ブレードシスターと仮面の騎士(AI校正済みver)

夢月 愁

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世界の管理者ルガートの依頼

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 「ここもすっかり様変わりしたわね」

 現在復興の途上にある、ソルドガル帝国首都のイグニスで、この年18歳になる修道女剣士ミラリアが、賑わいを見せる酒場で相席の、仮面の白騎士シルヴァンに話しかける。

 ミラリアは、修道女姿でありながら、黒い太刀を背負っており、ある事件をきっかけに剣を取って戦う修道女となり「ブレードシスター」とあだなされている。かつてのあどけなさは薄れ、年相応の顔立ちと、気の強そうな眼をした、見た目でもそのあだなに劣らない独特の雰囲気を纏っている。

 「まあ、治安が良くなってきているのは確かだ。貧困もかつてよりずっと減っているように見える。さすがは「管理者ルガート」といったところか」

 こちらも既に二十代半ばになっているはずの仮面の騎士シルヴァン。仮面のため、その正確な年齢は知れない上、本人も語りたがらないので、詳細は不明だが、金髪碧眼に、顔の上半分を覆う白い仮面を付け、白い革鎧を身に着けて、帯剣もしている。ミラリアの「相棒」であり「賢者の石板」事件を経て、その仲はかつてより進展を見せている。あくまで「それなりに」だが。

 -「賢者の石板」事件において、その石板を以て「世界の管理者」となった、かつてのラクティア国の議長であったルガートは、その神代の力でこの大陸の、四つの国の中央に「巨大な塔」を作った。そしてそこから、金色の鎧と剣を持った「神兵」と言われる私兵を次々と繰り出して各地に送り、その圧倒的な力で、各国を占拠した。

 各地の王族、諸侯は助命されたが、その権力は、中央の「ロウレイン」と言われる塔の属領としての物になった。

 ここ、北西に位置するソルドガルも、帝王ルグモントが治めていたのだが、暴政の咎めで、地下に幽閉されて、今は幼帝スレイドが、神兵たちに守られて、わずかな文官と共に、政務に当たっている。とはいえ、文官たちが処理した後の、事後承認の、ほぼ判を押すだけのものでは、あるが。

 そして、神兵達は塔から大量の食糧の缶詰も配ったので、民衆は歓喜してこれを迎えた。やがて塔には、ルガート本人ではなく、その直属の「統括王」ギルターと名乗る男が、各国に大まかな指示を出していた。

 その統治はやや強引ではあったが、無駄の少ないものであったため、戦乱に遭った国は順調に復興の兆しをみせていて、ミラリアとシルヴァンも、この時はまだ、穏当に旅を続けていた…。

                   ☆

 「それが、どうして、こうなるのよ…」
 「成り行きだ、仕方ないだろう」

 「管理者」ルガート直々の依頼で、赤い地盤の地下世界に潜ったミラリアとシルヴァンは、かつての仲間、仮面の黒騎士シグフォードと、赤衣の女付与術師セリーヌと合流して、死鬼の群れと戦っていた。

 「もう、一気に行くわよ、みんな!」

 そう味方に言って、群がる死鬼を、ミラリアは愛刀の黒太刀「黒牙」で次々と両断していく。

 「剣の王よ、我らの刃に、力を!」

 ブロンドの美女、セリーヌが杖をかざして味方の武器に力を与える。

 「シグフォード、左は任せる!」シルヴァンが愛用の剣で右側の死鬼を斬り捨てると、

 「任せてもらおう」と黒騎士シグフォードが薙刀で、左の死鬼の群れを薙ぎ払う。

 やがて、巨大な死鬼の親玉があらわれて、両手にそれぞれ持った巨大な山刀(やまがたな)を振りかざす。

 シルヴァンとシグフォードがこれをかわして斬りつけるが、痛覚がない上、再生能力があるのか、その傷は瞬く間に塞がっていく。ミラリアは、一気にケリをつける事にした。

 「聖なる「ゼファー」魔なる「ヴァイン」の御名を以て、私に難敵を討ち滅ぼす力を…「マナライズ!」」

 ミラリアの愛刀、黒太刀「黒牙」が青い光を帯びる。「修道女」であるミラリアの聖術と、その前世である「魔剣士」ヘルヴァルドの魔の力の合わせ技である。

 ミラリアが大きく振りかぶって縦に一閃すると、青い光は曲刀のような刃となって死鬼の親玉に襲い掛かり、その巨体を真っ二つに両断した。

 ミラリアがさらに、横に、袈裟に、曲刀の如き青い刃を振り放ち、これをバラバラに分断すると、もはや再生しなくなり、一行が火をもってこれを焼き捨てると、やがてやってきた「神兵」の隊長、レルバーンという双刀の男が、ミラリア達「ブレードシスター一行」に慰労の言葉をかける。

 「よくやってくれた。おかげで相手の陣地も陥落した。今日の戦いはここまでだ。宿舎でゆっくり休んでくれ」

 しかし、四人を待っていたのは、宿舎での休息の時間ではなく、「塔の地下牢への投獄」であった。

 「本当、何でこうなるのよ…」

 ミラリアは、牢の中で茫然と、ここに至る過程を回想した。

                 ☆

 ソルドガルの酒場から出て、宿屋の一室でくつろいでいた、ミラリアのもとに、窓から、かつての仲間、青いシルクハットにスーツにマント姿の自称「トリックスター」の手品師兼盗賊のロイザードが姿を現して、ミラリアに一つの情報をもってきた。

 それは、ギルターが率いる神兵の軍隊が、地下の「死鬼の軍勢」と交戦を始めたというものであった。そして、彼らの力をもってしても、苦戦を強いられている、とも言う。

 「地下の死鬼って、地獄とかどこかの話?あまり、ピンとこないんだけど」

 ミラリアの問いに、ロイザードは、違う違う、と右手の人差し指を振り

 「元々は、神話にある、地下世界の番人にあたる悪鬼の群れの事なんだけど、ギルターは何かの目的で、これに神兵を持って攻め込んだんだ。でも、仕掛けたはいいが、損害もバカにならなかったって話さ」

 「でも、今の私達には関係のない話ね。今はただの旅人だし、個人の勇でどうこう出来る問題じゃないでしょ」

 ミラリアは関わりたくなかった。この手品師ロイザードが持ってくる話は、大抵がろくでもない物であるからだ。しかし、そこに新たな声がかかる。

 「ところが、そうでもないのだ。久しぶりだな。ミラリア」

 空間から浮かびあがるように、「管理者」であるルガートが姿を現す。かつてのように黄金の翼こそついてはいないが、刺繍の入った黒い正装と、その威厳と温和さが相まじった独特の雰囲気は、少なくとも、ミラリアには、かつてのルガートそのものに見えた。

 「ルガート議長、いや、「管理者ルガート様」とお呼びしたほうがいいかしら?今の話、できれば聞かなかったことにしたいのですが…」

 しかし、ルガートは、頭を振ってこういった。

 「ルガートでいい。残念ながら、今の私には信頼できる配下が乏しい。神兵は功に驕り、ギルターも何か企んでいる節がある。そこで、君たちの出番というわけだ」

 ミラリアは、困ったように、

 「でも私達、戦局を左右する程の力はないわよ?」と頭をかく。

 「勘違いしてもらっては困る。私が欲しいのは、力にも功にも驕らず、正しい心根を持てるものだ」

 そういってルガートは、懐から一つの小さな宝石を取り出す。

 「これを飲めば、君は、いや「君たち」はその潜在能力を一気に上げる事ができる。それは、神兵にも、ギルターにもない力で「君たち」にこそふさわしいものだ。報酬の前払いと思って受けて欲しい」

 「まだ、受けるとは言ってないわよ?」

 ミラリアが言うと、ルガートは微笑して告げる。

 「そうかな?君の相棒シルヴァンは、二つ返事で引き受けてくれたよ。これで「ミラリアに相応しい立派な伝説級の騎士になれる」と言ってね」

 「あの馬鹿騎士、信じられない…。じゃあ私も受けるわ。その宝石の力とやらは、前払いで貰っていいのよね?」

 ミラリアが嘆息して確認するようにいうと、ルガートはうなずき、無造作にミラリアにその「赤い宝石」を放る。

 「本当はこんなのに頼るのは好きじゃないけどね…」そういいつつも、宝石を飲むミラリア。

 …ミラリアは力が躍動するのが感じられた。そして、その力は、既に人外に近いことも把握した。

 「では「ロウレインの塔」に立ち寄ってくれ。シルヴァンもその気だし、既にシグフォードとセリーヌも同じ力を得て現地に向かっている。塔の前で合流してくれ。ギルターには、これを見せるといい」

 そうしてミラリアは一封の密書を渡される。「では、頼むぞ」とルガートの姿は透けて消え、いつのまにか、ロイザードも姿をくらましていた。

 ミラリアは、この後、宿におけるシルヴァンの部屋に殴り込みをかけて、「シルヴァン!何勝手にこんな奇妙な依頼受けてんのよ!」と、この仮面の白騎士に盛大に文句を言って、旅の準備をすると気を取り直して出発した。

                       ☆

 そして長旅の末、巨大な塔「ロウレイン」の前に着く。そこには、かつて共にパーティーを組んでいた、シグフォードとセリーヌの姿があった。

 「会いたかったですわ!シルヴァン様!!」

 まるで、最愛の恋人に再会したかのように、シルヴァンの胸に飛び込む赤衣の付与術師セリーヌ。シルヴァンの気持ちはともかく、元婚約者のセリーヌにとっては、まさにその感覚なのだろう。

 「セリーヌ、そのすぐに飛びついてくる癖は直した方がいいと言っただろうに」

 そういいつつも、シルヴァンも悪い気はしないようで、そのブロンドの髪を撫でる。

 そして一方で、仮面の黒騎士シグフォードも、その痩身、細面でミラリアに一礼する。

 「お久しぶりです。あなたも元気そうで何よりです、父上」

 この、ミラリアの前世である魔剣士時代の養子という、ややこしい経歴の男は、仮面を着けて「過去は捨てた」といった割には、全然捨てきれていない感がある。なのでミラリアはシグフォードをとがめるように、こう言った。

 「その呼び方はやめなさい。今の私は修道女ミラリアだって言ってるでしょ」と。

 こうして四人は合流を果たして、密書を持って塔に入り、金色の鎧兜の男「統括王」ギルターの命で、塔の地下から、その戦場に乗り込んで、先の戦果を挙げたのであった。

 さすがに報酬をもらえるとは思っていなかったが、地下牢に入れられるというのもまた、ミラリア達の計算外の事態であったが…。



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