、リョウにリンゴのフィリングの作り方を少しずつ指示をだして、ひとつの作業を終えるたびに、次の作業に移れるようにしておいて、また自分の作業にもどった。
小鍋でリンゴを砂糖やレモン汁やレーズンなどと一緒に弱火で煮ていると、リンゴから水分が出て、トロンとしてきた。それにバターとシナモンを入れて軽くまぜると、ゴロゴロしていたリンゴがいくらか溶けてくずれた。
それを冷凍パイシートで包んで、予熱しておいたオーブンに入れて20分ほど焼く。
マキノは、家事をの続きをしようと思って、リョウにもお手伝いの免除を言い渡したが、リョウはそのまま台所をウロウロして、オーブンを何度も外から覗き込んだ。バターと小麦粉が焼ける匂いは、ワクワクする。この匂いのせいで落ち着かないのかも。
「3時になったら食べよう。少し冷めないと食べられないよ。」
「うん。・・・ふくらんできたよ。まだ白いけど。」
「焦げ目がつかないと香ばしくならないからね。ちゃんと焼けるまで待ってね。」
「うん・・。」
リョウの待ちかねている様子はとても微笑ましかった。
焼き上がると、リョウはいそいそとアップルパイに包丁を入れた。少しフライングだ。
サクッ・・と音を立てて、層になった生地がパラパラとくだけ、まだ温かいリンゴとシナモンの香りが鼻をくすぐった。
「アップルパイには、紅茶?」
「うん。ミルクたっぷりにして。」
「わかった。ティーオーレにしてあげるよ。」
リョウの希望を叶えて、濃いめに紅茶を入れて牛乳を温めたものと半々にいれた。
「わあぁ、このアップルパイおいしい。」
「でしょう・・。ん~やっぱ、シンプルなのが一番だねぇ。これが本物だよね。」
「ん~。」
アップルパイを食べて満足した後は、今度こそリョウの自由時間になったた。
「夕ご飯まで好きな事してていいからね。あったかくするんだよ。」
「うん。わかってる。」
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