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迷い人の主張
しおりを挟む放課後になり、最近すっかり日課になっているハルト様のお宅へ訪問した。
学園にある馬車の駐車場を見た限りオーツ公爵家のものはなかったから、きっとアカリさんはもう既に帰ってしまっているんだろう。
逸る気持ちを抑えながら、私は王家の紋章の入った馬車に乗り込んだ。
公爵家に着くと、使用人が迎えてくれたがハルト様の姿はなかった。
「お二人はどちらに?」
「庭園でお茶をなさっています」
「そうなの。もうすぐ夕方なのに珍しいわね」
「アカリ様が随分と庭園の花々をお気に召していらっしゃいますので」
この公爵家を建てる時、ハルト様が植物が好きな私のために綺麗な庭園を造ってくれた。
彼と二人でそこでお茶をする時間がすごく大切だったのに、今ではその庭園も彼女と彼の特別な場所になってしまったのかもしれない。
「ミリア様もご一緒に。すぐにご準備致します」
「ありがとう」
返事をして庭園に向かった。
「ミリア!」
「御機嫌よう、ハルト様」
私を見るなり花が咲いたように表情を綻ばせる彼。
なんだか少しホッとする気持ちになった。
「制服のミリアも可愛いね」
「もうっ、いい加減見慣れてくださいませ」
最近では毎日見ているのに、ハルト様はこうして会う度にそんなことを言う。
恥ずかしいけど…本当は嬉しかった。
「ハルちゃん、あたしはっ?あたしも似合ってる??」
「うん、もちろん。アカリはなんでも似合うから、学校でもモテるんじゃない?」
「他の男の子なんて関係ないよぉ?あたしはハルちゃんだけだもんっ」
アカリさんは、そうやって堂々と自分の想いを口にするタイプの人だった。
自信のあるそんな姿が少し羨ましい。
「ねえハルちゃんっ、そう言えば昔も同じこと言った気がする~。あたしが告白された時に、ハルちゃん同じようにモテるねって驚いてたっ」
「…そんなこともあったかな?」
「忘れちゃったのぉ?あの頃もハルちゃんだけだよって言ったのにっ」
…始まった。
私が彼女に苦手意識を持つようになったのは、オーツ公爵家で過ごす日々の影響が大きかった。
彼女はいつもハルト様との昔話を楽しそうに語っては、二人だけの世界を作り出してしまうのだ。
初めのうちは懐かしさから昔話に花が咲いているのかと思ったが、どうも彼女は三人でいる時にわざと昔の話題を選んでいる節がある。
それはまるで私を閉め出すようだった。
「でねっ、その時ハルちゃんがさぁ」
「懐かしいね」
二人で微笑み合う姿はどこからどう見てもお似合いで、整った容姿をしている二人はまるで一枚の絵画のようだ。
「学園はどう?楽しい?」
「うんっ、お友達もたくさんできたの!あ、でも…」
嬉しそうに話していた彼女がわかりやすく表情を曇らせる。
「ミリアさんに注意されちゃって…あたしが友達と仲良くするのが嫌みたい…」
言い方に悪意があるように感じるのは、きっと気のせいではない。
「婚約者がいる殿方とあまり親しげにするのもどうかと思ったので」
「ああ、なるほど…」
ハルト様が困ったように笑みを漏らした。
「ハルちゃんっ、あたし婚約者がいてもいなくても、友達とは仲良くしたいよっ?どうしてダメなの?それにみんな不自由な生活を強いられて苦しんでたんだよっ?そんなの可哀想…」
「アカリは優しいね。でも、アカリがそんなこと気にする必要はないんだよ?それは彼らが自分で解決することだから」
ああ、これが二人の関係性なのね。
きっとこんな風に思い悩む彼女を、ハルト様がずっとそばで慰めてきたんだ。
「大丈夫だよ、君はすぐに元の世界に帰れるから、この世界のことでそんなに悩まなくていいからね」
そうだ、もうあと二十日程だ。
…彼女が元の世界に帰るまで。
そうしたらきっとこんな不安もなくなるはず。
彼女をこの世界に召喚してしまったのは私たち王族なのだから、私がこんな風に悩むことは筋違いだとわかっているが、きっと彼女がここにいる限り私の気持ちが晴れることは無いだろう。
「そのことなんだけどねっ、あたしもハルちゃんと一緒にこの世界に残ろうかなって思うんだぁ」
事も無げに告げられた言葉に、思わず目を見開いた。
「…アカリ?」
「この世界でずっとハルちゃんのそばにいたいのっ!お願いハルちゃん…」
「無理だよ。おじさんやおばさんだってアカリが帰ってくるのを待ってるよ?」
ハルト様が諭すように彼女に話す。
「そんなのハルちゃんのパパやママだってハルちゃんのこと心配して、帰ってくるの待ってるよっ!」
「待ってないよ」
きっぱりとそう言ったハルト様の様子が少しいつもと違う様に思えた。
「ハルト様…?」
「なんでもないよ、ミリア」
私に向かって微笑むハルト様に、初めて壁を感じた瞬間だった。
「ハルちゃんっ、本当にみんなハルちゃんのこと心配してるんだよ??あたしだってハルちゃんがいないと寂しいもんっ…とにかく、ハルちゃんが帰んなきゃあたしも帰らないし…ハルちゃんがここに残るならあたしもこここにずっといるっ!」
そう強く主張する彼女に目眩がした。
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