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87.エピローグ アメリ・バーナード(5)
しおりを挟む「――貴方、大丈夫?」
よく耳にした、訝し気な声。
勢いよく顔を上げると、眉をひそめてこちらを見ていたジェシカ様が、ビクッと肩を震わせました。
「……ジェシカ、さま?」
「な、何よ」
私を嫌そうに見るその顔。間違いなくジェシカ様です。
「ジェシカ様~~!」
話をするまで離すものかと細い腰に抱き付くと、頭上からヒッと悲鳴が聞こえました。
「貴方、しばらく見ない間にますますおかしくなってない⁉」
「ううっ、ジェシカ様が不足してるんです」
「何を言ってるのよ!」
べりっと体から剥がされて、私はしゃがみ込みました。
ふうふうと肩で息をするジェシカ様は、まるで毛を逆立てた猫のように威嚇しています。
登校中の生徒たちから好奇の目を向けられていることに気付き、サッと頬を赤らめたジェシカ様は、大きく溜息をついたあと私を見下ろしました。
「今日は貴方に用があって来たの」
「用、ですか?」
「ええ。クロードから聞いたのだけれど、貴方、魔力や魔具の提供に対して、謝礼を求めなかったそうね」
突然何の話だろうと思いつつ頷くと、すぐさま理由を尋ねられました。
「えっ、理由ですか? ええと……ジェシカ様のお役に立てるかと思ってやっただけなので、お礼なんて、別に……」
おろおろとしながら答えると、黙って話を聞いていたジェシカ様がフッと表情を緩めました。
「隣国の第二王子に恩を売ったのだから、いくらでもねだればいいものを……貴方って、本当にバカね」
(……あ)
私は不意に、クロード様の言葉を思い出しました。
――表裏のないバカに弱い。
でも、これは喜んでいいものなのか難しいところです。
優し気な表情を浮かべていたジェシカ様は、気を取り直すように小さく咳払いをすると、一転して女王様のような雰囲気に変わりました。
「それだけでなく! 貴方、クランベル公爵家からの褒章も辞退したそうじゃない」
「褒章って、そんな大げさですよ」
「あの教師の魔の手から、未来のルクセンドルフ王弟妃を救ったのよ? わたくしの価値を思えば大げさなはずがないでしょう!」
腰に手を当てて私を見下ろすと「だから貴方には褒美を受取る権利がある」のだと言いました。
「貴方がどうなろうが、わたくしには関係ないし興味もないわ。だから貴方が在学中に婚約者を見つけられず、好色と有名な商人の妾になっても、別に何とも……」
「ジェシカ様よく覚えてらっしゃいますね」
「黙りなさいっ!」
キッと目を吊り上げたあと、ジェシカ様は言いました。
「貴方、隣国には魔法に特化した学校があるのを知っていて? クロードが自国に戻ったときに備えて、優秀な人材を集めるために設立したそうなのだけど……もし貴方にその気があって、そして才能が認められれば、わたくしが貴方の留学を後押しして差し上げるわ」
願ってもない言葉に、私は驚いて口をぽかんと開けました。
「なんで、そこまでしていただけるのですか?」
私の言葉を聞いて、虚を突かれたような表情を浮かべたジェシカ様は、少し考えたあと……
花が咲くように笑いました。
「そうね。もしかしたら、貴方みたいな人に弱いのかもしれないわ」
「!」
~~もうバカでもいいです!
私を認めてくれる人がいることが、これほど嬉しいなんて知りませんでした。
心がポカポカと温かくなって、胸の奥から込み上げてくるものがありました。
もう一度抱き付いてお礼を言おうとした私よりも先に、鞄から何かが飛び出してくるのが見え、ました?
「「あ……」」
無意識のうちに出ていた魔力を吸収して、ミドリちゃんがぐんぐん大きくなっていきます。
そしてミドリちゃんは緑色のツタを伸ばし、そのままジェシカ様へ……
「…………アメリ。これは一体どういうこと?」
「え、ええとですね。きっと飼い主に似て、ミドリちゃんもジェシカ様が大好きなんだと……」
「いいから早くどうにかなさいッ!」
ミドリちゃんに腕を取られて動けなくなったジェシカ様が、声を張り上げます。
その間にもツタはジェシカ様の体を這っていき、ぐるぐる体に巻きついていきます。
「ちょっ……やっ、どこ触って……!」
「あああああ、ミドリちゃん! だめっ、クロード様に殺されちゃう!」
慌てる私たちの耳に、突然、聞き慣れない声が飛び込んできました。
『……キ……キ……』
「なんですかね、これ?」
「……ねえ、アメリ……この声、何故か、わたくしの耳元で聞こえる気がするの」
「えっ?」
私とジェシカ様がそちらを見ると、そこには……
『ジェシカサマ……スキ! ジェシカサマ、スキ……!』
ツタの先端を口のようにぱかっと開けて、ジェシカ様に求愛するミドリちゃんがいました。
「な、ななななによコレえぇぇぇ!」
「しゃ、喋れるなんてすごいっ! ミドリちゃんすごいよ!」
「バカ! こっちはそれどころじゃないのよ。は、早く助けなさい!」
ミドリちゃんのスキンシップは止まらず、頬にキス(?)をされそうになったジェシカ様が、大声で私の名前を叫びました。
「す、す、すみません~~!」
私はジェシカ様を助け出すべく、両方の手のひらをミドリちゃんに向け、勢いよく魔力を放出しました。――……
――――――――――――――――
だいぶ時間オーバーしてすみません! 最後こんなに長くなるとは……
以上で完結となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました!
また機会があれば番外編など書きたいと思います!
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