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8:帰還
しおりを挟む魔帝を倒した僕達3人は、瀕死ではあったが、主な回復役のセシリアのMPが若干自然回復すると、やがて動けるくらいまで、彼女の神聖魔法で癒された。他の魔族は、魔帝がいなくなると力なく崩れて、灰になって消えた。
「魔帝を倒せたのはいいけど、段々僕の存在が希薄になっているのは気のせいじゃないよね。まさか魔帝の呪いとか?」
僕は二人に訊いてみる。状況のわりに焦りがないのは、魔帝を倒した安心感からだろうか。
「それなら、聖剣でとどめを刺した私がなっているさ。冬人のそれは、必然なんだ」
…エルオード王子が言うには、魔帝を倒す為に呼ばれた『イレギュラー』の僕は、その役目を終えた事で、元の世界に還るのだという
(王子はこの事を知っていて、魔帝を倒すためにあえて黙っていたのか…だとすると僕はもうこの世界では用無しなんだな…)
魔帝城の謁見の間で、段々存在が希薄になる黒騎士姿の僕に、白いラインの赤い聖帽、赤いドレス姿のセシリアが抱き着く。
…まだ怪我も全部治っていないので、若干痛いけど、その行為自体は素直に嬉しい。
「冬人、行かないで…」
僕の「推し」の、さらりとした銀髪と優しい水色の瞳の知的美人のセシリア。
どうやら僕をこの世界に召喚した彼女自身は、このことは知らなかったらしく、目に涙を貯めている。
その悲し気な水色の瞳に、こっちまで悲しくなり、僕の黒目にも涙が溢れる。
でも、これでお別れならきっちりいう事は言わないといけない。
「この旅はつらかったけど、君のおかげで楽しかったよ。僕の「推し」もう会えないかもしれないけど、君が幸せになるように願っているよ」
僕は素直な気持ちでそう告げたけど、セシリアは頭を振る。納得のいかない事に遭った子供のように泣きじゃくって。
「認めないわ、あなたのいない世界なんて!認めないわ、こんなのが必然だなんて!冬人、お願いだから行かないで。私を離さないで…」
そういって、どんどん存在が希薄になっていく僕に、セシリアは思い切り抱き着いて口づけをする。ついには存在が霧になり、僕はそのまま意識を失った。
★
…次に気づくと僕は、和製の布団の中で目が覚めた。見ると、ここは久々に見る元の世界の僕の部屋だ。着ている服装は何故かただの学生服。かといって、全て夢かとおもうには、記憶が鮮明すぎるし、さらには取り巻く状況が色々おかしかった。
僕の隣には、さらりとした銀髪の、水色の瞳をした、向こうでの「クラスチェンジ」前の銀縁眼鏡をしている知的美人のセシリアが、ご丁寧にも2枚の「クラスチェンジ」の石板をそれは大事そうに抱えて、純白の神官服姿で寝ていたのだ…。
そして、やがて彼女も眼を覚ますと寝とぼけたように「あら、おはよう。冬人」と言ってきた。
…これは、なにかの間違い、いや奇跡だろうか。僕はゲーム的異世界から帰還する際に「推し」の彼女を巻き込んで連れてきてしまったようだ。
…この状況の理屈も原因も分からないが、僕はこの再会には素直に歓喜して、彼女を愛おしく抱きしめた。
…後に、この「雷の神官」セシリアと「クラスチェンジ」の2枚の石板を巡って、こっちの世界でもうひと騒ぎあるのだけれど、それはまた別の話…。
「了」
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