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22.イケメンも地位も望んでません!
しおりを挟む「……何? その顔?」
うさん臭そうに顔をしかめたレイフォードに対し、エリザベスは口元に浮かべた笑みを絶やさない。
二人の間にはダンスの種類や曲名が書かれた本が置かれていた。
「レイフォード様の前で、誰にでも心優しい貴族令嬢を練習中ですの」
「それがどうしてその顔に繋がるわけ?」
「そういう女性は常に『慈愛に満ちた笑み』を浮かべていると教えていただきまして」
「魔女のような笑みの間違いじゃないのか」
エリザベスは真顔になった。
「……レイフォード様はご令嬢方から人気が高いと伺っておりましたが、本当にそうなのか疑問ですね」
「なんだって?」
「女性に人気がある方なら、女心というものが分かっているはずですもの!」
そう言ってニコッと笑ったエリザベスは、内心ものすごく憤っていた。
リリーシアたち恋愛アドバイザーから色々な話を教えてもらったけれど、どれもエリザベスがしようとすると違和感を覚えてしまうものばかり。
恋愛アドバイザーの情報は恋愛小説から得た偏った知識をもとにしている。
そのため、ヒロインキャラではないエリザベスが真似しようとしても上手くいかないのは当然のこと。
けれど、それを知らないエリザベスは自分が悪いせいだと思い、落ち込んでいた。
そんなところに、レイフォードからの心無い言葉。
エリザベスからしたら傷口に塩を塗られたようなものだ。
「なんだ、怒ってるのか?」
意外そうな顔をするレイフォードに、エリザベスはばつが悪くなる。
レイフォードの言葉はいつもの軽口。
それに過剰に反応するのは、ただの八つ当たりであると分かっている。
エリザベスが男性に上手くアプローチできないのはレイフォードのせいではない。
だけど、少しでも目標に近付けるよう努力しているエリザベスに向かって、馬鹿にするようなことを言わなくてもいいじゃないか。
「……」
男爵家に引き取られてから、エリザベスはずっと目標に向かって突き進んできた。
義父と妹のために金銭面で援助してくれる結婚相手を見つめること。
ただそれだけのために必死で勉強して、今こうして学校に通うことができた。
それなのに、自分が上手くできないせいで、今までの努力が全て無駄になりそうになっている。
心が弱くなっていたエリザベスは、涙が溢れてしまわないようにグッと堪えた。
黙り込むエリザベスに、レイフォードは席を立つ。
怒らせてしまったかとエリザベスが顔を上げて目で追いかけると、レイフォードは机を回りエリザベスの隣の椅子を引いて腰かけた。
レイフォードの手がエリザベスに向かってのびる。
以前手を握られたり顔を覗き込まれたりしたときのように、また『アレ』が始まったのかとエリザベスは警戒した。
けれど、予想に反してレイフォードの顔はいつも通りだった。
「悪かったよ。僕が悪かった」
頭をポンポンと叩かれて、エリザベスはきょとんとレイフォードを見る。
「怒らせてごめんな?」
頭に手を乗せながら、レイフォードはそう言ってエリザベスに優しい眼差しを向ける。
思いがけない彼の行動に、エリザベスは混乱した。
今日のレイフォードは予想の斜め上を行く行動を取ってくる。
「……これは……一体どういう心境ですか?」
「ん?」
「なんだか、今までと扱いが違うような気がするような……」
「あー……」
体を離し、首の後ろに手を当てたレイフォードは、気まずげに目を反らすと困ったように笑った。
「妹も、よくこんな感じで勝手に怒って一人で落ち込んでるからさ。なんか似てたから、つい……」
「妹、ですか」
つまり妹を宥めるように、エリザベスにも接したということだろうか。
「ああ、嫌だったか?」
頭を触られるのが嫌だったのかと問うレイフォードに、エリザベスは首を横に振る。
嫌ではない。
むしろ、あの誘惑めいたやり取りより、よっぽど良い。
「大丈夫です。恋人、ですから」
そう言ってエリザベスは顔を背ける。
どうしてなのか分からないけれど、叫び出したくなるような、ムズムズとした気持ちが胸の中でいっぱいになる。
本当に何故だか分からないけれど、油断すると口元が緩んでしまいそうで、そんな顔レイフォードには絶対に見せたくなかった。
エリザベスが屋敷に着くと、帰宅早々、執事から声がかかった。
「エリザベス様、旦那様がお呼びでございます」
旦那様と呼ばれる人物は、この屋敷に一人しかいない。
(ハートレイ男爵が何の用かしら?)
エリザベスは密かに眉をひそめた。
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