41 / 87
41.魔法生物『キューピッドちゃん』(3)
しおりを挟むレイス様を無人の風紀委員室に入れて、後ろ手で鍵を閉めると、小さく息をつく。
ひとまずこれで誰かに話を聞かれる心配はなくなった。でも、一番の問題であるレイス様との話はまだ終わっていない。
「そ、それで……その。もう一度教えていただけるかしら。ゴーシュ様の件とは……?」
どうか私の勘違いだと言ってほしい。
まさか、私のあの行為をレイス様も知っているなんて、そんなことはないと言ってほしい。
けれど、レイス様は神経質そうな細い眉を寄せ、眼鏡をクイッと持ち上げた。
「――ッ! ですから! 貴方、彼の――を掴んだんですよね⁉」
……はい、終わったーー!
令嬢人生終わったーー!
先程も今も『彼の――』の部分は聞こえなかったけれど、文脈で分かる。
レイス様も言いづらい単語ですものね!
分かります。分かりますとも。
「そ、それは……わたくし、何て言ったらいいか……」
「……ああ、貴方に言っても困惑してしまうでしょうね。でも、ゴーシュの家から色々と打診が来ていたのは知っているでしょう?」
し、知らないわよぉぉ。
なんで? 責任は問わないって彼が言ったのよ?
ゴーシュ様、我が家にどんな損害賠償を請求しているの⁉
「それは……その……」
「ゴーシュの話を聞いて、居ても立っても居られなくなりました。……しつこいと思われるかもしれませんが、私は、貴方にもう一度申し出たいのです」
眼鏡越しでも分かるレイス様の強い眼差しに息をのむ。
な、なんで貴方が出てくるの⁉
もしかして、俺の親友(ゴーシュ様)に手を出しやがって、タダじゃおかねえ! 的なやつなの⁉
「ゴーシュも私も、過去に一度、クランベル家には正式に断られています。でも、可能性が少しでもあるのならば、それに縋りたい。諦めきれないのです」
美しい顔立ちのレイス様に穴が開くのではと思うほど熱心に見つめられて、私は混乱の極みに陥った。
バクバクと心臓が嫌な音を立てる。
……何のことを言ってるのか、さっぱり分からない!
レイス様とゴーシュ様の家から過去に損害賠償を請求されていたなんて、聞いたこともない。しかも我が家はそれを突っぱねていて、レイス様は再請求するってこと?
どれだけ強い憎しみなの――?
確かにアメリ関連でレイス様から嫌われているとは思っていたけれど、まさかそれほど根深い恨みだったとは思わなかった。
想像以上の激情に怯える中、私に唯一できることといえば、『私だってヒロインの被害者なのだ』と逆ギレするくらいだった。
「ご、ゴーシュ様のことはわたくしも悪かったと思っておりますわ! でも……あんな、は、破廉恥なこと、好きでやったわけではありません! それなのに、我が家に賠償を求められても困りますわ」
言いながら『ペッタンくん』のせいで起きた出来事を思い出して、思わず羞恥で顔が赤くなる。
誤魔化すようにきゅっと唇を結んで睨みつけると、途端にレイス様が動揺を見せた。
「は、破廉恥? い、一体何のことですか? 私はただ、ゴーシュが貴方のことをやっぱりまだ好きだとか言うから、私も諦めきれずに婚約の申し出を……」
その時だった。
レイス様の話を遮るように、突然、赤い物体が私たちの間に飛び出してきた。
ぼよんと揺れる体が、私の手の中に落ちてくる。
「なんですかこれは?」
訝しげなレイス様の声。
何も知らない人から見たら不審極まりないだろう。
『キューピッドちゃん』は私の手の上でぐにゃんと動き、楕円形の体を変形させた。
「ハート……?」
赤いハート型になった途端、『キューピッドちゃん』が勢いよく飛び跳ねた!
「わっ、わっ!」
私の背中に飛び付いたスライムは、急に活発になって制服のうえをウネウネと動き始める。
き、気持ち悪い……!
「ひゃっ、な、なんですの⁉」
スライムが背中で動く気配とともに、胸元の締め付けが緩む感覚があった。
――下着の留め具を外された?
ホックを留めなおそうと慌てて両手を後ろに回すと、それを待っていたかのように両手首にスライムがまとわりついて……
「……レイス様、どうしましょう。どうやらわたくし、拘束されてしまったみたいですわ」
「……クランベル嬢、この物体はどうやら分裂できるみたいですね。ほら、そこに……」
自分の左右の肩を見ると、二体の『キューピッドちゃん』がちょこんと乗っていた。
13
あなたにおすすめの小説
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる