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37.【幕間】ゴーシュ・ムスクルの場合(1)
しおりを挟む「私のため……私のための魔具……」
帰りのタイミングが偶然同じだったアメリと共に、校舎を出て馬車までの道を歩いているときだった。
アメリはクランベル嬢から何かを言われたようで、先程からうんうんと考え込んでいる。歩く度にピンクブロンドの柔らかな髪が揺れる。元気いっぱいのアメリに似て、ふわふわとよく動く。微笑ましいその様子をのんびり見ていると、アメリが大きく両手を挙げた。
「ダメです! 全然思い浮かびません~~!」
聞けば、クランベル嬢から人のためではなく自分のための魔具を作ったらどうかと提案されたらしい。
「ゴーシュ様! 話を聞いてください!」と泣きつかれてアメリの話を聞くことになった。
「ジェシカ様は、私が幸せになるために力を使うよう言ってくださいました。けど、じゃあ私の幸せってなんだろうって考えると途端に分からなくなってしまって……」
この短時間でたくさん考えたのだろう。一生懸命な様子が伝わってくる。
無意識のうちにアメリの頭を撫でようとして、慌ててやめた。
――いけない、いけない。貴族令嬢に対して失礼な行為をしてしまうところだった。
頑張る姿が可愛くて、つい我が家で飼っている大型犬と接するように構ってしまいそうになる。それに、何事においても一生懸命だから、ついついアメリに対して甘くなり、味方になってやりたくなる。
飼い犬と同じ扱いをしてもなんとなくアメリは喜びそうな気がするが、これが気位の高い彼女なら猛烈に抗議してくるだろう。いや、そんな胸の内を隠して淑女の顔で苦言を呈するのかもしれない。
小さく笑いながら、悩むアメリにアドバイスを送る。
「自分の中で答えが見つからないのなら、誰か別の者に話を聞いてみたらどうだ? 良いアイディアがひらめくかもしれないし、考えを整理するきっかけになるかもしれない」
「なるほど! じゃあゴーシュ様はどうして騎士団に入ろうと思ったんですか?」
「そうきたか」
自分から提案した手前、幸せについて尋ねられるかもしれないと思ってはいたが、まさか騎士団への志願理由を問われるとは思わなかった。
「騎士団入団は幼い頃からの夢だって、ゴーシュ様おっしゃっていましたよね? 夢と幸せは似てるかなぁと思いまして」
確かにそんなことを言ったかもしれない。
「そうだな。騎士団に入ることは子供のときから考えていだが、夢とは少し違うかもしれない」
言いながら、騎士団入団を志すきっかけとなった出来事を思い出す。
父が騎士団団長を務めているためか、俺が入団を目指していると言っても誰からも理由を聞かれたことはない。
きっと聞くまでもないと思っているのだろう。だから、この理由は誰にも言ったことがない。
第一王子のエドワードと同い年の俺は、小さい頃からレイスと共に度々エドワードが参加するイベントごとに呼ばれていた。パーティなんかが良い例で、ガーデンパーティやら花を見る会やら、子供には大して面白くないものも多くあった。
そこでよく顔を合わせていたのが、ジェシカ・クランベル。
クランベル公爵家の長女である彼女は、常に注目の的だった。可愛くて、明るくて、ちょっと我儘だけどそんなところもとびきり愛らしくて。皆、ジェシカ・クランベルの気を引きたくて必死になっていた。
ちやほやされて、傅かれて、それを当然のこととして受け入れる。まさに恵まれたご令嬢。だから彼女が泣くところなんて想像したこともなかった。
でも、俺は見てしまった。
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