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隣国バラゾア 1
しおりを挟むバラゾア帝国の帝都は、国の中央に位置する。
三ヵ国を統一した際、どこで反乱が起きてもすぐに制圧できるよう、この地を選んだのだという。
長旅を経て、セシリアは帝都にある宮殿にたどり着いた。
隣国の王女の到着に対して、帝都でも宮殿でも催し一つなく随分と静かなものだった。
もしこの場にいたのがセシリアではなく妹のレベッカだったなら、馬鹿にしているのかと文句を言ったことだろう。
この様子を見ると、セシリアが今日帝都に到着することは限られた者にしか知らされていないのかもしれない。
(でも、その割に先程から警護の者達がピリピリしている気がするわ)
人出が増えたせいだろうか。
帝都に着いてからますます厳重になった警備にセシリアは首を傾げた。
馬車を降りたセシリアを出迎えたのは、ずらりと並んだ侍女と護衛兵、そして年若い一人の男性だった。
「ようこそお越しくださいました」
男性の前に立ち、ピンと背筋を伸ばすとセシリアは礼を執る。
「アルデンヌ王国第一王女、セシリアと申します」
王女の美しい礼を見て、品定めするように一瞬目を細めた男は、すぐに表情を戻すとにこやかに言った。
「私は宰相のユリウス・ロッソウと申します。どうぞお見知りおきを」
ユリウス・ロッソウは涼しげな顔立ちの男の人だった。
銀髪に碧い瞳。顎が尖ったシャープな顔立ちで、シルバーのフレームの眼鏡を掛けている。
濃紺の軍服も相まって一見怖そうに見えるけれど、常に口元に湛える笑みが彼を人当たり良く見せていた。
けれど、彼がいかに理知的な顔をしていたとしても、この若さで宰相職に就いていることにセシリアは驚いた。
実際の年齢は分からないが、せいぜい二十代後半ではないだろうか。
アルデンヌ王国の宰相が、国王である父と同年代であることを考えると、随分若い。
「長旅のところ申し訳ございませんが、皇帝陛下が貴方にお会いしたいと申しております。よろしければ、この後お時間をいただけないでしょうか?」
「ええ。ぜひ」
セシリアの返答にユリウスは満足そうに頷くと、後ろで待機している侍女に声を掛けた。
「では、殿下のご準備を」
「かしこまりました。私共がお部屋までご案内させていただきます」
そうしてセシリアは今後生活する部屋に案内されると、新しい侍女への挨拶もそこそこに、アルデンヌ王国から連れてきた侍女とバラゾア帝国の侍女との共作によって美しい装いに仕立てられたのだった。
瞳の色と同じ色鮮やかなグリーンのドレスに着替えたセシリアは、バラゾア側が手配した侍女頭のロジーナに連れられて宮殿内の応接室に向かった。
ロジーナは痩せぎすな年配の女性で、きびきびと侍女達に指示を出してセシリアの準備を整えてくれた。
隣国にもついてきてくれたアルデンヌ王国で侍女頭だったカーラとは、セシリアの髪を下ろすかまとめるかで早くもバトルしていたが、「黄金色の髪をより良く見せたい!」と言って髪を下ろすことを主張したカーラに今回は軍配が上がったようだった。
(正直どちらでもいいと思ってしまうのはいけないことよね)
いくら事前に姿絵を送っているとはいえ、第一印象で評価が変わってしまうかもしれない。気遣うに越したことはないだろう。
今から会うのはセシリアの婚約者であり、バラゾアで最も高い地位にいる権力者なのだから。
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