悪役令嬢なのに、誰にも憎まれなかった

ねことくラゲヨ

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悪役として生きる覚悟も、まだない

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 本来なら、私はもう嫌われているはずだった。

 陰口を叩かれ、冷たい視線を向けられ、
 ヒロインの引き立て役として扱われる――
 それが“悪役令嬢”の定め。

 けれど現実は、違う。

 誰も私を憎まない。
 誰も私を恐れない。

 それは、想像以上に不安だった。

 憎まれないということは、
 期待されていないということでもある。

 私は、何も起こさない存在。
 物語を動かさない存在。

 ある日、廊下でヒロインとすれ違った。
 彼女は微笑み、軽く会釈をして通り過ぎる。

 敵意も、警戒もない。
 ただの“知人”としての対応。

 その背中を見送ったとき、胸がざわついた。

 ――私は、このままでいいの?

 悪役として憎まれる覚悟もない。
 かといって、脇役として消える覚悟もない。

 中途半端な立場にいる自分が、急に嫌になった。

 夜、机に向かい、自分の名前を紙に書く。
 この世界での私の役割は、まだ白紙だ。

 もし、物語が私を必要としないなら、
 私は自分で意味を作らなければならない。

 憎まれなくてもいい。
 でも、存在しないことにされるのは、違う。

 私は静かに決めた。
 誰かを蹴落とす悪役にはならない。
 けれど、ただ流される存在にもならない。

 この物語に、私の選択を刻む。
 それが、私なりの“反逆”だった。
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