僕には見えない君の色

くす

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君に会う

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バスの中、静かに降りつづく雨の音が部屋を満たしていた。窓ガラスを伝う雫を眺めていると、胸の奥がゆっくりと解けていくような気がした。

バスを降り、俺はふと公園へ行きたくなった。理由はわからない。ただ、雨の匂いが俺を外へ誘い出したのだ。

家の近くの公園に着くと、普段は賑わう遊具の前にも人影はない。木々の葉は、しっとりと濡れ、ベンチの背もたれには細い水の線がいく筋も流れていた。世界から余計な音が消え、雨だけが淡々と地面を叩いている。
俺は東屋の下に入り、濡れた靴を軽く払って腰を下ろした。

そこに一一先客がいた。
白いレインコートを着た同い年ぐらいの女性が、ぬれたスケッチブックを膝に置き、黙々と何かを描いている。

「雨の日の公園?」そう声をかけると、彼女は無表情で答えた。

「......うん。晴れの日より、いろんな色があるから」
俺は思わず笑った。この灰色に見える景色のどこに色があるというのだろう。 

けれど、彼女のスケッチブックを覗くと、そこには確かに色があった。
濡れた木の幹の深い黒、葉に宿る淡い緑、
舗道の石に反射する空の銀色一一雨が混ぜて作る静かな色彩の世界。

「君、よくここで描くん?」
俺は聞いた。
「雨の日だけ。晴れてると、世界がうるさすぎて」

彼女の言葉に、俺はハッとした。
ーーこの人は"アイツ"に似ているのかもしれない。

俺は"アイツ"を思い浮かべながらそう思った。

気づけば雨は少し弱まっていた。

公園の空気は澄み、雲の向こうからわずかな光が差してくる。

彼女が口を開いた。
「ねえ、君はまた雨の日に来るの?」

俺は頷いた。
「うん。たぶん、また、」
雨の日の公園には、晴れの日には見えない何かがあった。
それはきっと、静けさの中でしか聞こえない声。

心の奥の、まだ名前のない色だった。
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