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63.悪役令嬢、捕らえられる(1)

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 私、転移魔法って初めて使ったわ……
 確か、転移魔法を使うことが出来るのは限られた者しかいないはずだ。
 魔法のセンスがない者が使うと四肢がバラバラになってしまう恐れがあり、なおかつ魔力消費量が半端ないのだという。

 ……うふふ。今こんなことを考えているのは、現実逃避かしら?

 後宮で口頭魔術が行使され、次に目を開けたときにはクランベル家の自室に戻っていた。
 驚きのあまり声も出ない私をベッドの上に下ろしたあと、クロードは再び私を押し倒した。

「……さて。今、この部屋に防音・防御と不可侵の魔法をかけましたので、我々の邪魔をするものは誰もいませんよ?」

 今のクロードは獲物を前にして舌なめずりする肉食獣のようだ。獰猛さを隠していないくせに表向きは穏やかで優しい声を出している。

「何故私から逃げようとしたか、説明してもらいましょうか」
「それは……」

 なんと言えばいいか困ってしまって言葉に詰まる。
 顔を背けた私の頬にクロードの手が触れ、ぐいっと前を向かせられた。

「ちょっ……」

 やめて、と言おうとして開いた口がポカンと固まる。
 クロードが自身の白いグローブの指先を口に咥え、手から外す姿を見てしまい、カッと頬が熱くなった。

 なんというか、色気が半端ない。
 絶対に人前でやらせたらダメなやつだ。こんな仕草を目の前で見せられたら、失神する令嬢が続出してもおかしくない。
 グローブを外したクロードが再び私の頬に触れ、そして彼の親指がふにっと唇に触れた。

「……ッ」

 柔らかさを味わうように唇を優しく押す。

「お嬢様?」

 言葉を促すように唇をなぞられて、私はあっけなく白旗を振った。

「じゃ、邪魔したくなかったのよ。貴方とアメリが幸せになるために、私は邪魔だと思ったの!」

 悪役令嬢なんて不要な存在は、ヒロインとヒーローの前から消えなければならない。
 それに、クロードとアメリが幸せになるところを側で見ていたくなかった。

「何故ここでバーナード様が出てくるのか理解出来ませんが……私はお嬢様しか興味ありませんよ」
「う、嘘よ!」

 アメリに向ける眼差し。執事を辞めるという発言。根拠となる材料は十分揃っている。
 そんなことを言われても到底信じられない。
 騙されないぞ、と強い眼差しでクロードをじっと見つめる。私なりの抵抗だったのだけれど、彼は小さく笑うだけだった。
 クロードの指が私の髪を撫でて、耳から首筋にかけて手のひらが這う。

「っん……」

 足の間を膝が割り入り、秘所にグイッと押し付けられた。

「私がこんなことをしたいと思うのは、お嬢様だけです」

 クロードの言葉に、かあぁっと顔が赤くなる。

「は、破廉恥だわ!」
「そうですよ、男には気を付けなさいと幼い頃から何度も教えたはずです。それなのに……」

 言いながら何かを思い出したようで、クロードの顔は次第に険しくなっていく。首筋に触れていた手がガウンの合わせ目を掴んで、左右に開いた。

「こんな格好をするなんて、どういうつもりですか?」

 ――どうかこの夜着のことは忘れてくれると嬉しいのですが……ダメでしょうか……


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