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43.アメリと執事(1)
しおりを挟む私、ジェシカ・クランベルは今、猛烈に後悔していた。
穴があったら入りたいという気持ちは過去の事件で経験済みだったが、今は自ら穴を掘ってでもどこかに隠れてしまいたかった。
昨晩、どういうわけかその日最後の授業が終わってからの記憶が全くなく、いつのまにか自室のベッドで寝ていた私は、目が覚めてベッド横にクロードがいるのを見て、なぜか、なぜか!
衝動的に抱き付いてしまった。
「私……私……ごめんなさいっ!」とか、よく分からないことを言った気がする。
クロードは一瞬間を開けて、「何のことを言っているのか分かりませんが……はしたないですよ、お嬢様」と突き放すと、冷たくベッドに戻された。
…………死にたい。
恥ずかしすぎて死ねる……
なんでそんなことをしたのか自分でも分からない。
けれどそのときの私は確かに、クロードに謝らないといけないと思ったのだ。
落ち込む私を見て哀れに思ったのか、クロードは「お嬢様は学校で倒れられたのですよ。きっと心労がたまっていたのでしょうね」と言って、ホットミルクを用意してくれた。
そして私を羞恥で殺そうとしたクロードは、現在、何故か学校のカフェテリアでアメリと談笑している。何の話をしているのかは分からないけれど、随分と楽しそうだ。
(なんで……なんでクロードがアメリと一緒にいるの⁉)
一方的に私がアメリへの文句を口にしていただけで、関わりなんて全くなかったはずなのに。
壁際で隠れるようにして二人の様子を伺う。
取り巻きのご令嬢から「ジェシカ様の執事に似た方が、アメリ・バーナードと一緒にいる」と聞いたときは、まさかそんなはずはと思っていたけれど、そのまさかだった。
唖然とする私をよそに、視線の先のクロードは柔らかな笑みを浮かべている。それは、いつもは平然とした顔ばかりしているクロードの、滅多に見ることのない貴重な表情だった。
「……!」
目の前の光景が信じられなくて、変な声が出てきてしまいそうになるのを口に手を当てて抑える。
クロードの微笑みを向けられているアメリは、彼のその表情がとても珍しいものであることを知らないのだろう。
私が、どれだけ渇望して、クロードから引き出そうとしてきたかなんて、絶対に知らない。
小さな頃から、彼に褒めてほしくて、喜んでほしくて、笑ってほしくて、ずっと頑張ってきた。
冷静沈着な執事の美しく整った顔から時折垣間見える、優しさに溢れた表情が見たくて、必死だった。
私だけの特権だと思っていたのに、アメリには簡単に見せていることが信じられない。
(あんな顔、私にはちっとも見せてくれないのに……)
対するアメリもピンク色の瞳をキラキラと輝かせて、食い入るようにクロードを見つめている。
今まで乙女ゲームのヒロインとは思えない言動で、攻略対象者たちを前にしても媚びることなく、他のクラスメイトと同じように接していたのに。クロードと話をするアメリはいつも以上に可愛らしかった。
学校一の美少女と対になっても引けを取らない我が執事は大いに人目を引いたようで、二人を遠巻きに見ながらヒソヒソと噂する生徒たちの姿。
私に気付いた生徒が密かに視線を向けていることに気付き、慌ててその場を立ち去った。
クロードとアメリは急速に親しくなったようで、その後も二人で一緒にいるところをよく見掛けるようになった。
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