マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos

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春樹視点(1)

二学期の行事

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夏休みが終わった。多少過ごしやすくはなってきたが、まだ暑い日が続く。
二学期は行事が多い。自由研究の作品展から始まって、九月の終わりには運動会があるから、それに向けての準備や練習が続く。夏休み明けでぼーっとしている子ども達を、教師たちが追い立てる。
遠足や、親子行事、町の文化祭の発表の順番にも当たっている。長距離走大会もあれば、それに向けて業前の駆け足も始まる。ひとつひとつに一ひねり加えて盛り上げてやらねばならない。


9月の平日が慌ただしく過ぎて行った中旬の日曜日。春樹は久しぶりに午前中は買い物に出て、午後からは夏休みの終わりごろから車の汚れが気になっていたので、自宅の水道からホースをつないで洗車をしていた。
すると、バーベキューをするから、夕ご飯を食べにおいでと、イズミさんからラインがとんできた。自分の姿が見えたから呼んでくれたのだろう。少々疲れもあったので、ありがたかった。日曜日は兄貴の家族のじゃまをしないようにと心がけているつもりだったから、わずかに申し訳ない気持ちもかすめたが、今日は好意に甘えることにした。

兄貴の家へ行くと、まずは寛菜と菜々の二人姉妹が「春ちゃんゲームしよう!」と誘ってきた。小学校4年生と1年生だ。兄貴はオレを「ハル」と短く呼ぶが、イズミさんはちゃんづけで呼ぶので、子ども達もそれにならっている。

兄貴たちが結婚した時オレはまだ高校生だったから、イズミさんにとってはその頃と同じように、たよりない学生のように思われているのかもしれない。あれから十年以上が経ち、もう三十に手が届くようになっているというのに。


子ども達にやりたいゲームの用意をするように言っておいて、自分は遠慮もなくダイニングまで入って行った。庭でするのかと思って手伝えることをしようかと思ったからだが、テーブルにバーベキュー用のホットプレートが出ていて用意が整いつつあった。まだ暑いので屋内にしたようだ。肉や野菜の横に、藤の小さいバスケットが置いてあり、半透明のトレーシングペーパーで包まれたお菓子のようなものが並べてあった。
「これ手作りなんだって。ごはん前だけど、食べてみる?」
イズミさんに勧められて包みを開くと、ドライフルーツが入ったパウンドケーキだった。腹が減っていたから、お菓子の一つぐらい食欲には影響はない。一口かじるとほどよい弾力でバターのまろやかさが口の中に広がった。甘さは控え目で柑橘系の香りがしてバター入りの焼き菓子にしてはあと口がいい。
「へえ・・。おいしいね。ホントに手作り?売り物みたいだね。」
「そう。一応売り物なんだよ。朝市で買ったの。最近引っ越してきたマキノちゃんって子が、出してたの。」
「ふうん。あぁ・・みたらし焼いていた子か・・」
あの子のことだ。くるくるとよく動く元気な子・・マキノちゃんて名前だったのか。お料理がうまいんだな・・。
「ありがとうございました!」の笑顔を思いうかべた。

あれからも朝市のことは気になったのだが、土曜日の午前中はカヌーの活動があったり、日曜もいろいろあって行きそびれていた。

イズミさんは、嬉しそうに彼女の話を続ける。
「マキノちゃんね、カフェをしようと思っているんだって。」
「カフェ?大谷さんちで?・・あんな古い家でできるの?」
「あら、知ってたの?」
「ああ、うん。佐々木のおばちゃんが教えてくれたよ。」
「そう。改装するらしいよ。それで、カフェのスタッフを募集しているんだって。」
「へ・・え・・。」
・・彼女の目的はそれだったのか。しかし何故、こんな田舎で?
「おばちゃんたちが、私のことを推薦してくれたみたいで、私も菜々が小学校に入って落ち着いてきたから、そろそろ何かしたいなって思っていたし。今度、面接に行ってくる。」
「ふうん。いいね。」
そうは言ったが、商売はうまくいくんだろうか・・。勝手な心配をしてみる。

そこで、子ども達が「春ちゃん、はやくゲームをしようよ。」と引っ張りに来た。
「今日は何をするって?大乱闘か。ようし!」
勢いよく言ったが、自分はそれほどこのゲームをやり込んでいない。ゲームの練度で子ども達との尊厳の具合が変ってくるから頑張ってはみる。相手が1年生と4年生だから、今のところTVゲームで負けることはないが、追い越されるのも時間の問題だろう。
「春ちゃん、サザエもあるんだよ。」
イズミさんは、自分の好きな物をちゃんと覚えてくれている。
「おお。いいですね。」
「いっぱいあるから、たくさん食べてね。」
「うん。ありがとう。」
イズミさんは料理がうまい。ついでに兄貴もだ。この日はバーベキューだったから、料理の腕には関係はないが。
兄貴の家のイズミさんが小さな畑で作っているピーマンとトウモロコシとかぼちゃが並んでいた。牛肉は上バラ一種類だけで、鶏肉にはタレをからめてあった。
アユが並んでいるのは、紀野川で兄貴が釣ったのだろう。タダだけれど、贅沢だ。
子どもの好きな串フランクとハムステーキは、実はオレも好きだ。缶ビールといっしょに、腹いっぱいごちそうになった。なかなか、いい肉だった。


次の週は運動会前の準備の目途がつかなくて、子どもと一緒に自分も少々追い詰められていた。遅くなる日は食事を断るのだが、イズミさんには子どもの毎日の様子で春樹の仕事のこともわかるらしく、自分の分の食事をとっておいてくれていた。気遣ってもらってますます申し訳なく思う。そう思いつつも、週末は3日連続ごちそうになってしまった。

イズミさんは今日も上機嫌だった。
「今日ね、面接に行ってきたよ。」
「面接?」
「そう。先週話したでしょう。私、カフェの店員さんになるのよ。」
「あー。言ってたね。」
 この話題はとても気になるのだが、それを兄夫婦に察知されたくなくて、わざと興味なさげなフリをする。
そして、ごはんを食べながら聞いた話には、結構驚かされた。兄貴が2年も前にマキノちゃんと会っていたと言うではないか。

「山道でバイクがパンクして困っているみたいだったから、山本モータースを紹介して、ポムまで送ってやっただけだな。」
兄貴はそんな感じで説明をした。助けられたことを律儀に覚えていて、イズミさんに丁寧にお礼を言ったとか・・。
ふうんバイクに乗ってたのか・・
自分のみぞおちのあたりがチクリと傷んだ気がしたが、無理矢理それは意識の底に沈めた。女の子がバイクに乗ったっていい。普通の事。あたりまえな事。

兄貴の言ったポムとは、正しくはポムドテールという名の近所のペンションのことだ。そういえば、ポムもあんな何もないところで客商売が成り立っているってことは、カフェでもやって行けるってことかもしれない。

「おしゃべりしてみたら、すごくいい子だったよ。大好きになっちゃった。仕事始まるのが楽しみ。」
イズミさんが楽しそうにしているのを見て、自分も何故か胸がざわざわとした。
カフェが始まれば行ってもいい・・かな?
なんだ、このざわざわは?



運動会は無事終わり、その翌週のことだった。子ども達が帰った放課後、学校に居残ってこまごました仕事をしていると、学級の役員をしてくれている保護者から電話があった。
先日学級で話し合ったことについてで、親子行事でサツマイモ料理をする事に決まったのだが、あてにしていた材料が調達できなくなったという連絡だった。頼んであった方のサツマイモ畑が獣害のため潰滅になったらしい。決められた学級費でするため予算に合わなければもう一度内容を考えなおさなければならない。

クラス全員で30本か・・・品数を減らすか、規模を小さくするか、サツマイモぐらい自腹を切るか・・対処の方法はいろいろあるが、少額でもお金の事はきちんとすべきだし、せっかく話し合って決めたことをあまり変更したくないなという思いもあった。イズミさんの畑でサツマイモは作ってなかったか・・。あったとしても少しだろうが。

「とりあえず、今度うちの近所の朝市に出品されてないか見に行ってきます。安く手に入りさえすれば予定を変えなくてもいいでしょう。おイモの分の予算はいくらでしたっけ? 当日までにもう一度相談しましょう。」
その場はとりあえず電話を終えたが、やれやれ、ひとつ宿題ができた。


その日の夕方、畑の様子を尋ねようと兄貴の家に行くと、台所横の勝手口に、えっ・・と思うほどサツマイモが転がっていた。あまりにもタイムリーだ。
「どうしたのこれ。」
「すごいでしょ。これ全部で千円なのよ。」
「安いね。どこで買ったの?」
「掘って来たの。オーナー農園で。」
「オレ、クラスでサツマイモがいるんだけど、教えてくれないかな。」
「えと・・これ、マキノちゃんの畑の・・。」
「ええ?あの子こんなの作ってるの?」
「ううん。オーナー農園だってば。農家さんが作ってるサツマイモ畑を一畝契約してるらしいよ。、農家さんが植えつけて育てて、おイモになるまで全部してくれてあるから、好きな時に堀りに行けばいいだけになってるの。」
「へえ・・。残念だな。ちょうどよかったのに。」
「ううん。春ちゃんが欲しいならまだいっぱいあるよ。頼めば同じように売ってくれると思うし、一緒に掘ってあげれば喜ばれると思う。女の子1人じゃとても掘りきれないから、残りの分をどうするか、きっと困ってる。私はもうサツマイモはいらないけど、もう一度お手伝いしてあげよっかなって思ったぐらいだもの。」

「そう?・・そうか。じゃあ連絡してもらえるかな・・いや、連絡先教えてもらったら、オレ直接話しをしてお願いしたいけど。」
「そうね・・・女の子の電話番号だけど・・。まぁ春ちゃんなら、いいかぁ。」
イズミさんは自分の携帯の電話帳を開いてマキノちゃんの電話番号を見せてくれた。
「はいこれ。私の名前を言ってね。勝手に教えてごめんて言っておいて。」
「うん。サンキュ。」
・・・。

マキノちゃんの電話番号、思わぬ形で・・ゲットしてしまったな・・。
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