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カフェ開業へ
クリスマス会
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帰り支度をしてお店の裏から出てくると、ちらちらと雪が舞っていた。
「ホワイトクリスマスかぁ・・。」
ロマンチックなことに随分ご無沙汰している気がした。クリスマスイブに一人か・・。
実家の母さんや万里子姉はケーキ食べたかな。サクラやリョウは・・。今日一日ケーキを引き取りに来る家族たちを見続けて、家族でホームパーティーをするイメージがマキノの脳内に広がっていた。
大事な誰かと過ごすクリスマスにも憧れるけれど・・と、思い出をたどる。学生時代につきあった人もいたが、就職して離れるといつの間にか連絡を取らなくなり自然消滅してしまった。遊びだったわけでも不誠実だったわけでもない、大学はただ楽しく過ごしただけで人生と向き合っていたわけじゃなかったなと今になって思う。
ふと、電話に着信があるのに気づいた。イズミさんからだ。かけ直すと、予定がないなら夕ご飯を食べにいらっしゃいというお誘いだった。
バイトが終了して責任感と忙しさから解放された浮遊感。寒くて冷たい自宅に帰る寂しさ。マキノにとってそのお誘いは、あまりにもココロが求めるぬくもりだった。
帰宅途中、スーパーのおもちゃ売り場で子ども達のためのおもちゃを買って、いそいそとイズミさんと達彦さんのお宅へと急いだ。
イズミさん宅の横の空き地に車が2台停まっていた。他にもお客様がいるのかなと思いつつ、ピンポーンとベルを鳴らした。
はあい。と出てきたのは寛菜ちゃんだった。子どもに手を引かれてリビングに入ると、うわ・・思ったより人間がたくさん。あっ・・春樹さんもいる。ひーふーみーよー・・・子ども6人と、大人5人がそろって声を上げた。
「いらっしゃーい。」
思わず圧倒されたが、おじゃましますと輪の中に入った。パーティーは早くから進んでいたようで、子ども達は食べ終わり、開け放した隣の部屋で固まって遊び始めていた。
マキノは、子ども達に、さっき買ったばかりのおもちゃを「これどうぞ。」と取り出した。
こわもてのブルドッグが電子音のイビキを鳴らしていて、その前のエサ入れから骨を奪ってくるゲームだ。
犬が目を覚ましたら「ガウッ!」と吠えてかみつきに来る。子ども達は喜んで順番にチャレンジし始めた。スリルもあるし犬のリアクションに迫力があっておもしろい。ガウッ!と犬が吠えるたびに「きゃあっ」「うわーっ」と子ども達の黄色い声が響く。子ども達の中に春樹さんも交じってワイワイと遊んでいる。
「マキノちゃんありがとう。気をつかわなくていいって言ったのに。」
「いえ、ちょっとしたもので・・。」
「さあさ、みんなに紹介するね。こちらがさっき話してたマキノちゃん。こちらは寛菜とおなじクラスのママ友で、仁美ちゃんと敏ちゃん。どんなふうに親子ペアかわかる?」
「はじめまして。」「はじめまして。」
イズミさんは、仁美さんと敏ちゃんのそれぞれ子ども達の頭を指さして繋いで簡単に紹介した。春樹さんと繋がる線はない。お兄さん宅のパーティーにいるぐらいだから独身か。
「とにかく、今お仕事あがったところでおなか減ってるでしょう?食べて食べて。」
テーブルの上は、からあげやミートローフ、サンドウィッチなどが、食べ散らかっていたが、マキノ用に取り分けてくれてあったのか、一人分だけきれいに盛り付けられていた。
それに加えて、イズミさんが温かいクリームシチューを出してくれた。
「シチューのブロッコリーがくずれちゃって、ごめんね。」
「いえとんでもない。おいしそうです。いただきまーす。」
「マキノちゃんが作ると、もっとおしゃれになるんだろね。」
「そんなことないです。私も素人です・・。」
誰かが準備してくれたものをいただくのは、ずいぶん久しぶりだ。
「シチューおいしい・・。」
「よかった。ドキドキしてたのよ。マキノちゃんがこのお料理見てなんて言うか。」
「ねー。」
「そんな・・。」
「ええとね、実はお願いと言うか、お話があるんだけどね、この二人、カフェのお手伝いしたいんですって。」
「えっ、そうなんですか?」
「私が、マキノちゃんのところに出かけていくのを、随分うらやましがられてたの。」
「・・あのぅ、でも私、その気持ちはすごくありがたくて嬉しいんですけどお給料をどれだけお渡しできるか、まだわかんないですよ・・。」
「そう。それね、3人で話してたんだけど・・。まぁちょっと一気におしゃべりしないで・・。」
イズミさんは、一度話しを止めて、5人の分のコーヒーを淹れた。
「こちらの敏ちゃんはもと銀行員でもありもと会計士なんだけど、この町の需要とか人の動きは私たちのほうがたぶんマキノちゃんよりわかってると思うから、勝手にさっきから計算してたのよね。」
「・・・。」
「余計なお世話なのは、重々承知なんだけどね。せっかくこんな田舎でカフェをしたいって言ってくれてるのなら、それを大事にしたいと思って、どうしても関わりたくなったの。」
「はぁ・・」
「いろいろ聞いたけど、いい会社で働いてたのに脱サラしたんでしょ?朝市に出してたパウンドケーキとサンドイッチ・おはぎに山菜ごはん。独学でこれだけのセンス。そういうのに加えて、イズミちゃんと一緒に練習しているって言ってたドリンクや軽食類・・。それで、バイクに乗って一人旅して、古民家を買い取っての改装でしょ?自覚がないようだけれど、この行動力ってすごいと思うの。」
「はぁ・・・。」
敏ちゃんの演説がはじまり、マキノはもぐもぐと口を動かしながら聞いていた。
「イズミちゃんからマキノちゃんについての情報を聞くほどに、すごく興味がわいちゃった。口出ししていい立場じゃないのはよくわかってるよ。でも、私ってわりと経理とか経営についてうるさい人間だと自負しててね。お店をするからには、ちゃんと利益も出さないといけないし、償却分の元もとらないとだし、借りた借金も返済しないといけないし、お家賃も払わないといけないでしょ?」
「あっ、お家賃はいらないんです。確かに、借金の返済はありますけど。」
「ほう。賃貸ではないという事は、持ち家?いいね。・・とにかく、マキノちゃんにとってはすべての数字が手探りだと思うけど、売り上げの目標や値段の設定とか人件費にどれぐらい使えるとか、一応はアドバイスできたりするから、 そういうところで私の知識と能力を使ってもらえると思うの。田舎は田舎の相場を教えてあげられるよ。」
ああ、なんだか遠回りしたけど、敏ちゃんの言いたいところはそこか・・。
「私と、この仁美ちゃんは、今マキノちゃんにすごく期待してて、当分お給料いらないぐらいの気持ち。」
「え~でも~そんなわけには・・。」
「そう。もちろん、ずっとタダ働きは困るから、それを捻出するって言ってるわけ。」
「もちろん、マキノちゃんが、一人でやりたいですっていうなら遠慮するけど。」
と、今度は仁美さんが言った。
「ええと・・・。」
何と返事してよいのやら・・と迷っているとイズミさんが助け舟を出してきた。
「この人達、ちょっとテンション高くて変な人達だけど、どちらもいいものを持っている人たちなのよ。仁美さんはお料理上手で何でもできるし。お給料いらないって言ったのも半分本気だと思うよ。マキノちゃんが欲しいと思う時に気楽に使ってくれればいいのよ。」
「さりげなく変な人達って言ったわね・・。」
「うふふ。それと、私からの提案。開業の日を決めないで、少しずつやりはじめるっていうのはどうかな。」
「日を決めない?」
「広告を出したりして、開店の日を華々しくPRするのも悪くはないと思うけど。お店にお客さんが一度にどかっと来る必要もないでしょう?一人一人に対する比重が軽くなっちゃうし。広告のようなことに力を入れなくても、来てくれたお客様ひとりひとりに丁寧に対応するほうが感じがいいんじゃないかと思って。」
「なるほど。」
「お客さんが来たら伝票を書いて保存。買い物をしたらレシート及び領収書を保存。それを渡せば、敏ちゃんが整理しておいてくれるわよ。頼んでもいない統計もしてくれて、経費の使い過ぎとか、厳しくわかりやすく教えてくれるから。」
「ああ・・そういうの私、たぶん苦手です。もしかして一番ありがたい事かも・・。」
「マキノちゃんは、それで余裕ができたエネルギーを自分のお店につぎ込めばいい。」
「そんなに期待されると、困っちゃいます。お二人ともそんなにパワーがあるなら、私みたいな不確定要素をあてにしなくても自力で何かできるんじゃないですか?」
「それは無理よね。センスも度胸もないから。」
「そう。ダメね。マキノちゃんという花を中心にしないと。」
「ええー・・・。」
「ところで、そんな集中攻撃してないで、ゆっくり食べさせてあげたら?」
いつのまにか春樹さんが子ども達の輪から抜けて、大人のテーブルに座って、フルーツをつついていた。達彦さんもうなずいた。あいかわらず寡黙だ。
子ども達はテレビの前でカラオケを始めていたが「ケーキを切るよ~」の声でまたリビングに集まった。
「このスポンジ、手作りですね。なかなかやりますね。」
「敏ちゃんの実家のおばあちゃんがこういうの好きなんだって。」
「へ~。すごい。」
「生クリームを塗ってフルーツを飾るところは子ども達にやらせたのよ。不格好でしょう?」
マキノも取り分けてくれた分を一口食べてみた。
「いえいえ全然。素敵です。スポンジもおいしいです。」
本当のことを言えば、スポンジは少し泡立て足りなかったのか、市販の物と比べるとふくらみ足りずに少しもったりとしていた。けれども、市販のスポンジにはない卵の香りの素朴なおいしさがあった。子ども達は「おいしい。」とおかわりをねだった。
いいなぁ。こういう手作りって。
バイト先のオーナーにもらったケーキを車の中に置いてきたのを思い出した。せいぜい一~二人分の小さなケーキだから持って来るのを控えたのだが。
マキノがぼんやりと味わっていると、考え事をしていると思ったのか、春樹さんが声をかけてきた。
「深く考えなくてもいいんじゃない? 忙しいとき都合のいい人に手伝ってもらって、ヒマな時は呼ぶ必要もないし。忙しければいくらかはバイト代も出せるだろうし。」
「あっ。はい。悩んでたわけではないですよ。」
そうだ。話が流れてちゃんと結論が出ていなかった。言われてみれば、思い悩むほどのことでもない。忙しくなれば労働力は必要になる。せっかくの申し出を受けない手はない。
「仁美さん。敏ちゃんさん。あの、よかったらお時間のある時に一度お店を見に来てください。お給料出せるるように頑張りますのでよろしくお願いします。」
「あれっ?採用OKなの?ありがとう。」
「きゃ。やったー。押しかけバイト成功ね。」
敏ちゃんと仁美ちゃんが喜んでいると、今度は、達彦さんがマキノに話しかけた。
「ホワイトクリスマスかぁ・・。」
ロマンチックなことに随分ご無沙汰している気がした。クリスマスイブに一人か・・。
実家の母さんや万里子姉はケーキ食べたかな。サクラやリョウは・・。今日一日ケーキを引き取りに来る家族たちを見続けて、家族でホームパーティーをするイメージがマキノの脳内に広がっていた。
大事な誰かと過ごすクリスマスにも憧れるけれど・・と、思い出をたどる。学生時代につきあった人もいたが、就職して離れるといつの間にか連絡を取らなくなり自然消滅してしまった。遊びだったわけでも不誠実だったわけでもない、大学はただ楽しく過ごしただけで人生と向き合っていたわけじゃなかったなと今になって思う。
ふと、電話に着信があるのに気づいた。イズミさんからだ。かけ直すと、予定がないなら夕ご飯を食べにいらっしゃいというお誘いだった。
バイトが終了して責任感と忙しさから解放された浮遊感。寒くて冷たい自宅に帰る寂しさ。マキノにとってそのお誘いは、あまりにもココロが求めるぬくもりだった。
帰宅途中、スーパーのおもちゃ売り場で子ども達のためのおもちゃを買って、いそいそとイズミさんと達彦さんのお宅へと急いだ。
イズミさん宅の横の空き地に車が2台停まっていた。他にもお客様がいるのかなと思いつつ、ピンポーンとベルを鳴らした。
はあい。と出てきたのは寛菜ちゃんだった。子どもに手を引かれてリビングに入ると、うわ・・思ったより人間がたくさん。あっ・・春樹さんもいる。ひーふーみーよー・・・子ども6人と、大人5人がそろって声を上げた。
「いらっしゃーい。」
思わず圧倒されたが、おじゃましますと輪の中に入った。パーティーは早くから進んでいたようで、子ども達は食べ終わり、開け放した隣の部屋で固まって遊び始めていた。
マキノは、子ども達に、さっき買ったばかりのおもちゃを「これどうぞ。」と取り出した。
こわもてのブルドッグが電子音のイビキを鳴らしていて、その前のエサ入れから骨を奪ってくるゲームだ。
犬が目を覚ましたら「ガウッ!」と吠えてかみつきに来る。子ども達は喜んで順番にチャレンジし始めた。スリルもあるし犬のリアクションに迫力があっておもしろい。ガウッ!と犬が吠えるたびに「きゃあっ」「うわーっ」と子ども達の黄色い声が響く。子ども達の中に春樹さんも交じってワイワイと遊んでいる。
「マキノちゃんありがとう。気をつかわなくていいって言ったのに。」
「いえ、ちょっとしたもので・・。」
「さあさ、みんなに紹介するね。こちらがさっき話してたマキノちゃん。こちらは寛菜とおなじクラスのママ友で、仁美ちゃんと敏ちゃん。どんなふうに親子ペアかわかる?」
「はじめまして。」「はじめまして。」
イズミさんは、仁美さんと敏ちゃんのそれぞれ子ども達の頭を指さして繋いで簡単に紹介した。春樹さんと繋がる線はない。お兄さん宅のパーティーにいるぐらいだから独身か。
「とにかく、今お仕事あがったところでおなか減ってるでしょう?食べて食べて。」
テーブルの上は、からあげやミートローフ、サンドウィッチなどが、食べ散らかっていたが、マキノ用に取り分けてくれてあったのか、一人分だけきれいに盛り付けられていた。
それに加えて、イズミさんが温かいクリームシチューを出してくれた。
「シチューのブロッコリーがくずれちゃって、ごめんね。」
「いえとんでもない。おいしそうです。いただきまーす。」
「マキノちゃんが作ると、もっとおしゃれになるんだろね。」
「そんなことないです。私も素人です・・。」
誰かが準備してくれたものをいただくのは、ずいぶん久しぶりだ。
「シチューおいしい・・。」
「よかった。ドキドキしてたのよ。マキノちゃんがこのお料理見てなんて言うか。」
「ねー。」
「そんな・・。」
「ええとね、実はお願いと言うか、お話があるんだけどね、この二人、カフェのお手伝いしたいんですって。」
「えっ、そうなんですか?」
「私が、マキノちゃんのところに出かけていくのを、随分うらやましがられてたの。」
「・・あのぅ、でも私、その気持ちはすごくありがたくて嬉しいんですけどお給料をどれだけお渡しできるか、まだわかんないですよ・・。」
「そう。それね、3人で話してたんだけど・・。まぁちょっと一気におしゃべりしないで・・。」
イズミさんは、一度話しを止めて、5人の分のコーヒーを淹れた。
「こちらの敏ちゃんはもと銀行員でもありもと会計士なんだけど、この町の需要とか人の動きは私たちのほうがたぶんマキノちゃんよりわかってると思うから、勝手にさっきから計算してたのよね。」
「・・・。」
「余計なお世話なのは、重々承知なんだけどね。せっかくこんな田舎でカフェをしたいって言ってくれてるのなら、それを大事にしたいと思って、どうしても関わりたくなったの。」
「はぁ・・」
「いろいろ聞いたけど、いい会社で働いてたのに脱サラしたんでしょ?朝市に出してたパウンドケーキとサンドイッチ・おはぎに山菜ごはん。独学でこれだけのセンス。そういうのに加えて、イズミちゃんと一緒に練習しているって言ってたドリンクや軽食類・・。それで、バイクに乗って一人旅して、古民家を買い取っての改装でしょ?自覚がないようだけれど、この行動力ってすごいと思うの。」
「はぁ・・・。」
敏ちゃんの演説がはじまり、マキノはもぐもぐと口を動かしながら聞いていた。
「イズミちゃんからマキノちゃんについての情報を聞くほどに、すごく興味がわいちゃった。口出ししていい立場じゃないのはよくわかってるよ。でも、私ってわりと経理とか経営についてうるさい人間だと自負しててね。お店をするからには、ちゃんと利益も出さないといけないし、償却分の元もとらないとだし、借りた借金も返済しないといけないし、お家賃も払わないといけないでしょ?」
「あっ、お家賃はいらないんです。確かに、借金の返済はありますけど。」
「ほう。賃貸ではないという事は、持ち家?いいね。・・とにかく、マキノちゃんにとってはすべての数字が手探りだと思うけど、売り上げの目標や値段の設定とか人件費にどれぐらい使えるとか、一応はアドバイスできたりするから、 そういうところで私の知識と能力を使ってもらえると思うの。田舎は田舎の相場を教えてあげられるよ。」
ああ、なんだか遠回りしたけど、敏ちゃんの言いたいところはそこか・・。
「私と、この仁美ちゃんは、今マキノちゃんにすごく期待してて、当分お給料いらないぐらいの気持ち。」
「え~でも~そんなわけには・・。」
「そう。もちろん、ずっとタダ働きは困るから、それを捻出するって言ってるわけ。」
「もちろん、マキノちゃんが、一人でやりたいですっていうなら遠慮するけど。」
と、今度は仁美さんが言った。
「ええと・・・。」
何と返事してよいのやら・・と迷っているとイズミさんが助け舟を出してきた。
「この人達、ちょっとテンション高くて変な人達だけど、どちらもいいものを持っている人たちなのよ。仁美さんはお料理上手で何でもできるし。お給料いらないって言ったのも半分本気だと思うよ。マキノちゃんが欲しいと思う時に気楽に使ってくれればいいのよ。」
「さりげなく変な人達って言ったわね・・。」
「うふふ。それと、私からの提案。開業の日を決めないで、少しずつやりはじめるっていうのはどうかな。」
「日を決めない?」
「広告を出したりして、開店の日を華々しくPRするのも悪くはないと思うけど。お店にお客さんが一度にどかっと来る必要もないでしょう?一人一人に対する比重が軽くなっちゃうし。広告のようなことに力を入れなくても、来てくれたお客様ひとりひとりに丁寧に対応するほうが感じがいいんじゃないかと思って。」
「なるほど。」
「お客さんが来たら伝票を書いて保存。買い物をしたらレシート及び領収書を保存。それを渡せば、敏ちゃんが整理しておいてくれるわよ。頼んでもいない統計もしてくれて、経費の使い過ぎとか、厳しくわかりやすく教えてくれるから。」
「ああ・・そういうの私、たぶん苦手です。もしかして一番ありがたい事かも・・。」
「マキノちゃんは、それで余裕ができたエネルギーを自分のお店につぎ込めばいい。」
「そんなに期待されると、困っちゃいます。お二人ともそんなにパワーがあるなら、私みたいな不確定要素をあてにしなくても自力で何かできるんじゃないですか?」
「それは無理よね。センスも度胸もないから。」
「そう。ダメね。マキノちゃんという花を中心にしないと。」
「ええー・・・。」
「ところで、そんな集中攻撃してないで、ゆっくり食べさせてあげたら?」
いつのまにか春樹さんが子ども達の輪から抜けて、大人のテーブルに座って、フルーツをつついていた。達彦さんもうなずいた。あいかわらず寡黙だ。
子ども達はテレビの前でカラオケを始めていたが「ケーキを切るよ~」の声でまたリビングに集まった。
「このスポンジ、手作りですね。なかなかやりますね。」
「敏ちゃんの実家のおばあちゃんがこういうの好きなんだって。」
「へ~。すごい。」
「生クリームを塗ってフルーツを飾るところは子ども達にやらせたのよ。不格好でしょう?」
マキノも取り分けてくれた分を一口食べてみた。
「いえいえ全然。素敵です。スポンジもおいしいです。」
本当のことを言えば、スポンジは少し泡立て足りなかったのか、市販の物と比べるとふくらみ足りずに少しもったりとしていた。けれども、市販のスポンジにはない卵の香りの素朴なおいしさがあった。子ども達は「おいしい。」とおかわりをねだった。
いいなぁ。こういう手作りって。
バイト先のオーナーにもらったケーキを車の中に置いてきたのを思い出した。せいぜい一~二人分の小さなケーキだから持って来るのを控えたのだが。
マキノがぼんやりと味わっていると、考え事をしていると思ったのか、春樹さんが声をかけてきた。
「深く考えなくてもいいんじゃない? 忙しいとき都合のいい人に手伝ってもらって、ヒマな時は呼ぶ必要もないし。忙しければいくらかはバイト代も出せるだろうし。」
「あっ。はい。悩んでたわけではないですよ。」
そうだ。話が流れてちゃんと結論が出ていなかった。言われてみれば、思い悩むほどのことでもない。忙しくなれば労働力は必要になる。せっかくの申し出を受けない手はない。
「仁美さん。敏ちゃんさん。あの、よかったらお時間のある時に一度お店を見に来てください。お給料出せるるように頑張りますのでよろしくお願いします。」
「あれっ?採用OKなの?ありがとう。」
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これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
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