マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos

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カフェをめぐる物語(1)続

みんなで作るごはん。

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春樹さんとデートをして、それ以来お店に顔を出してくれる頻度が上がった。
だからといって、劇的な何かが変わるわけもなくて、マキノは、またいつもどおり、忙しさの中でバタバタと走り回る日々を過ごしていた。

幾日かたち、4月最初の土曜日にサクラからリョウと2人でお昼前に来るという連絡が入った。
・・お昼前と指定してくるのは、サクラはランチが目的だからだろう。
お泊りする?と聞いたら、様子を見て考えるとのこと。

電話の後、マキノは少し考え込んだ。
以前リョウが来たときは、上のお店も下の階も自由な空間だった。それが今は、上は全部お客様優先になっている。それはお店が始まっているのだからわかっているだろうが、下の階では今日は仁美ちゃんの当番だから、小学生が来ていることもある。昼ごろに来るとなると、お客様が来て忙しければ、ちゃんと相手をしてあげられないかもしれない・・。
リョウにとっては、なじみのあるはずの場所が消滅してしまったと感じないだろうか。
・・でも、サクラが一緒だから、気を効かせて面倒を見てくれるだろうか。
サクラに期待するのも間違っているとは思うけど。今の私には、どうすることもできない。



連絡があったとおり、12時になる少し前にサクラとリョウがやってきた。他にお客様はいることはいたが、それほど忙しくなかった。
「リョウ!元気だったー??会いたかったよ。」
「ぅん。」
マキノはリョウをぎゅうっと抱きしめた。
リョウは、かろうじてじっとしているが、スキンシップは苦手なようだ。でもそんなことは気にしない。頭をぐしゃぐしゃにしてやったら、「やめてよ。」と、照れたように言って玄関から出て行った。
サクラが不思議そうに「どこ行くの?」と言った。
「下の裏庭だよ。」
「ふうん。」

裏庭を見下ろすと、やはり・・リョウはキンモクセイの木の前にしゃがんでいた。


「あれなに?」というサクラの質問には、
「二人の秘密・・」と返した。

今日のランチは、ミニグラタンとエビフライ。サラダとコンソメスープ。
「リョウ、ごはんできたよー。」と上から呼んだ。


リョウは、厨房の中の遊の存在に気が付いてなんだか不思議な反応をした。
初めて見せる表情だ。
「マキノの店に、知らない人がいっぱいいる。」
「そりゃ、スタッフも雇うでしょう。」
「わたしの知ってる台所じゃない。」
「だって、リョウが帰ったあとお店をするように改装したんじゃない。」
「そうだった・・。」

マキノも自分のコーヒーを淹れて、サクラとリョウのテーブルに座った。
「リョウ、今日は絵は持って来てないの?」
「来てない。」
「そうなのか。また飾れるものが増えるかなと思ったのに。ほら、あそこと、あそこに、リョウの絵は飾ってあるよ。」
「あ。ホントだ。」
少しずつ表情が緩んできた。

玄関が開いて、また、お客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー。」
マキノとスタッフの声が揃い、未来ちゃんがトレイにおしぼりと水をのせてカウンターから出ていく。
「厨房に行かなくていいの?」
「遊がだいたいのことはできるよ。」
「・・・・。」
「ランチはどう?」
「うんおいしい。グラタンはマキノの味。」
「リョウのいる時も作ったね。」
「おいしくて悲しい味。」
「まだ引きずってるの?」
「ここに来たから思い出しただけだよ。」
「だよね。」
めずらしく静かに食べていたサクラがリョウとマキノの会話に入ってきた。
「あなたたち、思った以上に二人だけの世界を持ってるのね。」
「あるよ。いろいろ内緒だもんね。」

リョウが何かを思い出したのか、急にニヤニヤしはじめた。
「佐藤くんと付き合ってるって聞いたよ。」
「ぶーっ!サクラ何しゃべってんの。」
「私の言ったとおりになった。」
「そっ‥そう言えばそんな予言を聞いたことがある気もしないではないな。」

「あのときすでに、佐藤くんはマキノねらってた。」
「それはないわー。」
「どうだか。」

またお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー。」
今度はマキノも立ち上がった。
「ちょっと厨房行ってくるね。」
「忙しそうだね。」
「うん。ありがたいことにね。最近わりと忙しいんだ。」
「いいね。ゆっくりでいいから、あとでコーヒーも欲しいです。」
「はいはい。リョウにはカフェオレ?」
「うん。」

しばらくしてお客さんの波が落ち着くと、マキノはまたサクラたちの席に戻ってきた。
「マキノの彼って、どんな人ですか?」
サクラがそばにいたスタッフ達に聞いた。
「そんなの聞かなくていいよ・・。」
「男らしくて、かっこいいですよ。」
そう遊が言った。でも、そのかっこいい春樹さんが、ちょっぴり遊に嫉妬してることは教えてあげない。
「明るくて元気で真面目よね。」
仁美さんが言った。ありがとう!
「小学校の先生です。」
未来ちゃんが言った・・えっ、それだけー?
「マキノさんがでれっとします。」
「はぁ?遊っ!それ余分。無駄口叩かず働きなさいっ!!」
サクラが、うははは。と笑いながら「なんだか想像つくわ。」と言った。


「リョウは、今日泊まれるの?」
マキノがとたずねると、リョウはしばらく逡巡した。
「んー・・・。うん。」
うなずいたとき。またお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー。」
食事が終わっていたサクラが、席を立ちあがるそぶりをした。
「リョウちゃん、夕方までブラブラしようか。ドライブでも。」
「うん。」
リョウもサクラに続いて立ち上がった。
「忙しそうだね。」
「今日はこれでもまだましなんだ。4月は町じゅうでお客さんが増えるみたい。」
「イイことだよ。それは。」
「リョウごめんよ。あんまり一緒に遊べなくて。」
「ううん。」
「あのう・・・ついでに言いますが、実は今日も春樹さんが来ます。」
マキノが言うと、サクラの目が輝いた。
「まじで!」
「うん・・あっ、じゃ、遊も食べて帰る?」
「やった。いいんですか?ラッキ!」
遊に声をかけたのは、サクラとリョウが来ていることを楽しいイベントにしたかったからだ。
スタッフとサクラたちが仲良くなってほしい気持ちもあった。どちらも、自分にとっての身内だから。
「仁美さんはおうちのごはんがある?じゃあ未来ちゃんはどう?」
「家に電話します!」
「サクラ、お店は5時に終わるからその頃に戻って来てね。」
「うふん。わかった。いってくる。」


午後は、お客さんをこなしながら、小声でスタッフ達と相談し合う。
「今日のごはん、シチューはどう?」
「いいね。」
「ビーフ?ボルシチ?クリーム?」
「クリーム!」「ビーフ!」
「んー・・・今日はビーフにしようか。」
「そうだ、手作りコロッケもしよう。ジャガイモから。」


コロッケの用意をしながら、リョウといっしょにごはんを作りたかったな。と思った。
早めに帰ってこないかな。


お店は5時に閉めて、みんなで晩ご飯の用意をすることにした。
遊はまた野菜を刻んでいる。玉ねぎのみじん切りをひき肉と炒めていく。
「遊は、進んで雑用っぽい事してくれるのはありがたいけどね、他の仕事も遊の主導でやってくれてもいいんだよ。遠慮しないでさ。」

遊は、この半月余りでひととおり手順は覚えたはずなのに、板場の順列で大事な仕事は先輩がするものという考えが染みついているらしく、マキノやイズミさんがいる時は、自分で仕込みをしようとしない。

マキノ自身も、カフェ教室で一通り習ったぐらいではシェフとも専門家とも言えない。
カフェのメニューは、家庭料理プラスアルファだから、むずかしい技術が必要な料理は一つもない。
店の特徴として、焼き色の程度や、煮込み時間やタイミングなど要所要所のポイントは決めるようにしてあるので、それを守ればいいだけだ。
遊の力量で充分できるとマキノは判断している。
近いうちに、遊一人でも采配していいと思えるよう、任せていこう。


今日の、夕ご飯のメニューは、コロッケとシチューになったが、人数が多いときはおにぎりにすると楽しいかなと考えて、鮭フレークと昆布の佃煮を準備した。そこへちょうど表に車が入って行った気配があった。
しばらくして、リョウと春樹さんがおしゃべりしながら入ってきて、その後ろからサクラが口を押さえながら入ってきた。入ってきた車は2台だったようだ。
「おかえり~。」
とスタッフみんなが声をそろえた。
「何をしゃべってたの?リョウと春樹さん、いつ仲良くなったの?」
「・・・。」
リョウと春樹さんは顔を見合わせて、
「マキノが熱だしてイズミさんがイロイロしてる間におしゃべりした。」
「あっ。そうだったの?全然知らなかった!」
「だろうね。」
「ええと、改めて紹介します。こちらは私の元同僚のサクラ。リョウちゃんはその従妹。そしてこちらは、ええと・・ええと、佐藤春樹さん。」
「はじめまして淡口サクラと申します。」
「はじめまして。ずっと謎だったけど、リョウちゃんとはそういう関係だったのか。」
「そう。赤の他人。」
リョウがしれっと口を出した。

「リョウおいでよ。コロッケ一緒に作ろう。」
「・・うん。」
リョウは、少し躊躇う様子を見せたが、エプロンを貸してやると素直にそれをつけた。
マキノが何も言わなくても、未来ちゃんが世話を焼きはじめて、ジャガイモのタネをまるめることを教えられてリョウも素直に作業し始めた。
「手がべたべたになっちゃう。」
「誰がやってもなるから、リョウちゃんが下手ってわけじゃないよ。」
「できたらどんどんあげて行こう。油多めにしてね。」
マキノが声をかけた。

マキノは、なんとなく大学の頃を思い出していた。
こんなふうに、マキノの一人暮らしの部屋に友達が集まって、自分がみんなの指揮をとって、おしゃべりしながらごはんを作って、小さいコタツに全員が足をちょっとずつ突っ込んで、大皿の料理をみんなでつついて食べた。
地方から集まってきた友たちが、少しずつ違う文化を持ちよって、いろんなものに興味を持っておもしろがって、ちょっとしたことで笑い転げて、大げさに話をして、変な音楽を聞いて、やったことがないことはどんどん試して、受け入れ、吸収できた、そんな学生時代。
まだ数年しかたっていないのに、それは、ずいぶん昔のことのように思えた。

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