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4.悪役令嬢、執事の見解を聞く

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 私は、ヒロイン・アメリを虐めていない!
 断固として主張する!
 
 そう、悪役令嬢ポジションではあるものの、私ことジェシカ・クランベルはアメリ・バーナード男爵令嬢に自分から関わろうとしたことは一度だってない。それでもなんの強制力か、アメリの方から絡んでくるのだ。
 貴族学校で同じクラスになってしまったばかりに、魔法の授業のとき、アメリの魔力暴走の被害者はいつも私だった。

 ある時は水魔法の暴走で私の体を水浸しにし、またある時は変身魔法で私の制服は卑猥なメイド服に変わり、またまたある時は風魔法によって吹き飛ばされ、あろうことか、とある男子生徒を押し倒して馬乗りになるいう惨劇を起こした。
 中でも一番酷かったのが、火力の調整ミスでアメリがクラス全体を巻き込む爆発を起こしたときだ。同じクラスの第一王子その他側近たちは、即座にシールドを張ってもちろん無事。私も公爵令嬢の名に恥じず魔法の成績は良い方なので、彼らと同様にシールドを張ったものの、なぜか爆発を食らった。

 さらにアメリの爆発は、『ダメージは洋服のみ』という奇跡を起こした。
 シールドを張れなかった男子生徒は見るも無残なボロボロの服装。女子生徒は大切なところだけを残してあとは全裸に近い状況。
 そして、私は……

「なっ、なっ、なっ……!」

 爆発でボロボロになった自分の格好に絶句する。
 悪役令嬢にふさわしい肉感的な体には、あまりにも卑猥な格好。
 豊かな膨らみは深い谷間を強調するかのようにデコルテから胸元にかけて布地が消え去り、下なんてショーツを覆うくらいしか制服が残っていない。
 誰かがゴクッと喉を鳴らす音が聞こえて、私は燃えるくらい顔が赤くなった。

 ――公爵令嬢はむやみに肌を出さないと教えられているのよ!

「アメリ・バーナード……!」
「ひゃあああ! ごめんなさいぃぃぃーー!」

 すぐに変身魔法で自分の制服をチェンジして、悪の元凶・ヒロインアメリを追い回した。
 私がされたことを思えば正当な行為だと思うけれど、ゲームの強制力でこれもヒロインを虐めていたとされてしまうのかしら?



「……ってことがあったんだけど、クロードはどう思う?」

 学校から帰宅し、公爵家の庭園で優雅なティータイムを楽しんでいたときに、なんとなく側にいた執事に尋ねてみた。
 もちろん、自分が転生者だとか乙女ゲームの世界だとか、そういう情報は伏せている。アメリは魔力の多さから第一王子の婚約者に名を挙げられ始めたようで、そう遠くない未来に悪役令嬢として断罪されてしまうのではないかと、恐怖を覚え始めていた。
 今までは漠然とした不安に過ぎなかったものが、現実として突き付けられているようで。いつか来るざまあに怯え、誰かに話を聞いてほしかったのだと思う。

 ただ、話し相手としてクロードを選んだのは失敗だったのかもしれない。

「…………知らぬ間にお嬢様がだいぶ破廉恥な学校生活をおくられているようで。執事として大変嘆かわしく……」
「は、ハレンチぃ⁉」
「しかも露出の趣味まであったのですか? 淑女として慎みをもちなさいと、あれほど……」
「ちょっと! 話を聞いていたの⁉ わたくしは被害者でしてよ?」

 慌ててツッコむと、クロードは「冗談です」と溜息をつきながら言った。

 私が幼い頃から側にいた彼は、いつも黒い執事服を身にまとい、第一王子ら攻略対象者と同様にとても整った顔をしている。艶のあるロングテールコートに、首元の黒いタイ。白いシャツはいつもピンとして清潔感があり、私には常に完璧な執事としての姿を見せている。白手袋を外したプライベートなシーンなど見たことがない。
 公爵家でお茶会を開くと、黒髪黒目の容姿もあってか、ご令嬢たちから『黒王子』などと言われキャアキャア騒がれているみたいだ。

「わたくしはただ、被害を被っているだけなのに。どうして非難されないといけないのかしら」

 断罪は嫌だと思わずため息が零れる。アメリに対するエドワード殿下の態度は、他の令嬢とそう変わりがないように見える。でも、レイス様とゴーシュ様はアメリに夢中で、私が何を言っても聞いてくれそうにない。
 遠い目をした私に対し、「そうですね」と、クロードは考えるように顎に手を置いた。美形がするとそれだけで絵になる。

 年は私と三つ程しか違わないのに、冷静沈着で優秀だと父様からの覚えもめでたい。属性的には乙女ゲームの攻略対象者であってもおかしくない――と考えていたところに、クロードは爆弾を投下した

「このままだと、アメリ様を虐めたと断罪されるよりも、お嬢様の貞操の危機の方が先でしょうね」

 その言葉に、私はクロードの顔を凝視する。
 けれど、いつまで経っても我が忠実なる執事は「冗談です」と言ってくれなかった。


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