マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos

文字の大きさ
25 / 67
御芳にて

サツマイモ掘り

しおりを挟む
「マキノ。風邪ひくよ?」
裏庭から戻ったリョウが、声をかけた。
マキノは、洗濯物を取り入れ畳の上に座り込んで衣類を畳んでいたのだが、疲れを感じて伸びをしてころがって・・、そのままうたた寝をしてしまったらしい。
「さむっ・・。」
「ほらみろ。」
「やだ・・さむいよぅ・・」
「人にはあったかくしろって言っといて・・。」
「うわ時間が・・、ごめん。すぐごはん作る。」

「いいよ。まだそんなにおなかすいてないし。・・マキノも鉄人じゃなかった。」
「鉄人て、何よそれ。」
「だって、なんでもできるし、ずっと動いてるし。」
マキノは深く息を吸い込んでから、おおげさにため息をついた。
「・・そんなわけないじゃない。ダメなとこだらけだよ。迷いと挫折の人生です。」
「人生のことは言ってないよ。それに人生って言えるほど、マキノは人生積んでない。」
「まあね。でもホントにいろいろ弱っちくて挫折はしてるんだよ。・・・それでも何とかなってはいるけどさ。」
リョウは気に入らないのかふんと鼻を鳴らした。

「さて、今日は豚の水炊きにするね。野菜切るだけだからすぐ用意できるよ。」
「お。・・お鍋は久しぶりだ。」
「わたしも。」
ふふふ へへへ と笑い、リョウは今日も夕食の用意を手伝った。
一人暮らしにも慣れたつもりだったが、お鍋を誰かとつつけるのは嬉しかった。


水曜日。
4日目の朝。8時。
リョウは、今日は一声で目を覚ました。
今日は、イズミさん宅から軽トラックを借りて本格的な芋ほり大会をするのだ。
いいお天気で良かった。参加者は、マキノとリョウと、イズミさんとイズミさんの子ども達、菜々ちゃん寛菜ちゃん、そのお友達二人が参加して合計7人だ。それぞれ一軒につき千円ずつ出資してくれる。小学生でも1軒は一軒。金額分のサツマイモを山分けの予定だ。

 マキノはその朝、リョウをあてにしないで一人早起きして7人分のお弁当を作っていた。
遅寝遅起きの習慣を改めて、ここへ来てから今日までマキノが起こすのに耐えてきたのを評価して少し温情を与えることにしたのだ。

マキノは、実はすこしばかり頭痛がしていた。寝不足か昨日のうたた寝で風邪を引いたか。すこし休みたいような気もしたが、今日のお芋掘りは自分が計画したものだ。変更すれば大勢の人の予定が狂うから、頑張らねばならない。動いていたらその勢いで、頭痛の事など忘れるだろうと判断した。今日は体力の続く限りたくさん掘らなければならない。軽トラックも借りたし、前回から教訓を得て、道具類もおばちゃん達から貸してもらった。
大き目のショベルや、カゴ、三本グワ、鎌、ハサミ、スーパーでもらった20kg入りお砂糖の大きな空の袋を十数枚。そして長靴。軍手という重装備だ。
リョウ以外の参加者は、イズミさんの8人乗りのワゴン車に乗りこんだ。

畑に到着すると「みなさんよろしくお願いします!」の掛け声とともに作業が始まった。
鎌とハサミでザックザックとツルを取り払う。その役目はマキノ。そして、リョウはマルチめくりだ。
「ぎゃあああ、うぁあああ。」
またリョウが叫んでいる。ゲジゲジかな?いや、今度はただのイモムシだよ。
「リョウ そんなものいちいち気にしてたら田舎じゃ生きていけませんぞ。」
「田舎はわたしの生きる場所じゃない。」

リョウは憎まれ口を叩きながらも、手は止めずにのそのそと動いていた。
イズミさんは株から少し離れた足元の畝をショベルでぐっさりと刺し、足でぐっと土に踏みこんで、持ち手を倒して地面を持ち上げ、掘った土はそのまま隣の畝にザッザッとよけていった。隣の畝はもう収穫が終わっているので、芋のツルや土の置き場にしたり、畝を踏みつけたりしても全く問題はない。

イズミさんは細身なのに意外と力強くて手際がいい。土に慣れている。立派なサツマイモがボコボコと現れてきた。それを小学生たちがスコップでザクザクと掘りはじめる。
最初は、こんなのでてきたー、これでっかい!、へんなかたちー!とひとつひとつ掘るたびに騒いでいたのだが、回数を重ねてだんだん感動が少なくなってきたところで、お芋を回収の仕事もあるんだよ、と小学生たちを誘導する。
「袋に半分ぐらい入れて、どんどんトラックに運んでね~」
「はーい。」
シャベル係が一番体力を消耗するので、イズミさんとマキノとリョウとが、かわるがわる役割を交替しながら掘り進んだ。
1時間もすると疲れてきたので、お弁当をひろげることにした。おかずは、たまごやきとウィンナーとブロッコリーとチキンナゲット、ちくわ、プチトマト。簡単な物ばかりだ。そしておにぎりはふりかけだけ。屋外で食べるとおいしい。いや、おいしいはずだったが、マキノは少ししか食べられなかった。
「私たちの分まで作ってくれて、大変だったでしょう。」
「大丈夫ですよ。手抜きの物ばかりだし。」
お弁当のあと、簡単に片づけて、撤収しようかと考え始めた時だった。
寛菜ちゃんが、スコップの上にもぞもぞ動くモノをもってきた。
「これなに?」

最初に見たリョウが絶句した。マキノも覗き込んで固まった。でも、イズミさんは、さほど驚いた様子ではなかった。、
「野ネズミの巣を掘り起こしちゃったんじゃない?ネズミにかじられたおイモがいくつかあったでしょ。」
リョウとマキノは顔を見合わせて同時に聞いた。
「親は?」「迎えに来るの?」
「もうどうしようもないんじゃないかなぁ。近くに置いとけば親が探しに来る可能性はあるかもだけど、もう人間に見つけられちゃったし、家もつぶれたし、育児放棄するんじゃないかな。畑を作ってる人にとってはただの害獣だよ。ハエや蚊や、あの黒いGと同じ・・。クワでつぶしちゃうお百姓さんもいるよ。」
「・・・。」
毛も生えてないし、目も開いていない。産まれて何日たっているのかわからないが、まだ動いてはいる。ハムスターの赤ちゃんにそっくりだ。全身ピンク色で細いしっぽがあった。もぞもぞもぞもぞ、さっきのイモムシと大きさは変わらない。なのに、親が子を産み子育てをする哺乳類と言うだけで、存在の意味が全然ちがう気がした。
・・しばらくしてフリーズから復帰したマキノは、先に片づけちゃおうと動き始めたが、リョウはフリーズしたままなかなか動きだせず、仕事を放りだしてバケツを持ってきた。
ありゃ連れて帰るつもりだろうか。元いた環境に近づけたいのか、バケツの中に土を入れて自分が履いていた軍手を脱いでそれでネズミを包んで、車に積み込んでしまった。

「連れて帰るの?すぐに死んじゃうよ?」
「・・・・・。」
子ども達がバケツを覗き込んで「かわいいねー。」と、屈託なく言った。
マキノは、それを言わないでくれー・・と本能的に思った。リョウはそこから作業を終えて家に帰ってくるまで、一言も言葉を発しなかった。

収穫したサツマイモは畝の半分ほどで軽トラックの荷台いっぱいに広げられるほどあった。それを5等分して、大きくて丈夫な袋にさつまいもを入れて、イズミさん宅、お友達のしょうちゃん宅、ゆうちゃん宅に、一袋ずつ配りながら送って行った。
 子ども達は、おもしろかったから来年も連れてってねと言い、そのお母さんたちからは千円の値段を安すぎると言ってくれた。

イズミさんは、一度自宅に帰ってから、マキノの車と軽トラックを入れ替えに来て、粉ミルクと湯たんぽと小さな注射器のようなシリンジを持って来てくれた。
「これ仔猫用のミルクなの。半年前のだけど残ってたから、あげる。」
小さなシリンジだったが、この小さなネズミの口に流し込めるほどのサイズではなかった。それでも、ミルクを口元まで運べるだけでも、わずかな可能性を感じさせてくれた。
 リョウは連れて帰ってしまったネズミの赤ちゃんを、お菓子の箱にティッシュやら細かくした紙くずなどをセットし始めた。ホットカーペットの上に、箱を置いて、自分のバスタオルをカバーがわりにした。カーペットに直に置いてしまうと、暑すぎるんじゃない?と言うと、リョウは、箱とカーペットの間にもう一枚タオルを畳んで挟んだ。手をかざしたりカーペットの設定温度を確認したりしてからもう一度全体にバスタオルをかぶせた。

マキノは、夕方になってくると、今日は疲れたから、外食にしよう。と提案した。
リョウもそれを素直に了解して、ルミエールの近所のファミリーレストランに行き、無口に食事を終えた。リョウはなんとなく落ち着かない。ネズミが気になって仕方がないのだろう。家に戻ると、リョウはネズミの箱を開けて確認してからミルクを作り始めた。
「まだ生きてる?」
「うん。」
マキノが声をかけると、リョウは短く答えた。
ネズミの赤ちゃんを指でつまむとつぶれそうな気がした。敷いてあるティッシュの端をもちあげて箱から出す。リョウは自分の左の手のひらに直にのせて、右手でミルクをシリンジで吸い込みそっと口元に運んだ。ネズミはかすかに、チーチーと鳴いた。
ミルクの一滴が、対比するとネズミの鼻先全部を覆うぐらい大きかった。
「あ。鼻ふさいだんじゃない?」
「むぅ・・」
リョウは、ティッシュの端でネズミがおぼれないように顔の回りのミルクを吸い取った。
「これは、むずかしいなぁ・・・」
マキノはリョウを放置して、サツマイモを袋から取り出して新聞紙に並べはじめた。
リョウはそのまましばらくネズミを観察してから、裏口の土間へやってきた。
「ちょっとでも飲めたのか、飲んでないのか、わかんない。」
「ネズミを触ったのなら、石けんでしっかりと手を洗ってアルコールで除菌してね。そのあと手が荒れるからハンドクリームも塗ったほうがいいよ。」
「うん・・。」
「先にお風呂に入る?」
「うん・・。」

マキノは、ちょっと困ったなと考えた。おそらく、このネズミは長くは生きられないだろう。これを育てるノウハウもないし、獣医につれて行くほどの熱意もない。かといって、こんな赤ちゃんの死は受け入れがたいものがある。
そして、仮に、うまく生きられたとして、そこでまた次の問題が待っている。
これは害獣なのだ。今は小さいけど、デカくて醜い恐ろしいヤツに育つかもしれないしそんなものを自然界に放していいとは思えない。農家にとっちゃ迷惑そのものだ。死んでしまうのも辛い、生き延びて育ってしまうのも怖い。成長の早いネズミだから・・今から2週間持ちこたえたら自力で生きられるようになるかもしれない。

リョウはおそらくネットででも育て方を調べて自分にできることをしようと思ってはいるだろう。でも、その後は? たぶん、リョウも答えを出せないから何も言わないのだ。ネズミの寿命は2年~4年だろうか。それを最後まで飼えるのか?リョウがここから帰るとき、これの世話を誰がする?捨て猫や捨て犬を拾うときも同じ。その子の命が終わるまで責任を持てるのか。その覚悟がないのなら・・本当は連れて戻ってはいけなかったのだ。
・・・今は、手を出さないでおこう。マキノはそう決めた。

リョウがうちにいる今週末までの間、まず生存できるかどうか。そこまでは何も言わない。私が考えるのはそこから先。それまでリョウにさまざまなことを考えさせよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...