雨の中いじめられているところを助けたら、学校一の美少女に懐かれました。

流水氏

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初めての(ふたりの)おつかい

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 今度こそ神原と別れ、俺は自分の住む505号室に帰ってきた。
「……ただいま」
 もちろん返事などあるはずもないが、小学校、中学生と九年間続けてきた習慣は、まだまだ抜けそうにない。
 時計を見ればまだ午後五時半頃。夕飯にはまだ早い時間である。
 「そういえば食べるものあったっけ……」

 要は料理ができなくはない。もし一人暮らしをするならと、中学生の時に母親から叩き込まれたからだ。しかし、作るのや後片付けが面倒くさく、最近の夕飯はもっぱら冷凍食品やカップラーメン、コンビニやスーパーの弁当、惣菜類だ。響にも、ちゃんと食え、不健康だぞと言われる始末である。

 「……げっ」
 だが冷蔵室と冷凍室を確認したところ、入っていたのは飲み物くらいで、食べられるものはほとんどない。一応ゼリー飲料くらいならなくはないのだが、流石に栄養補助食品だけでは腹が減る。
「……買いに行くか」
最寄りのスーパーまではあまり遠くはない。急いで行けば、自分の時間も十分作れるだろう。
 俺は制服から外行きの格好に着替えるべく、クローゼットの取手に手をかけた、そのときだった――


《ピンポーン》


――俺の部屋の、インターホンが鳴ったのは。
 誰だろう、と思った。俺への来客はめったにないことであり、来るのは宗教勧誘かたまに頼む宅配便くらいである。

 まあそんなことは考えてもしょうがないし、あまり相手を待たせるのも失礼なので、俺はインターホンを介して応答した。
 「はい、榎本です」
「あ、榎本さん! さっきぶりです!」
インターホンの液晶の向こうには、制服姿の美少女が立っていた。そう、お察しの通り、神原陽葵だ。
 「……ちょっと待ってろ」
とりあえず他人じゃないと分かったので、俺はドアを開けた。
「何の用だ」
「一緒にお買い物に行ってくれませんか!」
「……は?」
 俺は突然の訪問に戸惑ったが、一緒に買い物に行こうなど、いよいよわけが分からない。

 「今日卵が安いんです! 特売日なんです! でもお一人様一つまでなんです!」
「はぁ……」

 神原によると、本来なら約二百円のところ、今日は九十八円らしい。このくらい安くなるのはあまりないことらしいので、ついてきてほしいそうな。
 「どうか私に、卵を二パック買わせてください!」
 神原が説明のために持参したチラシを確認すると、卵の特売が行われている店は、俺が今から行くつもりの店と同じらしい。

 ここで誘いを断り、買い物途中に鉢合うと、面倒なことになりそうだ。幸いスーパーは学校とは逆方向である。知り合いに神原陽葵と買い物をしているところを見られることは、多分ないだろう。

 「別にいいぞ。俺も今から行くつもりだったし。準備しようとしたら、おまえが来たんだ」
「そうなんですか? まさか榎本さんも卵を買うつもりだったのでは……」
「いや、俺は普通に晩飯買いにいくだけ。ちょっと準備してくるから、ここで待っててくれ」
「あ、私も着替えとか準備があるので、アパート出たところで待ち合わせにしましょう!」
「ん、了解」


――あれから十分ほどが経過し、要は既に準備を終え、アパートの前で神原を待っていた。しかし、
(遅い……)
たかがスーパーに行くだけなのに、そんなに準備に時間がかかるものだろうか。女性の準備が遅いことは、母親もそうだったので知ってはいるが……それとも俺がオシャレに気を使わなさすぎなのだろうか……

――「ごめんなさいお待たせしました!」
 「ああ……じゃあ行くか」




――少々時を経て、俺は神原と並んで目的のスーパーまでの道を歩いている最中である。           
 だが、今までには無かったものがすごく気に
なる。経験したことないもの、と言うべきか。それは……

(分かってはいたけど、神原ってどこ行っても見られるんだなぁ……)
 そう、神原に集まる、多くの視線である。

 神原はふわふわとした白のブラウスを身に纏い、その上に深い蒼色のジャケットを着込んでいる。ボトムスには銀鼠色、ミモレ丈のプリーツスカートを穿いていて、ブーツとの間には、ほっそりとした白い足がのぞいている。その姿は、清楚系美少女という印象をこちらに与えてくる。

 「? 榎本さん、なんでさっきからチラチラ見てくるんですか~?」
どこかご機嫌な声音で、神原が質問を投げかけてきた。
……無視する。


 しかし、さすが美少女と言うべきか。神原は街を歩いているだけで、この場にいる万人の視線を釘付けにしている。隣で歩いていると、とてもいたたまれない。
 神原も慣れていないのか、何やら落ち着いていないようにも見える。

 「神原、おまえってどこ行ってもこんななのか?」
「はい? こんなって、なんのことですか?」
「いや、視線とか……」
「???」
 神原にはピンときていないようで、首をかしげられた。

 驚いた。神原は自分に向けられている視線の束に、気づいていないらしい。
……ん?それなら……

「だったら、なんでさっきからずっとソワソワしてるんだ?」
「へっ!?」

 ただ少し疑問に思って聞いてみただけなのだが、神原の顔はようにみるみるうちに赤くなり、まるで茹でダコのようだ。
 しばらく目を合わせた状態で膠着していると、神原はわたわたと焦りだし、すごい剣幕で捲し立ててきた。
 「べべ、別にソワソワにゃんてしてないですよ!? 気にしすぎなだけじゃないでしゅか!?  そんなことより、早く買い物して帰らないと、遅くなっちゃいますよ!!」
 神原は何度も噛みながらそう言うと、ふんっ! と音が聞こえてきそうな勢いで俺から顔を背け、スーパーに向かってずんずん歩き出した。
「……そうだな」
俺は神原の背中を追い、再び歩調を合わせ歩き出した。 膠着こうちゃく
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