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黒騎士転生-クロイツという男-
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黒騎士転生-クロイツという男-
俺、高坂誠は、ゲーム「光輝の鍵」をしていたら、やりすぎで昏倒してしまった。
そして次に気が付くと、いつのまにか、そのゲームそっくりの世界にいた-悪役キャラの黒騎士クロイツとして-
最初は何かの間違いで、ただの夢だとおもったが、一向に覚める気配がない。
そして幹部である俺=クロイツに、部下たちが、いきなり指示を求めてきた。俺は一時考える時間を確保すべく、「気分がすぐれぬ、副官のイーガンにしばらく任せる」と部下に指揮を丸投げしてアジトの自室に篭った。
とりあえず、状況を確認。多分にファンタジーとSFの入ったこの世界で、ザッパーと呼ばれる冒険者の類が、多額の賞金のかかった「神の石板」と呼ばれる文明的遺産を探すというのが、主人公サイドの題目のはずだ。
こっちの悪役サイドは、「神の石板」を利用して、邪竜を復活させて、世界を滅ぼすというのが目的になっている。無論、悪役サイドのこれを知るのは幹部クラス以上で、ゲームの設定上、黒騎士クロイツは、そこに行きつく「キー」の一つを持っていた。俺が懐を探ると、金色の「キー」がしっかり入ってるし…。
ゲームでは、クロイツは、最後に改心して死ぬか、主人公の「ザッパー」たちに倒されて鍵をもっていかれるかになっていた。
ちなみに俺は、このゲームに出てくる、女神官セリーヌにぞっこんだったので、少々早いが、彼女とコンタクトを取って寝返ろうと画策した。
殺されるのを回避するにも、改心して戦うにせよ、早い方がいい。と、俺は判断した。
俺はこのゲームをほぼやりつくしているので「彼女」を呼び出すにも、さして苦労はないはずだ。
「俺の持つ「キー」が欲しければ、俺に会いに、明日の夕刻に黄昏の丘にくるがいい」
と、女神官セリーヌ相手に、分かるように手紙を送った。
☆
そして次の日の夕刻、人気のないフィールドである黄昏の丘で待っていると、女神官-セリーヌがやってきた。
ゲームの設定上、青い髪に、同色の眼をした彼女は、シスターの衣装を着ていて、彼女を生?でみた俺は少し、感動した。
「クロイツ…私一人を呼び出して、決闘で「キー」をかけて戦おうというのですね…」
え?いや、寝返りに来たんだけど…。とか言えない雰囲気になってきた。
そして、セリーヌは、霊力強化された「マナライズ・ウェポン」である蒼いブレードを抜いてくる。
かなり、戦意は高いようだ。
仕方ない、少し戦ってみるかと俺は思った。改心するにしても、バトルの後の方がいいかもしれないし。
こちらの武器は、銃剣。-勿論、「マナライズ」されている-を構えて 俺も彼女も臨戦態勢。
「勝った方が、相手の「キー」を奪う。シンプルな決闘ね」
黙っているといつのまにか、ルールまで勝手に決められた。まあいいか、戦闘スタイルは分かってるし。
攻撃系結界術を得意とする彼女に、剣でまともに突撃はできないので、肩を狙って銃撃。まあ、結界に阻まれるわけだが。次に手と足を狙って発砲。これも結界に弾かれる。まあ、黒騎士クロイツは白兵キャラだから、銃が効かないのは想定内。
「ふざけているのですか?では、今度はこっちの番です」
蒼いブレードで斬り込んでくるセリーヌ。
こちらも銃を剣状にして、競り合いを始める。こうなると、セリーヌは攻撃系結界術をつかえないはずだ。
(ここは、格好つけてポイント稼いだ方がいいかな?)
などと思い、元の「クロイツ」らしい台詞を告げてみる。
「おまえでは俺には勝てない、大人しく「キー」を置いていけ」
「冗談言わないで!貴方こそ、「キー」を返して、降伏しなさい!」
(寝返るなら、このタイミング…かな)
「そちら側についてやってもいい…」
え?とセリーヌが意外そうな顔になる。元の黒騎士クロイツは組織に忠誠心が厚く、しかも簡単に折れない性格なので、それはそうだ。
「おまえが俺の物になれば、な」
・・・言っちゃったよ。ライバル敵キャラからサブヒロインへの告白って、どっかであった気もするけど。
「どういうイミ?たばかろうとしても、無駄ですよ」
「何度も言わせるな。組織に愛想が尽きた・・とだけ言っておこう」
「幹部の貴方がそんなわけないでしょ!内通して、機を見て戻るつもりでしょう」
段々話が通じなくなり、斬りあいだけがエスカレートしていく。
(ヤバい展開だな、とりあえず、勝つか。)
俺の知る限りクロイツは、性能的にバケモノみたいに強く、ザッパー4人がかりでも、序盤では歯が立たない位、強い。使っているのが俺だとしても、1対1でザッパーに負けることは、まずない。
案の定、本気を出したら、セリーヌのブレードが弾き飛ばされて、遠くの地面に刺さる。
「殺しなさい・・」
「勝負はついた。キーが奪えればそれでいい」
「「キー」を奪われて、むざむざ生き恥をさらせるはずがないでしょう。殺して、奪いなさい」
(あーもー、面倒な展開になってきてるな)
「なら、「キー」もそうだが、おまえの心も貰おうか」
そういって近寄り、セリーヌがネックレスに付けている「キー」をそっと外して奪うと、その身体を強引に抱き寄せ、頬に口づけをする。
彼女は慌てて、俺を引きはがすと、赤面して、
「何をするんです、あなたは、一体どうして…」
(よし、いい雰囲気になってきたな)
そうして見つめあい、沈黙が続くと相手の仲間のザッパー、リーダーの勇者カイに、勝気な槍使いのメイ、冷静な魔術師レイが駆けつけてくる。
「クロイツ!貴様、セリーヌに何をした!」カイが叫ぶ。
(邪魔者が来たよ…)
と思いつつ「クロイツ」らしく返事をする。
「何、ただの告白だ。ついでに「キー」も頂いた」
「ふざけるなよ。この人数の差で、勝てるつもりか?」
レイが言う。冷静だが、攻撃系魔法の使い手でいわゆる「火力」の高いキャラだ。
(あーもう面倒だな。でも急ぎすぎもよくないかな…)
俺は、一時撤退することにした。
「まあ、今日はこれで退いておこう。また会おう、セリーヌ」
意味ありげに言って、テレポートする。
色々特殊能力が使えるって便利だ、とつくづく思いながら。
☆
アジトに戻ると、副官のイーガンが報告をしてきた。
「もうしわけありません「ザッパー」どもに「キー」を奪われました」
(カイの「キー」のことだな。大体進行状況が読めてきたな)
このあと、メイ、レイと「キー」を手に入れて、クロイツの「キー」と合わせて、石板に向かうのだが、
「なら、交渉材料に、先回りして「キー」を取っておくか」
ゲームをクリアしている俺は、石板の正体も知っている。願いをかなえる代わりに、凶悪な邪竜が復活する。
いわば伝承の「猿の手」に近い。
レイの「キー」はとある遺跡に封じられているはずだ。向こうに先んじて、俺は一人でそこに向かった。
怪物が多分に配置されていたが、ザッパーが4人がかりでも倒せない強さの「黒騎士クロイツ」である今の俺にはさしたる障害にはならなかった。
トラップの類も、俺は配置をほぼ覚えているから、かからないし。
獣のようなBOSSも単身であっさり倒して「キー」を手にするとバタバタと、カイ、メイ、レイが走り込んでくる。
「くそっ、先を越されたか。その「キー」を渡せクロイツ!」
カイが叫ぶ。言葉だけ聞くと、無茶をいうなよコイツと、つくづくおもう。
「セリーヌがいないな。防御、回復なしで俺と戦うつもりか?」
痛い所を突かれたのか、メイが槍を構えて、言う。
「あんたが戦えなくしたんでしょうが!」
(ん?あの抱擁、そんなに効いてたんだ、)
とか思いつつ、突撃してきたメイの、マナライズされた槍をかわす。
「お前の「キー」ももらっておこうか」
メイの槍を銃の底でたたき落とすと、みぞおちに蹴りを入れ、ペンダントのようにつけていた「キー」をむしり取る。
「返せっ!」
メイが叫ぶ。どうせはかない願いと共に、邪悪な竜が復活するだけなのにと思いつつ、こいつらはまだ知らなかったんだな、と思い立って少し情報を流すことにした。
「お前たち、この「キー」の役割を本当に知らないのか?おめでたいことだな」
「願いが叶うんだろ?俺はそれで、病床の母を助けるんだ!」カイが叫ぶ。
(その気持ちは分かるが、代わりに邪竜が復活して、何千と人が死ぬんだぞ、ソレ・・)
といいたかった。
なので、少々、そうしてみた。
「「猿の手」という遺物を知っているか?」
これにはレイが答えて「確か、願いを叶える代わりに、大きな厄災が発生するというやつだな。まさか・・」
「そう、お前たちのしていることが、まさにそれだ」と俺は解説を始める。
「まあ、こちらは滅ぼす側だ、世界の滅びを望んで、その上で厄災が起こっても、デメリットにはなりえない。しかし、お前たちのは、どうだ?自分の欲のために、邪竜を復活させて王都の民を、しいては大陸を破滅に導く気か?」
「お前の言うことなど信じられるか!俺は母さんを助けるんだ!」
カイが叫び、銃を連射する。それを俺は結界ではじくと、剣状にして切りかかってくるカイを迎撃。
カイを銃で殴り倒して、メイ、レイをけん制しながら、ごそごそと懐から、「キー」を奪い取る。
(ん?俺、確か、向こうに寝返るんだったよな?)
今さら思い返す。
(この状態はかなり険悪だな、少し話題をそらすか)
「カイ、どうしても母を助けたいか?」
「当たり前だ!それで邪竜がでるっていうなら、俺が倒す!」
「「キー」にはもう一つの使い道がある。」
「え?」
俺の言に、3人は身構えつつも、聞く態勢に入る。
「むしろ、こちらが「キー」の本来の使い方ともいえるな。それは…」
「そこまでだ。このごに及んで裏切る気か、クロイツ?」
そこに、こつこつとブーツの音を立てて、新たな人物が割って入る。それは…。
「ヴァイン総統…」
赤い装甲服を身に着けた大剣使い「総統ヴァイン」が出てきた「クロイツ」の組織のトップに当たるキャラで、赤いたてがみじみた髪をした、ハンサムだが威厳のある男だ。
「キーを全て集めたまではよかったがね。神官女に心奪われた所が甘い。まあいい。妙な気を起こさずに、集めた「キー」を渡してもらおうか」
「それは残念だな、総統。俺には俺の「願い」があるんだ!」
俺は、総統に銃を向けた。
「私とやる気か…。愚かな…」
そして、総統ヴァインとその幹部の俺、黒騎士クロイツの戦いは始まった。
☆
ヴァインの大剣と俺の銃剣が交錯する。実力では、ヴァインのほうが上なのだが、クロイツの俺は互角以上にやりあっている。
「戦い続けの俺と、長椅子に踏ん反りかえっていたあんたのブランクの差・・と、でもいっておこうか」
「ぬかせ!、それで、それだけで私の太刀筋が見切れるか!」
「あんたにこんなこといっても分からないだろうが…」
俺は勇んで叫ぶ。
「「光輝の鍵」のボス戦は・・アクションパート。動きのパターン丸わかりなんだよ!」
ヴァインの薙ぎの斬撃をしゃがんでかわすと、俺の銃剣の突きが、ヴァインの喉に刺さる。
「なんだ…それは…この私が、そんなわけのわからない事で…」
自らの喉から吹いた血だまりに倒れ伏し、総統ヴァインは息絶えた。
「お前、自分達の総統倒して、良かったのか…?」
レイが訪ねる。
「元々そっちにつく算段だったんだよ。セリーヌから何も聞いてなかったのか?」
カイも不思議そうに、
「お前の話すると顔真っ赤にするから連れて来れなかった。何があったんだ?」
俺は肩をすくめて、
「それは・・いわずもがなってやつじゃないか?」
話がそれかかっているので、俺は話題を変えた。
「邪竜を復活させずに、お前の願い、かなうかもな」とカイに言う。
「「キー」の本来の使い方ってやつか?」
レイが尋ねると俺は、首を縦に振った。
この後、総統を失った組織は瓦解。
アジトの留守を預かっていたイーガンとその配下は、一部を除いて、クロイツである俺の勧告で降伏。
俺もクロイツのしてきた罪に問われたが、「「キー」の本来の使い方」を知るものがいないのと、総統を倒して投降してきたこともあって、条件付きで拘留扱いとなった。
☆
「で、「キー」揃ったけど、これからどーするの?」
メイが一同に聞く。レイが俺に目を向けて、
「それは、こいつの説明しだいだな」
このころには立ち直ったセリーヌもいて、
「そういえば、クロイツ、貴方の願いって何だったの?」
俺は、あたまをかいて、意を決して言った。
「こういうのは、願いに入れたらよくないのかもしれないが、おれは、あんたが欲しかった」
「な、なにいっているんですか!敵同士ですよ?あなた、犯罪者ですよ?私、聖職者ですよ?嫌いじゃないけど、無理でしょ、普通は!」
セリーヌは目を丸くして、次いで顔をボン、と真っ赤にした。
俺はその反応を分かっていた風で「だから、コレなんだ。これを使えば、俺はあんたを「願い」で手にすることができる。でもせずにすんで、良かったと今は思ってる」と答えた。
今度はメイが聞く「でもあんた、最初は滅びがどうとかいってなかった?」
この段で俺は前髪をかきあげ、「よくぞ聞いた。今こそ明かそう、今の俺はクロイツではない。異界からの来訪者だ」
4人のザッパーはぽかん、と空いた口がふさがらないようで、呆れてものもいえない感じだった。
「信じられないか?セリーヌを呼び出した辺りからそうだったんだが、以前のクロイツに比べておかしくなかったか?それなら、俺の演技力も大したものだな」
真っ先に立ち直ったレイが訊ねる。
「じゃあ、お前はどこのだれなんだ?」
「俺は高坂誠。ここの事を調べていたらこの世界にクロイツとして突然すり替わった。だから、この世界の謎の事は、結構わかっているつもりだ。」
「それで、「キー」の本当の使い方とやらも知っているのか。いい加減話せよ、何なんだ、それは?」
「これは、裏技に近い隠しルートなんだが・・」
☆
とある山奥の洞窟の奥深く…。
5個の鍵穴のある台座が安置されていた。
これは、強敵ヴァインが死んでいないと出てこないルートの隠しエンドの話なんだが…。
「これに鍵をさすと、邪竜じゃなくて女神が復活するんだ」
俺は解説するように続ける。
「神話では、邪竜と相打ちになった女神がいなくなって秩序がなくなり、争いがおこるようになった。なら、それを収めるのも、女神の役目。ずっとってわけにはいかないけど、上手く顕現すれば当分はもつはずだ」
「争いがなくなるってことか?」
と、これはレイ。
「小さい諍い位はあるだろうけど、大っぴらにはね。ここの人々は女神を信奉している人がほとんどだから、効果は、期待できると思う」
そうして、5人が鍵をはめると白い衣をまとった女神が降臨する。
「「キー」を持ちしものたちよ、ありがとう。今こそ秩序の回復を!」
女神はそうして、光と共に消えていった。
一行が外にでるとそれはもっと派手になっていた。神々しい光が天から大地を照らしていた。暖かく、優しい気持ちにさせてくれる、さながら「慈光」のように。そしてー
「秩序の女神ルナスの名において、争いを起こす者たちに、これをやめよと命じます」
それは、言葉ではなく頭に直接響いたので、多くの争っていた国、諸侯はこれを畏れ、兵を退いたという。
-俺は、この功によって、恩赦を受けた。クロイツのしてきた罪も多かったのだが、今度の功がそれを上回った形になって-
おおっぴらにはであるけないが、「4人の目付」が付いている時、特例で外出が許された。
「で、結局、くっつくのね」
メイが茶化していう。
俺はセリーヌと手をつないで歩いている。外見はクロイツのままだが、今では高坂誠として。
セリーヌは、しどろもどろに、「そりゃあ、私のために、かつての味方まで裏切って、世界にまでいい影響を与えたんだから、これで振ったら、私、外道じゃない…」
(…それに、そもそも嫌いだった訳じゃないんだし)
ぼそぼそと言うそのつぶやきは、小さすぎて、他の誰にも聞こえなかったが。
「裏切ったんじゃなくて、表がえったってことで。とにかく、丸く収まって、良かった」
俺が言うと、カイもご機嫌で、
「あの光の影響で、母さんの病気も快方に向かってるしな。おいしいところは全部もっていかれた感じだが、めでたしめでたしって感じかな」と言ったものだ。
「よーし、今日はぱーっと騒ぐぞ!」
メイが明るくはしゃぐと、
「それもいいが、ほどほどにしておけよ」
レイが同調しつつもたしなめる。
「かくて、女神の復活により、各地の紛争は局部的なものにとどまり、大陸は、大方、平和といっていいくらいまで回復した。
それには、4人のザッパーの活躍があったとされているが、そのなかで一番の功績のあった黒騎士の名はなかった。ただ、異聞的なものには、改心して協力し、尽力した者として記され、その功は、他の4人に決して劣らぬものであったとされている…。
(了)
俺、高坂誠は、ゲーム「光輝の鍵」をしていたら、やりすぎで昏倒してしまった。
そして次に気が付くと、いつのまにか、そのゲームそっくりの世界にいた-悪役キャラの黒騎士クロイツとして-
最初は何かの間違いで、ただの夢だとおもったが、一向に覚める気配がない。
そして幹部である俺=クロイツに、部下たちが、いきなり指示を求めてきた。俺は一時考える時間を確保すべく、「気分がすぐれぬ、副官のイーガンにしばらく任せる」と部下に指揮を丸投げしてアジトの自室に篭った。
とりあえず、状況を確認。多分にファンタジーとSFの入ったこの世界で、ザッパーと呼ばれる冒険者の類が、多額の賞金のかかった「神の石板」と呼ばれる文明的遺産を探すというのが、主人公サイドの題目のはずだ。
こっちの悪役サイドは、「神の石板」を利用して、邪竜を復活させて、世界を滅ぼすというのが目的になっている。無論、悪役サイドのこれを知るのは幹部クラス以上で、ゲームの設定上、黒騎士クロイツは、そこに行きつく「キー」の一つを持っていた。俺が懐を探ると、金色の「キー」がしっかり入ってるし…。
ゲームでは、クロイツは、最後に改心して死ぬか、主人公の「ザッパー」たちに倒されて鍵をもっていかれるかになっていた。
ちなみに俺は、このゲームに出てくる、女神官セリーヌにぞっこんだったので、少々早いが、彼女とコンタクトを取って寝返ろうと画策した。
殺されるのを回避するにも、改心して戦うにせよ、早い方がいい。と、俺は判断した。
俺はこのゲームをほぼやりつくしているので「彼女」を呼び出すにも、さして苦労はないはずだ。
「俺の持つ「キー」が欲しければ、俺に会いに、明日の夕刻に黄昏の丘にくるがいい」
と、女神官セリーヌ相手に、分かるように手紙を送った。
☆
そして次の日の夕刻、人気のないフィールドである黄昏の丘で待っていると、女神官-セリーヌがやってきた。
ゲームの設定上、青い髪に、同色の眼をした彼女は、シスターの衣装を着ていて、彼女を生?でみた俺は少し、感動した。
「クロイツ…私一人を呼び出して、決闘で「キー」をかけて戦おうというのですね…」
え?いや、寝返りに来たんだけど…。とか言えない雰囲気になってきた。
そして、セリーヌは、霊力強化された「マナライズ・ウェポン」である蒼いブレードを抜いてくる。
かなり、戦意は高いようだ。
仕方ない、少し戦ってみるかと俺は思った。改心するにしても、バトルの後の方がいいかもしれないし。
こちらの武器は、銃剣。-勿論、「マナライズ」されている-を構えて 俺も彼女も臨戦態勢。
「勝った方が、相手の「キー」を奪う。シンプルな決闘ね」
黙っているといつのまにか、ルールまで勝手に決められた。まあいいか、戦闘スタイルは分かってるし。
攻撃系結界術を得意とする彼女に、剣でまともに突撃はできないので、肩を狙って銃撃。まあ、結界に阻まれるわけだが。次に手と足を狙って発砲。これも結界に弾かれる。まあ、黒騎士クロイツは白兵キャラだから、銃が効かないのは想定内。
「ふざけているのですか?では、今度はこっちの番です」
蒼いブレードで斬り込んでくるセリーヌ。
こちらも銃を剣状にして、競り合いを始める。こうなると、セリーヌは攻撃系結界術をつかえないはずだ。
(ここは、格好つけてポイント稼いだ方がいいかな?)
などと思い、元の「クロイツ」らしい台詞を告げてみる。
「おまえでは俺には勝てない、大人しく「キー」を置いていけ」
「冗談言わないで!貴方こそ、「キー」を返して、降伏しなさい!」
(寝返るなら、このタイミング…かな)
「そちら側についてやってもいい…」
え?とセリーヌが意外そうな顔になる。元の黒騎士クロイツは組織に忠誠心が厚く、しかも簡単に折れない性格なので、それはそうだ。
「おまえが俺の物になれば、な」
・・・言っちゃったよ。ライバル敵キャラからサブヒロインへの告白って、どっかであった気もするけど。
「どういうイミ?たばかろうとしても、無駄ですよ」
「何度も言わせるな。組織に愛想が尽きた・・とだけ言っておこう」
「幹部の貴方がそんなわけないでしょ!内通して、機を見て戻るつもりでしょう」
段々話が通じなくなり、斬りあいだけがエスカレートしていく。
(ヤバい展開だな、とりあえず、勝つか。)
俺の知る限りクロイツは、性能的にバケモノみたいに強く、ザッパー4人がかりでも、序盤では歯が立たない位、強い。使っているのが俺だとしても、1対1でザッパーに負けることは、まずない。
案の定、本気を出したら、セリーヌのブレードが弾き飛ばされて、遠くの地面に刺さる。
「殺しなさい・・」
「勝負はついた。キーが奪えればそれでいい」
「「キー」を奪われて、むざむざ生き恥をさらせるはずがないでしょう。殺して、奪いなさい」
(あーもー、面倒な展開になってきてるな)
「なら、「キー」もそうだが、おまえの心も貰おうか」
そういって近寄り、セリーヌがネックレスに付けている「キー」をそっと外して奪うと、その身体を強引に抱き寄せ、頬に口づけをする。
彼女は慌てて、俺を引きはがすと、赤面して、
「何をするんです、あなたは、一体どうして…」
(よし、いい雰囲気になってきたな)
そうして見つめあい、沈黙が続くと相手の仲間のザッパー、リーダーの勇者カイに、勝気な槍使いのメイ、冷静な魔術師レイが駆けつけてくる。
「クロイツ!貴様、セリーヌに何をした!」カイが叫ぶ。
(邪魔者が来たよ…)
と思いつつ「クロイツ」らしく返事をする。
「何、ただの告白だ。ついでに「キー」も頂いた」
「ふざけるなよ。この人数の差で、勝てるつもりか?」
レイが言う。冷静だが、攻撃系魔法の使い手でいわゆる「火力」の高いキャラだ。
(あーもう面倒だな。でも急ぎすぎもよくないかな…)
俺は、一時撤退することにした。
「まあ、今日はこれで退いておこう。また会おう、セリーヌ」
意味ありげに言って、テレポートする。
色々特殊能力が使えるって便利だ、とつくづく思いながら。
☆
アジトに戻ると、副官のイーガンが報告をしてきた。
「もうしわけありません「ザッパー」どもに「キー」を奪われました」
(カイの「キー」のことだな。大体進行状況が読めてきたな)
このあと、メイ、レイと「キー」を手に入れて、クロイツの「キー」と合わせて、石板に向かうのだが、
「なら、交渉材料に、先回りして「キー」を取っておくか」
ゲームをクリアしている俺は、石板の正体も知っている。願いをかなえる代わりに、凶悪な邪竜が復活する。
いわば伝承の「猿の手」に近い。
レイの「キー」はとある遺跡に封じられているはずだ。向こうに先んじて、俺は一人でそこに向かった。
怪物が多分に配置されていたが、ザッパーが4人がかりでも倒せない強さの「黒騎士クロイツ」である今の俺にはさしたる障害にはならなかった。
トラップの類も、俺は配置をほぼ覚えているから、かからないし。
獣のようなBOSSも単身であっさり倒して「キー」を手にするとバタバタと、カイ、メイ、レイが走り込んでくる。
「くそっ、先を越されたか。その「キー」を渡せクロイツ!」
カイが叫ぶ。言葉だけ聞くと、無茶をいうなよコイツと、つくづくおもう。
「セリーヌがいないな。防御、回復なしで俺と戦うつもりか?」
痛い所を突かれたのか、メイが槍を構えて、言う。
「あんたが戦えなくしたんでしょうが!」
(ん?あの抱擁、そんなに効いてたんだ、)
とか思いつつ、突撃してきたメイの、マナライズされた槍をかわす。
「お前の「キー」ももらっておこうか」
メイの槍を銃の底でたたき落とすと、みぞおちに蹴りを入れ、ペンダントのようにつけていた「キー」をむしり取る。
「返せっ!」
メイが叫ぶ。どうせはかない願いと共に、邪悪な竜が復活するだけなのにと思いつつ、こいつらはまだ知らなかったんだな、と思い立って少し情報を流すことにした。
「お前たち、この「キー」の役割を本当に知らないのか?おめでたいことだな」
「願いが叶うんだろ?俺はそれで、病床の母を助けるんだ!」カイが叫ぶ。
(その気持ちは分かるが、代わりに邪竜が復活して、何千と人が死ぬんだぞ、ソレ・・)
といいたかった。
なので、少々、そうしてみた。
「「猿の手」という遺物を知っているか?」
これにはレイが答えて「確か、願いを叶える代わりに、大きな厄災が発生するというやつだな。まさか・・」
「そう、お前たちのしていることが、まさにそれだ」と俺は解説を始める。
「まあ、こちらは滅ぼす側だ、世界の滅びを望んで、その上で厄災が起こっても、デメリットにはなりえない。しかし、お前たちのは、どうだ?自分の欲のために、邪竜を復活させて王都の民を、しいては大陸を破滅に導く気か?」
「お前の言うことなど信じられるか!俺は母さんを助けるんだ!」
カイが叫び、銃を連射する。それを俺は結界ではじくと、剣状にして切りかかってくるカイを迎撃。
カイを銃で殴り倒して、メイ、レイをけん制しながら、ごそごそと懐から、「キー」を奪い取る。
(ん?俺、確か、向こうに寝返るんだったよな?)
今さら思い返す。
(この状態はかなり険悪だな、少し話題をそらすか)
「カイ、どうしても母を助けたいか?」
「当たり前だ!それで邪竜がでるっていうなら、俺が倒す!」
「「キー」にはもう一つの使い道がある。」
「え?」
俺の言に、3人は身構えつつも、聞く態勢に入る。
「むしろ、こちらが「キー」の本来の使い方ともいえるな。それは…」
「そこまでだ。このごに及んで裏切る気か、クロイツ?」
そこに、こつこつとブーツの音を立てて、新たな人物が割って入る。それは…。
「ヴァイン総統…」
赤い装甲服を身に着けた大剣使い「総統ヴァイン」が出てきた「クロイツ」の組織のトップに当たるキャラで、赤いたてがみじみた髪をした、ハンサムだが威厳のある男だ。
「キーを全て集めたまではよかったがね。神官女に心奪われた所が甘い。まあいい。妙な気を起こさずに、集めた「キー」を渡してもらおうか」
「それは残念だな、総統。俺には俺の「願い」があるんだ!」
俺は、総統に銃を向けた。
「私とやる気か…。愚かな…」
そして、総統ヴァインとその幹部の俺、黒騎士クロイツの戦いは始まった。
☆
ヴァインの大剣と俺の銃剣が交錯する。実力では、ヴァインのほうが上なのだが、クロイツの俺は互角以上にやりあっている。
「戦い続けの俺と、長椅子に踏ん反りかえっていたあんたのブランクの差・・と、でもいっておこうか」
「ぬかせ!、それで、それだけで私の太刀筋が見切れるか!」
「あんたにこんなこといっても分からないだろうが…」
俺は勇んで叫ぶ。
「「光輝の鍵」のボス戦は・・アクションパート。動きのパターン丸わかりなんだよ!」
ヴァインの薙ぎの斬撃をしゃがんでかわすと、俺の銃剣の突きが、ヴァインの喉に刺さる。
「なんだ…それは…この私が、そんなわけのわからない事で…」
自らの喉から吹いた血だまりに倒れ伏し、総統ヴァインは息絶えた。
「お前、自分達の総統倒して、良かったのか…?」
レイが訪ねる。
「元々そっちにつく算段だったんだよ。セリーヌから何も聞いてなかったのか?」
カイも不思議そうに、
「お前の話すると顔真っ赤にするから連れて来れなかった。何があったんだ?」
俺は肩をすくめて、
「それは・・いわずもがなってやつじゃないか?」
話がそれかかっているので、俺は話題を変えた。
「邪竜を復活させずに、お前の願い、かなうかもな」とカイに言う。
「「キー」の本来の使い方ってやつか?」
レイが尋ねると俺は、首を縦に振った。
この後、総統を失った組織は瓦解。
アジトの留守を預かっていたイーガンとその配下は、一部を除いて、クロイツである俺の勧告で降伏。
俺もクロイツのしてきた罪に問われたが、「「キー」の本来の使い方」を知るものがいないのと、総統を倒して投降してきたこともあって、条件付きで拘留扱いとなった。
☆
「で、「キー」揃ったけど、これからどーするの?」
メイが一同に聞く。レイが俺に目を向けて、
「それは、こいつの説明しだいだな」
このころには立ち直ったセリーヌもいて、
「そういえば、クロイツ、貴方の願いって何だったの?」
俺は、あたまをかいて、意を決して言った。
「こういうのは、願いに入れたらよくないのかもしれないが、おれは、あんたが欲しかった」
「な、なにいっているんですか!敵同士ですよ?あなた、犯罪者ですよ?私、聖職者ですよ?嫌いじゃないけど、無理でしょ、普通は!」
セリーヌは目を丸くして、次いで顔をボン、と真っ赤にした。
俺はその反応を分かっていた風で「だから、コレなんだ。これを使えば、俺はあんたを「願い」で手にすることができる。でもせずにすんで、良かったと今は思ってる」と答えた。
今度はメイが聞く「でもあんた、最初は滅びがどうとかいってなかった?」
この段で俺は前髪をかきあげ、「よくぞ聞いた。今こそ明かそう、今の俺はクロイツではない。異界からの来訪者だ」
4人のザッパーはぽかん、と空いた口がふさがらないようで、呆れてものもいえない感じだった。
「信じられないか?セリーヌを呼び出した辺りからそうだったんだが、以前のクロイツに比べておかしくなかったか?それなら、俺の演技力も大したものだな」
真っ先に立ち直ったレイが訊ねる。
「じゃあ、お前はどこのだれなんだ?」
「俺は高坂誠。ここの事を調べていたらこの世界にクロイツとして突然すり替わった。だから、この世界の謎の事は、結構わかっているつもりだ。」
「それで、「キー」の本当の使い方とやらも知っているのか。いい加減話せよ、何なんだ、それは?」
「これは、裏技に近い隠しルートなんだが・・」
☆
とある山奥の洞窟の奥深く…。
5個の鍵穴のある台座が安置されていた。
これは、強敵ヴァインが死んでいないと出てこないルートの隠しエンドの話なんだが…。
「これに鍵をさすと、邪竜じゃなくて女神が復活するんだ」
俺は解説するように続ける。
「神話では、邪竜と相打ちになった女神がいなくなって秩序がなくなり、争いがおこるようになった。なら、それを収めるのも、女神の役目。ずっとってわけにはいかないけど、上手く顕現すれば当分はもつはずだ」
「争いがなくなるってことか?」
と、これはレイ。
「小さい諍い位はあるだろうけど、大っぴらにはね。ここの人々は女神を信奉している人がほとんどだから、効果は、期待できると思う」
そうして、5人が鍵をはめると白い衣をまとった女神が降臨する。
「「キー」を持ちしものたちよ、ありがとう。今こそ秩序の回復を!」
女神はそうして、光と共に消えていった。
一行が外にでるとそれはもっと派手になっていた。神々しい光が天から大地を照らしていた。暖かく、優しい気持ちにさせてくれる、さながら「慈光」のように。そしてー
「秩序の女神ルナスの名において、争いを起こす者たちに、これをやめよと命じます」
それは、言葉ではなく頭に直接響いたので、多くの争っていた国、諸侯はこれを畏れ、兵を退いたという。
-俺は、この功によって、恩赦を受けた。クロイツのしてきた罪も多かったのだが、今度の功がそれを上回った形になって-
おおっぴらにはであるけないが、「4人の目付」が付いている時、特例で外出が許された。
「で、結局、くっつくのね」
メイが茶化していう。
俺はセリーヌと手をつないで歩いている。外見はクロイツのままだが、今では高坂誠として。
セリーヌは、しどろもどろに、「そりゃあ、私のために、かつての味方まで裏切って、世界にまでいい影響を与えたんだから、これで振ったら、私、外道じゃない…」
(…それに、そもそも嫌いだった訳じゃないんだし)
ぼそぼそと言うそのつぶやきは、小さすぎて、他の誰にも聞こえなかったが。
「裏切ったんじゃなくて、表がえったってことで。とにかく、丸く収まって、良かった」
俺が言うと、カイもご機嫌で、
「あの光の影響で、母さんの病気も快方に向かってるしな。おいしいところは全部もっていかれた感じだが、めでたしめでたしって感じかな」と言ったものだ。
「よーし、今日はぱーっと騒ぐぞ!」
メイが明るくはしゃぐと、
「それもいいが、ほどほどにしておけよ」
レイが同調しつつもたしなめる。
「かくて、女神の復活により、各地の紛争は局部的なものにとどまり、大陸は、大方、平和といっていいくらいまで回復した。
それには、4人のザッパーの活躍があったとされているが、そのなかで一番の功績のあった黒騎士の名はなかった。ただ、異聞的なものには、改心して協力し、尽力した者として記され、その功は、他の4人に決して劣らぬものであったとされている…。
(了)
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