こんな破廉恥な悪役令嬢が出てくるゲームって何?!

高瀬ゆみ

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41.魔法生物『キューピッドちゃん』(3)

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 レイス様を無人の風紀委員室に入れて、後ろ手で鍵を閉めると、小さく息をつく。
 ひとまずこれで誰かに話を聞かれる心配はなくなった。でも、一番の問題であるレイス様との話はまだ終わっていない。

「そ、それで……その。もう一度教えていただけるかしら。ゴーシュ様の件とは……?」

 どうか私の勘違いだと言ってほしい。
 まさか、私のあの行為をレイス様も知っているなんて、そんなことはないと言ってほしい。
 けれど、レイス様は神経質そうな細い眉を寄せ、眼鏡をクイッと持ち上げた。

「――ッ! ですから! 貴方、彼の――を掴んだんですよね⁉」

 ……はい、終わったーー!
 令嬢人生終わったーー!

 先程も今も『彼の――』の部分は聞こえなかったけれど、文脈で分かる。
 レイス様も言いづらい単語ですものね!
 分かります。分かりますとも。

「そ、それは……わたくし、何て言ったらいいか……」
「……ああ、貴方に言っても困惑してしまうでしょうね。でも、ゴーシュの家から色々と打診が来ていたのは知っているでしょう?」

 し、知らないわよぉぉ。
 なんで? 責任は問わないって彼が言ったのよ?
 ゴーシュ様、我が家にどんな損害賠償を請求しているの⁉

「それは……その……」
「ゴーシュの話を聞いて、居ても立っても居られなくなりました。……しつこいと思われるかもしれませんが、私は、貴方にもう一度申し出たいのです」

 眼鏡越しでも分かるレイス様の強い眼差しに息をのむ。
 な、なんで貴方が出てくるの⁉
 もしかして、俺の親友(ゴーシュ様)に手を出しやがって、タダじゃおかねえ! 的なやつなの⁉

「ゴーシュも私も、過去に一度、クランベル家には正式に断られています。でも、可能性が少しでもあるのならば、それに縋りたい。諦めきれないのです」

 美しい顔立ちのレイス様に穴が開くのではと思うほど熱心に見つめられて、私は混乱の極みに陥った。
 バクバクと心臓が嫌な音を立てる。

 ……何のことを言ってるのか、さっぱり分からない!

 レイス様とゴーシュ様の家から過去に損害賠償を請求されていたなんて、聞いたこともない。しかも我が家はそれを突っぱねていて、レイス様は再請求するってこと?
 どれだけ強い憎しみなの――?

 確かにアメリ関連でレイス様から嫌われているとは思っていたけれど、まさかそれほど根深い恨みだったとは思わなかった。
 想像以上の激情に怯える中、私に唯一できることといえば、『私だってヒロインの被害者なのだ』と逆ギレするくらいだった。

「ご、ゴーシュ様のことはわたくしも悪かったと思っておりますわ! でも……あんな、は、破廉恥なこと、好きでやったわけではありません! それなのに、我が家に賠償を求められても困りますわ」

 言いながら『ペッタンくん』のせいで起きた出来事を思い出して、思わず羞恥で顔が赤くなる。
 誤魔化すようにきゅっと唇を結んで睨みつけると、途端にレイス様が動揺を見せた。

「は、破廉恥? い、一体何のことですか? 私はただ、ゴーシュが貴方のことをやっぱりまだ好きだとか言うから、私も諦めきれずに婚約の申し出を……」

 その時だった。
 レイス様の話を遮るように、突然、赤い物体が私たちの間に飛び出してきた。
 ぼよんと揺れる体が、私の手の中に落ちてくる。

「なんですかこれは?」

 訝しげなレイス様の声。
 何も知らない人から見たら不審極まりないだろう。
 『キューピッドちゃん』は私の手の上でぐにゃんと動き、楕円形の体を変形させた。

「ハート……?」

 赤いハート型になった途端、『キューピッドちゃん』が勢いよく飛び跳ねた!

「わっ、わっ!」

 私の背中に飛び付いたスライムは、急に活発になって制服のうえをウネウネと動き始める。
 き、気持ち悪い……!

「ひゃっ、な、なんですの⁉」

 スライムが背中で動く気配とともに、胸元の締め付けが緩む感覚があった。

 ――下着の留め具を外された?

 ホックを留めなおそうと慌てて両手を後ろに回すと、それを待っていたかのように両手首にスライムがまとわりついて……

「……レイス様、どうしましょう。どうやらわたくし、拘束されてしまったみたいですわ」
「……クランベル嬢、この物体はどうやら分裂できるみたいですね。ほら、そこに……」

 自分の左右の肩を見ると、二体の『キューピッドちゃん』がちょこんと乗っていた。


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