悪役王子は王位継承権を剥奪され暗殺されそうになっているけれど生き延びたい

泊米 みそ

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1話 追放

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「今を持って、第一王子リーンハルト・クラウンの王位継承権を剥奪する」

 城内の大広間にクラウン王の声が響き渡った。集められた多くの貴族や諸侯達は、王の言葉に水を打ったように静まりかえった。

 とうとう俺もいらなくなったって訳か。 

 リーンはどこか他人事のように、玉座から見下ろす初老の男の声を聞いた。王はクラウン王家の血脈の証である血のような赤い瞳を鋭くリーンに向けた。

 『苛烈王』そう呼ばれ、辣腕を振るって王家を立て直し領土を広げたクラウン王は壮年の獅子のような威厳をまとっていた。しかしリーンに向ける視線には何の情も含まれてはいなかった。

 ーー 不要な「物」だからだ

 そう言って、先代からずっと使えてきた臣下達を王が切り捨てたのを幼い頃のリーンは見ている。彼らから地位を剥奪し土地と財産を取り上げ、傾きかけていた当時の王家の財政の立て直しをおこなったのも現クラウン王である。

 互いに癒着し合い腐敗した政治を行っていた臣下も、純粋に王家に長年の忠誠を誓っていた臣下も、王が不要だと感じればその扱いは等しかった。

 俺は顔から血の気が引くのを感じながら、父であるはずの王の非情を悲しみ、唇をかみしめて俯いた……なんてことはなかった。

 このハゲタカのように抜け目なく非情な男なら当然の行いだ。予定調和にようにすら感じられる。遠くない未来に『こう』なるであろうことは薄々見当がついていた。

 広間の中心に立って、王の射すくめるような視線を真っ直ぐ見つめて跳ね返す。そしてゆっくりと唇の端を上げ、一番魅力的に見える角度で微笑んで見せた。

 「承知いたしました。陛下」

 成り行きを固唾を飲んで見ていた貴族達が息を飲む音が聞こえた。

 そして完璧な角度で礼をし、付け加えた。「これからは”クラウン”の性をお返しし、一介の平民として生きることを誓います」

 あんたの思惑通りになんか動いてやるものか、”ハゲタカ”王。

 情け容赦なくあくまでも合理性を追求し、不要になった者からは全てむしり取るのが常の王だ。もしここでリーンが少しでも不満を漏らしたり王位継承について言いつのったりでもしようものなら、最悪の結果につながりかねない。

 処刑。それだけは避けたい。

 切り捨てられてきた臣下達が、比喩ではなく本当に「切り捨て」られたところをリーンは幾度となく見てきた。 

 心無き苛烈王。しかし彼は馬鹿ではなかった。国は栄え豊かになり、誰も彼に逆らえる者はいなくなった。

 「陛下、お待ちください……!そんな話は聞いていません!」

 たった一人を除いては。

 広間より高い場所にある王の玉座の隣に立つ青年が声を上げた。控えめながら芯の通った声が広間に響く。

 ーー 陛下、どうかそのような非道はおやめください……! 

 王が、かつてたった一人心から愛した王妃。その王妃に生き写しの青年が驚きと困惑で赤の瞳を揺らしていた。

 暖かく優しげな印象を与えるストロベリーブロンドの髪に儚げで華奢な肩、しかしその瞳には芯の強さが覗える。肖像画の王妃が抜け出したかのようだ。ただ一つ違う点は王妃の瞳は湖の底のような青緑だったが、青年の瞳は王やリーンと同じルビーのような赤だった。

 普段は優しく穏やかに話すアイビーの声が、王の非情な宣告への憤りで震える。

「兄上が何をしたというのです…!何故そのような…」

 ああ、アイビー。お前は本当に良い子だよ。ただ、この王宮でこれから生きていくには優しすぎるな。もっとずる賢くならなきゃ生き残れない。でも純粋さもアイビーの美点だ。なくしてしまうのは惜しい気もする。俺の天使。いや、皆の天使か。あのハゲタカ王にとってさえも。

 俺が不要になった理由である、第二王子アイビー。彼が本来の”第一王子”であり、彼に王位を継がせるために王が策略を巡らせていたであろうことはとうに察しがついていた。 

 今回の国内の諸貴族を集めた盛大なパーティーも、長らく行方不明だった王子アイビーが王家に戻ってきたことを知らしめる記念として催されたものだ。国内の有力者や主要人物達が一堂に集まるその場で、皆に第一王子をリーンからアイビーにすげ替えることを宣言する。非常に合理的で、いかにもクラウン王がやりそうなことだ。

 静まりかえっていた貴族達が、波のようにゆっくりとざわめきを取り戻していく。

 ー ……”毒蛾王子”がお優しいアイビー殿下を騙して利用しているという噂は本当だったようだ…

 ー ……アイビー殿下が正当な王位継承者、元々”毒蛾王子”は卑しい生まれ、アイビー様こそ本当の第一王子……
   
 ……王のご決断は正しい…

 ー ……さすが”毒蛾王子”、見た目だけは恐ろしく美しいわ、
 でも性根の汚さで台無しね……何て醜いのかしら……

 胸の内で嘲笑がこぼれる。

 全く嬉しくはないが、俺の容姿は若かりし頃のクラウン王の肖像によく似ている。俺の容姿を蔑んだ貴族は、遠回しなクラウン王への不敬罪に等しいのだか分かっているのだろうか。

 冷たい印象を与えるプラチナブロンドの髪に非情そうにも軽薄そうにも見える薄い唇、切れ長で目尻の上がった鷹のような瞳。そしてその瞳は王族の血筋であることをしめす深紅。その全てが理想的なバランスで配置され老若男女問わず「完璧だ」と賞賛される冷徹な美貌。

 それら全て、王から受け継がれたものだ。誰もが恐れて口にはしないが、俺と王はそっくりだった。忌々しいことに。

 アイビーの華奢で可憐な美しさと内面の純粋さを野に咲く花や一輪のアイリスと例える物も居たが、俺を例えるなら”毒蛾”なのだそうだ。

 この名称があっという間に貴族達の間に広まったところを見るとどうやら相当俺の印象を的確に捉えているらしい。見た目だけは並外れて美しいが、その内面は醜く近づく者を惑わし身を滅ぼさせる偽物の蝶。

 俺は婚外子だった。クラウン王が王妃と出会う前に、気まぐれに城のメイドを手籠めにし生ませた子供だ。そもそも”第一王子”なんてものになるはずもなかった。 クラウン王と王妃の間に生まれた本当の”第一王子”アイビーが幼くして誘拐されるまでは。

 王妃はアイビーを産む際に亡くなった。王妃だけを心から愛していた王は深く悲しみ、愛情は王妃に生き写しのアイビーへと注がれた。そんな中、3歳になるアイビーが何者かによってさらわれたのだ。

 王は嘆き悲しみ、怒りに身を焼かれながら必死に第一王子を探したが、見つからなかった。見つけ出すにはクラウン王が苛烈なやり方で広げた王国は広く、そしてクラウン王に恨みを持つ者も多すぎた。

 そして俺は5歳の時に王宮に引きずり出され、第一王子として仕立て上げられた。

 母は王を憎み、王に似ている俺のことも憎んでいた。王の使いから金貨の入った袋と交換に、俺の背中を乱暴に押して差し出した母の手には息子への愛情などなかった。それがあの女との最後の記憶である。

 王宮ではありとあらゆる英才教育を叩き込まれた。名前も、ただの”リーン”という『平民じみたみすぼらしい名前』から”リーンハルト”と変えられた。俺を憎む母との生活も今思えば荒んだものだったが、王宮での暮らしはより過酷なものだった。

 憎しみを向けてくる者が、母一人だけではなく複数に増えたのだ。

 王が憎い、しかし苛烈王に手を出すと粛清が待っている。そういった者達の憎しみの矛先が全て幼いリーンへと向かった。

 心優しく慈悲深い王妃は多くの国民と臣下達から愛されていた。だからこそ王妃の実子であり彼女に生き写しのアイビーはただ誘拐されただけですんだが、運悪くリーンは父親であるクラウン王の血の影響が強かった。

 そのため、何度も何度も執拗に命を狙われた。それも複数の相手から。

 ある時は料理を口にした後強烈な吐き気と腹痛に襲われ一週間寝込み、ある時は剣技の訓練と称して真剣でのリンチを受け、服で隠れて見えない場所に傷を負い1ヶ月は痛みに耐えて過ごした。まだその時の怪我の痕が右肩と背中に残っている。

 しかし、俺は悪運が強いのか従来生命力が強い方なのか、ことごとく死には至らなかった。

 リーンの死を願う者は多く、生を喜ぶ者は誰も居なかった。母ですらリーンを憎んだ。父として名目上血の繋がりのある男は、リーンをただの駒として扱った。

 泣こうが喚こうが、だだをこねて地団駄を踏もうがどうしようもないことがあるのだと7歳の俺は悟った。優しく良い子にしていたら神様が優しく頬にキスをしてくれるなんてことはないのだ。詰まるところ誰か自分以外の人間が、俺を救い出してくれるなんて期待するだけ無駄だと気がついた。

 俺が生きていることを誰も望んでいないけれど、死んでやって俺の死を願う奴らを喜ばせるのも癪だった。

 こうなったら徹底的に生にしがみついて、全力でもがいて生き抜いてやる。

 そう決めたら振り切れた気分だった。悲しみに暮れるよりずっと体に力が湧いてきた。 それからは、あらゆる暗殺に対処できるよう研鑽を積んだ。料理を学び日々の自分の食事は自分で用意し、剣術も過酷な特訓を重ね、騎士団長すら敵わないと言われるほどの腕まで登りつめた。

 また、様々な陰謀と思惑が渦巻く社交界で生き延びるため、話術と演技力も必然的に身についた。
 優しさは弱さであり、愛は狂気の沙汰だった。特に愛に関しては架空の存在であった。リーンにとって愛は、この世に存在すると言い実際に見たことがあると豪語する者は居ても、実際には存在しないゴーストと同じように感じられた。

 リーンは自分の身を自分で守れるだけの狡猾さと嘘と強さを身につけ、その代償として純粋さを失った。
 二度と、か弱かった幼い頃と同じように命を狙われることのないようリーンは自身に逆らう者には厳しい罰を与えた。

 そしていつしか”毒蛾王子”という名で恐れ嫌われるようになっていた。
 母に非道な仕打ちをし多くの者から憎まれ、リーンのことも苦しめてきた王を憎んでいたというのに、リーンが成長するにつれ内面すらあの男に近づいてしまった。皮肉なことだと自嘲する。結局は同族嫌悪なのだとリーンは思う。

 ”ゴースト”が見たかった。リーンと同族であるあのハゲタカ王ですら、一度は王妃を通して見たことがあるという。だが、どうしてもリーンにはゴーストを見ている彼自身を上手く想像することができなかった。

 そして去年、13年もの長きにわたって行方不明だった本当の”第一王子”が発見された。アイビーはクラウン王国の首都から遠く離れたミドカルド領で、自身の出自を知らずに暮らしていた。ちょうどミドガルド領へ視察へ赴いていた若き騎士団長アーサー・レオンハートによって、今は亡き女王の忘れ形見は保護された。 

 リーンはアイビーが見つかったと聞いた時、妬みに近い感情が胸に苦々しく広がるのを感じた。しかし、実際に王宮に連れてこられたアイビーと会った瞬間、その思いは霧散した。 

 ーー はじめまして、よろしくお願いします……、兄さん

 そう言ってはにかむように笑う顔にはひとかけらの邪気もなかった。
 アイビーは、危なっかしいほど純粋で無防備な青年だった。

 ーー 繋がっているのは父親の血だけだろう、兄さんなんて呼ばれる筋合いはないね

 リーンの中にわずかに残った意地で突き放すように言うと、アイビーはきょとんとした顔をした後に少し考え込んでから

 ーー……兄上、と、呼んだ方が良いでしょうか?

 などと、冗談という素振りもなく至極真面目に言うものだから、すっかり毒気を抜かれてしまった。 

 ーー会えて嬉しいです、兄上。僕はずっと自分が捨て子だと思っていましたから……。血の繋がった家族や兄弟に会えるなんて思ってもいませんでした。

 そう言って、見ている方の心まで暖まるような微笑みを浮かべる素朴な青年に、リーンは言葉が詰まるのを感じた。

 それは生まれて初めて聞く、リーンの存在を心から喜ぶ言葉だった。

 王都から離れた静かな場所で義父に拾われ大切に慈しまれ、裕福とまではいかなくてもリーンのように常に憎しみに身を晒されるような苦界とは真逆の場所で真っ直ぐに育ってきた青年。アイビーは無邪気だが思慮深く誠実で、他者に惜しみなく優しさを与えることが出来た。それは今まで沢山の愛を周囲から惜しみなく注がれてきた者の”才能”であった。そしてアイビーは生まれながらに愛される者の資質を備えていた。

 優しい性質を失わないでいられることは強さだ。と、リーンは思う。また、恵まれた環境に”生まれる”ことで出来た一握りの人間の特権であるとも。

 リーンが今までに”生き抜くために不要”として捨てざるを得なかったものたち。それらの要素で出来上がっているかのようなアイビーに眩しさと憧憬を感じた。

 妬む気持ちすら無意味に思えるほど、リーンとアイビーは持って生まれた環境や資質、容姿も才能も違っていた。二人の異母兄弟が、神様から最初に配られた”カード”は不平等なものだった。リーンは自分に配られたカードの劣悪さを恨むより、その持ち札を使って『精一杯生き抜くこと』を選んだ。

 アイビーの第一発見者であり、ミドガルド領からずっと付き添ってきた騎士団長アーサーも、アイビーに心酔しきっているのが見て取れた。短く切りそろえられた色の濃い金髪に精悍な体躯、そして真夏の昼空のような深い青の瞳は今もアイビーに向けられていた。アーサーは、”毒蛾王子”に『言葉巧みに丸め込まれ騙されて、健気にも毒蛾王子の身を案じている』正当な第一王子アイビーを心配しているのだ。

 クラウン王が自身に対して反対の意をとなえた第二王子に、静かに視線を向けた。その視線には父親としての暖かな慈愛が込められていた。そしてまた視線をリーンに戻し、ゆっくりと口を開いた。わざとらしいほど声に威厳を満たし、広間に集められた者達に対しても聞かせるように話し始めた。

 「第一王子の、第二王子へ対する不当な行いには目に余るものがある」

 貴族たちは身じろぎもせず、王の言葉を一言一句逃さないよう聞き入っている。

 「第一王子リーンハルトは、あろうことか愚かしくも王位継承権が第二王子へ移るのを恐れ、策略を巡らして第一王子の暗殺を企んでいたと、誇り高く王家への忠義に厚い臣下達から報告を受けている」

 へえ、そういう手で来る訳ね。

 それからクラウン王は、さももっともらしく真に迫った語り口で巧妙に練られた嘘八百を語り始めた。俺がアイビーに度重なる嫌がらせや暴力行為を行っていたこと。アイビーを脅し、王位継承権を辞退させ王宮から追い出そうとしていたこと。そして頑なにそれらを拒むアイビーの暗殺計画を練っていたことを、重々しく語りあげていった。

 貴族諸侯のボンクラ共は、王の口から明らかにされた”痛ましい事実”を受け納得した顔で頷いている。

 アイビーは元々大きい瞳をさらにまん丸にし、寝耳に水といった顔をしていた。長いまつげに縁取られた深紅の瞳がこぼれ落ちそうなほど瞳を見開いて呆然としている。

 俺だって、俺がアイビーにそんな非道を尽くしていたとは知らなかった。何一つ身に覚えがない。

 真実を知るものにとっては全くのでっちあげも良いところだったが、貴族や諸侯達にとっては俺の評判も相まって衝撃の真実として伝わったようだった。

 合理性を追求する王らしくなく回りくどいやり口ではあったが、目的のためには中々賢い手段だとリーンは感心すら覚えた。

 クラウン王は、諸侯からアイビーへの批判が向かわないようもっともらしい理由と、王位継承権を第二王子へと移す口実を作ったわけだ。

 王が自身の独断で俺を切り捨てアイビーを王位継承一位の座に据えたとしたら、例え悪評高い第一王子であったとしても伝統や規律を重んじる者達からは非難される行いであるだろうし、王の寵愛によって不当に王位を得た王子としてアイビーへの風向きが悪くなりかねない。あのハゲタカ王にも、人の心の機微を推し量れる心が残っていたとはね。

 王の思惑に察しがついたのか、憤りに顔を紅潮させ細い肩を震わせてアイビーが叫ぶように声を発した。

 「そ、そんなことはされていません!兄上は僕にそんなことをする人ではありません……!」

 しかし、王はただ聞き分けのない子供を諭すように目を閉じ首を振るのみ。

 広間の貴族達は、毒蛾王子に騙され未だに邪悪な兄を信じ切っている悲劇の王子に哀れみの視線を送るだけだった。

 アイビーは純粋だけれども決して愚かではなく、薄々父親の性格の難には気づいているようだった。アイビーには優しく愛情深い父親だが、他人には利益と打算で容赦ない振る舞いを行う暴君であると。

 ーー国は栄え平和で、クラウン王は偉大な方だと皆が口を揃えて言ってい
ましたし、僕もずっとそう信じていました……、ですが……

 ある夜リーンと二人きりでチェスを打っていた時、アイビーがためらいながらリーンにこっそりと打ち明けたことがあった。

 ーー父は、僕が思っていたような”善良な王”ではないのでしょうか……

 その通りだ、ということを今この瞬間アイビーは身をもって思い知ったのだろう。リーンの代わりに唇を噛みしめて、悔しさに俯いている。

 王は今日リーンに対して行う仕打ちを、前もってアイビーには何も教えず、相談すらしていなかったようだ。かつて王妃は王と対等な立場で王に善良さを説き、王の非道をたしなめてきたそうだ。アイビーの性質も今は亡き王妃と同じく善良かつ正しいものだ。しかし、王妃と違ってアイビーはまだ若く、王と対等に渡り合うには経験不足だった。

 アイビーがいくら正論を説こうとも、狡猾な王にとっては赤子の手を捻るように一蹴出来てしまう程度であった。また、広間に集まる貴族諸侯達もアイビーの言葉には耳も傾けず、王の語るまことしやかな嘘を信じ切っていた。

 人は大概にして真実より、自分の信じたい嘘の方を真実だと思い込む。それはリーンが陰謀渦巻く王宮を生き抜く中で幾度となく突きつけられ学んできたことであった。

 もういい、アイビー。

 アイビーがこれ以上、無駄に社会の汚さに傷つけられるところはみたくなかった。視線を心優しい弟に向け、首を振る。

 視線が合った瞬間、アイビーはハッとした顔をして目を見開いた。噛みしめていた唇が僅かにわななき、またキュッときつく一文字に引き結ばれた。何か決意した瞳をリーンに向けて、一つ頷く。

 弟は一体何をするつもりだ。

 アイビーの視線がリーンから外され、広間の奥へと向けられる。

 「……ギィ!」

 敵に囲まれた死地で必死に助けを求めるように、アイビーが誰かの名を呼んだ。

 リーンが聞いたことのない異国風の響きだった。

 広間の片隅に黙して立っていた浅黒い肌にウェーブがかった黒髪の長身の男が、金の瞳を上げてアイビーの呼びかけに応じた。
 
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